近年、有機・無農薬農業への関心が高まるにつれて、健康で優れた土壌環境づくりも注目されています。そんな土づくりの中でも、重要な役割を果たすのが堆肥であり、堆肥の原料として使われているものの中に、落ち葉があります。
この記事では、落ち葉堆肥を使った農法にフォーカスを当てて、有機堆肥に興味がある農家や農園の方へ向け、そのメリットや活用例、作り方などを紹介していこうと思います。
落ち葉堆肥農法とは
落ち葉堆肥農法は、落ち葉で作った堆肥を使って農作物を作ることです。
堆肥は農作物を作るうえで重要な役割を果たしますが、落ち葉は堆肥の原料として優れた性質を備えています。この落ち葉堆肥が持つメリットを活かして、作物を栽培するのが落ち葉堆肥農法です。
堆肥が必要な理由
そもそも農業にはなぜ堆肥が必要なのでしょうか。
堆肥は主に土の状態を良くするために、昔から使われてきました。堆肥は落ち葉や動物の糞尿などの有機物を、微生物によって発酵させたものです。これを農地に入れることで、有機物を効果的に土に還し、農作物の生産に適した状態に保つことができます。
堆肥がもたらす効果
堆肥が具体的に農業に与える効果には、品質向上、収穫量の増産、生産の安定の3つがあります。
品質向上
- 根から吸収される養分や水分の適切なコントロール
- 土を柔軟にすることによる水はけや保水機能の向上
- 根の伸長による養分や水分保持機能の向上
収穫量の増産
- 窒素、リン酸、カリや必要な微量要素を土の中に供給する肥料効果
- 窒素過多による糖の成分減少を緩和し、味や貯蔵性の良さを保持する効果
生産の安定
- 土壌微生物の活発化による有機物分解促進と植物への養分供給力向上
- 生物相が豊かになり、有害微生物の増殖を防ぐことで連作障害が回避できる
など、堆肥が土壌と作物に及ぼす効果が非常に高いことがわかります。
堆肥の種類と特徴
堆肥といってもいくつか種類があり、それぞれの持つ特徴もさまざまです。
落ち葉堆肥の話に行く前に、前述の堆肥の効能を踏まえたうえで、それぞれの種類や特徴について見ていきましょう。
動物性堆肥
動物性堆肥は牛、豚、鶏など家畜の糞尿を堆肥化したものです。
植物性堆肥に比べ、窒素、リン酸、カリといった栄養分が多いのが特徴で、土壌改良効果よりはむしろ肥料のように使われることが多いです。家畜の種類によって、その効果や持続性に違いがあります。
- 牛ふん堆肥:牛ふんにおが屑や稲わらなどを加えて堆肥化したもの。繊維分が多く、土壌改良効果と肥料効果がある
- 鶏ふん堆肥:鶏ふんを乾燥、発酵、またはおが屑を混ぜるなどで作った堆肥。肥料成分の含有量が高く、土壌改良効果は少ない
- 豚ふん堆肥:豚ふんにおが屑などを加えて発酵させたもの。窒素分が比較的多く、肥料効果は速め
植物性堆肥
落ち葉や藁、バーク(伐採した樹木の皮)などの植物残渣から作る堆肥のことです。
土壌改良効果が高く、炭素や繊維が多いのが特徴で、窒素など肥料成分は少ないため、米ぬかや鶏ふんなどを入れて補います。
- 腐葉土:落ち葉を堆積して発酵させたもの。
- バーク堆肥:樹皮に米ぬかや鶏ふんなどを混ぜて発酵させたもの
- わら堆肥:稲わらに石灰や家畜糞尿などを混ぜて発酵させたもの
生ゴミ堆肥
家庭から出る生ゴミ(食品廃棄物)を使った堆肥です。野菜くずや肉、魚や卵の殻など、さまざまなものが混ざっているので、土壌改良効果と肥料効果があるものの、成分や効能にばらつきがあるのが欠点です。
落ち葉堆肥と腐葉土は違うの?
植物性堆肥のひとつとして落ち葉から作られているのが腐葉土です。
落ち葉堆肥と腐葉土との違いとしては、発酵度合いによる見た目と原料があります。
腐葉土は落ち葉のみを積んで発酵させますが、葉が完全に分解せず原型を残すものがあります。
一方落ち葉堆肥は、落ち葉に米ぬかや鶏糞などを使って完全に発酵させ、柔らかい土のような形状になっています。ただし、落ち葉に米ぬかなどを混ぜて発酵させたものを「腐葉土」としているケースも多く、厳密な区分はないようです。
一般的には、ホームセンターなどで市販されることが多い腐葉土に対し、落ち葉堆肥という呼び名は、各農家で自作されるものを指して使われる傾向があります。
落ち葉堆肥農法のメリット
自作による落ち葉堆肥を使った農作物づくりには、以下のようなメリットがあります。
土壌改良効果が高い
落ち葉堆肥の一番のメリットは土壌改良効果の高さです。落ち葉は地面の土に最も近く、ほかの植物性堆肥よりも土壌中で分解が進みやすい素材です。そこにはたくさんの微生物が生息しており、土壌微生物が活性化しやすい環境になります。堆肥化した落ち葉はひときわふかふかで柔らかいので、土の団粒化を進めやすく、水はけと水もち、通気性に優れます。
こうした特性は、水や肥料成分をバランスよく保持するのに最適で、畑のほかに鉢やプランターの培養土に混ぜて使う用途にも向きます。
野菜の味や風味が向上する
落ち葉堆肥を使うことのメリットには、野菜の味や風味が良くなるということがあります。
落ち葉堆肥は炭素分が比較的多いため、炭素をエサにする土壌微生物が活性化しやすくなります。また植物性で分解されやすい落ち葉は、同時に、窒素分が少ないことで植物内の糖の減少を緩やかに抑える効果もあります。
こうした性質によって、自然のミネラルや糖分含有に優れた、味の良い作物ができます。
堆肥の購入費を節約できる
堆肥はある程度規模の大きな農家・農園であれば、購入するより自分で作るほうが経済的です。
特に落ち葉は秋になると自然に落ちて貯まってくるので、周辺の清掃や整地と並行して採集できて手間もかかりません。
市販の腐葉土は材料の種類や配合が決まっており品質も安定していますが、その土地に根付く木からできる落ち葉堆肥のほうが、その地の土壌環境に適していることは自明です。
落ち葉堆肥の作り方
ここからは、落ち葉堆肥を自作したい農家の方に向けて、作り方を説明していきましょう。
どのくらいの量を作るかは、各農家や農園の規模によって違います。
ここでは広さ20㎡くらいの家庭菜園を例にすると、
縦60cm×横60cm×高さ60cmで容量約200ℓの堆積場で、約40kg分の落ち葉堆肥ができます。
作り方の手順
- 堆積場を作る:木枠やベニヤ板、コンパネなどで囲いを作る
- 落ち葉を積んで水をたっぷりまいて踏み固め、落ち葉に水を含ませる
- 落ち葉が20cm程度の厚さになったら、表面に米ぬかや油粕などをまく(落ち葉の重量の1~2%)
- 2.~3.を繰り返し、落ち葉と米ぬかを交互に1mくらいの高さに積み上げる
- 発酵で温度が上がってきたら切り返しを行う
- 2週間〜1か月ごとに切り返しを行う
- 雨が入らないようにビニールシートで覆う
- 半年から1年程度で落ち葉がボロボロに崩れてきたら完成
堆肥づくりのポイント
次に、良い落ち葉堆肥を作るためのポイントもあげていきます。
まず堆積場は排水しやすいように、水はけの良い場所を選びます。数cmほど盛り土をする、簡易的に木材で隙間を開けた壁を作るなど、空気の通りを良くするなどしましょう。
また微生物は紫外線に弱いので、直射日光に当たらない工夫が必要です。屋根やビニールシートで覆うことで、日差しのほかに雨による窒素、カリなどの養分流出を防ぐ効果もあります。
欠かせない「撹拌・切り返し」
柔らかく良質な落ち葉堆肥を作るために大事なのが、撹拌・切り返しです。これは堆肥の上下を引っくり返すように混ぜる作業で、これをすることで
- 発酵で発した熱で蒸発した水分を微生物に補給する
- 不足する酸素を全体に供給し、通気性をよくする
- 発酵熱で菌や微生物が死滅するのを防ぐ
などの効果で内部の空気や水分状態が一定になり、堆肥の発酵が全体に均一に進むようになります。
落ち葉堆肥に適した木は?
落ち葉堆肥を作るのにも、適した木の種類があります。
最も適しているのが、ナラ、クヌギ、ケヤキ、サクラなどの広葉樹です。
逆にあまり向かないとされているのが、同じ紅葉樹でもイチョウやクス、スギやマツ、カヤ、ヒノキなどの針葉樹の葉とされています。
堆肥に不向きな落ち葉の特徴は水分や樹脂が多く腐りにくい、植物の発芽や生育を抑制する物質を含むものなどがあります。ただし、後述する例のようなマツの葉やタケの葉は、養分が多く分解が早いので、堆肥として使われることもあります。
落ち葉堆肥農法の注意点
堆肥は土壌に良い効果をもたらす反面、使用する時にはいくつかの注意も必要です。
堆肥は必ず完熟させる
堆肥、特に落ち葉堆肥など手作りの堆肥を使うときは、必ず発酵・熟成が終わったものを使うようにしましょう。未熟堆肥が必ずしも悪いわけではありませんが、作付けまでの時間的余裕のない状態で使うと、土壌中の窒素欠乏や病原菌の活性化、二酸化炭素の増加による生育障害を引き起こします。
完熟状態の堆肥は
- 落ち葉の原型がなくなり、完全に土状になっている
- 色が十分に黒くなっている
- 悪臭や土の臭いがなくなっている
という状態になっていますので、見分け方の目安にしてください。
成分のバランスを取る
作物の栽培には、良好な土壌環境だけでなく、植物の生育に必要な養分を補わなければなりません。
そのためには、土壌成分をバランスの取れた状態にしておく必要があります。
落ち葉堆肥は炭素成分が多い反面、窒素肥料としての効果は少ないため、ほかの材料によって窒素成分を補います。対策としては窒素肥料を施すほか、家畜ふん堆肥を混ぜて使う方法もありますが、石灰資材との併用によるアンモニアガスの発生には注意が必要です。
土壌に合わせて適量に
これは落ち葉堆肥に限らず堆肥全体に言えることですが、堆肥は肥料効果がゆっくりと効いていきます。そのため、土が分解しきれない養分は残り、堆肥が多すぎると土壌が養分過多になるおそれがあります。また、土壌微生物を活性化させることは、土壌病原菌の発生を増やすことにもなるので、適切な量を適切な時期に施すことも大事になってきます。
落ち葉堆肥農法の活用事例
【事例①】落ち葉堆肥によるメロン栽培
福島県喜多方市でメロンやトマトなどの有機栽培を行っている農家では、サクラの葉を主原料にした自作の落ち葉堆肥でメロンの栽培を行っています。
落ち葉堆肥づくりでは、うどんこ病の発生を防ぐため、サクラの落ち葉50%、その他広葉樹の落ち葉40%、米ぬか10%程度で発酵させます。
この落ち葉堆肥と傾斜地の水はけの良さを利用した無潅水栽培によって、化学窒素肥料やボカシ肥なども使わず、元肥、追肥もないやり方でのメロン栽培が可能になっています。
【事例②】トマトの病気抑制と風味向上
福島県白河市のトマト栽培農家では、萎ちょう病対策の一環として落ち葉などを主体にした自作の堆肥の施用に取り組み始めました。
その結果、年を追うごとに萎ちょう病が減少したばかりでなく、トマトの味や風味も良くなるという効果がもたらされました。
こうした成功の背景には、繊維質やセルロースの多い落ち葉堆肥が、土壌の中で微生物の活動を活性化させたことがあります。
現在は、同様に落ち葉堆肥を活用したトマト農家との協働によって、「バイオトマト」の生産と出荷・販売に乗り出しています。
【事例③】松葉の落ち葉堆肥によるブランドキュウリの栽培
和歌山県美浜町の煙樹ヶ浜の松林は、日本の名松百選や白砂青松百選にも選ばれた名勝地です。
この松林に堆積し放置された松の葉を使って、農作物のブランド化を目指したのが「松きゅうり」栽培です。
地元の煙樹ヶ浜松葉堆肥ブランド研究会では、未使用のバイオマスである松葉を堆肥として活用した農作物の栽培に取り組み、収穫したきゅうりを「煙樹の松野菜」として売り出すことで、松林の保全と地域農業の振興に貢献しています。
【事例④】熱殺菌による落ち葉堆肥の育苗培土活用
広島県大崎上島町の山口農園は、キュウリやトマトなど野菜の苗を作り、島の農家に提供する苗屋さんです。ここでは、育苗に使う培土に、地元の山で集めた落ち葉堆肥を活用しています。
特徴的なのが、堆肥の熱殺菌処理です。秋に集めた落ち葉を積んでおき、翌年の夏ごろに油粕や熔リン、水などで発酵させて堆肥を作ります。それをさらに、冬の1月に薪火で熱した鉄板に置いて70℃で10分ほど熱して殺菌させて、育苗培土に使います。不要な菌や虫を畑に持ち込ませないための、長年の知恵と言えるでしょう。
まとめ
落ち葉堆肥農法は、自然の循環に組み入れられている落ち葉を土壌改良のために堆肥として使う、とても理に適ったやり方です。もちろん、「堆肥を使えば有機無農薬は簡単」などと安易に考えてはならず、土壌環境や有機物のバランスを考えることは必要です。
その上で、より植物に優しく、より土にも負担のない有機農業を目指すなら、落ち葉堆肥の持つメリットは見逃せません。簡単に作れて使いやすい落ち葉堆肥を、この秋からでも作ってみてはいかがでしょうか。
参考文献・資料
イラスト 基本からわかる堆肥の作り方・使い方/後藤逸男 監修/家の光協会 2012年
有機・無農薬 おいしい野菜ができる堆肥づくりハンドブック/野菜だより編集部編/学研 2012年
落ち葉堆肥の作り方 | 【公式】JA京都 暮らしのなかにJAを
落ち葉堆肥作りは意外とカンタン!効率的な落ち葉堆肥の作り方を解説|生活110番
家庭菜園の土作りと腐葉土!簡単にわかる腐葉土と堆肥の違い|リサール酵産
以下全て ルーラル電子図書館/農文協より
落ち葉堆肥でトマト萎ちょう病が減った 『現代農業』2006年10月号 146ページ~147ページ
無灌水、溝掘り深層施用の落ち葉堆肥でメロン、牛糞堆肥でトマトを有機栽培 福島県喜多方市・小川 光 『農業技術大系』土壌施肥編 第8巻 (施設土壌の実例)1~16ページ
溝だけ落ち葉堆肥 『現代農業』2009年1月号 112ページ~115ページ
落ち葉堆肥の育苗培土、熱殺菌のやり方 『現代農業』2022年1月号 25ページ
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