始めに
この記事に興味を持ち「少し読んでみようかな」と思っていただきありがとうございます。この記事のタイトルにもある「農業次世代人材投資事業」について興味を持っていただいたということは、これから農家として働きたいと思っている。あるいは、農業に携わりたいと思っているけど始める時にかかる資金調達に不安があるといった理由を抱えている人がこの記事を読んでいるかもしれません。中には、少しでも農業を始めるための知識を身に付けたいと思いこの記事を見つけてくれた人もいるかもしれません。
農業業界に興味を持ち、農家になるためにはどうすればいいのか調べれば調べるほど「準備する物多いな」とか「始めるまでにお金かかるな」と思った人が多いのかもしれません。おそらく、そう感じた方々の共通点として、実家や知り合いが農業に携わってないが、自分自身が農業に興味を持ち、農家として働いてみたいと思っている人なのではないでしょうか?
少子高齢化が大きな問題となっている今の時代は、様々な企業が農業事業に携わり農業を始めてみたり、それに伴い自分で農地や農機具を準備しなくても農家になれる方法(雇用就農)が誕生したりと日本の農業を今後未来に残していくために農業業界も日々変化し続けています。そんな時代でも、自分の農地を持ち、自分が経営者として農業に携わりたいと思っている人も多いはずです。
今回は、そんな1から農家になりたいと考えている人の資金問題を支援する「農業次世代人材投資事業」について紹介していきます。
新規就農者を悩ませる参入障壁とは
「農業次世代人材投資事業」の内容について触れていく前に、新規就農者を悩ませる参入障壁について、みていきましょう。新規就農者を悩ます参入障壁は以下のようなものがあります。
農地の確保が難しい
新たに農家として経営を始めるためにまずは、作物を育てる農地が必要です。親や親戚が農家をやっていない限り、自分自身で農地を見つけなければいけません。これが意外にも大変なのです。借りるまたは購入する農地がないわけではありません。社会問題にもなっている少子高齢化により農家の平均年齢は上がり続け、農家の人数も減り続けているので空き農地(耕作放棄地)も増え続けています。ではなぜ、農地の確保が難しいのでしょうか?
農地を貸す・売る側になって考えてみましょう。農地を貸す・売る側で考えてみた時に農業に関する知識がない状態の新規参入者に農地を貸してもいいと思うことができるでしょうか?
農地を借りる・買うためには、農業に関する知識がある程度なければ、農地を貸す側・売る側が安心して貸す・売ることができなということが新規就農者の障壁の1つになっています。非農家出身の新規就農希望者が農地を借りてまたは購入して農業を行うためには農業の技術や知識を身に付け、農地の所有者と信頼関係を築くことも重要になってきます。
栽培の知識をどうやって学ぶのか
「農地の確保が難しい」理由として、農地を借りる・買うためには、農業に関する知識がある程度なければ、農地を貸す側・売る側が安心して貸す・売ることができなという理由があるということを紹介しました。
農地を借りることができないとなると、栽培を実践していくなかで知識を学ぶということが難しくなってしまいます。そうなると「栽培の知識をどうやって学ぶのか」という障壁がでてきます。
多くの新規就農希望者が学生であれば、農業高校や大学の農学部など農業を学ぶ手段はたくさんあります。しかし、新規就農希望者のほとんどが学生ではなく、1度社会人を経験している人だと思います。
社会人経験を経てから、農業大学校と呼ばれる農業を学ぶための学校にに通ったり、大学に入り農業について学ぶという選択は中々勇気のいる選択であるとは思いますが、本気で農家になりたいと考えているのであれば必要な選択なのかもしれません。
しかし最近は、農業法人に雇ってもらい月々給料をもらいながら農業を学ぶことができるなど就農への障壁は改善しているようにも感じます。
高額な初期費用が必要
次に紹介する障壁は、新規就農者を最も悩ませる「お金」に関する障壁です。ここまで紹介した農地を確保するにも「お金」が必要で、農業を学ぶために学校や農業体験イベントに参加するにしても「お金」がかかります。
さらに、本格的に農業を始めようとなると農機具や種苗、肥料、農薬といった農作業には欠かせない物にも「お金」がかかってきます。農業をはじめるために必要な初期費用は1,000万円以上と言われますが、そんな大金をいきなり用意するのは難しい話です。
「農家として働きたい!」という強い気持ちがありながら「お金がないので諦めました」というのは、農家の数が減少し続けているという今の日本の現状からしても、もったいない話です。
上記のような農家になるための資金不足の問題を改善しようと、国が考えた事業が「農業次世代人材投資事業」です。前置きが少し長くなりましたが、ここからは「農業次世代人材投資事業」についてみていきましょう。
農業次世代人材投資事業とは
農家の高齢化、それに伴う農家の減少が進んでいるという現状があるなか、農林水産省を中心に国は、若い人たちへの就農意欲の喚起、就農後の農家定着を図るために、平成24年度から就農前後の所得確保を目的とした青年就農給付金事業(平成29年度より「農業次世代人材投資事業」に名称を変更)を開始しました。
農業次世代人材投資事業の目的は、新規就農者への資金援助です。しかし、「新規就農希望者全員に給付」されるものではありません。農業次世代人材投資事業の審査会にて、交付対象として選ばれることにより、資金の援助を受けることができます。なので、資金の援助を得るには新規就農への熱意が非常に大切になってきます。
農業次世代人材投資事業についてさらに深堀してみると「農業次世代人材投資事業」の資金援助には2種類の資金援助があります。1つ目が就農前の研修を後押しする資金「準備型」で、2つ目が就農直後の経営を支援する資金「経営開始型」です。ここからは、この2種類の資金援助の方法についてみていきましょう。
準備型
【目的】:就農前の研修(都道府県が認める道府県の農業大学校等の研修機関)を最大2年間支援 |
【金額】:月12.5万円(年間最大150万円) |
【交付条件】 1. 就農予定時の年齢が、原則49歳以下 2. 独立・自営就農または雇用就農を目指す 3. 都道府県等が認めた研修機関等で概ね1年以上(1年につき概ね1,200時間以上)研修する 4.常勤の雇用契約を締結していない 5. 生活保護、求職者支援制度など、生活費を支給する国の他の事業と重複受給でないこと 6. 原則として前年の世帯所得が600万円以下であること 7.研修中の怪我等に備えて損害保険に加入すること |
経営開始型
【目的】:経営が不安定な就農直後を最大3年間支援 |
【金額】:月12.5万円(年間150万円) |
【交付条件】 1. 就農予定時の年齢が、原則49歳以下 2. 独立・自営就農または雇用就農を目指す 3. 都道府県等が認めた研修機関等で概ね1年以上(1年につき概ね1,200時間以上)研修する 4.常勤の雇用契約を締結していない 5. 生活保護、求職者支援制度など、生活費を支給する国の他の事業と重複受給でないこと 6. 原則として前年の世帯所得が600万円以下であること 7.研修中の怪我等に備えて損害保険に加入すること |
ここまで「準備型」と「経営開始型」の内容についてまとめてみました。金額に関しては「準備型」も「経営開始型」も同じで、両方の支援を受ければ最大で5年間、支援金を受け取れるということになります。
この支援金は、審査に通らなければ受け取ることができないと先ほど説明しましたが、ここからは審査を受けるまでの準備の仕方についてみていきましょう。
「農業次世代人材投資事業」で資金援助を受けるまでの流れ
ここからは、新規就農希望者が「準備型」の支援制度を受けるまでの流れと農家として経営を始めた農家が「経営開始型」を受けるまでの流れについて紹介していきます。
準備型を受けるまでの流れ
【新規就農希望者】 |
①各市町村へ書類を提出 ・研修計画(農業を始めようと思った理由、就農計画、将来のビジョン、計画を達成するための研修内容などを記入) |
②審査会…面接が主流 |
③審査会の結果(1~2週間後)で各都道府県から支援金が給付されるかが決まります。 |
【参考】
①について詳しくはコチラ:roudou-18.pdf (maff.go.jp)
②について詳しくはコチラ
青年就農給付金(準備型)の審査会にいってきました。 | 30代からの農業コトハジメ@いちご農家になりたい人 (874-lifehack.com)
経営開始型を受けるまでの流れ
【新規就農者(認定新規就農者)】 |
①各市町村へ書類を提出 ・青年等就農計画(就農地、農業経営開始日、就農形態、将来の農業経営構想などを記入 ・交付申請書(農業を始めようと思った理由、交付期間などを記入) |
②・③準備型と同様(審査あり) |
【参考】
①について詳しくはコチラ:nintei_syunou-1.doc (live.com)
ここまで「農業次世代人材投資事業」の準備型・経営開始型を受けるまでの手続きについて紹介してきました。なんとなくイメージが湧きましたでしょうか。詳しい内容は、農林水産省のページなどでも説明されていますので、是非調べてみてください。
「農業次世代人材投資事業」での成功事例
ここからは「農業次世代人材投資事業」を利用した新規就農者の事例をみていきましょう。
準備型の事例
青森県:新規就農希望者(46歳)の事例① |
【研修先】:先進農家 【内容】:果樹(栽培方法・販売方法) |
【新規就農志した経緯・背景】 前職は青果市場、りんご生産者と情報交換しているうちに農業に興味がわき、先進農家で研修し、就農。 |
【資金の活用例】:研修中の生活費 |
【研修中に工夫したポイント】 ・研修開始時から、樹園地の取得に向けて情報収集 ・病害虫は、農薬の種類、散布方法等を細かく聞き取り、写真で記録しながら覚えた。 ・果樹栽培には欠かせない剪定などは、研修先の農家さんから技術をひたすら見て身に付けた。 ・積極的に地域での交流を行い、地元農家とのつながりを構築 |
千葉県:新規就農希望者(35歳)の事例② |
【研修先】:農業大学校 【内容】:野菜(座学、栽培実習など) |
【新規就農を志した経緯・背景】 前職は会社の法務担当として勤務していたが、自由度が高く、自分の想いをそのまま形にできる農業に従事したいと考えた。 |
【資金の活用例】:研修期間中の生活費/法人設立費用 |
【研修中に工夫したポイント】 ・就農後にネギの栽培を行うために、農業大学校の研修以外に、自主的に県内外の複数のネギ農家に研修を受けに行った。 ・親の経営を法人化するために、農業大学校の座学で講師だった千葉県農業会議の協力を得た。 ・就農後の規模拡大を見据えて農地の情報を集めた。 |
経営開始型の事例
神奈川県:新規就農者(34歳)の事例 |
【栽培内容】:露地栽培 |
【新規就農までの経緯・背景】 大学で自治行政学を学び、まちづくりに欠かせない産業として農業に着目、JA職員として5年間経験を積み就農。 |
【資金の活用例】:運転資金(マルチ、肥料等の消耗品) |
【経営発展のポイント】 農家として… ・品目と販路を絞ることで、生産に集中し技術習得に努めた ・積極的な機械投資を行い、労働時間の効率的運用を目指す 経営者として… ・ステップアップをめざし、県農業経営士となった ・かながわ農業版MBA研修にて中期事業計画を策定し指針としている ・農業高校生への指導に力を入れ、産官学連携による経営発展を目指す |
詳しくはコチラ↓↓
nougyou_shigoto2_2-42.pdf (maff.go.jp)
最後に(まとめ)
ここまで「農業次世代人材投資事業」とはどのような事業なのかという観点から、「農業次世代人材投資事業」は新規就農者に必要な初期費用・経営が不安定な就農後(最大3年間)の支援する事業であるという説明から「農業次世代人材投資事業」を受けるまでの流れ(提出書類・審査会)についてまとめ、最後に「農業次世代人材投資事業」を実際に受けた新規就農者の事例をまとめてきました。
最後に紹介した「農業次世代人材投資事業」を実際に受けた新規就農者の事例から感じるかもしれませんが、農業への熱意という面で、「将来自分はこんな農家になりたい!」といった将来のビジョンがしっかり決まっているというのが「農業次世代人材投資事業」の審査を突破する上で最も大切なことなのではないでしょうか。
これから、農家を目指したいと考えているという人は、まずは「将来どのような農家になりたいのか」、農家として成功するために「どのように農業を学ぶのか」を明確にしたうえで「農業次世代人材投資事業」を活用して、就農を成功させてほしいと思います。
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