はじめに
多くの方が頭を悩ませる『確定申告』の時期がやってきました。
何回経験してもこの時期が来ると憂鬱になりますよね。
年度によって改定される項目もあったりで、しっかり内容を把握しておかないと
損をしてしまうこともあるかもしれません。
今回は、農業所得のお金に関する話・『確定申告』に関する話をなるべくわかりやすく
解説していきます。
農業の『確定申告』について
会社に勤務されているサラリーマンは、『年末調整』といって
会社で、翌年にかかってくる【住民税】【所得税】などの計算をしてくれます。
しかし個人事業主となる農家のみなさんの【農業所得】は、
1月1日~12月31日までの1年間の【所得金額】に対して、
支払うべき【所得税】や【住民税】などの計算は個人でしなければなりません。
ただ、【農業所得】といってもさまざまな形態があります。
専業農家の方は、【農業所得】のみ
兼業農家の方は、会社の【給与所得】と【農業所得】
年金を受給されている方は、【年金】と【農業所得】
となります。
また、黒字経営なのか赤字経営なのか?補助金を受けているなど状況はさまざまです。
それぞれの状況の申告方法やメリットについて解説してみましょう。
- 【農業所得】のみの場合
まずは【農業所得】の計算方法
[農業所得]=農業での年間総収入金額 ー 農業にかかった年間の必要経費
となります。
農業での年間総収入金額とは
・1年間に農作物を出荷・販売した金額 ⇒ 販売金額
・自宅で消費する農作物や事業に活用するための農作物の金額 ⇒ 家事消費・事業消費
・その他の農業経営に関する収入 ⇒ ※雑収入※
があります。
※雑収入※ は、『小作料受取金』『農作業受託料受取金』など農作物を販売する以外の収入
『共済受取金』『出荷奨励金』『各種補助金』『助成金』『営農組合収入』なども含みます。
必要経費とは
農業で収入を得るための栽培や販売に必要な費用です。
給与・賃金などの人件費、地代・家賃、減価償却費、租税公課、農業共済掛金、管理費なども
必要経費となります。
生活費は経費となりません。生活費と事業費は明確に分けておきましょう。
- 兼業農家さんの場合 (副業で家庭菜園など)
最近は、田舎暮らしに憧れる人も多くなり、その準備段階として会社員をしながら週末は
郊外で農業を副業として始める方も増えています。
家庭菜園などで農作物を育てて、農協や個人に販売をする場合には
『雑所得』となります。
[雑所得]=農業での年間総収入金額 ー 農業にかかった年間の必要経費
- 兼業農家さんの場合 (副業で農業バイトなど)
『農業1日バイト』なども最近は増えています。農業に興味ある初心者の方にとっては
農業体験を通して農業の楽しさを知る機会になります。
また農家さんにとっては、作業を手伝ってもらえて労力不足を補えるという
良いシステムです。
この『農業1日バイト』の場合は、『給与所得』か『雑所得』となります。
『給与所得』⇒ 年末か年明けに【給与所得の源泉徴収票】が交付される
『雑所得』 ⇒ ・年末か年明けに【支払調書】が交付される
・何も交付されない
・計算明細だけをもらっただけ
[給与所得]=年間の給与 ー 給与所得控除※
※ 給与所得控除は、1年間の総収入に応じて金額が決まっています。
- 副業で農業をしたら確定申告が必要な場合
主となる勤務先が1か所だけに正社員・派遣社員・バイト・パートなどの給与を受けていて
その給与年収が2000万円以下で
※本業以外の所得(副業など)※の合計額が20万円以下であれば確定申告は不要です。
※【本業以外の所得】⇒副業の他にも不動産の賃貸や株式投資などの所得も含まれます。
ただ、所得額の計算は所得の種類によって違うので要注意です。
参考:1. 所得の区分は10種類 ─ 所得税アラカルト|知るぽると (shiruporuto.jp)
『確定申告』の❝青色❞❝白色❞の違いについて
確定申告には【青色申告】【白色申告】と2種類あります。
農業の所得は、【事業所得】にあたるので青色申告制度を利用することで、
『青色申告特別控除』が受けられます。
次は、農業の確定申告の大切なポイント・【青色申告】と【白色申告】の違いなどを
わかりやすく説明します。
- 青色申告とは?
【青色申告】は、税務署で青色申告適用の手続きを行うと利用できます。
【青色申告】が適用される所得は、『不動産所得』『事業所得』『山林所得』です。
農業の所得は、『事業所得』に分類されるので【青色申告】も選択可能です。
【青色申告】は、複式簿記(※)の会計帳簿を作成する必要があります。
※複式簿記とは、一つの取引の記録を結果の残高だけではなく、その取引のお金の動きを
2面の方向から記録しなければなりません。
《借方(左側)》と《貸方(右側)》に記入する仕訳が必要になります。
複式簿記には少々複雑でたくさんのルールもあり、これを覚えなければならないので大変です。
しかし反面、お金の流れが判りやすいという良さがあります。
会社などお金の出入りが多くなると、複式簿記の方が不正な会計の防止にもなります。
今は難しい複式簿記も、会計ソフトがあれば比較的簡単です。
- 白色申告とは?
【白色申告】は、【青色申告】の適用の届出を出さない個人事業主が行います。
【白色申告】は単式簿記※※といって簡易的な帳簿で大丈夫です。
※※単式簿記とは、お金の動きを単に記帳するだけで『家計簿』のような方法です。
難しい仕訳も必要ないので非常に簡単です。
しかしお金の出どころなどが判りにくいという欠点があります。
青色申告のメリットとデメリット
青色申告のメリット
1⃣ 青色申告特別控除で節税ができる
【青色申告】をした人だけが受けられる控除です。
合計所得から決まった額を控除できます。
この金額で所得税を算出できるので節税になります。
通常の複式簿記で記帳をすると55万円、
電子申告・電子帳簿で保存すると65万円、
現金主義・簡易簿記の場合では10万円まで控除できます。
所得税が青色申告特別控除額より少ない場合は、所得額が控除額の上限です。
2⃣ 青色事業専従者給与を必要経費で計上できる
同一生計の配偶者・親族が働いた場合、
事業専従者の報酬を必要経費に計上できます。
農業は家族で事業を営むことが多いので【青色申告】のこのメリットは重要です。
ただし、青色専従者は「専ら農業に専従している家族」という制限があります。
平日は主となる仕事があり、休日だけの手伝いは青色専従者には該当しません。
3⃣ 損失を繰越できる
赤字が出た際に【青色申告】では、
純損失を翌年以降最大で3年間に限り所得額から 損失額を控除できます。
農業は気候などによって収入も変動するので、このメリットも重要です。
4⃣ 収入保険に加入できる
【青色申告】の実績が1年以上という条件つきですが、
農業の販売収入全体の金額が基準収入の9割に満たなかった場合は、
不足金額の9割を上限に補填される『収入保険』に加入できます。
この保険は、
・気候による不作・市場価格が下がった
・災害などで作付不能・けがや病気で収穫不能
・取引先の倒産
・盗難や事故
・輸出した際の為替変動で大損
などのさまざまな原因での収入減でも対象になります。
参考:農業経営の収入保険(詳細):農林水産省 (maff.go.jp)
5⃣ 少額減価償却を一括で償却できる
通常は10万円以上の資産は、耐用年数で割って経費に計上する資産を、
1個あたりが30万円未満の取得価格の資産に限って、一括で減価償却ができます。
上限は合計で300万円までです。
6⃣ 貸倒引当金を必要経費として計上できる
取引先の倒産などで、代金などを回収できそうにない時に『貸倒引当金』として
計上します。
【青色申告】の場合、年末の貸金の帳簿価額の合計の5.5%以下であれば必要経費として
計上できます。
青色申告のデメリット
1⃣ 別途 【所得税の青色申告書】を申告する年の3月15日までに提出する必要があります。
2⃣ 65万円の特別控除を受ける場合は、複雑なルールのある複式簿記による記帳が必要です。
デメリットとありますが、複式簿記は覚えてしまえば、経営状況もよくわかるのでメリットともいえます。
白色申告のメリットとデメリット
白色申告のメリット
1⃣ 記帳が簡単・申告手続シンプル
【白色申告】も帳簿の記載は必要ですが、単式簿記でよいので比較的簡単です。
確定申告も収支内訳書に売上と経費を記入していくだけなのでシンプルです。
2⃣ 申告の前に届出は必要ない
【青色申告】のように期限内に税務署への申請などは必要なく申告ができます。
農業の『確定申告』で最も重要なポイント
- 農地売却時には特別控除
農業も近年では、就農者の高齢化や後継者不足が問題となっており
やむを得ず農地売却をする農家の方も多いのが現実です。
このように農地を売却した際にかかってくる税金のこと、節税対策となる
『特別控除』があります。
- 農地売却時にかかる税金
- 譲渡所得税と復興特別所得税
- 農地売却で利益がでた時は、その利益に対して譲渡所得税がかかります。
- 譲渡所得税の税率は、所有期間によって違いがあります。2037年12月31日までは、所得税率に2.1%かけた 復興所得税も加算されます。
- 所有期間が5年以下(短期譲渡所得)⇒譲渡所得税30%・復興特別所得税0.63%
- 所有期間が5年超え(長期譲渡所得)⇒譲渡所得税15%・復興特別所得税0.315%
- 印紙
- 農地売買契約書は課税文書なので、印紙税がかかります。※No.7140 印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで|国税庁 (nta.go.jp)
- 住民税
- 譲渡所得税と同様、住民税の税率も農地の所有期間によって違います。
- 所有期間 5年以下(短期譲渡所得)⇒9%
- 所有期間が5年超え(長期譲渡所得)⇒5%
- 譲渡所得税と同様、住民税の税率も農地の所有期間によって違います。
- 登録免許税
- 農地の売却時には、所有権変更も行うので登記変更が必要です。
- 2021年4月1日以降の所有権移転 ⇒ 売却額の0.02%
- 農地の売却時には、所有権変更も行うので登記変更が必要です。
- 譲渡所得税と復興特別所得税
参考: extension://elhekieabhbkpmcefcoobjddigjcaadp/https://www.maff.go.jp/j/aid/zeisei/nou/attach/pdf/index-4.pdf
800万円の『特別控除』の特例
農地を売却するには、農業委員会の許可が必要です。
しかし農地を拡大したいと思っている農家の方に土地を斡旋してくれる場合があります。
この場合は、譲渡所得から800万円を控除できる特例が利用できます。
この特例の対象は、農地に抵当権が設定されていない農地に限定されます。
- 800万円の『特別控除』の条件
- 農用地利用集積計画 or 農業委員会斡旋の譲渡
- 農地中間管理機構 or 農地利用集積円滑化団体への譲渡
農用地利用集積計画とは、農地を有効活用を目的とした計画です。
この計画への協力となる農地売却には、800万円の特別控除が適用となります。
- 800万円の『特別控除』の必要書類
- 譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)【土地・建物用】
- 農地保有の合理化のための譲渡と証明する書類
800万円の特別控除を受けるためには、上記の書類を添付して確定申告が必要です。
参考:extension://elhekieabhbkpmcefcoobjddigjcaadp/https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/yoshiki/02/pdf/a029.pdf
まとめ
農家のみなさんの頭を悩ます『確定申告』について、簡略ですが解説してみました。
日本も国として農業を将来的に発展させていこうという計画を推進しています。
農業をどんどん拡大していきたい農家さんには、【青色申告】がメリットが大きいようです。
メリット・デメリットをよく比較した上で、それぞれの状況に合わせて
『確定申告』していただけたらと思います。
『確定申告』をうまく活用して、少しでも節税のお役に立てたら嬉しいです。
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新しく農家にチャレンジされる新規就農の方や、ベテラン農家さんのみなさんにも情報提供や
サポート体制もあり安心して農業に取り組めると思います。
みんなで農家さん (minnadenoukasan.life)
農地売却時に使える特別控除【譲渡所得計算・確定申告の必要書類とは】 – ベンチャーサポート不動産株式会社 (vs-group.jp)
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