今、山梨県が積極的に取り組む「4パーミル・イニシアチブ」とは?取り組み事例や特徴を調査!

co2

はじめに

「4パーミル・イニシアチブ」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?「4パーミル・イニシアチブ」は、人間の経済活動によって大気中に放出されるCO2の排出量に対して、世界の土の中の炭素の量を年間0.4%増加させれば、CO2の増加量を相殺できるという考えに基づいた取り組みです。国際的に推進されていて、温暖化対策の切り札としても注目されています。

読み方は「フォーパーミル」で「4/1000」すなわち、0.4%を表します。「全世界の土壌に含まれる炭素量を毎年0.4%ずつ増やしていければ、大気中のCO2を相殺することになり、結果的にCO2増加量をゼロに抑えられる」という考えにもとづいています。

この記事では、4パーミル・イニシアチブへの取り組みで期待されている効果や、日本で積極的に取り組んでいる山梨県の事例・特徴について解説していきます。

4パーミル・イニシアチブの始まり

この取り組みがスタートしたきっかけは、2015年に開催された「気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)」です。パリで行われた同会議において、フランス政府が強いリーダーシップを発揮して国際社会へと働きかけました。2021年6月時点で、日本を含む623の国や国際機関がこの取り組みに参加しています。

日本においては、山梨県がいち早く参加を表明しており、とくに農業界において、高く注目されている取り組みです。

土壌の炭素循環

4パーミル・イニシアチブの取り組みを知るうえで、「なぜ土壌中の炭素量が、大気中のCO2と関連するのか?」という疑問を抱く人も多いのではないでしょうか?筆者もそう思い調査したところ、その答えは、炭素の循環にあるのだとわかりました。

炭素は「大気」「植生」「土壌」というサイクルで巡っています。農地に使用された堆肥や緑肥等の有機物は、多くが微生物により分解され大気中に放出されるものの、一部が分解されにくい土壌有機物となり、長期間にわたって土壌中に潮流されます。

堆肥や有機物資材の投入による土壌への炭素の供給量がその分解量を上回ることで、土壌炭素が増えるということになります。そして、栽培されている作物の炭素量は変わらないと仮定すれば、土壌の中の有機物炭素が増えた分は、大気中のCO2が吸収されたと考える事が可能になります。土壌の炭素循環の中で、有機物による土壌炭素の貯留を増やすことで、CO2の純排出量を減らす事が可能になるという事です。

環境問題への効果

4パーミル・イニシアチブの実用化で大気中のCO2純排出量が減流事によって期待できる事のひとつに、炭素量減少による気候変動の緩和があります。地球温暖化が問題視され、各国がいかに温室効果ガスの排出量を削減するかに注目が集まっている今、4パーミル・イニシアチブに期待を寄せる声は大きいと言えます。

また、これ以外にも4パーミル・イニシアチブには「土壌の劣化予防」「安定した食料供給」「気候変動による災害への耐性向上」という3つの目的があります。

やせた土壌では、食物はうまく育ちません。ですが現状では、気候変動によって劣化スピードは加速していると言えます。ですが4パーミル・イニシアチブの過程で土壌中の有機物が増えれば、安定した食料供給につながっていくと考えられます。また炭素が豊富で肥沃な大地は、災害時にも強いそうです。干ばつや洪水によるダメージを軽減できる可能性もあるとされています。

現状では土壌中の有機物を増やし、土壌の肥沃度を高めることが4パーミル・イニシアチブのメインの目的です。大気中の炭素量減少による気候変動の抑制効果については、あくまでも従属的にもたらされるメリットとして考えられているようです。

世界の取り組み

4パーミル・イニシアチブに参加する国は数多く、それぞれが独自の取り組みを行っています。例えば、西アフリカのベナンでは、作物の残りかすのすき込みを実践し、土壌炭素に6~8%/年の影響を与えていると言われています。
フランスにおいては、小麦・クルミのアグロフォレストリー提携を実施し、これによって土壌炭素に影響が出る時期はまだ先ではあるものの、いい結果が期待されています。

日本の対応

日本の農林水産省は、2019年9月にまとめられた『第二回革新的環境イノベーション戦略検討会』の資料を掲載しています。この中の、「農林水産分野の脱炭素化に向けた環境イノベーションの推進①」という部分において、世界の潮流のところで「4パーミルイニシアティブ」について明記されています。

しかし、日本においてはまだまだ知られていない取り組みであり、今後広がっていく段階となります。また一方で、日本にはもともと含まれている有機物が多い土もあるという見方もあり、さらに増やすとなると簡単に取り組めることではないかもしれないという懸念もあります。現時点で、どれだけの炭素の量が土の中に含まれているかを計算するところから行う必要があります。

農林水産省は、農業分野の環境問題の一部として「4パーミルイニシアティブ」について取り上げ、各機関や世界銀行の専門家、農業法人や企業などに対して発表し、意見を交わしています。農林水産省環境政策室によると、農業(土壌)が気候変動に対して実態のある貢献ができるということの周知と、このための科学者と農業者をつなぐ役割を果たしたいと考えているそうです。

山梨県における取り組み事例や特徴

山梨県では、4パーミル・イニシアチブの取り組みとして、まず、県の主要農産物である果物に着目しました。

モモやブドウなどの果樹園では、冬に枝などを切る剪定を行います。その際に発生する剪定枝には植物の光合成によって炭素が貯蓄されているので、剪定枝を燃やすと、炭素が酸素と結合して二酸化炭素になり、大気中に放出されてしまいます。

しかし、剪定枝を炭にすることで二酸化炭素の発生を減らすことができるだけでなく、微生物などによる分解がされにくくなります。その炭を畑にまくことで半永久的に炭素を土壌中に留めることができ、大気中の二酸化炭素の増加量を抑えることにつながるというわけです。

また、野菜や水稲での取り組みにも力を入れています。畑に生えている草や稲わらを畑にすき込むこと、籾殻くん炭などを畑にまくことなどが、土壌中に炭素を貯めることにつながっています。

二酸化炭素の他にも、温室効果ガスの一種である亜酸化窒素やメタンの発生抑制への取り組みにも注目しています。

野菜や作物(水稲除く)では、畑全面ではなく農作物の根の周辺などに集中的に肥料をまく局所施肥や、肥料成分がゆっくりと溶け出す緩効性肥料を使用すること、土を覆って使う被覆材であるマルチの利用などで、亜酸化窒素の発生抑制を目指しています。

これらの先進的な取り組みの結果、2021年2月に「4パーミル・イニシアチブ推進全国協議会」が発足した際には、山梨県が主導となり議会が進められました。この議会は東京や神奈川など全国13の都や県が参加しました。

やまなし4パーミル・イニシアチブ農産物等認証制度について

また、山梨県では、4パーミル・イニシアチブの取り組みにより生産された農産物を脱炭素社会の実現に貢献した農産物として認証する「やまなし4パーミル・イニシアチブ農産物等認証制度」を、2021年5月に制定しました。

4パーミル・イニシアチブの認証制度は、全国で初めての試みです。

認証基準は当初、果樹のみでしたが、全県に取り組みを広げるため、2022年11月に野菜と水稲の認証基準を新たに設けました。

やまなし4パーミル・イニシアチブ農産物等認証制度には2つの認証区分があります。

  1. エフォート〔取組(計画)認証〕
    実施する具体的な取組について目標を定め、土壌への炭素貯留量が確実に見込まれる計画を認証します。
  2. アチーブメント〔実績(成果)認証〕
    土壌への炭素貯留量の実績に基づき認証します。

また、4パーミル・イニシアチブの取り組みによって生産されたブドウやモモなどの農産物を「4パーミル・イニシアチブ農産物」としてブランド化を進めています。

4パーミル・イニシアチブに取り組む生産者や4パーミル・イニシアチブ農産物を使用したメニューを提供する飲食店などが、ロゴマークを使用して農産物や加工品をPRしています。

このように、日本の各地でその地域の行政や組織が中心となって取り組んで行くことも重要で、こうした小さな取り組みが、結果として日本全体に影響を与えるような形になっていくと考えます。

課題と今後の展望

研究や実証がスタートしたばかりの4パーミル・イニシアチブ。今後を考えるうえで、もちろんさまざまな課題が指摘されています。4パーミルという数値の妥当性や、どのように実現していくのかは、とくに注目されている課題だと言えます。

世界中でさまざまな対策がスタートしてはいるものの、その効果を正しく判定するまでには、ある程度の年月が必要です。また、そもそも「4パーミルずつ増加」という目標が実現可能なものなのかという議論にも、答えが出ていないのが現状です。たとえ理論的に可能という結論が出たとしても、農業現場における負担が大きくなり過ぎれば、継続は難しいと言えます。

とはいえ、気候変動の抑制はもちろん、土壌の劣化予防や食料の安定供給など、土壌の肥沃化にはさまざまなメリットが期待できる。4パーミル・イニシアチブが目指すべき方向性は、間違っていないと言えます。
今後さらに研究を進める中で、持続可能で、かつ人々が管理しやすい方法を模索していくことになると考えられます。

まとめ

4パーミル・イニシアチブは、日本の農業においても、注目されているキーワードの一つです。とはいえ、まだその認知度は不十分で、今後より一層の推進が求められます。土壌内の炭素量を増やせれば、食料の安定供給や、災害に強い土壌づくり、地球温暖化の緩和など、さまざまなメリットが期待できます。4パーミル・イニシアチブという新しい取り組みに、ぜひ注目してみてください。

また、「みんなで農家さん」では、農業に関する様々な情報を発信しております。こちらもぜひ、チェックしてみてください。

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