豊かな農作物を栽培するために大切な要素の一つが「土壌」です。
土壌の状態次第で、農作物の栄養価は変わってきます。
栽培するのであれば、もちろん「健康で栄養価の高い」農作物を育てたいですよね。
今回、解説するのは土壌を改良する上で便利な「微生物資材」についてです。
これの活用により、土壌の状態をより良く改良できます。
ぜひ、ご一読いただき農業に役立てていただけると幸いです。
目次
1.土壌改良!微生物資材とは?
2.微生物資材 使用上の注意
2-1.微生物資材に対する注意
2-2.その微生物資材は大丈夫?
3.使用前にやっておこう!現場試験!
3-1.あらかじめ試験しておこう
3-2.微生物資材の実験例
4.微生物資材のこれから
4-1.情報開示で明確化を!
4-2.まだまだあるぞ!土壌改良の方法
5.まとめ
1.土壌改良!微生物資材とは?
「微生物資材」とは微生物が含まれる土壌改良資材のこと。
土壌にいる微生物の機能をうまく利用することにより、
作物の生育や土壌環境の改良をすることができます。
ちなみに、微生物資材の中で「土壌改良資材」として、
政令指定されているのは「VA菌根菌資材」のみです。
これ以外で一般に流通・市販されている微生物資材は、
肥料取締法の適用を受けていないものの総称である
「その他のいわゆる土壌改良資材」に分類されています。
参考:農山漁村文化協会 提供
日本の農業関連データベース「ルーラル電子図書館」
研究場面において、微生物資材の効果への期待は高まっています。
ただ、「その他のいわゆる土壌改良資材」に分類される微生物資材の中には、
含有微生物の名称や含有量が不明確なもの、
効果が微生物由来かどうか不明確なものもあります。
土壌改良の上では、非常に便利な微生物資材。
しかし、使うのであれば、真に効果のある資材を使いたいですよね。
本記事では、使用上の注意から、使用前の現場試験を中心に解説していきます。
2.微生物資材 使用上の注意
2-1.微生物資材に対する注意
市場に出回る微生物資材。
土壌の生物性改善、病害虫の抑制などの効果が期待されています。
ただし、微生物が効果を十分に発揮するには、
それに適した環境である必要があります。
その微生物の生育に適さない条件であれば、
効果が薄いという場合もあるのです。
資材業者が謳う効果を期待して使用しても、
使用条件によって効果の再現性が低下することがあるのです。
さらには、先述したように微生物資材は、
肥料取締法などの法的規制は受けていません。
2009年、全国土壌改良資材協議会が、
微生物資材の自主表示基準が設定する以前…。
含有微生物や添加物、微生物資材の使用において、
得られる具体的な効果などの明確な情報を、
知ることのできない物も数多くありました。
自主表示基準によって、
・主要微生物の名称
・菌数
・有効期間
・pH
・水分…等
これらの表示がされるようになりました。
しかし、自主表示基準に登録されていない商品も存在しています。
しかも、自主表示基準は公的基準ではありません。
自主表示基準に登録されていない商品は、販売者が研究機構などに依頼し、
試験結果を販売者が使用者に説明する方法がとられています。
しかし、これは標準化されていません。
多くの微生物資材は単一の微生物のみではないのです。
複数の微生物を含有しているのです。
さらに、自主表示基準に登録されていない商品の中には、
菌の種類や菌数などの情報が不明確な物も多いのです。
2-2.その微生物資材は大丈夫?
微生物資材の効果については、
使用者自身が効果や適用条件を試してみる必要があります。
微生物資材の効果を十分に発揮するためにも、
あらかじめ、土壌の化学性、生物性を分析。
さらに、土壌が微生物資材に含まれる微生物にとって、
適している環境かどうかをチェックする必要があります。
土壌生物を研究している染谷孝氏の著作に、衝撃的なことが書かれていました。
研究しようとした市販の微生物資材に、含有する微生物…。
なんと、ほとんどが死滅していたとのことです。
流通の過程で死滅したのでは?と考えられています。
死滅していれば、もちろん効果がありません。
この様なことも起こりうるため、
使おうとしている微生物資材が有効か否かを。
実際に農地で使用する前に自分自身でチェックする必要があります。
参考文献:染谷孝『人に話したくなる土壌微生物の世界 食と健康から洞窟、温泉、宇宙まで』
3.使用前にやっておこう!現場試験!
3-1.あらかじめ試験しておこう
微生物資材を使って土壌改良を行うのであれば、
あらかじめ実際に使用する予定の現場で試験を行いましょう。
実際の現場で効果を発揮するか否か。
事前に、要チェックすることをオススメします。
環境が変われば、微生物資材の効果が変わる可能性があります。
実際の現場において土壌改良の効果を発揮しないケースもあるのです。
現場試験を行う際には以下の点に注意しましょう。
微生物資材を土壌に散布して効果をチェックするだけではなく、
比較する「対照区」を設定しておいてチェックしましょう。。
この場合の対照区とは「微生物資材を散布しない場所」であるか、
「微生物資材の一部を熱殺菌、微生物を死滅させたものを散布した場所」
のことを言います。
3-2.微生物資材の実験例
例として、雑誌に掲載された微生物資材の実験を解説しましょう。
2010年4月発行「日本土壌肥料科学雑誌」に掲載された『微生物資材の圃場試験による効果判定の試み』の記事より。
1996年に日本土壌肥料学会が出した「微生物資材評価に関する提言」における、
その効果判定法について
「①含有微生物のいない,もしくは殺菌処理した資材を必ず対照区として設ける.②圃場試験は必ず乱塊法による統計処理を行い、三連制以上で行う.③二ヶ所以上の試験地において,異なる土壌条件下で行う.④公的機関に圃場試験結果を提示し、評価を受ける」
引用元:嶋谷智佳子・橋本知義・岡紀邦・竹中屓『微生物資材の圃場試験による効果判定の試み』1.はじめに
と記載しています。
『微生物資材の圃場試験による効果判定の試み』では、
①の殺菌処理した資材区を設けて行う現場試験を実施。
〈試験に用いられた市販の微生物資材の特徴〉
記載されている主な効果 | 記載されている含有微生物 | |
資材A | 土壌の団粒形成の促進 | 低温菌、中温菌、高温菌、好気性菌、嫌気性菌、細菌、放線菌、糸状菌等 |
資材B | 土壌中の過剰な硝酸態窒素の改善 | 記載なし |
資材C | 土壌の窒素供給能の改善 | 酵母 |
資材D | 有機物の分解促進 | 繊維素分解菌、放線菌、細菌等 |
試験区は
・資材施用区(資材を施用した区)
・対照区(微生物資材を含まない区)
・滅菌区(微生物性「以外」の効果を評価するため、微生物資材に滅菌処理を行った上で使用した区)
と設定しています。
さらに、土壌の施肥は地域の施肥基準に従って行われています。
しかし、資材Aに肥料成分(窒素、リン酸、カリウム)が含まれていたのです。
そのため、資材Aの分だけは減肥することで調整を行いました。
これにより、全ての区の条件を揃えています。
栽培作物はコマツナ。
播種前と収穫時に土壌試料(深さ0〜15cm)を5点法※で採取することで調査。
(資材Aに関しては、その効果が「団粒形成の促進」のため、団粒分析も実施)
※「5点混合法」「5地点混合法」は任意の5地点の土壌を採取し、それぞれ等量混合する方法。(参考文献:5点混合法|エコペディア|DOWAエコジャーナル)
研究結果についてどうなったのかというと…。
資材A、B、C、Dから微生物由来の効果は認められませんでした。
ただし以下のような考察がされています。
「微生物資材の効果は100%微生物由来ではないため、
土壌の物理性や化学性、生物性、気象条件などにも影響もあること、
さらに、土壌や栽培作物が限定されていた」
これらの観点から、
「条件の変更があれば、効果が認められる可能性がある」
ということも示唆していたのです。
やはり、条件次第では効果の発揮に差が見られる面があります。
実際の現場で効果があるかを試験して、
畑の土壌に、有効な微生物資材を見つけて活用しましょう!
4.微生物資材のこれから
4-1.情報開示で明確化を!
上記研究報告の最後の締めくくりを見てみましょう。
販売者(製造者)から使用条件や効果が発現した事例などの十分な情報提示があれば、それに合わせて効果判定試験を設計することができるのでより効率的に試験が行えると考えられる。
引用元:嶋谷智佳子・橋本知義・岡紀邦・竹中屓『微生物資材の圃場試験による効果判定の試み』3.結果と考察
明確な情報提示があれば、現場試験が容易になるだけではありません。
微生物資材を使用する使用者にとっても、
効果があるのか否かの判断材料になります。
明確な情報が得られれば、現場試験の労力の省力化も期待できます。
ちなみに、世界市場を対象とした輸出農業を育成している韓国。
こちらでは、微生物資材への国家基準が2007年から設けられました。
主要微生物の名称、菌数、有効期間。
その他にも、培養法や保管方法なども表示されています。
国指定の公的機関で資材に含まれている微生物に環境に対する危害性はないか、
病原微生物や毒性物質が含まれていないかなどをチェックする検査を受け、
合格するという必要もあるのです。
日本の農林水産物の輸出は増加傾向にあります。
これからは、日本でも世界市場を視野に入れる必要があるでしょう。
微生物資材の業界においても、
明確な情報開示が進むと嬉しいですよね。
4-2.まだまだあるぞ!土壌改良の方法
土壌を改良するための方法は微生物資材だけではありません。
身近な素材を使うことでも土壌改良はできます。
例を挙げると、米ぬかなども有効な方法です。
米ぬかに含まれる栄養素が有用微生物にとっての
エネルギー源でもあるからです。
微生物資材と併用して豊かな土壌を整備していきましょう。
地道な積み重ねこそがやがて大きな実りを生んでくれます。
土壌改良につきましてはこちらの記事もご覧ください。
(【重要】農業の要!土壌の役割を知ろうリンク)
5.まとめ
土壌改良に便利な「微生物資材」についての解説でした。
畑において、土壌改良は大きな要となります。
土壌改良にはさまざまな方法がありますので、
農業のスタイルに最適な方法を活用していきましょう。
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