
事業を行う者は、確定申告を行なって正しく納税を行う必要があります。中でも一般的に用いられている申告方法が、青色申告です。
農業を事業にしている農家でも、この青色申告を行うことで税制上の恩恵を受け、節税につなげることができます。この記事では、青色申告の説明から、農家にも節税や青色申告が必要な理由、申請の方法などを説明していきたいと思います。
青色申告とはなにか
青色申告制度とは確定申告の種類のひとつで、納税者が一定の帳簿を備え、日々の取引を記録し、自分で正確に所得を計算し申告できるようにする制度です。
青色申告を行うことで、正確でスムーズな納税手続きにつながり、納税者にとっては税金の面で有利な取り扱いを受けることができます。
白色申告との違い
同じ確定申告の書類には、白色申告というものがあります。
青色申告との違いとしては、白色申告には青色申告のような税制面の優遇措置がないことです。
白色申告は事業者の条件がなく誰でも申告でき、複式帳簿の必要がないなど、比較的簡単な申告方法になっています。ただし、平成26年1月からは白色申告も会計帳簿の作成や書類の保存が義務になり、青色申告と比べたメリットは少なくなっています。
青色申告の対象者
では、青色申告を行えるのはどのような人でしょうか。
青色申告の対象となるのは、開業届を出して所得を得ている個人事業主であり、1年間の収入が20万円を超える者が対象です。確定申告の対象になる所得とは
- 事業所得
- 不動産所得
- 山林所得
の3つを指し、会社員の給与所得や退職所得、土地などの譲渡所得、株の配当や預貯金の利子、雑所得などは含まれません。
農家でも青色申告は必要?
では、農家でも確定申告や青色申告が必要になるのでしょうか。
事業を行なって所得を得ている事業主が確定申告をする必要がある以上、農業で生計を立てて一定額の所得があれば、それは事業所得となります。当然、農家でも確定申告を行い、所得税を計算して納税しなくてはなりません。
農業経営の構造変化
農家での青色申告などの導入が求められる背景には、農業経営の様態が変わってきたことにあります。近年、農業機械や施設、生産技術が飛躍的に進歩し、農家の経営規模は広がっています。
今日の農業経営は従来の家族中心の経営に加え、外部から社員やパートを雇用して大規模な営農を行うなど、他の企業と同様の感覚で経営を行う人が多くなってきています。
このため、適切な会計処理で納税を行い、経営の改善や合理化を図る必要があるのです。そのため、より高度な記帳に基づく農業青色申告者の増加が期待されています。
兼業農家はどうなる?
ところで、農業を主な収入源にしていない、兼業農家の場合はどうでしょうか。
兼業農家では、一定の基準を満たさなければ申告は必要ありませんが、個人で農業を行い、そこからある程度の所得を得ている場合は確定申告が必要になります。
兼業農家の確定申告が不要なケース
1カ所から給与所得がある場合 | 給与所得が年末調整されている |
農業所得が20万円以下 | |
2ヵ所以上から給与所得がある場合 | 主な給与所得が年末調整されている |
年末調整をしなかった他の給与の収入金額と農業所得の金額の合計が20万円以下 | |
給与収入の合計額から各種の所得控除された残りが150万円以下で、農業所得が20万円以下 | |
公的年金を受給している兼業農家 | 公的年金の受給額が400万円以下であること |
農業所得が20万円以下であること |
農家にも必要な節税対策
国に納める税金も、元は自分の労働の対価としての所得です。誰でも払う税金はより少ないほうがいいのはわかりますが、農家でもこうした制度を利用した節税対策が求められるのはなぜでしょうか。
その背景には、農家の経営形態の変化があります。それまでの家族経営と臨時雇用が中心の経営から、現在では家族+正社員を雇う経営体制に移る農家が増えています。
従業員への手当の充実や、福利厚生の向上で、雇用にかかるコストも増大します。そのため、税コストの低減や、事業承継対策など雇用管理と結びついた諸々の節税対策が重要になるのです。
農家の節税方法
では、農家の節税対策には、どのようなやり方があるのでしょうか。一般的に節税対策というと、経費や設備投資を増やす方法がありますが、それだけではありません。
所得拡大促進税制
これは従業員の給料や労務費を上げることで、経営者が支払う税金が安くなる制度です。
前年度から増えた分の給料や労務費の総額の15%(または25%)が法人税(個人事業主の場合は所得税)から控除されます。
働く人の意欲を高めて離職を防ぎ、生産性向上につながるうえに、節税効果も高いので、社員を雇用する法人や事業主には注目です。
福利厚生による節税
福利厚生の面でも節税に有効な方法があります。
そのひとつが、賃貸物件を会社が借り入れて従業員に貸し出す借上社宅制度です。
土地の取得費や維持管理、固定資産税、登記費用などが不要になるうえ、家賃が農業法人の費用として計上されるので、節税面でも有利です。
また従業員にとっても、社会保険料が軽減されて給料の手取り額が増えるなどのメリットがあります。
所得控除・税額控除を増やす
所得控除や税額控除を確実に受けることも大事です。業務に関わる支出が発生した場合は、忘れずに各種控除を適用できるように手続きをしましょう。
また、小規模企業共済や、農業者年金などへの加入もおすすめです。
この記事で取り上げている、最大65万円の青色申告特別控除も、こうした所得控除によって節税を受ける方法のひとつです。
青色申告のメリット
最初に説明したように、青色申告を行うことで、税制面で有利な取り扱いが得られます。では具体的に、青色申告にすることでどのようなメリットがあるのでしょうか。
最大65万円の青色申告特別控除
一番のメリットは控除による節税です。青色申告で正規の簿記の書式に従って記録を行い、貸借対照表、損益計算書その他事業所得の金額の計算に関する明細書を添付するなど、所定の要件を満たしている人は、これらの所得を通じて最高65万円の青色申告特別控除額を控除することができます。
なお、e-Taxによる申告(電子申告)または電子帳簿保存を行わない場合の控除額は最大55万円となります。
青色事業専従者給与
個人事業者は家族で経営しているところが多く、社員として働いている家族や親戚は、家族従業者となります。青色申告では、この家族従業者に支払った給与について、一定の条件のもとで必要経費に算入することができます。
なお、家族従業者の条件としては
- その年の12月31日現在で15歳以上
- 事業主と生計を一にする配偶者又はその親族であること
- 事業主の事業にもっぱら従事するものであること。ただし特定の事情によってはその事業に従事する期間の2分の1以上の期間であれば可
となります。
貸倒引当金の計上
貸倒引当金とは、将来的に売掛金や未収入金、貸付金などを回収できなくなる時に備える準備金です。青色申告では、この貸倒引当金を経費として計上できます。
なお、これによって節税できるのは、計上した年だけです。
減価償却費の特例
減価償却費は、業務に使う設備や機械などの購入費用を、年々資産価値が下がることを見越して、使用する期間の年数に応じて配分し、算出する経費です。
こうして高価な資産の購入代金を分割して経費にすることで、毎年の利益を正しく計上することができます。
青色申告の場合は特例として、30万円未満の減価償却資産については、一定の条件のもとにその年の必要経費として全額を算入することができます。
赤字の繰越または繰戻しによる還付
青色申告では、今年分の損失、つまり赤字の金額を、翌年以降3年間(法人の場合最長10年)にわたり繰り越すことができます。
前年も青色申告をしている場合は、翌年に黒字になる分から今年の赤字の全部または1部を差し引いて、翌年の税金を安くすることができます。
こうした措置の理由は、個人事業主は開業当初は軌道に乗るのが大変なため、赤字を抱えても事業を継続しやすくするためです。
青色申告のデメリット
一方、青色申告のデメリットとしては、以下のようなことがあげられます。
一定の複式簿記の知識が求められる
青色申告を行う場合には、複式簿記による記帳が必須です。特に手書きで帳簿をつけるなら専門的な知識が求められ、農業で事業を行う場合には、後述する農業簿記で帳簿をつけることになります。
また帳簿や書類は、原則7年間保存する必要があるなど、記帳とは別の手間がかかります。
ただし、こうした手間はパソコンでの会計ソフトを利用すれば、複式簿記の特別な知識がなくても書類を作成できるようになっています。
白色申告よりも手間がかかる
もうひとつ青色申告のデメリットとしてあげられるのは、事前の申請が必要になることです。
申告の時には、その年の3月15日までに「青色申告承認申請書」の提出が必要になるほか、個人事業主として事業を始める際には、開業届も別途提出が必要です。
青色申告を申請しよう
次に、青色申告の申請方法について説明していきましょう。
新たに申請をする場合には、事業所のある所轄の税務署に、「青色申告承認申請書」を提出します。
なお、個人の場合は1月1日〜12月31日までの所得について、申告を行う年の3月15日まで、法人の場合は申告を行う事業年度開始の日の前日まで申請書の提出を行います。
いずれも貸借対照表と損益計算書を作成できるような、正規の簿記に基づく記帳が必要です。個人の場合は、現金出納帳、売掛帳、買掛帳を備えていれば簡易な記帳でも可能です。
e-Tax(電子申告)がおすすめ
青色申告の決算書・確定申告書の作成は、パソコンの会計ソフトを使いましょう。
複式簿記の専門知識がなくても、必要項目を記入していけば自動で作成してくれるうえに、「国税電子申告・納税システム(e-Tax)」と連動してオンラインで提出することができます。税務署に出向いたり、郵送の手間をかける必要がないので便利です。
令和2年以降、青色申告で65万円の控除を受けるためには、e-Taxでの申告と帳簿の保存が条件となっていますので、使わない手はありません。
農家なら知っておきたい農業簿記
最後に、農家の青色申告に必要となる農業簿記について簡単に解説します。
農業簿記は、普通の商業簿記では使わない、農業特有の記帳方法でつける会計方法です。
なぜ特別に農業簿記が必要なのかというと
- 他業種と比べて、保有資産の種類や生産物の種類(品目)が多い
- 国からの補助金収入など、収支面でも複雑
- 農機具購入や耕地拡大のために、資金の借り入れなど長期の計画も必要
など、農業ならではの特殊な事情があるためです。
農家・農業法人は、業務内容を正確に分析し改善するために、商品の購入・販売の他に生産業務の内容を記録するなど、より多角的な農業簿記が必要となるのです。
一般的な簿記との違い①専用の勘定科目
農業簿記では、専用の勘定科目を使用します。非常に多岐にわたるため、ここではすべてを記載できませんが、主なものとしては以下のような科目があります。
農業簿記専用の勘定科目(一部抜粋)
種苗費 | 種子や苗の購入費用 |
素畜費 | 子牛や子豚などの購入費用や種付料 |
肥料費 | 肥料の購入費用 |
飼料費 | 牛や豚などのエサの購入費用 |
農具費 | 購入価格10万円未満の固定資産に計上されない農具費用 |
農薬衛生費 | 農薬代、家畜薬代、共同防除費など |
動力光熱費 | ハウスの温度管理や農機具の燃料などの水道光熱費、灯油代 |
農業共済掛金 | 害虫や害鳥の防除代など、農作物にかかる共済掛金 |
このほか、諸材料費、作業用衣料費、荷造運賃手数料、土地改良費、委託費用(農作業委託費など)、修繕費、雇人費、地代などがあります。
一般的な簿記との違い②年度末の棚卸の方法
棚卸は、年度末に手元に残った資産や在庫の金額を記帳します。農業簿記では在庫の種類が多いため、商業簿記では単に「商品」として記載される在庫も、以下の4種類に分かれます。
- 農産物:販売目的で生産した収穫済みの農産物で、未販売で在庫として抱えているもの
- 仕掛品:栽培中・未収穫の農産物や、販売目的で飼育している動物など
- 原材料:生産目的で消費される物品。種子や肥料、飼料、農薬など
- 貯蔵品:生産や販売目的以外で保有する物品。燃料や包装材料、収入印紙など
一般的な簿記との違い③生物(果樹・牧畜)資産の管理方法
農業簿記では、搾乳牛や繁殖豚、成熟した果樹などは、生産までに要した育成費用の合計金額を、「生物」という勘定科目に計上し、固定資産の取得額として会計処理します。
育成期間中の飼料費や肥料代などは、年度末に「育成仮勘定」と呼ばれる勘定科目に振り替えますが、生産活動を始めた家畜や果樹は「育成仮勘定」から「生物」勘定科目へと切り替え、原価償却の対象である固定資産になります。
なお、一般的な会計ソフトや確定申告ソフトの多くは、農業簿記にも対応しています。種類が多く複雑な農業簿記も、こうしたソフトとe-Taxを使えば青色申告申請書が簡単に作成できますので、ぜひ利用しましょう。
まとめ
経営形態が変化し、大規模化、法人化が進むこれからの農家は、より生産性を上げ、効率よく経営を行うことが求められます。会社組織として人を雇い、さまざまな設備投資を行うためには、節税によって経費や税負担を軽減させていくことが必要となります。
青色申告によって正確な会計処理を行い、確実な納税を行うことは、今後の農家にとって必須となってきます。積極的に利用して、効果的な節税につなげましょう。
参考資料
No.2070 青色申告制度|国税庁 (nta.go.jp)
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