ゲリラ豪雨や、異常な真夏日・猛暑日の増加などの気候変動。
その対策として、再生可能エネルギーが注目されています。
再生可能エネルギーとして利用できる資源。
これはなんと、農山漁村には豊富に存在しています。
農林水産省は、農山漁村での再生可能エネルギー事業に、事業採算性の向上と農山漁村の活性化につながる可能性を見出しています。
さらに、その原料となるエネルギー作物も注目されています。
今回は、再生可能エネルギーと農山漁村の可能性について解説します。
1.農山漁村の新しい可能性
農林水産省の資料「再生可能エネルギーを活用した 農山漁村の活性化」。
こちらの資料では、“農山漁村における再生可能エネルギー資源の賦存”について書いています。
「賦存(賦存量)」とは“ある資源について、理論的に導き出された総量
引用元:小学館 デジタル大辞泉
ちなみに、賦存量は、“資源を利用するにあたっての制約などは考慮に入れないため、一般にその資源の利用可能量を上回る”ことになります。
ですが、日本の国土(3,780万ha)後世において、森林は66.3%(2,506万ha)、農地は12.0%(452万ha)を占めています。
さらに、木質バイオマス発電や地熱発電、太陽光発電や陸上風力発電などの再生可能エネルギー発電に利用できる資源になるのではないか?と注目が集まっています。
例を挙げると、未利用間伐材の年間発生量(2,000万㎥)を仮に全て木質バイオマス発電に活用した場合であれば、年間発電量は70億kWhになると試算されています。
これは、約220万世帯分の電力消費量に相当する数値とも言われています。
一つの技術に依存するのではなく、活用することのできるエネルギーは上手く活用していきたいですよね。
2.再生可能エネルギー導入の現状と課題
2-1.再生可能エネルギーへの期待
農山漁村においての今後の再生可能エネルギー導入。
これは、再生エネルギーの促進に加えて、地域活性化の両面で期待されています。
農林漁業者の関心も高まっていますが、導入が上手く進んでいない…というのが現状です。
農林水産省の資料「農山漁村における再生可能エネルギーをめぐる情勢」には、株式会社日本政策金融公庫が実施したアンケート結果が掲載されました。
〈農業者の再生可能エネルギーの導入状況〉
- 関心を持っている者 79.1%
そのうち……
関心がある 57.3%
導入済 11.6%
検討中 10.2% - 関心がない 20.9%
アンケート結果から見てみると、実際に導入に至っている事業者の数は多いとは言い難いです。
2-2.導入するまでの課題
再生可能エネルギーは注目もされていますが、導入するための課題もたくさんあります。
〈導入までの課題〉
- 担い手が不足している
- ノウハウが不足してる
- 資金が不足している
バイオマス固有の課題として、バイオマス発電に利用される資源(林地残材など)は収集・運搬にコストがかかり、安定供給することも課題であることなどが挙げられています。
廃棄に関する課題もあります。例を挙げると、太陽光発電に使用する太陽光パネル。製品寿命が約25~30年です。そのため、FIT開始後に始まった太陽光発電事業は2040年頃には終了します。
太陽光発電設備から太陽光パネルを含む大量の廃棄物が出ることが予想されています。
これによる不法廃棄や有害物質の流出なども心配されているわけです。
他にも再生エネルギー事業で得られる利益が地域外に流出してしまうことなども課題です。平成27年3月「今後の農山漁村における再生可能エネルギー導入のあり方に関する検討会報告書」によるデータを見てみましょう。
太陽光発電の場合、地元企業が設置主体になっているものは2割程度。大半が地域外の事業者が主体となっています。
地代収入など利益の一部は地域に入ります。
しかし、売電収入のほとんどは地域外へ流出することになります。農山漁村の活性化に必ずしも直結しないということになるのです。
様々なコストもかかるし、利益につながらないのであれば導入への一歩が踏み出せない…というのも無理のない話かもしれませんね。
3.注目されているエネルギー作物
3-1.エネルギー作物とは?
再生可能エネルギーの導入には課題が多くありますが、エネルギー作物という形でも導入が考えられています。
日本では、ただいま人口減少が進行しています。高齢化も進行しており、担い手不足などにより、離農するケースも多いのです。
農林水産省は「長期的な土地利用の在り方に関する検討会」にて、離農した農地など、農地としての維持が難しい土地の利用について、段階的な利用方法を提案しています。
第 11 回新しい農村政策の在り方に関する検討会・第9回長期的な土地利用の在り方に関する検討会 合同検討会 配布資料(全体版)
この記事の中で、「粗放的な利用による農業生産」で登場しているのが「エネルギー作物」というものです。
再生可能なバイオマス資源を活用したバイオ燃料。
これは、石油に代わる持続可能な次世代のエネルギーとして期待が高まっています。
3-2.エネルギー作物の種類
バイオ燃料の原料には、資源作物(糖・澱粉作物、油糧作物、木質(樹木)、草本)や廃棄物(下水汚泥、農林畜産残渣、建築廃材、食料残渣など)が挙げられます。
エネルギー作物として利用される作物は多岐に渡っています。
例を挙げると、農畜産業振興機構「エネルギー資源としてのてん菜」(2005年、最終更新日2010年3月6日)で紹介されている、エネルギー作物の具体例としてナタネ、ヒマワリ、ムギ、サトウキビ、テンサイなど。
前田征児『エネルギー資源作物とバイオ燃料変換技術の研究開発動向』(2007年、科学技術動向2007年6月号)で紹介されている、バイオ燃料として活用する原料は食糧との競合を避ける旨が述べられた上で、稲、ソルガムなど。
農林水産省「農林水産関係用語集」から引用しますと、資源作物は“エネルギー源や製品材料とすることを主目的に栽培される植物”と定義されているのです。
該当植物にはトウモロコシやナタネなどの農作物やヤナギ等の樹木。
このようにエネルギー作物として利用される作物は多岐に渡るのです。
その中でも近年注目を集めているのが「エリアンサス」です。
3-3.「エリアンサス」
「エリアンサス」とは、イネ科に属する多年草。熱帯・亜熱帯地域に自生する植物。
越冬できる環境下であれば、周年栽培をすることができます。
越冬が難しい冬期の低温や雑草により日照が遮られるなどで発生する生育不良がなければ、10年以上栽培できるといわれています。
日本では東北南部の低標高地から九州までの非積雪地で栽培することができます。
同じ株から毎年収穫できるのも特長の一つ。主な魅力は栽培の手間がかからないこと。
エリアンサスは乾燥に強く、雨水だけで生育するのです。
手間がかからず、育ちやすいので、土地を選ばなくてよいというメリットがあります。
遊休地となった土地に植えるのに最適な作物といえます。
さらに、肥料をほとんど必要としないというのも嬉しいポイントです。
一度苗に植え付けると追肥なしでも2、3年は収量が増加。その後もほとんど減少しないというデータがあります。
また、初冬からの低温で、茎葉が枯れ上がる「立毛乾燥」が発生すると、水分が約30%まで乾燥します。
そのため、ペレット燃料に加工する際、乾燥工程を省ける上に、収穫物の保存性の良さや運搬のしやすさがメリットとして挙げられています。
3-4.「ジャイアントミスカンサス」
ジャイアントミスカンサスはススキとオギが自然に交雑してできた雑種。「オギススキ」とも呼ばれています。
エリアンサスと同じイネ科の多年草。栽培北限が東北南部のエリアンサスとの違いとして、ジャイアントミスカンサスは北海道でも栽培することが可能です。草丈は3m以上にもなります。
ジャイアントミスカンサスは「三倍体」雑種です。
三倍体は“基本数の3倍の染色体数を持つ生物体
出典元:小学館 デジタル大辞泉
三倍体は、減数分裂ができにくいため、種子を生じない「不稔性」となることが多いです。
ジャイアントミスカンサスは不稔性のため、増殖させるには根茎による栄養増殖を用いる必要があります。
その一方で、遊休地で栽培の手間をかけずに育てる観点からは、種子が飛散することによる在来植物の生育への弊害が出ないため、増殖できないのはメリットともいえます。
3-5.「ヤナギ」
ヤナギは寒冷地で栽培できるエネルギー作物として期待されています。
挿木で簡単に増やせる上、萌芽しやすいため、短期間で繰り返し収穫可能です。
ですが、上記2つに比べると栽培にやや手間がかかるイメージがあります。
植栽前年に圃場に除草剤を散布するなどして雑草を完全に取り除いたり、ヤナギの芽生えを雑草から守るために、植栽時もマルチなどで雑草を抑制するなどの必要があったり、そのほか、シカの食害対策なども必要です。
ヤナギの場合は施肥コストの高さも課題と言えます。
しかし、森林総合研究所『エネルギー作物としてのヤナギ「北海道におけるヤナギ栽培手法開発の現状と課題」』によると、牛糞で成長が2倍になったとの報告があります。
家畜の排泄物が利用できる?という可能性に期待が高まっています。
4.再生可能エネルギー導入への期待
再生可能エネルギーには、導入などに課題が多くあります。
しかしその反面、期待も高まっています。世界各国で、地球環境を保護する意識も高くなってきています。
農業分野もまた、産業の持続性と共に、環境面での持続性も意識する必要はあります。地球の環境自体が悪化すれば、栄養のある農作物も栽培できなくなってしまいます。
できることから実行していくことが大切です。
農山漁村に賦存する資源、例えば家畜排泄物や間伐材、ソーラーパネルの設置に利用できる農業用施設や倉庫。さらには、遊休地になっている土地を再利用したエネルギー作物の栽培など。
方法は様々ですが、再生可能エネルギーを導入することにより。天然資源の利用量が減少も可能でしょう。環境負荷の削減にもつながっていきます。
さらには、再生可能エネルギーを利用して生産した農林水産物を「エコ〇〇」「カーボンオフセット〇〇」として販売している事業が数多く存在します。
近年は脱炭素や循環型社会に関する消費者の関心も高くなっています。
再生可能エネルギーの導入によって、農産物に付加価値を与えることも可能なのです。
事業利益が地域外に流出してしまうという課題にも触れました。
ですが、地域が主体となって再生可能エネルギー導入に取り組み、地域外に電力を販売できれば、売電利益を地域活性化へ繋げていくことは可能です。
もちろん、既存のエネルギーシステムも安全に運営した上で再生可能エネルギーも活用していくことが大切と言えるでしょう。どちらにもメリットやデメリットはあります。
未来の地域循環型経済の発展につながると期待される農山漁村での再生可能エネルギーの導入。
次世代の地球を持続可能にするための手段のひとつとして、注目していきましょう。
下水処理を利用して肥料を作っている例もあります。詳しくはこちらの記事をご覧ください。
【SDGs】下水汚泥由来肥料の秘密【農業資材】
5.まとめ
今回は「再生可能エネルギー」の解説でした。再生可能エネルギーは万能なシステムではありませんし、導入にも課題は多々あるでしょう。
従来のシステムと併用していくことが大切ですし、上手に活用すれば環境負荷を軽減することは可能です。農家として地球のためにできることをひとつずつ実行していきましょう。
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