農業において、土壌の質は非常に大切な要素です。堆肥等を施用し、土壌の性質を改善することは、農地の生産力アップにつながっていきます。
ですが近年では、土壌の劣化による地力の低下が危険信号が出されているのです。
地力が低下してしまえば、栄養のある農作物を栽培することができなくなります。
今回は、土壌低下の原因を現状、そして解決策を解説します。
質の良い農作物を栽培するためにもぜひご一読ください。
1.驚愕!土壌劣化が起きている?
国連食糧農業機関(FAO)によると、食料生産に重要な地球上の土壌の33%以上がすでに劣化しているとの発表が出ています。
2050年までに90%以上の土壌が劣化する可能性を示唆されているのです。
土壌が劣化してしまえば、当然田畑で栄養のある質の良い作物を栽培することが難しくなります。
未来には食糧危機問題も叫ばれています。食糧を確保するためにも土壌が劣化するのは危ない状況と言わざるおえません。
もっとも、食糧危機については、食品ロスや異常気象、政治的背景なども絡んでいるため一概に言うことはできないのですが…。
これからも栄養のある食糧を充実させておくためにも、土壌の劣化については理解しておいた方が良いでしょう。
2.土壌劣化の原因
近年、栄養分の偏った土壌が増加していると言われています。
1940年代から1960年代にかけて、高収量品種の登場や化学肥料の大量投入により農作物の生産性が向上した「緑の革命」以降、土地の生産性は格段にアップしたのです。
例を挙げると、即効性のある化学肥料は農作物に不足している栄養分をピンポイントに補給させることが可能になりました。
ですがその反面で、土壌の性質改善に役立つ堆肥や有機物の施用が減少したのです。
化学肥料の使用に偏ったことで、ある特定の栄養分が過剰になってしまった、または不足している、といった圃場が増加してきたのです。
科学的な手段は決して悪ではありませんが、過剰に頼り過ぎれば土壌に対しての弊害も起きてきます。
水田土壌の場合、国の指針※では堆肥の標準的な施用量は1~1.5トン/10aと定められていますが、労働力の減少や農業従事者の高齢化などを要因に施用量は年々減少しているのです。
水田土壌の有機物含有量は減少傾向にあり、土壌養分は石灰が過剰気味、マグネシウムが不足気味の傾向にあるようです。
普通畑土壌の場合、指針では堆肥の標準的な施用量は1.5~3.0トン/10aと定められていますが、こちらも上記と同様の理由で施用量が減少傾向にあります。
有機物含有量、土壌養分ともに上記のような状況に陥っている土壌が多いようです。
データ引用:農地土壌の現状と課題 平成19年10月 農林水産省生産局環境保全型農業対策室
さらに、圃場整備や大型農機の導入は、農作物の根が張る表層(作土)を薄くし、大型農機が土壌を踏み付けることで硬くて密になった層(耕盤)が増加してしまうのです。
耕盤は水も空気も通りにくくなります。そのため、排水性が低下したり、作物の根張りが悪い状態になるのです。
※国の指針
土壌改良を進めるために、地力増進法において策定された地力増進基本指針を指す。
3.土壌劣化で何が起きる?
このまま、土壌劣化が進行すればどのような事態が起こるのでしょうか…。
『土 地球最後のナゾ』(光文社新書)の著者であり土壌学者・藤井一至氏は、朝日新聞GLOBE+のインタビューで「砂漠化」や「塩類集積」が起こる可能性はあると話しています。
「砂漠化」は、元は肥沃な土を人が農業生産などで酷使することによって、収穫量が落ちていくといった生産力の減退、破壊される現象のことを言います。
「塩類集積」は、乾燥した土地で地下水をくみ上げて蒸発させていくと、地表に塩が蓄積してしまう現象のことを言います。
実は、農業生産をアップさせるために、使い尽くされている肥沃な土地ではなく砂漠の土が注目されているのです。
ですが、このような砂漠化した土地での栽培には問題があります。
作物を生産すると、はじめのうちは、水を与えれば収量が農地を拡大していきます。
しかし、どんどん水を与えていくことで塩類集積が発生してしまい、徐々に作物ができなくなっていくのです。
藤井氏は「塩類集積が起きた土地を修復することは不可能ではない」と述べではいますが…。
塩を流すためには大量の水を必要とするため、「砂漠で修復するのは現実的ではない→放棄した方が早い→放棄されていない土地を利用し続ける→栄養の偏り等で土が劣化していく」という悪循環について言及をしています。
修復させるのには多大なる労力や時間がかかりそうですね。
とても現実的とはいえそうにありません。
4.土壌劣化対策!
それでは今後、土壌劣化が進行しないようにするためにはどうすればいいのでしょうか。
土壌劣化の要因はひとつではないのです。
〈土壌劣化の要因〉
- 物理的要因(土壌の固化、通気性の悪化など)
- 化学的要因(養分過剰、欠乏など)
- 生物的要因(土壌中の生物活動の低下により土壌病害虫が増加するなど)
など、さまざまな要因が考えられています。
そのため、要因を理解して、それぞれに合った対策を組み合わせることが大切と言えるでしょう。
例を挙げると、物理的要因に対しては、耕盤を破壊したり、灌漑や排水環境の整備などが有効でしょう。化学的要因に対しては、pH調整や有機物の施用などが有効でしょう。
「土壌劣化と砂漠化・土地荒廃 – 地球・人間環境フォーラム」には、ユーカリの植林で蒸発散量が増加したことで、灌漑で引き上げられていた地下水位(物理的要因)が下がった(改善された)だけでなく、それに伴い土壌の塩性化(化学的要因)の抑制にも有効だったとの報告があります。
生物的要因も同様で、土壌改良剤や除草剤などを適切に利用することや、対策を組み合わせることにより改善が期待できます。
4-2.土壌劣化対策「不耕起栽培」
また近年「不耕起栽培」にも期待が高まっています。
田畑を耕すのをやめ、稲わらで覆うことで土を守るという栽培方法です。
米オハイオ州立大学のラタン・ラル博士・特別栄誉教授は1970年代、アフリカの土壌劣化を調べ、不耕起栽培が土壌保全に有効であることを実証。被覆作物の導入と組み合わせることで持続的な農業に結びつけたことが高く評価された。
不耕起栽培には
- 耕起作業による作業の省力化
- 大型農機による耕起作業がなくなるため、土壌が圧縮されにくく耕盤層が減少
- 土壌中に固定されている有機物を留めることで、大気中の二酸化炭素濃度の上昇をストップ
などのメリットが挙げられています。
田畑を耕さないため省力化につながる上に、作物を刈った後の株や“わら”などを廃棄せず、そのまま田畑の表面に残して利用するという地球にやさしい栽培方法でもあります。
作業時間の短縮することが可能になるので、省エネルギーな栽培方法として注目されているのです。
4-3.不耕起栽培で知っておきたいこと
不耕起栽培は慣行農業でも取り入れることが可能です。
しかし、有機栽培であれ慣行農業であれ、「耕さない」だけで成立するものではないことには注意をしておきましょう。土地の環境や土壌や気象の条件など、好条件を得ることが大切です。
さらに、慣行農業の耕うん栽培よりはどうしても収量が少なくなることはあります。
慣行農業との違いをあらかじめ理解しておいた方が良いでしょう。
これに加えて、元々地力が低い畑であれば、不耕起栽培できる畑にするには数年必要になることもあります。
『不耕起栽培のすすめ』によれば、不耕起栽培の特徴は「地力を維持する」効果であり、地力を高める働きは弱い、と記載があります。
つまり、地力が低い圃場で不耕起栽培を続けても、農作物の生育は良くならないのです。
不耕起栽培に取り組むためには、不耕起栽培に適した土を作るという事前準備は必須となります。
地力が低い圃場には堆肥や緑肥作物を鋤き込み、地力向上をしましょう。
3〜5年かけて地力を向上させ、不耕起栽培に転換してからも、数年間は地力向上のための土づくりを継続しましょう。
有機物を地表面に多めに敷いたり、緑肥作物の種をうね間にまくなどなど…の方法を使い土壌自体をアップデートする必要があるのです。
将来の土壌劣化を防ぐためにも普段から土地をアップデートしておくのは良作かもしれませんね。
4-4.科学的手段以外の方法
可能な限り環境に負荷を与えない「循環型農業」が注目を集めています。
「循環型農業」とは化学肥料や農薬に頼らず、自然の生態系に近い状態で行う農業。
化学肥料や農薬の使用量を控えることで、環境負荷を軽減するだけでなく、持続性の高い農業生産の実現をしていこうという目的の方法です。
土壌劣化の問題を解決するためにも「循環型農業」を意識することは大切です。
土壌の性質は農地の生産力に関係しています。かつては土壌微生物が落ち葉や糞尿などの有機物を分解し、それが作物の肥料となっていたのです。
その一方で、化学肥料は即効性があります。効率よく植物に栄養を与えることができるというメリットがあります。
しかしその栄養分は分解されることなくそのまま植物に吸収されてしまうため…土壌微生物はエサを失い、死滅していくというデメリットがあります。
「化学肥料等を慢性的に使ってきた土壌」と「控えてきた土壌」とでは、土壌の生物学的性質に大きな差が生まれてくるのです。
化学肥料等の利用で土壌中の生態系バランスが崩壊してしまうと、病原菌や病害虫が繁殖しやすくなります。それらの害を防ぐために、さらに化学肥料や農薬を使い続ける…。
化学肥料などを過信して使えば、このような負のサイクルが出来上がってしまうのです。
土壌を豊かにする方法は、様々な方法があります。
微生物を元気にするために「納豆」や「米ぬか」など身近にある物が農業資材として力を貸してくれます。
詳しくはこちらをご覧ください。
【限界突破】ネバーギブアップ!納豆が畑をアップデート【3つの効果】
【畑をアップデート】畑の助っ人!米ぬかの効果 三選
いろんな方法を組み合わせて循環型農業を実践していきましょう。
5.まとめ
今回は「土壌劣化問題」についての解説でした。
便利だからといって過剰に使いすぎた農薬などの弊害が起きています。
もちろん有機系の資材も過剰に使えば弊害が起こるため過信は禁物です。
農薬と併せてバランスよく使い、賢い農家になりましょう。
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