日長反応とは?花の成長に欠かせないはたらきをわかりやすく解説します

植物や農作物を効果的に栽培するには、実に多くの条件が必要になってきます。

その中でも、ここ数十年の研究で注目されるようになってきたのが、日長反応という植物の体内時計によるはたらきです。この記事では、日長反応とはどのようなもので、農作物の生産にどのような役割を果たすのかを、いくつかの事例も交えて解説していきたいと思います。

日長反応とは?

日長反応とは、日中の日の長さによって植物の成長が左右される反応のことです。

私たちは、季節の移り変わりによって日が沈むのが早くなったり、遅くなったりすることを感じています。同じように、動物そして植物も自分の体の中に、日の長さの変化を感じる仕組みが備わっています。

植物の場合は、日の長さの変化を感じとることによって花の芽(花芽)を作り、開花が始まります。これが日長反応と呼ばれるものです。

日長と光周期

一日は24時間の中で、昼の明るい時間と夜の暗い時間が交互に訪れます。この周期のことを光周期といい、明るい時間の長さのことを日長といいます。

光周期は、赤道に近い地域では昼と夜はほぼ12時間ずつで、一年を通してほとんど変化はありません。逆に日本では夏至で日が長く冬至で日が短くなり、北欧では白夜のようにほぼ日が沈まない時期が続きます。

このように、日長と光周期は場所と季節によって変化します。

なぜ日長が重要なのか?

植物が花を咲かせて実をつけるためには、決まった時期に花芽を作らなくてはなりません。そのための条件として必要なのが①日長、②温度、③栄養の三つです。中でも特に重要な役割を果たすのが日長です。それはどうしてなのでしょうか。

日長の重要性①フロリゲンの生成

日長が大事な理由の一つは、植物が日の長さを感知することでフロリゲンという花の芽を作るホルモンが形成されるからです。

そのプロセスとしては

  • 植物の葉が日長情報を受ける
  • フィトクロームという光受容体が概日時計(体内時計)に日長情報を伝える
  • 葉の中でフロリゲンが作られ、茎の先端へと運ばれて、花の芽を作る

となります。このため、多くの植物種が日長(光周期)を花芽形成のタイミングを決める重要な環境情報として使っているのです。

ダイズを使った実験では、春から夏にかけて10日間ずつ遅らせて種をまいても、開花の時期はほぼ同時という結果が出ています。このことからも、花芽を作るための要因は成長の時間ではなく、日長が関係していることがわかります。

日長の重要性②植物の概日時計

日長が重要な理由の2つ目はこの概日時計(体内時計)があるからです。地球では昼と夜が交互に訪れ、動物も植物もその周期に反応する体内時計を内部に持っています。

この概日時計の動きは自律的で、植物ごとに花芽を作るために独自の長さのサイクルを持っています。

植物は日長をモニターして季節の変化を知ることで、発芽して伸びていく栄養成長から、花をつけて実や種を作る生殖成長への切り替えを行っています。ここで花芽を作るために、植物は一日一日の明暗の周期に適切に反応することが重要なのです。

日長の重要性③光周期の安定性

日長が重要なもう一つの理由は、周期が一年を通じて規則的で一定していることです。

気温は、同じ日でも毎年同じではありません。日照時間や降水量などの気象条件も変わりますし、温暖化により平均気温も少しずつ上がることもあります。

栄養という要素も一定ではありません。肥料の量や土壌の状態が違えば、生育状況も変わってきます。

これに対して日の長さは、年によって変わるということがほぼありません。

同じ場所、地域なら、冬至も夏至も日の長さは毎年同じです。

特に季節の移り変わりによって日長変化の幅が大きい中緯度~高緯度の地域では、植物が季節を感じるには実に都合のいい要素と言えるでしょう。

日長反応に必要な条件

日長反応では植物が日の長さに反応して花芽を作るホルモンが作られます。

そのためには、日の長さも、暗い時間も、ある一定の時間が必要です。

限界日長と限界暗期

植物が活発に花芽を作るためには、どのくらいの日長が必要なのかについては、いろいろ条件を変えた実験や研究が行われてきました。

この結果、24時間周期の明暗サイクルの中で、

  • ①明るい時間が「ある特定の長さよりも長い」ときに花芽ができる場合と
  • ②明るい時間が「ある特定の長さよりも短く」なると花芽ができる場合と

があることがわかっています。

この「ある特定の長さ」の限界となる時間のことを限界日長といいます。

逆に、植物が花芽を形成するために必要な、最大または最小の長さの暗期、つまり暗い時間の長さのことを限界暗期といいます。

日長より重要なのは暗期

いくつかの植物を対象に光周期の違いを調べた実験では、明るい時間の長さは同じでも、暗い時間の途中で光を当てると(光中断)花芽を作らないという結果も出ています。

このことから、花芽を作るために重要なのは、日の長さよりもむしろ、限界暗期以上の連続した長さの暗期であるということが、近年の研究でわかっています。

これは日照や曇天などの気象が影響する明期よりも、暗期の方が変動がなく安定しているためとされているからです。

植物は、光が当たらない時間の長さの変化を感じ取ることで、花芽を形成するためのホルモンを作っているのです。

植物による違い

花芽の生成に必要な限界日長と限界暗期の長さは、植物の種類によって違ってきます。

多くの植物は、花芽生成に必要な限界日長と限界暗期の長さの違いによって、長日植物、短日植物、中性植物の3種類に分けられます。

長日植物

長日植物とは、日が長くなると花芽の生成が促される植物のことです。

ただし、明るい時間が限界日長より長くても、暗い時間が長いと花は形成されません。そこから、長日植物が花芽を作るには、長い明期よりも短い暗期のほうが大事だということがわかります。

植物によって違いはあるものの、長日植物の限界暗期は平均的に約11時間くらいなので、暗期が約11時間以下になると花が咲きます。

長日植物は、温帯、高緯度地帯が原産の植物に多く、主なものには

  • コムギ/オオムギ/ダイコン/そら豆/カリフラワー/ホウレンソウ/タマネギ
  • アスター、カーネーション/アヤメ/スミレ

など、冬至から初夏にかけて花をつける植物となります。

短日植物

逆に短日植物は、日長が短くなると、つまり暗期が長くなると花芽形成が起こる植物です。

短日植物の限界日長は植物の種類によって違いますが、限界暗期のほうはだいたい13時間くらいが平均といえます。つまり、暗期が約13時間以上になると花に芽ができるようになり、連続した長い暗期が必要になってきます。

季節としては夏至から冬至までの日に日に昼の時間が短くなる(夜の時間が長くなる)秋ごろに花を作る植物が短日植物と言っていいでしょう。

短日植物は赤道に近い熱帯や亜熱帯地域起源の植物が多く

  • イネ/ダイズ/ジャガイモ/トウモロコシ/トウガラシ
  • キク/アサガオ/コスモス/ポインセチア

などがあります。

中性植物

これら2つとは違い、中性植物は明期や暗期の長さに関係なく、ある程度成長すれば花芽を生成します。

中性植物には四季を通して花が咲く植物や、二季咲きの植物に多く見られます。

中性植物は日長よりも温度に反応して花を咲かせるものが多く、トマト/キュウリ/ソラマメ/ソバ/エンドウなどの夏野菜のほか、ユリやキキョウ、バラなどが中性植物に当たります。

ただし、同じ植物でも品種によって長日、短日、中性が異なる場合もあります。これら短日・長日・中性植物の特徴や違いについては、別の記事でより詳しく述べていきたいと思います。

日長反応を利用した栽培方法

植物ごとの日長反応を知り、花芽を作る仕組みを解明すれば、植物の開花を制御して農作物を効果的に増産させることができるようになります。

そのため、日長を人為的に管理・調節して開花時期を早めたり遅らせたり、開花時期を考慮した栽培方法を取るなどの試みがなされています。

活用法①長日処理

長日処理は人工的に植物に光を当てることで暗い時間を短くする方法であり、短日植物の開花を抑えるか遅らせるためと、長日植物の開花を早めるために行われます。

具体的な方法としては

  • 日長延長:夜明けと日没の光につながるように照明を当てる方法
  • 連続照明:夜間に照明を当て続ける(長日植物の開花促進に有効)
  • 暗期中断:途中で照明をつけて暗期を二分する(短日植物の開花抑制に有効)
  • 間欠照明:暗期の間に短時間ずつ点灯と消灯を繰り返す

などがあります。使われる光は、自然の光合成に比べるときわめて弱い光で十分であるとされます。

【長日処理の事例】エンドウ

エンドウは、短日よりも長日で開花が早まります。この日長反応を利用し、夏まき・秋まきの晩生種で収穫時期を早めるため、長日処理が行われます。

和歌山県で行われた実験では、100Wの白熱電球を10a当たり30~40個、2m間隔で点灯して電照が行われました。

電照は間欠照明や光中断、日長延長などいずれの方法でも効果が認められました。種子の低温処理と併用することで開花の促進のほか、ウスイなどの節間の長い品種では収穫位置が下がり作業性の向上にもなっています。

こうした開花の促進により、収穫時期が前倒しされ労力が分散されたほか、夏まき・秋まきの露地栽培では総収量の増加につながっています。

活用例②短日処理

短日処理は、長日処理とは逆に光を遮断するなどの方法で日を短くして、長日条件では花芽が作られない時期に人為的に花成を誘導するものです。

夕方に温室の周囲を遮光カーテンなどで覆い、朝は少し遅くカーテンを開けて暗い時間を長くするのが主な方法で、長日植物の開花を遅らせるのにも使われます。

日が長く比較的気温が高い時期に行われるため、ハウス内の温度や湿度の調節に工夫が必要です。

夏季に涼しい寒冷地や高地では、冷房設備を必要としない低コストな方法として有効です。

【短日処理の事例】イチゴ

冬〜春にかけて収穫される国産の一季成り品種イチゴは、年間を通して需要が高まっているものの、夏や秋には生産が困難な作物です。

岩手県など東北地方では、四季成り品種に比べて高品質な一季成り品種を夏秋期にも安定して作るために、短日処理による栽培技術が導入されています。

具体的な方法としては、遮光率100%で遮熱効果の高いシートをトンネルやハウスに張り、朝夕に開閉して、自然条件での短日処理に適した8時間の日長になるようにします。

これにより、品種によって異なるものの一株当たり150〜300gほどの収穫が、9月から11月くらいの期間でも可能になっています。

活用例③季節と日長に合った品種を選ぶ

日長反応は、同じ植物でも品種によって違う場合があります。

こうした違いと品種の特性を把握することで、季節を問わない農産物の生産が可能です。

例えばコムギ(小麦)は本来長日植物であり、徐々に日が長くなる季節に花を作り始めます。

しかし、国産の小麦品種「鴻巣二五号」は日長に関係なく花芽の生成を行う中性植物の性質を持ち、日長が短くなる夏から秋に作り始めても安定した生殖成長が望めます。稲と小麦との水田二毛作が可能になり、水田⇆畑の循環による土壌の構造が良くなる効果も期待できます。

まとめ

日長反応の研究は、植物が私たちと同じように体内時計を持っていることを明らかにしました。植物が日の長さの変化で季節を感じ、花をつけるメカニズムを理解することで、農作物の生産にも大きな進歩がもたらされています。

日長反応や光周期と作物や品種の生育条件、フロリゲンの遺伝子構成などは、近年になって進んだ点も多く、すべてが完全に解明されているわけではありません。

今後の研究成果で、日長反応を活用した農業生産がより進んでいくことを期待しましょう。

参考文献・資料

に | 農業・園芸用語集 | タキイ種苗株式会社 (takii.co.jp)

日長反応-ルーラル電子図書館―農業技術事典 NAROPEDIA (ruralnet.or.jp)

長日植物、短日植物、中性植物。わかりますか。|オフィシャルブログ|東山動植物園 (city.nagoya.jp)

花を咲かせるスイッチが押される瞬間 ~フロリゲン複合体の動態を解明~ – 東京大学 大学院理学系研究科・理学部 (u-tokyo.ac.jp)

【高校生物】「長日植物、短日植物」 | 映像授業のTry IT (トライイット)

【高校生物】「長日植物、短日植物、中性植物」 | 映像授業のTry IT (トライイット)

寒冷地における短日処理によるイチゴの夏秋どり作型の開発|農研機構

長日処理-ルーラル電子図書館―農業技術事典 NAROPEDIA (ruralnet.or.jp)

短日処理-ルーラル電子図書館―農業技術事典 NAROPEDIA

いちごの花芽分化とは?基礎知識と処理方法について解説

あたらしい 農業技術 No.632 イチゴ「きらぴ香」の花芽分化抑制方法|静岡県経済産業部

今さら聞けない野菜発育のメカニズム|タキイ種苗株式会社

植物ってどうやって季節の変化を見分けるの?【植物学基本講座】 | GardenStory (ガーデンストーリー)

植物生理学/三村徹郎, 深城英弘, 鶴見誠二編著. — 第2版. — 化学同人, 2019. — (基礎生物学テキストシリーズ ; 7)

絵とき植物生理学入門 / 山本良一編著 ; 曽我康一, 宮本健助, 井上雅裕共著. — 改訂3版. — オーム社、 2016.

ひかりと植物 / 滝本敦著. — 大日本図書, 1973. — (Fine science books).

藤岡唯志 エンドウ>基礎編>栽培の実際>圃場の準備と播種>開花促進/農業技術大系 野菜編 第10巻 マメ類・イモ類・レンコン/基+99~基+103/,2000. ルーラル電子図書館

話題の「夏まき小麦」 「鴻巣25号」のユニーク度を解剖する/『現代農業』1990年7月号 226ページ~229ページ

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