「疎植栽培って何?どうやって行うの?メリットは?」と、農業に従事する方や、これから農業に従事しようとする方は、一度は耳にしたことのある話かもしれません。
今回は、【作業の省力化を図りたい方】【これから規模拡大を行いたい方】【収量・品質が伸び悩んでいる方】【コスト削減を計りたい方】など、現状に悩みがある方へもお役に立てるように、疎植栽培について、詳しくご紹介します。
疎植栽培が注目されている背景
現在の米生産は、米価の下落による生産者所得の低下や高齢化による休耕田の増加など、多くの課題を抱えています。
その解決策の一つが労働時間の短縮であり、特に稲作の労働時間の30%強を占める育苗・田植えの作業時間を短縮できれば、規模拡大や園芸作物との組み合わせが可能となり、生産者所得の向上に結びつくといわれています。
そこで近年、労働時間や生産コスト低減に繋がる技術として注目されているのが、「直播栽培」と「疎植栽培」です。
直播栽培と疎植栽培を比べると
直播栽培、疎植栽培ともに、育苗期のコスト低減や労働時間の短縮に繋がることは共通していますが、直播栽培は専用の機械導入が必要であることに対し、疎植栽培は現行の田植え機を活用することができます。
品種については、直播栽培は苗立ちの良いことや、収穫期の倒伏に強い特性を持つ品種を作付けすることが望ましいとされる一方で、疎植栽培は現行の品種をそのまま活用することで、慣行栽培と同じ収量を得ることができやすいといわれています。
このように、直播栽培と疎植栽培を比べると、技術を導入する際にリスクが少なく、導入しやすいと考えられるのは疎植栽培です。
疎植栽培とは
疎植栽培は、株間を広げて栽植密度を下げる栽培方法です。
明確な定義はありませんが、株間15〜18cmを24〜26cmに広げて、栽植密度を㎡当たり12〜14株(坪当たり40〜45株)以下にする方法を示すことが多いです。
経済的な面では、疎植栽培を行うことで、必要な育苗箱の枚数を40%程度少なくすることもでき、育苗費(種苗、育苗培土、育苗箱の資材費など)の低減、作業労力(育苗管理、苗運搬、田植え機への積み込み作業など)の低減が可能となります。
また、近年販売されている田植え機には、疎植機能を標準装備したものも多くなっています。所持する田植え機に機能がない場合でも、ギア(数千円)を購入し、簡易に付け替えることで技術導入が可能になります。
疎植栽培のメリット
省力化・コスト削減
まず資材面では、株間が広くなることにより、苗を購入する場合は苗代金が半減します。また、種籾や育苗培土の購入費用も半減することができます。
労働面では、田植えの際の苗運びや苗の充填回数が半減することにより、作業能率が向上します。
ハウス育苗の場合、ハウスの面積が半分で済む上、播種作業や水やりなどの管理作業を大幅に削減することができます。
収穫量アップ
疎植栽培位を行うと、株間が広くなり穂がV字に広がる空間ができます。根本の葉まで太陽の光がしっかり当たり、栄養が行き渡るようになるため、大きな穂に育ちやすく、収穫量アップが期待できます。
また、株間の風通しが良くなることで、いもち病や紋枯病などの病気が発生しにくくなり、丈夫な稲を作ることができます。
疎植栽培の注意点
疎植栽培は株数を減らして栽培しますので、欠株してしまうと収穫量に大きく影響が出てしまいます。そのリスクも把握した上で行いましょう。
栽培地について
安定した収量・品質を得るためには、茎数や穂数が確保できる、保水性と地力が高い水田が適しています。適した土作りが必要となりますので、整えていきましょう。
また、栽培期間中は株間が広くなり日当たりが良くなるため、雑草が発生しやすくなります。こまめな水管理や除草剤の敵期処理などで、雑草の発生を抑えるようにすることが必要です。
そもそも、地温が低い寒冷地や寒暖差の激しい山間地等では、十分な茎数を確保できない可能性があるので注意が必要です。
疎植栽培は、どちらかというと温暖で稲の初期育成が旺盛な西南暖地に適した方法ですが、品種や圃場条件を選ぶことで、その他地域でも実施可能です。
栽培時について
穂数確保には、健苗を育成し、浅植えや植え痛み防止を心がけ、初期生育の確保が必要です。
田植え時期は慣行栽培と同じ時期に行いましょう。遅植えでは生育期間が短くなり、茎数を確保しにくくなります。㎡当たり14株程度にする必要があります。
1株植え付け本数は、慣行栽培と同じ本数で問題ありません。田植え直後は株数が少なく寂しく感じるかもしれませんが、1株植え付け本数を増やしてしまうと分げつ過剰となり、過繁茂状態になってしまう恐れがあります。3〜4本植えを目安にしましょう。
施肥法は、慣行栽培と同様で問題ありません。肥効調節型肥料を用いた1回全量施肥(一発施肥)や側条施肥栽培も可能です。
穂肥時の葉色がかなり濃い場合、1穂籾数が過剰になり、玄米タンパク質含有量が高まって品質が低下してしまう恐れがあります。そのような場合は穂肥を減らす必要がありますので注意が必要です。
茎数が少なく、最高分げつ期は遅くなるので、中干しは慣行栽培時よりも一週間程度遅く開始し、強く干しすぎないことが重要です。中干し開始時期の目安は、株当たりの茎数が30本程度(㎡当たり茎数330〜350本)です。
土の表面に軽くひびが入る程度の中干しが最も効果的です。ひびが深く入りすぎると、登熟期間に重要な働きをする“うわ根”を切ってしまう恐れがあるので、注意が必要です。
収穫時について
疎植栽培の稲は穂が大きいので、登熟するまでに時間がかかる傾向があります。
収量・品質確保のために刈取適期をしっかり見極めることが重要です。(早刈りは禁物です。)穂の8割が熟れ色になっていれは刈取適期です。
品種について
品種は、各地域での中生品種が適しています。普通期栽培の「ヒノヒカリ」や早期栽培の「コシヒカリ」の栽培面積が拡大しています。
生育期間が早い早生品種は穂数不足による減収の恐れが、晩生品種は出穂遅延による登熟不良の恐れがあります。
疎植栽培の生育特性
慣行栽培に比べると、株は大きくなります。一方で単位面積あたりの茎数は少なくなり、葉色は濃くなり、秋まさり型の稲になるでしょう。
最高分げつ期は、7〜10日程度で、出穂、成熟期は1〜2日程度遅くなる傾向にあります。
また、穂数はやや少なくなりますが、1穂籾数が増加するため、単位面積当たりの籾数は慣行栽培に比べても、わずかに少ない程度になる傾向です。収量や玄米の外観品質は同じくらいで、食味に影響する玄米タンパク質含有量も、慣行栽培と大きな差は生まれないでしょう。
ただ、穂数が少なくなりすぎると、減収する場合があります。1穂籾数が過剰に増加したり、穂肥時の葉色がかなり濃くなると、品質低下を招いていることが考えられます。穂数を確保し、1穂籾数を過剰に増加させないことがポイントになってきます。
実際の取り組み
疎植栽培は、西日本(九州・四国)で精力的に取り組まれてきました。ここでは実際の取組事例を二つご紹介します。
奈良県での取り組み
生産者の高齢化が進み、不耕作地の拡大が懸念されることや、米生産による収入が伸び悩む中、低コスト・省力化を必要としていました。
そこで、10a当たりの育苗にかかる労力を減らすことができる疎植栽培に着目。奈良県農業試験場では、平成15年から栽培試験を行い、17年から実地実証を進め、現在では平坦地でヒノヒカリを用いて120ha以上の栽培を行っている。
斑鳩地域での取り組み
斑鳩地域では、県の補助事業として、新しい田植え機(疎植栽培対応機種)が導入され、疎植栽培を始めました。
育苗や苗運搬にかかる労力が軽減されて、収量が慣行と変わらないことが、導入した動機の一つだそうです。
実際に導入したことにより、育苗にかかるコストの削減や、労力の低減に成功しました。
さらに省力・コスト削減するために
疎植栽培において、さらに省力・コスト削減をするには【育苗日数が短い乳苗や短期育苗を使う】ことも効果的だと考えられます。
育苗日数が短い乳苗や短期育苗苗を使うと、さらに箱数節減や育苗期間短縮を図ることができます。
播種量を220〜250g(乾籾)に増やし、育苗期間6〜8日で育苗する乳苗は、初期の茎数増加が顕著です。これに疎植栽培を組み合わせることで、省力・低コスト効果が高まると考えられます。
乳苗は田植え適期幅が狭く、苗マット強度が低下することがあります。播種量を増やさず、育苗期間を14日程度とする短期育苗苗の利用も実用的といえます。
気象や土壌条件に応じた栽培方法を模索し、地域に応じた疎植栽培法を確率し、稲作の省力・低コスト化を進めていきましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
現在の日本の米生産の課題解決にも貢献する「疎植栽培」。
リスクも少なく、省力化・低コスト化に取り組めるので、挑戦する価値は大いにあるのではないでしょうか。
水田の管理や雑草の除去など注意した方がいい点はありますが、うまくいけば慣行栽培時と変わらない収量を見込めるのはとても魅力的だといえます。
また、病害の発生抑制にも繋がる疎植栽培の特徴を活かして、減農薬栽培や特別栽培米と組み合わせた差別化商品として販売することで、販売価格の上昇に結びつけることができれば、生産者のメリットはますます多くなるでしょう。
自身の経営スタイルに合った技術をぜひ導入してみてください。
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