命の人為的操作「育種」の役割と今後の未来

昨今、農業の発展のためにさまざまな新技術が導入されていますが、

「育種」もそのひとつです。

私たちが現在口にしているほとんどの食べ物は、

長い年月をかけて行われてきた育種によって生み出されています。

では、そもそも育種とはどのようなものなのか?

具体的な事例とともに解説をして行きましょう。

育種とは?

育種の種類と比較

新しい育種技術とは?

育種の事例

まとめ

育種とは?

育種とは、生物のもつ遺伝的形質を使用して、

より利用価値の高い作物や家畜の新種を人為的に作り出し、

育成や増殖を繰り返しながら改良することを言います。

品種改良と同義と捉えられますが、

厳密には育種の方が少し意味合いが広いです。

品種改良は既存の植物や動物の増殖において、

今までよりも良質のものを作ることを目的としています。

一方、育種は品種改良以外にも、

生殖質の探索、導入と保存、評価など一連の生殖質管理に加え、

野生の動植物の中から新しい栽培作物や飼養動物などの開発を試みることで、

その地域に従来なかった新品種を導入することや、

全く新しい生物種を生み出すことも含みます。

1859年に発表されたダーウィンの「種の起源」には、

次のような記述があります。

「すべての品種が今みられるような完全な、

また有用なものとして、突然に生じたとは想像できない。

その鍵は選択を積み重ねていくことができる人間の能力にある。

自然は継起する変異を与え人間はそれを自分に有用な一定の方向に合算していく。この意味で人間は自分自身に役立つ品種を作りだしていくのである」

これは育種や品種改良の原点とも言える内容で、

このように作物は人類の現在及び将来の要望にこたえるために、

食料、繊維、他の農産物の安定的で持続的な供給を維持するように、

繰り返し改良されてきた歴史があります。

今日、私たちが食べている

野菜や果物、芋、穀物など農作物のほとんどは、

元々は雑草のような野生の植物でした。

それらは実が小さかったり毒があったりと

食用には適さないものがほとんどでしたが、

人類はその中から突然変異や交雑によって食べられるものを探し、

その種を取って栽培するということを続け、

徐々に食料を増やして繁栄してきました。

この雑草のような植物を食べられる農作物にするまでの

一連の流れを「栽培化」と言います。

ただし、自然発生的な突然変異が起きるのを待つだけでは、

美味しくて病気にも強いといった理想の作物はなかなか生まれません。

18世紀ごろから人の手による交配が始められ、

100年ほど前からは「交配育種」が積極的に行われるようになりました。

このように、育種とは人為的に新品種を開発する手段で、

主に安全性、品質、収量の向上や安定を目指しています。

育種によって生み出される新しい品種は、

病害虫に強いことや栽培のしやすさはもちろん、

塩害などの環境ストレスへの耐性や、

有害物質を可食部に溜め込まないものなども開発が進んでいます。

それに加えて、昔より甘い果物など消費者の好みに合わせたものや、

流通や加工のしやすさなども重要視されています。

気候変動や異常気象による不作や

病害虫による被害拡大などの問題は、

日本国内だけでなく世界中が抱える課題であり、

それらの解決に役立つ育種技術に対する期待は

ますます高まっています。

育種の種類と比較

育種には、遺伝的変異の創出・拡大により、品種改良の素を作ること、

希望型の選抜・品種化により、欲しい生成つを効率よく選び出すこと、

品種の維持・増殖により、性質が変わらないように増やすこと

などの原則があり、

一番最初の変異を生み出すものとして、

主に以下の3つの方法があります。

1.突然変異利用育種

作物自身の遺伝子が偶然変異したものを利用するため、

育種にかかる時間は長い。

伝統的な従来の育種法のひとつとして長年実践されている。

2.遺伝子組換え利用育種

他の生物の遺伝子を利用するため、

従来の交雑育種ではできないものを作れる。

カルタヘナ法や食品衛生法による規制がある。

3.ゲノム編集利用育種

その作物自身の特定の遺伝子だけを変える。

科学的には従来の育種でできたものと同等なものを作りながら、

育種にかかる時間は短くできる。

強く美味しい農作物を作るという点において

どれも欠かせない方法ではありますが、

それぞれの育種でできること、

メリットとデメリットなどを総合的に考えることも重要です。

特に、遺伝子組換えは安全性の面で

現在でもさまざまな議論がされ、

日本では実用化が禁止されています。

また、ゲノム編集においても慎重な取り決めがされており、

条件によっては遺伝子組替えとして規制対象になることもあります。

引用:環境省 ゲノム編集技術を活用される方へ

新しい育種技術とは?

「新しい育種技術(New Plant Breeding Techniques, NBT)」とは、

従来の交配や接木などに分子生物学的な手法を

組み合わせた育種(品種改良)技術の総称です。

育種や品種改良と聞いて思い浮かべるのは、

すでにある品種同士を交配させて、

いいとこ取りをするようなイメージかと思います。

しかし、実際にはそれ以外にも、

交配に利用できる作物を「資源」として収集、保存、管理すること、

細胞培養などを利用して作物に新たな変異を持たせて交配の親に利用すること、

出来上がった新しい品種を拡散するための種子を増殖することなど、

さまざまな工程それぞれに工夫を施して、

常に新しい技術開発がされてきました。

 

最近では農学分野でも研究が急速に進み、

分子生物学的手法が確立してきたことで、

その手法を育種に応用できるようになりました。

 

新しい育種技術によって、より理想に近い性質の作物を作ったり、

たくさんの植物個体の中から望む個体だけを探したり、

果樹など実がなるまでの時間を短くしたりすることで、

新品種育成までの時間やコストを削減することが可能になります。

 

また、新しい育種技術と呼ばれるものの多くには、

遺伝子組換え技術が利用されています。

例えば、ある技術において導入する外来遺伝子は、

自然発生的な突然変異と同じ変異を起こすための道具に過ぎず、

望む性質の個体が得られれば必要なくなります。

そのため、最終的な品種になるまでに、

非組換え品種などとの交配により取り除きます。

このような流れを経ると、

理論上は最終的な品種に外来遺伝子が残らず、

従来の育種技術で開発された品種と同じものができるのです。

 

このようにして作られた品種を遺伝子組換え作物と判断しないことは、

膨大な時間と費用のかかる安全性評価の省略を可能にし、

さらなる手間やコスト削減に繋がります。

なお、最近注目されているゲノム編集技術は、

ゲノム中の核酸配列の任意の位置を切断して

核酸の欠損、置換、挿入を行うもので、

遺伝子組換えと同義ではありません。

ただし、ゲノム編集でも外来の核酸が

植物内に導入されて残っていれば遺伝子組換えになりますが、

外来の核酸が残っていなければ遺伝子組換えにはなりません。

これは自然界、または従来の品種改良で

起こる変化の範囲内であるためで、

遺伝子組換え作物としての安全性評価は不要となります。

なお、ゲノム編集作物は自然発生的な突然変異体を

選抜した場合と同じ遺伝的構成になって区別がつかないため、

日本では情報提供という形で規制が設けられています。

単に遺伝子組換えであるかどうかということだけでなく、

新技術を応用することで本当に安全性に問題がないと言えるのか、

正確なデータを取り、科学的に検証することが必要になります。

育種の事例

長い歳月をかけて誕生した新種のりんご

秋田県果樹試験場

昭和41年から秋田県果樹試験場で開始されたりんごの新品種育成試験。

「ゴールデン デリシャス」「印度」「ふじ」など7品種を用いて、

それらによる15個の組み合わせで約7,500個体の実生を育てました。

その中で、「東光」の花に「ふじ」の花粉を交配して得た

食味の良い71個の種子を選抜し、「秋田1号」という系統名をつけました。 

その後、県内外で「秋田1号」の試験栽培を行ったのち、

昭和55年に「千秋」という名前で品種登録されました。

交雑育種法は単純な手法ですが、

ひとつの品種を作るために数千という膨大な数の種を撒かなければならず、

この「千秋」も昭和41年の試験開始から、

実に14年の歳月を費やして誕生しました。 

引用:くだものの育種 | 秋田県公式Webサイト 美の国あきたネット

ゲノム編集により新興ウイルスに打ち勝つトマトを開発

農研機構とタキイ種苗

農研機構とタキイ種苗株式会社の共同研究により、

新興の病原ウイルス「ToBRFV(Tomato brown rugose fruit virus)」に

強い抵抗性を持つトマトの作出方法を開発しました。

「ToBRFV」は、2014年に中東で初めて発見された新興の病原ウイルスで、

主にトマトやピーマンなどが感染すると実が褐色になり、

表面にはシワができ、生育や収量に影響を及ぼしていました。

日本国内ではまだ発生していないものの、

世界中の多くの地域で急速に広がっており、

被害の度合いよっては収量が最大70%ダウンするなど、

トマトの安定供給における国際的な懸案事項になっていました。

同研究では、ウイルスの増殖を促す働きがある

遺伝子「TOM1」の欠損で起こる「ウイルスの増加抑制」に着目。

トマトから発見された5つのTOM1類似遺伝子の中で、

ウイルスの増殖を促す働きがあった4つのTOM1類似遺伝子を対象に

遺伝子の働きを抑えるゲノム編集を実施し、

「ToBRFV」を含む複数の重要な病原ウイルスに対する

強い抵抗性を確認しました。

なお、植物が持つ特定の遺伝子を改変すると、

植物の生育にマイナスの影響を及ぼすケースがある中で、

今回の研究でゲノム編集したトマトはほぼ正常に生育し、

野生型トマトと同様に収穫できたことも大きなポイントです。

引用:https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/nias/151916.html

日本人初の民間のジャガイモ育種家の努力と情熱

俵正彦

通常は民間企業や公的機関を中心に行われる品種改良を個人で行い、

ジャガイモの栽培において突然変異育種法を採用し、

数十年かけて15種もの品種を生み出し、

そのうち10種を登録して世に送り出した長崎の俵正彦さん。

日本で日常的な食材として親しまれているジャガイモは

もともとは中南米の作物で日本の風土に適さないことから、

土壌細菌由来の病害の被害が農家にとって課題でした。

その防除策として薬剤を使うことが

環境破壊や安全性の不安を招いていたこともあり、

日本の風土にあった品種を開発し、

安全安心なジャガイモ栽培を広めたいという思いから

品種開発に取り組み始めました。

ジャガイモのような外来植物は

新たな環境に適用しようと驚異的な速さで突然変異を起こすため、

その中で有用な形質のものを選抜しようと試み、

ほ場を根気強く観察し続けて

タワラムラサキなどの開発に成功しました。

引用:https://ozaki-flowerpark.co.jp/staffblog/sg_vegetables/2014_02_11_jyagaimo.html  

まとめ

世界的な人口増加や環境破壊の影響による

食糧危機が叫ばれている中で、

育種技術には大きな期待を寄せずにはいられません。

作物の栽培がしやすくなって生産量を増やすことができれば、

消費者は美味しい食材をいつでも安く買えるようになります。

改良という言葉から、品種改良は良いことばかりだと思われがちですが、

デメリットが全くない訳ではありません。

ごく限られた品種を生産することで遺伝的な多様性が失われ、

その品種が抵抗性を持たない病気の出現によって、

その作物自体が全滅してしまう事態も起きかねません。

また、一番は安全性の問題で、

特に遺伝子組み換えやゲノム編集が人体に与える影響については

まだまだ実験と検証が必要と言えます。

今後、この新しい技術をどのように使っていけば良いのか、

より一層慎重に考え、私たちのより良い未来に繋げて行きたいものですね。

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