未来の農業の在り方 欧州・アメリカ編

未来の農業の在り方を表した1枚、スマホやAI技術で農作物を管理する時代が訪れていることを表している

始めに(日本、そして世界で起こっている農業の問題とは?)

 いきなりですが今、日本を含む世界共通で問題になっていることがたくさんあります。具体的には、地球温暖化をはじめとする環境問題、そしてそれに伴う大規模自然災害の増加、その他にも新型コロナウイルス感染による生活様式の変化、ロシアによるウクライナ侵攻、それに伴う商品市場の高騰など近年では特に問題視されていて、私たちの生活に分かりやすく影響しています。

 地球温暖化に注目してみてみると地球温暖化による猛暑、大雨、台風といった異常気象は人間の生活だけでなく、農作物の成長過程にも影響を受けています。

例えば…

  • 猛暑によって作物の成長スピードが上手く調整できない
  • 大雨によって植物の病気が増える
  • 台風によって実った果実が落下してしまい商品にならない など

 さらに、新型コロナウイルスの感染が拡大し、感染防止を防ぐために自宅で過ごす時間が増えたことで外食産業の売上が大きく落ち込みました。それにより、農家が栽培した農産物の出荷できる量が減り、農家の収入が減ってしまうといった問題も起こりました。

 さらにさらに、実はウクライナ侵攻も農業業界にとって大きな影響を受けています。世界有数の肥料輸出国からの輸入が停滞したことで、肥料の高騰も農家にとって大きな問題になっています。

 ここまで少し長めに、世界で起こっている農業・農家への影響をまとめてきました。ここから何が言いたいのかと言うと、上記で紹介したような地球温暖化・世界情勢の問題にも対応できるように農業を変えていかなければいけないということです。

 もちろん、日本も世界も未来の農業について何も考えていないわけではありません。この記事では未来の農業について世界はどのようなことを考えているのか、欧州(EU)・アメリカをピックアップして紹介していきたいと思います。

今後の農業を変える!?世界の動きについて

 今世界共通で農業業界に与えている大きなダメージの1つとして地球温暖化問題があります。農作物の生育には気温、降水量などの気候が大きく関わってきますが、近年気温の上昇や降水量の増加などにより農作物が上手く育たない、今までにない時期に病害虫が発生するといった事例もでてきているようです。

 こうした地球環境問題と上手く付き合い、持続的な食料システム(生産・加工・輸送及び消費に関わる一連の活動)を構築していくために世界で農業を変えていく動きがでてきています。

世界の動き(年表)

2019年12月 EUグリーン・ディール政策

2020年2月 アメリカ 農業イノベーションアジェンダ

2020年5月 欧州(EU)Farm To Fork戦略

2021年5月 日本 みどりの食料システム戦略

2022年7月 日本 みどりの食料システム法の施行

 上の年表は未来の農業の在り方について世界各地で考えられている政策・戦略の一覧です。2019年に欧州(EU)で政策が発表されてから、アメリカ、そして日本と今後の農業を変えて持続的な食料システム(生産・加工・輸送及び消費に関わる一連の活動)を構築していこうとする動きが活発化しています。

 今回は上記で紹介した政策・戦略のなかで欧州(EU)とアメリカの政策・戦略についてまとめていき、最後に日本で発表された「みどりの食料システム戦略」についても触れていきたいと思います。

未来の農業の在り方 欧州(EU)編

2019年12月 EUグリーン・ディール政策

2020年2月 アメリカ 農業イノベーションアジェンダ

2020年5月 欧州(EU)Farm To Fork戦略

2021年5月 日本 みどりの食料システム戦略

2022年7月 日本 みどりの食料システム法の施行

欧州(EU)グリーン・ディール政策とは

 まず紹介するのは、2019年12月に発表された「欧州グリーン・ディール政策」です。

 欧州(EU)グリーン・ディール政策は、EUとして2050年に、温室効果ガス排出が実質ゼロとなる「気候中立(人、企業、団体などが日常生活や製造工程などの活動により排出する温室効果ガスを実質ゼロ)を達成するという目標を掲げています。

 その目標を達成するために、各国の政府主導でビジネス、地方自治体、市民社会、学校、家庭など、全ての行動を変えていくとしています。

【主な内容】

  • 2050年までに「気候中立」(温室効果ガス実質ゼロへ)
  • エネルギー部門の脱炭素化
  • 建物を改修し、人々がエネルギー代とエネルギー使用量を削減できるようにする
  • よりクリーンで、より安く、より健康的な形態の民間および公共交通機関を展開する

欧州グリーンディールとは・意味 | 世界のソーシャルグッドなアイデアマガジン | IDEAS FOR GOOD

温室効果ガスとは?

 欧州グリーン・ディール政策の概要から地球温暖化の対策していくためのキーワードとして「温室効果ガス」を減らす仕組みづくりが大切だということが分かったと思います。

 温室効果ガスとは、大気中に含まれる二酸化炭素やメタンなどのガスの総称のことです。温室効果ガスに分類される二酸化炭素は、私たちの生活にも欠かせないもので電気・ガソリン・ガス(お風呂やガスコンロ)なども温室効果ガスに含まれています。

 現代に生きる私たちの生活には欠かせない温室効果ガスですが、減らす、実質ゼロにすることは可能なのでしょうか?今後の世界・日本の対策に注目しましょう。

 また、節電や運転の見直し(急発進・急加速をしないなど)、お湯を出しっぱなしにしないなど、私たちにも温室効果ガスを減らす取り組みはできるので意識して生活していきたいところですね。

欧州(EU)Farm To Fork政策とは

2019年12月 EUグリーン・ディール政策

2020年2月 アメリカ 農業イノベーションアジェンダ

2020年5月 欧州(EU)Farm To Fork戦略

2021年5月 日本 みどりの食料システム戦略

2022年7月 日本 みどりの食料システム法の施行

 EUグリーン・ディール政策が発表された約半年後の2020年5月に「欧州(EU)Farm To Fork戦略」が発表されました。Farmは農場で、Fork(フォーク)は食卓を意味しています。このことから、より農業の視点を当てた政策であることが分かるかと思います。

 欧州(EU)Farm To Fork戦略は先程紹介した「欧州グリーン・ディール政策」を実現するための農業部門の核となる戦略です。Farm To Fork戦略は未来に向けてどのような農業の在り方を目指すのか分かったことを表でまとめてみました。

【目的】:グリーン・ディール政策の中心施策、持続可能な食料システムを構築する
【増産】:栽培量を増やすという目標はなし
【農業における温室効果ガスの排出】
 ・2030年までに50%~55%削減が目標、2050年気候中立(温室効果ガス実質ゼロへ)
【化学農薬】:総合病害虫管理(IPM)の導入、農薬の使用量を50%軽減(2030年を目標に)
※総合病害虫管理(IPM)…農作物に有害な病害虫・雑草を農薬だけに頼らず利用可能な全ての技術(農薬を含む)を総合的に組み合わせて防除していく取り組み。
【肥料】:使用料20%以上削減(2030年までに)
【有機農業】:有機栽培(無農薬)の農地を25%(2030年までに)

 上記で表した表が「欧州Farm To Fork戦略」で取り組もうとしていることをまとめた表です。ここで注目したいのは「欧州Farm To Fork戦略」は農薬や化学肥料の使用を減らしていくための戦略であるということです。具体的にどのように農薬や肥料の使用を減らしていくのかは、この後の「未来の農業の在り方 アメリカ編」を紹介した後に説明していきたいと思います。

未来の農業の在り方 アメリカ編

2019年12月 EUグリーン・ディール政策

2020年2月 アメリカ 農業イノベーションアジェンダ

2020年5月 欧州(EU)Farm To Fork戦略

2021年5月 日本 みどりの食料システム戦略

2022年7月 日本 みどりの食料システム法の施行

アメリカ 農業イノベーションアジェンダ

 欧州(EU)で「Farm To Fork戦略」が発表されるよりも少し前にアメリカで発表された未来の農業についての政策が「アメリカ 農業イノベーションアジェンダ」です。イノベーションは「新しい切り口」という意味があることから、農業の新しい切り口への計画と直訳することができます。アメリカの「農業イノベーションアジェンダ」についてもどのような政策なのか表でまとめてみました。

【目的】:アメリカの生産者に対する公約、農業イノベーション戦略
【増産】:生産量を40%増産(2050年までに)
     →安全に農薬を使用することで生産量を増やしていこう!!
【農業における温室効果ガスの排出】:環境への負荷を50%減らす(2050年までに)
例:食品ロスと食品廃棄物を50%削減するなど
【化学農薬】:使用制限なし
【肥料】:水に流出する栄養の30%削減
【有機農業】:記載なし

 先ほど紹介した欧州(EU)の「Farm To Fork戦略」とアメリカの「農業イノベーションアジェンダ」を比較してみると、農薬使用への考え方が違うということがわかりました。農薬の使用料を減らしていこうという欧州の考え方と違いアメリカでは、農薬使用とは別の観点から環境への負荷を減らしていこうという考え方であるということが比較できたのではないでしょうか。

農業イノベーションアジェンダ (Agriculture Innovation Agenda)|用語集|新電力ネット (pps-net.org)

実は日本でも進んでいる!?未来の農業の在り方

2019年12月 EUグリーン・ディール政策

2020年2月 アメリカ 農業イノベーションアジェンダ

2020年5月 欧州(EU)Farm To Fork戦略

2021年5月 日本 みどりの食料システム戦略

2022年7月 日本 みどりの食料システム法の施行

 ここまで、欧州とアメリカの未来の農業政策・戦略についてまとめてきましたが、上記の年表でもわかるように実は日本でも「みどりの食料システム戦略」という未来の農業の在り方を考えた戦略があります。この「みどりの食料システム戦略」については別の記事で詳しく紹介していきたいと思います。

 簡単に「みどりの食料システム戦略」について説明すると、未来の農業の在り方 欧州編で紹介した「Farm To Fork戦略」の日本版といったところです。「Farm To Fork戦略」では、2030年に向けて農薬の使用量を半減する、化学肥料の使用を20%減らし地球にも優しい持続可能な食料システムの構築を目指しています。

 では具体的にはどのような方法で農薬・肥料の使用量を減らし地球温暖化などの環境問題にも配慮した農業を行っていくのか具体策を紹介していきたいと思います。

具体的な取り組みについて

化学農薬の使用量低減に向けた取組

・総合的病害虫・雑草管理(IPM)の普及…交信かく乱剤(害虫の交尾を防ぐ)の使用や温湯種子消毒、天敵防除(病原菌や害虫の天敵を用いる)といった化学農薬を使用しなくても病害虫を防除できる物を使用しながら化学農薬による環境負荷を低減させる。

・ドローンやロボットを用いた防除・除草…農業用ドローンによるピンポイント散布で農薬の使用量を減らす、除草ロボットを使用することで除草剤使わない

・RNA農薬の開発(2040年頃までに)…RNA干渉法による遺伝子機能抑制を利用した害虫防除

・バイオスティミュラントを活用した革新的作物保護技術の開発(2040年頃)…植物の生育を促進し、病害に対する抵抗性を向上する資材(バイオスティミュラント)を活用する など

化学肥料の使用量低減に向けた取組

・未利用資源からの高度肥料成分の活用(2040年頃)…未利用資源から有害物質を取り除く技術の構築

・土の中の仕組みを解析し完全制御(2040年頃)…土壌微生物機能の完全解明し土壌微生物機能を活用し、農薬や化学肥料に頼らずに食料を増産 など

 このように様々な取り組みが考えられています。今はまだ本当に実用可能なのか分からない物も多いと思います。しかし10年、20年後に上記で紹介した取り組みが当たり前のように農業業界で実用化しているのかもしれません。

最後に

 ここまで未来の農業の在り方として、欧州(EU)とアメリカの農業政策・戦略についてまとめていきました。欧州とアメリカの政策・戦略の違いや政策・戦略の内容について知ることはできましたでしょうか。今後、日本を含め、多くの国で農業のやり方に変化がでてくることは間違いありません。農業をこれから始めようと考えている人も現在農家として働いている人も早めに未来の農業の形について情報を収集しておくことも大切だと思い今回の記事を書かせていただきました。

 情報の収集という面で、みんなで農家さんでは、農業についての様々な記事を読むことが可能となっています。今回紹介できなかった日本の未来の農業の在り方「みどりの食料システム戦略」についての記事も掲載していく予定となっています。

 こういった記事の他にも、新規就農のやり方、野菜・果実・米などの栽培方法について記事などこれから農家を目指したいと考えている人から現役農家まで満足できる記事がたくさん掲載されていますので是非利用してみてはいかがでしょうか。

【詳しくはコチラから】https://minnadenoukasan.life/

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