戦後の日本では当たり前となっていた終身雇用制度と定年退職後は気ままな年金生活。
しかし、2023年現在となっては「人生100年時代」、定年退職後や老後も労働するのが当たり前となりつつある今、選択肢の一つとして考えておくべきことがあります。
それは「定年退職後や老後は農業を生業として自由に働く」という選択肢です。
農業とは縁もゆかりもない、サラリーマン生活が長い都会暮らしの方々の中には「体力も衰えてる定年過ぎにからの農業なんて難しいのでは?」と感じる人も多いと思いますが、案外それほどハードルが高いものではないのです。
今回は「定年後」「老後」「シニア」の方々に参考となるよう、老後での就農について記事をまとめました。
将来を見据えている若い方々も選択肢の一つとして記憶の片隅に置いておくのもいかもしれません。
農業とは?
「農業」とひとくくりにしても、実際は細分化され、さまざまな業種に区分されます。まずは、そもそも農業について知ることから始めなければ、農業を始めよう・始めたいとは思いませんよね。
始めにどんな農業があるのか、農業ではどんなことをするのか、ということを知っておきましょう。
農業の種類って?
農業の種類ですが、以下のどちらかで分類するかによって変動します。
➀農業の三種に分類する場合は「耕種農業」「畜産農業」「アグリビジネス」。
➁農業の四種に分類する場合は「耕種農業」、「果樹・花き農業」、「畜産農業」、「観光農業」。
まずは➀の三種で分類した場合から。
・耕種農業
大多数の方が「農業」というキーワードで連想されるであろう農業種別で、田畑を耕し、種・苗を植えて作物を作る農業のこと。稲作・畑作・露地野菜・施設野菜などが該当します。
・畜産農業
家畜や家禽を飼育する農業のことで、酪農(乳牛)・肉牛・養豚・養鶏・養蚕や、競走馬を育てることも畜産農業に含まれます。
・アグリビジネス
アグリカルチャー(農業)と、ビジネス(事業)を掛け合わせた造語で、「耕種農業」「畜産農業」を生業とする生産者そのものをサポートする農業用の資材や育苗メーカー、生産物の流通、販売などのことをいいます。
つぎに➁の四種に分類した場合。
・耕種農業
上述したように、田畑を耕し、種・苗を植えて作物を作る農業のことです。以下が細分化したものです。
稲作:日本では主食のお米を栽培することを稲作といい、約300種の品種があります。
畑作:小麦やトウモロコシなどの穀物や、大豆・エンドウ豆などの豆類、じゃがいもやさつまいもなどのイモ類を畑で栽培することです。
露地栽培:施設(ハウスなど)を使わずに、屋外の畑で栽培することで、露地栽培の特徴は農作物の本来育つ時期に合わせて栽培する、自然に近い状態、いわゆる「旬」の野菜や果物を育てます。
施設野菜:ビニールハウス、ガラス室、トンネル、温室、マルチ、冷暖房や空調・換気設備の整った施設で栽培される野菜のことで、その農作物が本来生育しにくい季節や場所でも育てられます。
・果樹・花き農業
果樹などの果物や、園芸や観賞用などの植物を育てる農業のこと。ブランドとして売り出すことによる差別化や加工品としての販売が多く、6次産業化に積極的な農家が多いのも特徴。なお、6次産業とは「農林漁業(1次産業)」+「製造業(2次産業)」+「小売業など(3次産業)」との統合化などをし、新たな付加価値を生み出す取り組みのことで、1次産業生産者の所得向上、雇用確保を目指しています。
果樹:果実を食用とするものを果樹といい、リンゴ、ミカンや梨などの季節ごとの果物があります。
花き:観賞用などに育てられる植物で、切り花や鉢物、花木類や球根類、苗もの、芝類のことをいいます。
・畜産農業
こちらも上述したように家畜や家禽を飼育する農業のことです。
酪農:乳牛を飼育し、乳製品を生産する仕事のことで、牛乳やチーズ、アイスクリームなどへの加工や、販売・観光を組み合わせた産業としても進んでいます。
肉牛:食用とされる肉牛を繁殖、肥育する仕事のことです。
養豚:食用とされる豚を飼育する仕事のことです。
養鶏:鶏を飼育する仕事のことで、卵を生産する採卵鶏と食肉として加工される食用鶏に分けられます。
・観光農業
「観光」に「農業」を結びつけた農業のことで、収穫体験や採れたての農作物を食べることができる農家レストランを営業するといったような経営方法があります。
農業の仕事内容って?
農業の仕事と聞くと、土仕事やトラクターなどでの作物の収穫や出荷がイメージとして湧きやすいのではないでしょうか。
しかし、栽培する農作物や生育する家畜の種類・品種、規模などによって、栽培・飼育方法や収穫時期はさまざまであるため、農畜産物の種類によっては業務内容の差異や年間スケジュールの違いがでてきます。
また、他の農家と同じ農作物を選んだとしても、育てる農地の地質や地域、天候によって生産物の質に違いがでたり、社会情勢によっても左右されることもあります。
自然や時代による変化を見据えたり、見定めることによって、栽培する農畜産物の種類の検討や生産量・出荷量の調整、栽培・生育方法の見直しなど、生産者側での個々の工夫が必要となります。
就農とは?
農業の仕事についておおむねわかったかと思います。
では次は就農についてお話をします。
就農とは読んで字のごとく農家に就職することを指しますが、自分で起業する「新規就農」と既存の農業や法人に就職する「雇用就農」に分けられます。
新規就農
自分自身で新しく農業を起業することを新規就農といいます。農地を探すところから始めて、作物の選定・販売経路の開拓などの全てを自分自身で行います。
雇用と違うため自分自身のライフスタイルや都合に合わせて自由な働き方ができるというメリットがある反面、初期投資金額や稼働にかける労力が大きかったり、発生するリスクや事故対応など自己責任でやりきらなければなりません。
雇用就農
農業法人の従業員として働くことを雇用就農といい、農業未経験者の約8割が雇用就農者。
「知識やノウハウなし、未経験の状態から農業を始めてみたい」という人向けです。
ノウハウやナレッジを持っている農業法人のバックアップのもとで農業を始められるため、いろいろと学びやすいのがメリットです。
雇用されるという形態のため、自分自身がやりたい農業をすることは難しいかもしれませんが、初期投資資金や準備、販売経路の開拓というものが不要で、安定した収入があるため、雇用就農でノウハウを培い、将来的には独立ということも可能です。
就農のメリットとデメリット
新規就農する場合と、雇用就農する場合のメリットとデメリットはどのようなものがあるのでしょうか。
新規就農する場合のメリットとデメリット
まずは新規就農する場合です。
メリット
■自分のやりたい農業ができる
・好きな農作物や畜産をすることができます。
■スケジュールが調整しやすい
・自分自身に裁量権があるため、一日や年間スケジュールは自分の好きなようにコントロールできます。
■加工方法や販売方法の制限がない
・企画や加工が得意な方であれば、オリジナリティに富んだ加工品、イベント、販売経路を実践できます。
デメリット
新規就農は一番難しいと言れていて、理由は先ほども述べたように、初期投資と労力や地域住民との関係、そして販売経路の確保が挙げられます。
■初期投資にかかる費用が大きい
新規就農は、全て自分で準備をしなければならず、それなりに資金力がないとそもそもの農地を購入することも、農作物の種苗を集めることもできません。
新規就農を行った農業従事者が就農するために用意した自己資金の平均額は232万円。
就農1年目に必要となった金額の平均は569万円です。「新規就農者の就農実態に関する調査結果(新規就農相談センター)」より。
ここから読み取れることは、実際の農業を経営していく金額のほかに、生活のための金額も含まれていることが想定できます。
就農をする前に、その資金の調達方法、運営資金以外にも、生活費としてどれだけのかかるのかも計画に入れておくことが重要で、その他に技術・ノウハウの取得のため、農業大学や専門学校に通うこととなればさらに費用がかかってしまいます。
■労力がかかる
新規就農をするに場合、お金だけがかかるわけではありません。
農地を自分自身で見つけなければいけない労力、農業機械や農業用具、施設などを中古品で購入、レンタルを活用など、リサーチする時間といった労力が必要になります。
農地を自分自身の居住地から離れた場所にする場合、自分自身が住む住宅もしくは設備も必要になります。
資金や農地だけあれば就農できるわけではない、ということを念頭に入れておきましょう。
■周囲との関係づくり
農村部に移転して農業を行う場合、その土地を購入または借用して生活していくことになります。
その地域の人々との円滑な関係を築くためには、地域の行事やお祭りなどへの積極的な参加など、地域の一員としての役割をすることが大切になります。
地域の人々との関係性が良好となれば、農業用水や農道の確保などの交渉が進やすいなど、メリットが生まれます。
受け身の姿勢ではなく、積極的に自分から行動を起こすことが重要です。
■販路が確保できない
良い農産物を生産すれば、消費者が購入してくれるということは絶対になく、販売経路がなければだれも買ってはくれません。
販売経路を確保するためにも、地域の人と密な関係づくりや地道な営業活動が重要です。
現代ではネットを使った直接販売も行っていることもありますので、いろいろと検討することは多いですね。
雇用就農する場合のメリットとデメリット
ほぼ、新規就農のメリットとデメリットが逆転したものとなります。
メリット
■資金面の負担がない
・雇用される側のため、資金面で負担をかけられることはありません。
■販売経路がある
・農作物の販売経路もできているため、新規の顧客や経路拡大などの業務がない場合は考慮しなくて大丈夫です。
■ノウハウや技術の習得ができる
・未経験や初心者の場合は非常に大きいメリットだと思います。
デメリット
■自分のやりたい農業ができない可能性がある
・好きな農作物や畜産をすることができません。自身で調査・企画書を作成し、企画として通れば制限はあるかもしれません。
■スケジュールが調整しにくい
・裁量権がなく、また最初のうちは覚えることだらけなので他の従業員と調整しないかぎり難しいといえるでしょう。
■加工方法や販売方法の制限がある
・すでに商品を販売・加工して出荷しているため、企画案を出して通らない限りは難しいといえるでしょう。
シニアから農業を始めるには?
定年後を見据えて農業を始めようと考えているのでしたら、副業として40代・50代から農業を始めておくのとシフトしやすいと思います。
いわゆる「半農半会社員」として農業に取り組むことができれば、知識や経験が備わった状態で定年退職時に農作業へ移行しても比較的スムーズに始めることができるでしょう。
可能であれば、副業をしている間にも販売経路の開拓や計画書を作っておいたほうがよいかもしれません。
他にも日ごろからWEBサイトでシニアへ向けた農業研修支援などを調べておくこともいいと思います。
日ごろから、としたのには理由があり、「20○○年度の受け付けはXX月XX日で終了」などの期限が設けられているからです。
すでに終了しているものですが、過去にはこのような事業概要・条件で受付をしていた例もあります(一部抜粋)。
【事業概要】
引用元:農業を始める.JP
50代(50歳~59歳)の就農希望者に対する就農に向けた研修を行う研修機関等に対して、研修費用を助成します。
【研修生の要件】
50歳~59歳の就農希望者であり、今後、地域の担い手になることが見込まれる方
【助成対象費用】
「営農技術習得のための実践研修等に掛かる費用」を研修機関等に助成(研修指導費、資格取得講習費等)
【助成額】
研修生1人当たり最大120万円
このような制度を使い、定年後に向けて準備もしやすいですね。
しかしながら定年退職後で未経験であれば、雇用就農は案件が少ないのが現状のようです。
まとめ
新規就農をする場合であれば40代から副業として農作物の栽培や販売経路の準備、雇用就農であれば59歳までに経験者程度の知識や体力を持っておくほうが有利といえるかと思います。
しかし、定年後でも人間関係を良好に保てる方であれば未経験でも雇用してもらうことは不可能ではないと思います。
この記事を見て、将来的に就農を考えている方々の選択肢の一つになればうれしいです。
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