農業法人ってなに?個人農家が法人化するメリットから設立方法まで徹底解説

農業は個人農家だけが運営していると思っている人も多いです。

ここ最近は個人農家よりも会社で農業を経営する農業法人も増えています。

法人になることで個人よりもメリットが多いです。

個人農家の中にも法人化したいけど、設立方法がわからない人もいるかもしれません。

本記事では農業法人について徹底解説しています。

また、農業法人の設立方法やスムーズに設立するためのポイントを紹介していますので参考にしてください。

農業法人の基本知識

農業法人を設立したいと考えている人は農業法人の基本知識を知る必要があります。

ここでは農業法人の特徴ついて解説していきますので参考にしてください。

農業法人とは?

農業法人とは、稲作、養鶏、畜産、施設園芸などの農業を営む法人の総称です。

法人化になることで税制面や経営面などさまざまなメリットがあり、事業継承も円滑にできるため、農業を営む場合は法人を検討してもいいでしょう。

農業法人には、「会社法人」と「農事組合法人」の2種類に分類されます。

それぞれ特徴がありますので、農業法人を設立する際には確認が必要です。

会社法人と農事組合法人の違い

会社法人と農業法人の違いを簡単に表にしてみました。

会社法人は株式会社、合同会社、合資会社、合名会社に分類されますが、ここでは株式会社を比較対象とします。

株式会社農事組合法人
根拠法会社法農業協同組合法
資本金あり(1円以上)あり(制限ある場合3円以上)
構成員1名以上農民3名以上
会社の基本方針の決定1株1議決での株主総会の議決1人1票の総会の議決
役員取締役1人以上、監査役理事1人以上、監事
事業の制限制限なし農業経営(2号)法人の場合は農業、農業関連事業に制限
法人課税全所得課税全所得課税
事業税年所得400万円以下 3.5%年所得800万円超  7.0%農地所有適格法人が行う農業は非課税
設立時の登録免許税資本金額の7/1000非課税
定款認証必要不要
組織変更農事組合法人への変更不可株式会社への変更可

会社法人

設立できる会社法人は下記の通り、4つの種類に分けられます。

  • 株式会社
  • 合同会社
  • 合資会社
  • 合名会社

一般的に多く選ばれているのが「株式会社」です。

株式会社の会社法を根拠法とする営利目的の法人形態になります。

株式会社は出資者が1人から設立が可能です。

株式を発行して、株式を引き換えに資本金として資金を受け取り、資金調達を行います。

定款認証も必要で事業の制限もなく、信頼度が高い形態です。

農事組合法人

農業組合法人の根拠法は農業協同組合法とする法人形態です。

農事組合法人には1号法人と2号法人があります。

1号法人は、農業経営に必要な農機施設等を共同で購入し、共同で耕作や収穫等の農作業を行う場合に設立する法人で、農地で取得できません。

2号法人は、自分たちで生産した農産物の製造・加工・販売などを行う法人で、農地取得ができます。

農事組合法人は農民3人で構成され、株式会社と違い、定款認証は必要ありません。

個人農家が農業法人を設立するメリット

農業法人の基礎知識について解説してきました。

ここでは個人農家が農業法人を設立するメリットを紹介していきます。

農業法人の設立を検討されている方は参考にしてください。

経営管理がスムーズなる

法人化していない個人農家は私用との境目がなく、経営とお金の管理があいまいになります。

特に日本農家は家族経営や集落農家が多く、資金繰りや労働力も混同しがちです。

会計、経営、人事管理などが大雑把になり、経営状態を把握するのが難しくなります。

例えば、今月いくら収入があり、いくら支出が把握できないと経営が上手く行っているか判断できません。

経営判断ができないと赤字で破綻する恐れもあります。

しかし、法人化すれば複式簿記が義務付けられており、財務管理が必要です。

個人農家とは違い、お金の内容を細かく明確にしないといけないため、経営管理が身に付きます。

また、私用との資金に境目を作るため、資金の流れも明確になり、今後の見通しも立てやすいです。

そのため、経営判断もスムーズに行えるので、問題が起きても柔軟に対応できます。

信用力が向上する

法人化することで個人とは違い、外部からの信頼性も高いです。

法人化によって複式簿記が義務付けられているため、外部からでも経営状態が明確に見られます。

経営がいい状態だと、金融機関や取引先からの信頼性も高く契約しやすくなるでしょう。

例えば、新たな事業展開をしたいために金融機関から融資を申請したとしても、法人は個人よりも信頼性が高く、融資が通りやすいです。

また、新規取引先の獲得でも個人ではなかなか獲得できません。

しかし、法人になると信用力があるため新規の取引先を獲得できる可能性も上がります。

法人化は、これまで以上に取引先や金融機関との関係構築が重要です。

優秀な人材を確保しやすくなる

法人は個人と違い、優秀な人材を確保しやすくなり、スムーズに農作業が可能です。

法人は個人より信頼性も高く、社会保険なども義務付けられているため、安心して就業ができます。

例えば、同じ仕事をしても、社会保険などがない個人よりも、休日の確保や社会保険などがある法人の方が働きやすいです。

また、雇う側でもスキルを持った人材を雇うことでフォークリフトやドローンなどを操縦でき、これまで以上に幅広く事業展開できます。

多くの人材を必要とするなら法人化して信頼性を高めるのがいいでしょう。

福利厚生などで従業員満足度がアップする

法人になることで福利厚生や労働改善などができ、従業員満足度が向上します。

いい人材を確保しても労働環境や福利厚生などが悪いと従業員は辞めていくでしょう。

従業員に長く働いてもらうためには福利厚生などの労働環境の整備が必要です。

例えば、休日の確保や労働条件の改善することで、魅力ある労働環境に変わります。

また、賞与などの導入は従業員のモチベーションアップに繋がるでしょう。

事業継承を円滑化にできる

法人は個人とは異なり、経営者が代わってもスムーズに経営を継続できます。

個人農家の場合、後継者は長男など親族がほとんどです。

しかし、法人なら構成員や従業員に事業継承ができるため、親族以外からでも有能な人材を確保できます。

また、個人農家の場合は田んぼなどの農地の所有は個人がほとんどです。

相続が発生すると農地が複数人に相続されるため、相続人は相続税を負担する必要があります。

法人であれば農地に限らず、農業機械などの所有が法人になるため、相続税は発生することはありません。

税制優遇・補助金に利用できる

法人になることで税制優遇や補助金など個人よりも利用できるのが多くなります。

役員や従業員の給料や退職金を扱うことが可能です。

生命保険や従業員として家族に給料を支払うなど事業所得の節税もできます。

もし、赤字になった場合は、欠損金を長期間繰り越せるため、翌年度以降の節税も可能です。

法人になることで税制優遇などメリットもたくさんあります。

所得によっては税率が低くなるため個人のほうがいい場合があるので注意してください。

補助金の場合は「強い農業・担い手づくり総合支援交付金」の利用が可能です。

金融機関からの信用度も高く、大きな融資の審査が通る可能性が高くなります。

農業法人を設立する注意点

ここでは農業法人を設立する際の注意点について解説していきますので参考にしてください。

法人化には出資金など費用がかかる

法人は会社を設立するのと同じなので費用が掛かります。

会社を設立するには1円からでも設立することも可能ですが、1円では信用度も低くおすすめはできません。

ある程度の資本金がないと信用問題になるので費用は必要です。

また、法人は出資金以外にも設立に関する費用が掛かります。

事務手続き費用、登録免許税、定款認証手数料などを支払わなければなりません。

もし、自分らで手続きができない場合はプロに依頼する必要があるため、その際も手数料が掛かります。

個人とは違い会計処理が難しくなる

法人は個人とは違い、私用と法人用の会計を分ける必要があるため難しくなります。

簿記などの会計スキルがある人なら問題はありませんが、自分で法人会計を行うのは難しいです。

お金を使ってもプロの税理士や会計士に依頼する方がいいでしょう。

法人の場合、従業員の社会保険料の負担があるため、経費も個人の時より自由に使用できません。

また、一度設立すると簡単に解散もできません。

もし、法人を解散する場合は全ての財産を清算する必要があり、最低でも2ヶ月くらいは必要です。

手続きも複雑で個人でできないため、プロに依頼するほうがいいでしょう。

所得によっては負担が大きくなる

法人になると、個人の時よりも費用の負担が大きくなるかもしれません。

条件が揃えば節税も期待ができますが、法人として利益が少ない場合は法人化しても負担だけが大きくなります。

また、法人の場合は社会保険の加入が義務付けられており、経費の負担も必要です。

その他にも、役員報酬などにも税金が掛かってきますので、結果的に節税になっていない場合もあります。

利益が少ない状態で法人化すると、負担だけが大きくなる可能性が高いため注意してください。

農業法人を設立する方法は?6ステップで解説

農業法人の注意点について説明してきました。

ここでは、農業法人の設立方法を初心者でもわかりやすく6ステップに分けて説明していきます。

一つひとつ詳しく解説していきますので参考にしてください。

ステップ①:基本事項を決定する

農業法人を設立するには最初に基本事項を決める必要があります。

基本事項が決まっていないと設立の手続きができません。

農業法人の設立時に決める基本事項は次の通りです。

  • 商号
  • 会社所在地
  • 資本金
  • 組織形態
  • 事業内容
  • 事業年度・決算日

商号

商号は会社の名前のことです。

ひらがな、カタカナ、ローマ字なども使用ができます。

会社所在地

法務局で同一本店住所があるか確認するため、本社の住所を正確に記載します。

資本金

資本金は1円以上からでも設立できます。

しかし、取引先や金融機関も見ることもあるため、資本金が少ないと信頼度も低いです。

信頼されるため、ある程度の資本金が必要になります。

組織形態

組織形態は株主構成や役員構成などを明確にしておく必要があります。

役員構成の場合、半分以上の役員が農業に従事する構成員であればいいでしょう。

事業内容

事業内容はわかりやすく「農産物の生産、販売」などを記載します。

もし、将来的に加工も行うなら「加工」も記載しておくといいでしょう。

事業年度・決算日

いつから事業を開始するか、いつ会社の決算日なのか記載も必要です。

ステップ②:発起人会を開催

基本事項が決定したら、発起人を集めて発起人会を開催することが必要です。

発起人会では定款を作成し、役員の選任など法人化に必要なことを決めます。

ステップ③:定款の作成・認証

基本事項が決まれば定款を作成しなければなりません。

定款は会社のルールのようなもので必要なことはすべて記載する必要があります。

基本事項、役員の任期、決議方法まで明確に記載します。

明確に記載しないと効力がないため、定款の作成方法を理解した上で作成が必要です。

定款は構成員の印鑑を押して、公証人役場で提出します。

定款は公証人からの認証が必要です。

定款の作成や認証の場合は印鑑証明書、収入印紙、公証人手数料など費用が掛かります。

ステップ④:出資としてお金を預ける

定款に認証が完了すれば、資本金を代表者の口座へ振り込みます。

出資者全員が振り込んだ後、通帳を記帳してコピーを行い、会社の代表者の割印をします。

この書類は登記申請に必要です。

ステップ⑤:登記の申請

資本金の預け入れが完了したら、法務局へ登記申請を行いましょう。

登記申請に必要な書類等は以下の通りです。

  • 株主会社設立登記申請書
  • 会社の実印(代表社印)
  • 取締役の印鑑証明書
  • 定款(認証を受けたもの)
  • 役員の就任承諾書
  • 出資金の払い込みを証明する書面(通帳のコピー)
  • 印鑑届出書
  • 印鑑カード交付申請書
  • 登録免許税

登録免許税は最低でも15万円必要です。

多くの書類を揃える必要があるため、漏れがないように注意してください。

ステップ⑥:諸官庁への届出を行う

書類に間違いがないか確認して、法務局に登記申請を行います。

申請が完了すれば、法人設立です。

法人が設立しても期限内に税務署などに届出をする必要があります。

税務署に提出する書類は下記の通りです。

  • 設立届出書
  • 青色申告承認申請書
  • 給与支払事務所の開設届出書
  • 源泉所得税の納期の特例に関する申請書

税務署以外にも、都道府県、市町村への設立届出書の提出が必要になるため確認してください。

補足:社会保険の手続きも必要

従業員を雇う場合、必要になるのが社会保険です。

社会保険がないと従業員は安心して働くことができません。

そのため、法人設立後、すぐに社会保険の手続きを行いましょう。

農業法人をスムーズに設立するためのポイント

農業法人を設立するまでの流れを解説してきました。

ここでは農業法人をスムーズに設立するために必要なポイントを紹介していきますので参考にしてください。

農業法人の形態を決めておく

農業法人設立の手続きに動く前に、法人形態を決めておくといいでしょう。

農業法人には株式会社などのような一般的な法人か農事組合法人の2つから選べます。

農事組合法人は農家が3人出資すれば設立できるためハードルは低いです。

一方、株式会社は資本金1円からでも設立ができますが、手続きに費用が掛かります。

ただ、実施できる事業に制限がないため、幅広く事業が展開できます。

一般的な法人と農事組合法人では特徴が異なりますので、あらかじめ法人形態を決めておくことがおすすめです。

農業以外の知識やノウハウを身につける

法人になると個人とは違い、会計管理が難しくなります。

簿記の知識などがないと会計処理ができず、経営状態を明確に示せません。

税理士などの会計のプロに頼む手段もありますが、最低限の簿記知識は必要です。

農業法人をスムーズに設立するためには、会計や経営など農業以外の知識やノウハウを身につけた方がいいでしょう。

農地を所有しない方法もある

法人で農地を所有できるのは「農地有適格法人」のみです。

ただ、農地を借りたり、農地として指定されていなかったりした場合は農地有適格法人の必要はありません。

ここ最近の農業は、畑や田んぼを利用しなくても工場やビルなどを利用した水耕栽培を行う所も多いです。

そのため、農地有適格法人がなくても農業を始められます。

工場やビルで水耕栽培を行うと、設備費用が高くなりますが、従来の農業とは異なる方法があることを知っておくといいでしょう。

個人農家が農業法人を設立する方法とメリットのまとめ

今回は個人が農業法人を設立するメリットと方法について解説してきました。

農業法人には一般的な会社と農事組合法人の2種類があり、それぞれ特徴が異なります。

2つの法人は形式が異なり、どちらか選ぶには法人をどのように運営したいかが重要です。

個人が法人になることで、経営がスムーズに管理でき、信用度も高くなるなどメリットも豊富にあります。

ただ、会計処理が難しくなることや利益がでないと負担だけが大きくなるなど注意する点も多いです。

農業法人を設立するには必要書類や決めることなどたくさんあります。

難しいところは税理士などのプロに依頼することがおすすめ。

これから農業をもっと大きく発展させたいと考えているなら、法人化を検討してみてはいかがでしょうか。

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