ミニマム・アクセス(MA)米とは? その背景や問題点をわかりやすく解説します

長引く物価の上昇をうけ、食料の輸入や国内自給率をめぐる議論も高まっています。

その中のひとつに、海外から輸入しているミニマムアクセス(MA)米の問題があります。

ミニマムアクセス米とは何なのか、そもそもどのような経緯で始まり、本当に今の日本に必要なものなのか。長年にわたり日本の農業にとって悩ましい問題であり続ける、ミニマムアクセス米について見ていきましょう。

ミニマムアクセス(MA)米とは

「ミニマムアクセス(MA)米」とは、海外から輸入するよう求められた最低限度の量の米です。

そもそもミニマムアクセスとは、WTO(世界貿易機関)によって行われた、1993年のウルグアイラウンドという通商交渉の場で決められたもので、関税をかけている農産物の「最低輸入機会」のことを言います。

ここでは、1986〜88年を基準期間に定め、その間の輸入実績が国内で消費する量の3%以下の品目なら、関税の低い1次関税で輸入し、それ以上超えた量には高い関税(2次関税)をかけるものです。

米についても、ウルグアイラウンドでの協定によって、国内消費に影響が出ない程度の量の米を国が直接輸入すると定められました。これがミニマムアクセス米です。

ミニマムアクセス米輸入への経緯

しかし、現在の日本では米は完全に自給できており、逆にコメ余りの問題も起きています。

なのになぜわざわざ海外から米を輸入しなければならないのでしょうか。そこには、自由貿易を進めたい国と、米農業を守りたい日本とのせめぎ合いがあります。

農産物自由貿易の波

第二次世界大戦後、日本をはじめ多くの国は戦争で食糧不足に陥り、食料生産を向上させるために農業を保護する必要がありました。しかし、農産物の生産高が増えて食料自給率が安定してくると、逆に農産物が余っていきます。そのため農業生産が多い国は、余った農産物を他の国に売って利益を得る必要が出てきました。その結果

  • 高い関税にじゃまされず農産物を輸出したい国
  • 安い輸入農産物による国産農産物の暴落を防ぎ、農業・農家を守りたい国

とのせめぎ合いが起こるようになりました。

しかし、世界では少しずつ自由貿易を求める機運が高まっています。そのため、WTOでは双方の利害を調整しながら、国際的な自由貿易のルールを作るための国際的な通商交渉が何度も行われてきました。その結果1993年のウルグアイラウンドで決められたのが、ミニマムアクセスです。

ウルグアイラウンドによる決定

ウルグアイラウンドでの話し合いは、事実上の輸入禁止である高い関税の品目を撤廃させ、関税化(輸入自由化)を図ることが目的でした。

しかし、農産物については交渉は難航し、将来的には農産物の関税化を目指すものの、日本は米の関税化を受け入れることはできませんでした。コメ余りによる減反政策で米作りを抑えているにもかかわらず、米を輸入することは農家からの反発を招きます。また海外から安い米が大量に入ってくれば、国内の米農家が大きな打撃を受けてしまうとも考えたからです。

しかし、農産物の自由貿易を進める世界の圧力に対し、いつまでも米を特別視することはできません。結局日本は、米の輸入自由化を延期する特例措置としてミニマムアクセスを受け入れました。これにより、1995年(平成7年)からミニマムアクセス米(MA米)を国が基準期間の4%の量を関税なしで輸入し、次の交渉期限である6年目まで、毎年0.8%づつ輸入枠を増やすことになりました。

米政策の大転換

そして日本政府は実施期間終了前の1999年(平成11年)に、米の関税化、つまり自由化へと大きく方針を転換しました。これにより、コメ(精米)の枠外関税が341円/kgに設定され、関税を払えば誰でもコメを自由に日本へ輸入出来るようになったのです。

しかしその後のWTO協定では、ドーハラウンドでの交渉は妥結せず、ミニマムアクセス米についても進展はありませんでした。結果的に、日本は引き続きミニマムアクセス米を輸入し続けることになり、現在に至っています。

ミニマムアクセス米の現状

日本では、毎年77万トンのミニマムアクセス米を輸入しています。

2019年の時点で、日本の米生産量は年間821万玄米トン、消費量は845万玄米トンなので、だいたい9%ほどの米がミニマムアクセス米ということになります。

主にどこから米を買っている?

日本が最もミニマムアクセス米を輸入している相手国で圧倒的に多いのは、アメリカとタイです。日本は両国からそれぞれ約38万トン、37万トンを輸入しており、外国産米といえばカリフォルニア米やタイ米をイメージする方も多いのではないでしょうか。その他にはオーストラリアから0.7万トン、中国から0.3万トンを輸入し、EUからもわずかながら輸入しています。

ミニマムアクセス米の用途

普段私たちが主食として食べる米を買う場合、店頭に並ぶのはほぼ国産米です。国内の主食米は国産で完全に足りているため、外国産米を見かける機会はそう多くないと思います。

国が輸入するミニマムアクセス米は、

  • 飼料用:畜産飼料(約51万トン)
  • 加工用:みそ、焼酎、米菓などの加工食品(約17万トン)
  • 援助用:海外への食糧援助など(約5万トン)

の順に使われており、主食用(約4万トン)は主に中食・外食向けに使われています。

この他に、食用に適さないため処理された4万トン、バイオエタノール用に16万トンなどがあります。(数字は令和元年度)

これらの用途に使われるのは、主食米に影響を及ぼすのを避けるためと、価格の高い国産米では採算が取れにくいからです。

ミニマムアクセス米の問題点とは?

ミニマムアクセス米を受け入れた背景には「日本の米を守りたい」「米を作る農家を支えなければ」という目的があったことは確かです。しかし、ミニマムアクセス米は導入当初からさまざまな問題点が指摘され、その影響は年を経るにつれて顕著になっています。

問題①財政負担が大きい

ミニマムアクセス米は大部分が飼料用や海外援助に使われていることは先に述べましたが、国産米より高い落札価格による損益や保管料などは大きな財政負担の原因になっています。

2022年9月のアメリカ産ミニマムアクセス米価格は、60kgで1万3716円と国産米の価格水準を大幅に上回り、2021年産の平均価格でも、国産米と比べて約1.15倍〜1.5倍の値が付いています。

農林水産省の資料によると

  • 飼料用米:8万円/トンで輸入ー2万円/トンで販売=6万円/トンの損
  • 援助用:8万円/トンで輸入+2万円/トンの輸送量=10万円/トンの負担
  • 在庫:1年間で1万円/トンの保管料

がかかり、これら全てを合わせると年間に約300億円もの損益が出ていることになります。

問題②輸入量の抑制にはならない?

国産米と国内の米農家を守るためのミニマムアクセス米ですが、輸入量の抑制という面では判断ミスだった、という批判も出ています。

ミニマムアクセス米は、実施期間の1年目こそ国内消費量の4%に過ぎませんでしたが、その条件として毎年0.8%づつ受入量を拡大し、6年目には8%まで増やすことを求められてきました。

国の試算によると、もしも1993年から関税化を受け入れていれば、1995年には35万トンだった米の輸入量は、2000年には53万トンだったと想定されています。

現在の受入量が年間77万トンになっていることを考えれば、ミニマムアクセス米の輸入はむしろマイナスである、というのが批判の根拠となっています。

問題③飼料米への影響

上記のような高値で購入したミニマムアクセス米は、前述のようにその大部分が飼料として畜産農家に安価で提供されます。しかし、国内では主食米を作るのを抑え、多額の補助金を出して空いた田んぼで飼料米を転作させています。この矛盾する政策もまた、ミニマムアクセス米への批判となっています。

特にここ数年、コロナ禍やウクライナ情勢により、輸入飼料価格の高騰は畜産農家の経営を圧迫しています。ミニマムアクセスは、飼料の国産化に対する障害ともなっています。

ミニマムアクセス米を今後どうすべきか

これからの米政策として、日本はミニマムアクセス米の問題をどのようにすれば良いのでしょうか。最後にいくつかの解決策について、現在までに議論されている意見を紹介していきたいと思います。

輸入量の見直し・廃止

ミニマムアクセス米の輸入量の見直しや廃止を求める声は、当初から上がっていました。

そもそも輸入量の基準になっているのは、1986〜88年の国内の米消費量です。現在では、国内での米の消費量はさらに減っているので、この基準期間を見直し、ミニマムアクセス米の受入量を見直すべきという声が上がっています。

ミニマムアクセス米処理費用の減額や廃止は、飼料米の国産への転換や、大豆や麦などへの作付け支援、増作への支払い強化にもつながりますが、政府はウルグアイラウンドで決められた協定を根拠に、輸入量の削減や廃止は考えていない、という姿勢を崩していません。

輸入は義務ではない?

ミニマムアクセス米の見直しや廃止ができない理由として、「国際的な約束なので、必ず最低量を輸入しなければならない」という政府の見解があります。しかしWTOの協定では、ミニマムアクセス米の全量輸入が義務だという記載はないことが2000年の国会答弁で明らかになっています。

同時に政府は、輸入相手国が凶作になり輸出に困れば無理に買わなくてもいいという見解も示しています。WTO協定に最小限度のアクセス機会が必要だという記載はあるものの、輸入の機会を与えれば良いだけで、莫大な財政負担をかけてまで全量輸入する義務はない、ということになります。

輸入自由化をすればいい?

ではミニマムアクセス米を廃止して、米の関税化(自由化)に踏み切ればどうなるでしょうか。実際、日本は1999年から関税化に転換し、341円/kgという高い関税はあるものの、名目上は米の自由な流通が可能です。

しかし、海外の安価な米が大量に入ることは、国産米価格の大幅下落と稲作農家の経営悪化につながります。農家の所得を補てんする補助金の増加は、さらなる財政悪化や農家のモチベーションの低下にもなりかねません。

また日本の米作を守ることは、水田の保水機能や生態系の保全など、食料安全保障以外の面でも価値を持ちます。農業の保護と自由貿易との間で、難しい舵取りが必要なところです。

まとめ

米の自由化をめぐる問題は、戦後日本の農政の最大の問題です。

現在でも、米を商品として捉え、自由化で安い外国米を国民に提供できれば良い、という賛成派と、食料安全保障や環境保全の観点から国産米を守りたい反対派との間で議論は続いています。

ミニマムアクセス米は、当時の政治家や農政関係者が厳しい国際交渉を重ねた末に生み出された苦渋の選択であり、世界との妥協点だったと言えます。しかし、食料やエネルギーの確保が重大な問題となっている現在、その役割を見直すべき時が来ているのではないでしょうか。

参考文献・参考資料

日本のコメ問題(中公新書):小川真如 著/中央公論新社

季刊地域 No.49 2022年春号 p.67「もはや影響は無視できない 米の需給調整の足かせ ミニマムアクセス米」

ミニマム・アクセス米

米をめぐる参考資料 – 農林水産省

米をめぐる参考資料 -⑤コメの輸出・輸入|農林水産省

ウルグアイラウンドと農業政策|東京財団

ミニマム・アクセス米の落札価格 国産米の1.5倍 輸入中止を 農民連が指摘|JAcom 農業協同組合新聞

 ウルグアイラウンド (volunteer-platform.org)

 ストップ! 押しつけ輸入米(ミニマム・アクセス米)(1/3)(2022年11月14日 第1529号) (nouminren.ne.jp)

お米は、輸入自由化にするべきか? |金沢大学人間社会学域学校教育学類附属教育実践支援センター

「MA米の輸入義務」は大ウソ(99年3月22日第399号) (nouminren.ne.jp)

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