農業をされている方々はご存じであるだろう畦畔。
水田においての畦畔は、法面と併せて漏水防止・除草などで適切な管理が必要となります。
基本的にはこのような地形では斜面となるため、労力の負担が多大となるため、可能な限り省力化・効率化したいと考えている農家の方も多いと思います。
今回は、改めて水田においての畦畔の特徴、メリット・デメリットやその事例についてまとめ、併せて省力化・効率化の実現のための管理方法もご紹介いたします。
現役農家さんへ向けての内容となりますが、新規就農を始めた・農業を始めてみたいという方も参考となればと思います。
畦畔とは?
畦畔ですが、農業について知らない方であれば「読み方は知らない」という方が大多数ではないでしょうか。
しかし、実は皆さん、実物はよくご存じだとは思います。
畦畔は「けいはん」と読み、これは「水田と水田の間に作られた道」のことを指します。
「あぜ」とも呼ばれ、こちらの呼び方のほうがわかりやすいでしょうか。
簡単に「水田と水田の間に作られた道」と書きましたが、詳しく書くのであれば、
「道路・水路に囲まれた1枚の田んぼまたは農区を、効率的な作業管理・適切な用排水管理をするための、小さな田んぼや耕区を隔てるために設ける境界線」
ということになります。
日本国内の農業業界において、一般的には水田に盛り土をすることで築造されますが、
他の建材では「コンクリートブロック」「合成樹脂板」などで作られた「畦板」と呼ばれるものが設置されることもあります。
稲作の栽培条件によって区切られるほか、地主・農家の境界を識別するための目印として用いられる場合もあり、
他にも以下のように境界線以外の役割も備えています。
- 生産基盤形成機能:湛水維持・区画形成・区画保全などの役割がある。
- 足場・通行・休憩場所:見回り・防除・除草・施肥のために利用される。
- 畦畔草の栽培場所:乳牛などの飼料作物を育成するために利用される。
畦畔の特徴って何?
畦畔について分かったかと思いますので、続いて畦畔の特徴についてご説明します。
畦畔の大きな特徴は、自身の農作地・水田の境界線を明確にする、水田に必要な水量を管理する、作業用の通路としての役割という特徴があります。
自身の農作地・水田の境界線を明確にする
ご説明するまでもありませんが、農作地は広大であるにもかかわらず塀や柵で囲まれている光景は見ることが少ないですね。
恐らくですが、広大な敷地を囲うように塀や柵を設置する場合のコスト・時間や、補修などの定期的なメンテナンス費用が多大にかかることも関係していると考えています。
また、日本は熊や猪などの野生動物の被害が「農作物の全滅」までにつながるような甚大なj被害がないこと・性善説で成り立っていることもあるのではないでしょうか。
そのため、塀や柵で囲う代わりに「作業時の道」として利用することも可能かつ水田の治水ができる盛り土「畦畔」がこれまで続いてきたのではないでしょうか。
水田に必要な水量を管理する
水田は常時水が溜まっている状態にする必要があります。
単に水を引き込んで流し続けると、用土や肥料も流れて行ってしまい、また、大雨の場合は水量が増大・水不足なると、そもそもの水がなくなってしまい稲は全滅したり病気になったりしてしまいます。
畦畔を設置することで、常時安定した、水の流れがほぼない状態を維持でき、大雨の時は水を放出・水不足時ではある程度の期間であれば水が枯渇することを回避できるということになります。
作業用の通路としての役割
普通の田畑であれば、農作物を避けて田畑の中を移動したり、地面に座って休憩をとることは簡単にできますが、水田のように常に水が溜まっているところは長靴を履いたとしても足を取られたりして移動時間がかかってしまいます。
そのため、農具を持ちながら普通に歩いたり、休憩をする場所、荷物を置く場所として利用できます。
畦畔は水田に向かって斜面(法面)となっているため、上り下りが比較的楽に行えるのも特徴です。
畦畔を設置することによるメリット・デメリット
畦畔の特徴から、メリットとデメリットも見えてきました。
まずはメリットはどのようなものとなるでしょうか。
メリット1 水田の漏水を防ぐ
水田の漏水は環境などによる自然現象「徐々に土壌に浸透することで地下に抜ける」ことや、「稲が根から吸収する「蒸発する」などのほか、畦畔の亀裂や穴を掘られることなどによって漏水する場合もあります。
水田から漏水してしまうと、稲への適切な水分管理が困難になるため収穫量や品質にも影響を及ぼす他、隣接する田畑への過剰な流出で湿地状態になることによる作物への重大なダメージも引き起こす可能性が高くなります。
畦畔に穴があく理由は、モグラやアメリカザリガニの掘削によるものが多いようです。
動物によるものであれば、対策としてはモグラやアメリカザリガニの侵入を防ぐことが重要となります。
メリット2 農薬の水田外への流出・流入防止
農薬を使用する上で、注意することがあります。
- 薬散布後少なくとも7日間は落水・かけ流しを行わない
- 農薬が付いた育苗箱などを用水路で洗わないこと。
上記のようなことが注意事項となりますが、畦畔であれば滞留してくれたり、他の水田からの流入を防げるので大きなメリットとなります。
メリット3 通路として機能する
上述したとおり、畦畔は通路となるため農作業の他にも日常生活を送るうえで必須となります。
畦畔がない場合では大きく迂回する必要があったり、もしくは水田を通過する場合では移動時間のロスとなります。
また、肥料の散布や、異常がないかなどの見回りにも必須となりますね。
メリット4 境界線の明確化
畦畔有無で、視覚的な他農家との水田境界線が明確となったり、作業区域を分割することで農作業時の効率化が図れます。
自身の利益を守り、他者への侵害を防ぐためにもぜひ設置するべきでしょう。
メリット5 飼料植物の育成
乳牛などの家畜の飼料作物も育成する場所としても使えます。
規模は大きくはできず、かつ法面のため平地での育成とは違いますが、余った土地を有効に使うことが可能です。
次にデメリットを洗い出してみましょう。
デメリット1 定期点検
漏水や農薬の流出を防ぐためのものであるため、定期点検は必須です。
田植えが始まる前の畦畔・法面の点検実施、必要がある場合は補修や漏水防止策をする必要があります。
デメリット2 崩壊の危険性
畦畔・法面が大規模な崩壊が起こる原因として、水の流れが集中することで起こる浸食、老朽化・劣化によるものがあります。
また、台風や地震での崩壊の可能性もないとは言えません。
しかし、畦畔の管理が行われないことによる事例が多いのが現状で、畦畔の一部が崩壊してしまった場合に「簡易補修」をしてその場しのぎを繰り返していると別要因での再崩壊が起こってしまう場合があるので、十分な補修を行うようにしましょう。
デメリット3 除草の手間
畦畔・法面は基本的には盛り土であり、土がベースです。
そのため、必ず雑草が生い茂ってくることは避けられません。
除草管理をする場合は一般的な草刈り機で対処できますが、斜面があり滑り落ちる危険性があることを頭に入れていきましょう。
滑落して、草刈り機に巻き込まれてしまっては大事故に繋がりかねません。
除草剤を使用する場合は、作物に影響を与える可能性が非常に高いので、こちらも注意しましょう。
また、完全に雑草を駆除すると、雑草の根っこで強度を保たれていることもあるので、逆に崩落の危険性も高まります。
デメリット4 カメムシの繁殖
カメムシは畦畔にも生息します。
カメムシの吸汁による斑点米という病気の原因となりますので、被害を抑えるための除草対処が必要となります。
このように、メリットとデメリットを洗い出してみても、メリットの方が上回ることがわかりますね。
畦畔の事例について
畦畔は、メリットにも記載した通り飼料植物の育成にも使われています。
土を利用することは良いのですが、土の場合は風雨などによる浸食や雑草駆除の手間がかかってしまいます。
近年ではカバークロップ、グラウンドカバープランツ、リビングマルチという技術や、土以外にも耐久性のあるコンクリート製品を導入することも増えてきています。
カバークロップ、グラウンドカバープランツ、リビングマルチについて簡単にまとめました。
土壌改良
カバークロップ
土壌浸食を防ぎ土壌中に有機物を加えて土壌改良に役立つ作物のこと。
主な植物
- シロカラシ
- ハゼリソウ
- レンゲ
- へアリーベッチなど
景観形成など
リビングマルチ
主作物の播種前後に植えられ、主作物の栽培期間中などにも生存し、地表面を覆っている植物のこと。
こちらは除草剤不要で雑草が発生しない(しにくい)ものとなります。
主な植物
- クローバ
こちらから一部引用・参考とさせていただきました。
省力化・効率化はできるのか
では畦畔の管理・維持のための省力化・効率化はできるのでしょうか。
結論としては「できる」といえるでしょう。
理由としては、畦畔の浸食・崩落の可能性を下げること、除草の手間を減らすことであるためです。
この二つを抑えることで、注意すべき箇所、改修・対策すべき箇所がわかりやすくなると思います。
まずは、畦畔の浸食・崩落の可能性を下げることから。
土だけではなく、一部(例えば法面など)個所へのコンクリート製品導入することで、土だけの場合より耐久性・耐食性が増えます。
また、モグラなどの動物による穴の被害も防げることでしょう。
コンクリート製品施工事例が参考になると思います。
雑草についてはリビングマルチやわら芝やセンチピードグラスなどの被覆植物を利用されています。
わら芝などは畦畔・法面の崩壊を防ぐ効果もあるため、一石二鳥といえるでしょう。
他にもマルチやシートなどの資材を利用して雑草の繁殖を抑制することもできます。
マルチやシートなどの資材であれば、コストはかかりますが数年~数十年は使用できるので省力化できるといえるでしょう。
環境に応じて検討の選択肢が多いのがいいですね。
まとめ
田園風景でまず思い浮かぶ「あぜ」こと畦畔。
畦畔を改めて分析することで、改善個所や不要な業務の選定など洗い出すことができます。
無くてはならない存在だけれど農業をやるうえでの無駄な負担を減らす、という意味合いでも確認しておくことも重要だと思います。
コメント