はじめに
労働力(人材)不足や生産性の低さが喫緊の課題となっている日本の経済界で今、注目を集めている技術が『RPA』と呼ばれるものです。
この言葉を全く聞いたことがない方、また聞いたことはあっても馴染みのない方がほとんどだと思いますが、今後急成長が期待される産業分野でもあります。
業務効率化や生産性向上を実現するテクノロジーとして、実際に民間企業や自治体導入が進んでおり、この農業の分野にも入ってきています。
しかし、RPAについて、なかなか明確に理解されている方は少ないと思います。
特にこういったテック系の分野はとっつきにくいイメージもありますので、まずRPAは何なのかの導入から、農業においてどう活用されているのかの事例まで詳しく解説していきます。
労働の必要性がなくなる?『RPA』とは
企業の変革に欠かせないツールとして注目されているRPA。
RPAとは『Robotic Process Automation』の略語で、ソフトウェアロボット(下層知的労働者)による業務自動化のことです。
人が処理していた仕事の一部を肩代わりでき、まるで人を増やしたような効果が得られることから『デジタルレイバー(Digital Labor)』や『仮想知的労働者』と呼ばれることもあります。
主にRPAツールと呼ばれるソフトウェアを利用し、パソコン上でのルーチンワーク(繰り返し行う定型的な作業)を自動実行する技術を指します。
実際に、パソコン上で人が日常的に行っているマウス操作やキーボード入力などの操作手順を記録し、それを高速で正確に実行することができます。
つまり、バックオフィス業務などをはじめとするホワイトカラー業務をソフトウェアに組み込まれたロボットが代行するということです。
その結果、既存の事務的業務を効率化させ、生産性を向上させることが可能になります。
職人たち(ブルーワーカー)がかつて手作業で行ってきた業務は、産業革命以降に機械化されて生産性が大幅に向上しました。
近代では溶接や接着などの組み立てなどを産業用ロボットが代替し、熟練した職人の手にも劣らないほどの質を保ちつつ、生産性向上に貢献しています。
RPAとは、言うなれば『ホワイトワーカーのための産業用ロボット』と言えるでしょう。
RPAが注目されている理由
データの入力や転記、ファイルの複製といった単純作業の定型業務を自動化してくれるので、業務改善や働き方改革につながるとして大きな注目を集めています。
3つの項目に分けて、詳しく見ていきましょう。
人手不足への対策
RPAブームの背景には、日本の超高齢化社会による人手不足が考えられます。
実際に、日本では人口が2053年に1億人を割り、2065年には8,808万人になると推計されています。
そこで生産年齢人口が減少する中で生産力を高める手段として注目されているのが、『RPA』というわけです。
2017年の段階で、日本国内では14.1%の企業がRPAを導入済み、6.3%は導入中、また19.1%の企業が検討していると回答しました。
特にIT人材は人手不足が深刻で、2030年には約59万人程度のIT人材が不足すると言われています。
RPAは簡単なロボットであればプログラミングの知識がなくても作ることができると言われており、ITエンジニアが不足する現代において注目を集めています。
RPAのみならず、日本企業で業務効率向上のためにIT化やロボット導入を検討する流れになっているのは必然といえるでしょう。
働き方改革の実現
『生産年齢人口の減少』や『働く人のニーズの多様化』を解決するために、就業機会を拡大し、意欲・能力を存分に発揮できる環境を作ることが重要な課題となっています。
この政府が打ち出している『働き方改革』の推進がRPAブームの背景のひとつとして、挙げられます。
RPAを活用し、業務を自動化して数人分の仕事をロボットで代替すれば、単純業務をミスなく効率的にできるようになり、少ない労働力でも現場の生産性を維持することができます。
その結果、上記に挙げた課題をも解決していくでしょう。
従業員満足度の向上と人的コストの削減
RPAを導入することにより、業務効率化が推進されますが、それによって従業員の満足度が上がっていくことが期待されます。
RPAによって代替される業務は、主にテキストのコピー&ペーストやファイルの移動といった、判断を必要としない単純作業です。
それらの単純作業を自動化することで、より本質的な仕事であったり、従業員それぞれがクリエイティブな仕事に集中できるようになります。
また、RPAで従業員満足度が向上すれば、離職(転職)率が下がり、採用や教育にかかるコストの軽減できます。
自動化レベルの進化
一般的なRPAツールでは、決まったワークフローからなる事務作業の自動化といった領域などを扱うため膨大なデータの処理や反復作業、工数の多い作業などは得意分野です。
アプリケーションをまたぐ処理も、RPAツールができる特徴的な機能の一つです。
これまでバックオフィス業務の自動化が難しいとされた背景には、異なるアプリケーション同士の連携が困難という問題がありました。
API(Application Programming Interface)を公開してもらうなど方法はありましたが、その都度連携プログラムが必要となるため、手間とコストがかかりましたが、RPAは、この問題を解決しています。
使用するアプリケーションの変更や新たな開発をせずとも人間の作業する操作そのままをソフトウェアロボットが担うことで、人間がやるように業務を自動化できます。
また、RPAは対応できる自動化レベルにより、次の3つのクラスに分類されます。
クラス1:RPA(Robotic Process Automation)
従来型のRPAのことで、定型業務の自動化を実施する段階で、工数の多い単純作業が当てはまります。
主にバックオフィス部門における事務的な入力作業や検証作業、データ管理、販売管理や経費の処理などに用いられます。
ほかにもクローリングなどの情報収集、構造データの読み取り・入力・検証などの自動化が可能ですが、実質的にはプロセスの自動化にはいたらず、デスクトップ作業の自動化『RDA(Robotic Desktop Automation)』にとどまるケースも多く見られます。
現在、日本でRPAを導入している企業の多くはこのクラスの段階です。
クラス2:EPA(Enhanced Process Automation)
EPAはその名のとおり、RPAよりもさらに強化された自動化の段階ですが、AIと連携して多様なデータから分析や予測をする処理を指します。
AIと連携し、非構造データの扱いやナレッジベースの活用など、非定型業務の自動化が可能になります。
この段階になると、DXやハイパーオートメーションの実現といったキーワードも現実味を帯びてきます。
画像解析や音声解析などに用いられることもあります。
クラス3:CA(Cognitive Automation)
大量のデータをもとにロボットが自ら学習し、学習に基づいて判断や予測を行う処理を指します。
CAによって、コグニティブ技術による高度な自律化を実現します。
高度なAIと連携してロボット自身が判断するため、ほとんどの業務プロセスを自動化でき、また作業の自動化のみならず、プロセスの分析や改善、意思決定の自動化、ディープラーニングや自然言語処理も行います。
そのAIによるデータ分析を迅速に経営戦略に活かすことも可能です。
膨大なデータを基に未来予測するという人間ではなかなか難しいことができれば、ヘルプデスク、季節や天候に左右される仕入れ管理、経済情勢や市場を加味した経営判断などに役立つことでしょう。
『RPA』を農業に導入する目的
ここで『RPA』を農業に導入する目的を3つ挙げて、解説します。
業務時間の短縮
農業は手作業が多い分野ですので、手作業の一部でも自動化できれば、大きな業務時間の短縮につながります。
受発注作業の一部にRPAを導入しただけでも、上記のように大きな成果が出ました。
人手不足の農業において、業務時間の短縮は大きなメリットといえるでしょう。
処理がスピーディにできる
時期によって業務量が極端に増える繫忙期では、他の業務をも圧迫してしまいますし、生産性が下がってしまう可能性があります。
たとえば、ふるさと納税では、職員がその作業だけに追われてしまう時期があります。
そこでRPAを取り入れることで、実際に作業がスピーディになったという実績もあります。
職員が他の業務時間を確保できることに加えて、利用者にとっても生産性が上がるのは大きなメリットです。
人為的ミスが減少する
人が介在する作業が多いほど、ヒューマンエラーが起きる可能性が高まります。
単純作業になればなるほど、ミスにつながりやすくなる側面もありますが、これらをRPAに置き換えることで、ヒューマンエラーを回避することが可能です。
『RPA』の導入実例
農業界は、人手不足が深刻化しており、注文から納品までの受発注事務作業の負担が課題になっています。
そこで株式会社NTTドコモは、農業界の働き方改革として、パソコン上の定型業務を自動化することのできる『WinActor®』と、手書き文字をデータ化することのできるOCRを組み合わせた農業界向けのソリューションパッケージの提供を2019年4月1日から開始しています。
実際にJA下関では、これまで各農家からの肥料・農薬・資材の注文書を手書きの容姿で受け取り受注入力処理を行っていました。
注文が同時期に集中する傾向があるため、一度に大量かつ短期間での事務処理を行う必要があり、時間と手間がかかることが課題だったため、このツールの導入に踏み切りました。
農家からの手書き注文書をOCRで読み取り、デジタルデータ化し、オペレーターによる入力作業をRPAでシステム化することで、業務の効率化を図りました。
注文内容の読み取りの他に、商品ごとの集計や各農家の購買記録作成なども自動処理しています。
その結果として、手入力での処理と比較して、職員の生産資材などの予約注文作業時間を約1,500時間(8割)短縮することに成功しました。
そして、人的ミスも減少し、商品の発送がスムーズに行えるようになりました。
まとめ
『RPA』という概念と導入のメリットについて、少しはイメージできたでしょうか?
なかなか馴染みのない概念ですし、横文字が多くとっつきにくい分野とは思いますが、業務効率化や生産性向上を実現するテクノロジーとして、理解を深めておくことは今後、どこかのタイミングできっと役立つのではないでしょうか。
また、実際に導入をしていけば、業務が効率的になり、生産性が上がり、空いた時間を活用し新しい取り組みもしやすくなるでしょう。
本記事をきっかけに、少しでもついて理解していただき、身近に感じていただけたらと思います。
また、リンク先の「みんなで農家さん」では、今回のようなITやデジタルに関連する記事もあります。
その他にも農業を応援したい方、または就農を考えている方や農業従事者の方へ役立つ最新情報やコラム、体験談などを幅広い切り口でお届けしています。
きっと今、あなたが探している情報が見つかると思いますので、是非ご活用ください。
最後までお読みいただき有難うございます。
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