まだあります!50歳以上の新規就農者を援助する補助金・助成金について

近年地方移住や自然と共存する生活、自給自足などへの関心の高まりで、農業を始めたいと考える人々が増えています。特に50歳以上の中高年層の中には、それまでのキャリアを見直し、本格的な自営農業に活路を見出したいと考える方々も少なくありません。

しかし、どんな事業であれ、スタートアップに避けて通れないのが準備資金の問題。国や自治体からの補助金や助成金はぜひとも利用しておきたいところです。この記事では、50歳から新規就農を志す方が利用できる補助金や助成金について説明していきます。

農業への関心が高いシニア層

最近でこそ農業に興味を持つ若者が増えていますが、以前から農業に強い関心を持っているのは50歳以上のシニア層です。

その背景には、食生活や健康をより重視するようになったこと、長年の都市での生活や働き方を見直し、より自然と共にある暮らしを求めだしたことなどがあります。

その多くは趣味、もしくは自給できる程度の家庭菜園ですが、中には職業・ビジネスとして、早期退職や脱サラで農業を志す人もおります。

自営農業へのハードルは初期投資

ほとんどの事業がそうであるように、農業でも初期投資が必要です。特に農業の場合、広い農地、農機具、ビニールハウスや作業場、肥料や農薬など、投資額は他のビジネスと比べ多くなります。

しかも作物は植えてすぐ商品になるわけではなく、自然相手なため不安定です。栽培や販売のノウハウを得るまで時間もかかるため、商売として成り立つまで収入がありません。

農業は投資額の割には軌道に乗るまでが長く、不確定要素が多いことから、自己資金だけでやっていくことは困難です。そのため、多くの場合は補助金や助成金が必要になってきます。

立ちはだかる「49歳以下」の壁

50歳以上ともなれば、それまでの仕事で得られた蓄えをもとに、新たな事業へ乗り出すための資金を用意しておけるでしょう。

とはいえ、前述のとおり農業は軌道に乗るまでが長いため、自己資金だけでは不安です。しかもこの30年間国民の所得が低下しており、十分な預貯金ができないという人も少なくありません。

こうした背景から、新規で就農を目指す人にとっては、公的な補助が重要になるのですが、ここで大きなハンデとなるのが、50歳以上という年齢です。

50歳以上は就農補助金がもらえない?

2022年から、農林水産省では就農支援策を改定し、「新規就農者育成総合対策」を打ち出しました。従来の制度に比べて援助額を増やし、生活費の補助などより広範な支援をすることで、事業としての農業の担い手を増やそうとする政策になっています。

しかし、この政策での補助対象は「次世代の農業を担う原則49歳以下の層」であり、50歳以上は基本的に対象外となってしまうのです。

国が力を入れるのは「次世代の」農業の担い手

国の新規就農支援が49歳以下に限られているのには、以下のような理由があります。

  • 農業人口の減少と高齢化に歯止めをかけるため:次世代の農業者を手厚く支援することによって定着を促し、将来にわたって農業人口の確保を目指します。
  • より長く働ける若者の方が、投資額に見合ったリターンが多くなるため
  • 就職氷河期世代の支援という側面:就職や収入面で不遇をかこち、将来に不安を抱える世代を救済する。また世代人口も多いため、農業の担い手としても見込まれる。

50歳以上の新規就農参入者は3割以下

「だけど、50歳を過ぎてから農業を始める人だって結構いるんだし…」という声もあるかと思います。しかし、実際のところその多くは、自分で消費するための家庭菜園や家庭農場レベルです。

専業として農業を始める新規参入者で50歳以上の割合は、令和2年だと27.9%程度。実に3割を下回っています。この年齢になるとある程度の自己資金を持っているという前提もあるため、国としての優先順位も下がってきます。

出典:新規就農者調査 調査結果の概要 令和2年|農林水産省

50歳からの新規就農を援助する地方自治体

では、50歳を過ぎて新たに農業を仕事にしたい人には、なんの補助も助成もないのでしょうか。

決してそんなことはありません。就農支援については、国だけではなく、県や市町村など地方自治体でも独自の政策を設けており、その中には50歳以上でも補助金が受けられたり、50歳以上を対象にしているものも数多くあります。

なぜ地方自治体が中高年層の就農を補助するのか

地方自治体が中高年層の就農に補助金を出すのはなぜでしょうか。そこには地方ならではの課題が関係してきます。

理由①人口減少対策と地方創生による移住者の呼び込み

地方はどの自治体も人口減少が問題化しており、過疎化により消滅の危機に瀕している自治体も少なくありません。地域社会を支えるには現役世代が増えることが大事ですが、日本社会は深刻な少子化を迎え、若者を呼び込むだけでは不十分です。

農業に関心を持つシニア層に移住先としてアピールするには、準備資金の補助が重要です。

理由②健康寿命の伸び

もともと農業は高齢者の多い仕事であり、本来50代はまだ「若手」という認識です。

さらに最近では健康寿命の伸びに伴って、50代でも昔に比べて若々しく健康な人が増えています。特に高齢化の進む地方では、50代でもより長い現役生活が見込まれるため、この世代を農業の担い手として支援するメリットは十分にあるのです。

50歳以上が対象の新規就農者補助金の内容

各自治体が行なっている、50歳以上の新規就農者に対する補助金や助成金制度には、どのようなものがあるのでしょうか。いくつかのタイプに分けて見ていきましょう。

タイプ①準備型

まったく農業の知識や経験がない人が仕事として農業を始めるには、全国各地の農業大学校や農業研修施設、先進農家などで一定期間研修を受ける必要があります。

準備型の補助金は、収納希望者が研修を受けるためにかかる費用のいくらかを、自治体が負担する仕組みです。

補助金の額や給付の条件は自治体によって異なりますが、多くの自治体で積極的に採用しています。

タイプ②経営開始型

新規就農を志す方にとって最も気になるのが経営資金の援助だと思います。

この経営開始型補助金は、就農開始後、経営が安定せず、国の支援対象から外れる50歳以上の新規参入農家に対し、農機や施設、農地の導入や借入の費用を補助するのが目的です。

中高年層の就農支援をしている自治体すべてが導入しているわけではなく、こちらも給付要件や金額にはばらつきがあります。

中には後述する認定新規就農者になることが給付の条件になるケースも多いので、各自治体の応募要項に注意しましょう。

タイプ③その他

上記の2つに該当しない独自の支援策をとる自治体もあります。

例えば静岡県の「シニア世代雇用就農支援事業費補助金」は、最初から農業法人などへ正社員として就職するための農業研修に対して、助成金を交付しています。

このほか、島根県では「半農半X支援事業費」として、副業・複業を前提にした就農希望者に対し、補助金を給付するという、独特の政策を行なっています。

50歳以上でもなれる「認定新規就農者」

「認定新規就農者」は、経営開始型の就農支援を受ける条件として、国の「新規就農者育成総合対策」にも規定されています。認定新規就農者になるには、青年等就農計画を作成し承認されるなど、いくつかの条件があり、その中には原則49歳以下という条件も含まれます。

ですが、地方自治体では青年等就農計画に独自に年齢要件を定めている所もあり、そこには

  • 青年(原則18歳以上45歳未満)もしくは特定の知識・技能を有する中高年者(65歳未満)

という項目があります。

特定の知識・技能とは?

では、特定の知識・技能とは何を指すのでしょうか。

ここでは福井県の例を挙げますが、基本的には他の自治体でも同様です。

  • 65歳未満の者であって、かつ、次の各号のいずれかに該当する者
  • 商工業その他の事業の経営管理に3年以上従事した者
  • 商工業その他の事業の経営管理に関する研究又は指導、教育その他の役務の提供の事業に3年以上従事した者
  • 農業又は農業に関連する事業に3年以上従事した者
  • 農業に関する研究又は指導、教育その他の役務の提供の事業に3年以上従事した者
  • 上記に掲げる者と同等以上の知識及び技能を有すると認められる者

農業といっても仕事の種類は多岐に渡るため、経営や管理業務の経験も求められます。

将来的に自営農業を目指す方は、今の仕事でこれらの業務を経験しておくと良いでしょう。

50歳以上でも受けられる新規就農支援の具体例

ここからは、50歳以上を対象にした新規就農者に補助金・助成金を給付している自治体の例をいくつか紹介していきます。他にも全国各地で50歳以上の就農支援を行なっている自治体はたくさんあります。地方に移住して就農を考えている方は、各自治体のサイトの就農支援策を調べたり、問い合わせを行なってみましょう。

なお、以下の情報は2022年の実施内容です。実施の有無、申請期限や募集期間、条件の詳細については、各自治体の担当窓口で確認をしてください。

山形県【①独立自営就農者育成研修事業/②自営就農者定着支援事業】

50歳以上を対象に、新規就農希望者に研修補助費用や農業経営にかかる必要経費を助成する制度です。①は指定受入農業者のもとで1年以上研修するなど②は認定新規就農者、農地の新規取得者であるなどが条件です。

形式:①準備型/②経営開始型

交付金額:①年150万円、最長2年間/②年60万円または助成対象経費のいずれかで低い方の金額、最長3年間

福井県福井市【①ふくい園芸カレッジ県単就農給付金/②新規就農者経営支援事業(県単)】

福井市では、U・Iターン者や50歳以上など幅広い層を対象に就農サポートをしています。①ふくい園芸カレッジでは、就農研修支援を、②では、市の認定新規就農者のうち、50〜59歳を対象に奨励金や小農具整備に使う資金援助などを行なっています。

また、福井市は県とは別に、市独自でU・Iターンでの転入者に限定した就農準備資金の支援を行なっており、こちらも59歳までが対象になっています。

形式:①準備型/②経営開始型

交付金額:①年90万円、研修2年(50歳〜59歳の研修生)/②奨励金:月15万円(1年目。以下3年目まで5万円ずつ減額)小農具等整備奨励金:購入費の1/2(上限50万円)

島根県【①農業人材投資事業/②半農半X支援事業】

島根県の就農支援は、年齢幅も広くバリエーションに富むのが特徴です。

①では就農予定時50歳〜65歳未満を対象に、研修費用の交付や就農直後の経営確立を支援し②ではU・Iターン者による半農半Xの研修費用や就農後の支援金を助成するという制度になっています。

島根県では、この他にも雇用就農に対する研修にも補助金を給付しています。

形式:①②とも準備型/経営開始型

交付金額:①研修費/月12万円(U・Iターン者の場合)就農後経営支援費用/年72万円、最長2年

②研修費/月12万円(最長1年)定住・就農開始後助成金 月12万円(最長1年)、施設整備支援1/3の補助率

補助金を受けるその前に

最後に、新規就農を始めるに当たり自治体の補助金を受けたいと思う方へ、心得ておいてほしい注意点をあげたいと思います。

  • ある程度の準備資金は必要:補助金や助成金が給付されるとしても、不慣れな農業経営では何が起こるかわかりません。当面の生活費や最低限の準備費用は用意するのが無難です。
  • 就職→独立というルートも視野に:新たに農業を生業にしようとするなら、最初から必ずしも自営にこだわる必要はありません。農業法人に就職して、資金やノウハウを蓄積してから独立、というのも一つの手です。
  • 地域社会と良好な関係を:今まで住んでいた土地から、違う地域へ移住して農業を始めるなら、新しい人間関係を築いたり、地域のコミュニティに馴染むことは大事です。

まとめ

日本の農業はどこでも新しい担い手を求めています。特に将来のことを考えると、国の就農支援や補助政策が若い世代に集中していることは確かです。

しかし、地方に目を転じてみると、50歳以上はまだまだ活躍できる世代であり、新規就農者も主要な担い手として期待されています。第2の人生を農業にかけてみたいという強い気持ちがある方は、積極的に自分のチャレンジを支援してくれる地を探してみてはいかがでしょうか。

参考:

就農準備資金・経営開始資金(農業次世代人材投資資金) – 農林水産省

農業をはじめる.JP (全国新規就農相談センター)

元気な地域農業担い手育成支援事業費補助金 |山形県

島根の新規就農の概要

県・市町村の支援制度|熊本県新規就農支援センター

報告する

関連記事

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

コメントするためには、 ログイン してください。