日本を元気にするUIJターン!注目される背景や課題、移住支援の事例も紹介します

都会の生活に閉塞感を感じる、仕事や人生を見直したいと感じている人が近年多くなっています。その中には、地方から都会へ上京し再び故郷を目指す人、地方の暮らしを知らない都市出身者などさまざまです。この記事では、そんなUIJターンを希望する方に向け、その背景や課題などの他、農業に関心のある方に向けて自治体の就農支援の事例なども紹介していきたいと思います。

UIJターンとは?

UIJターンとは、都市部から地方へ移住する時の行動パターンを言います。

その際の移住前と移住後の場所の位置関係によって、Uターン、Jターン、Iターンに分けられます。

  • Uターン:地方の出身地から進学や就職で大都市に出た人が、再び出身地へ戻って住むこと
  • Iターン:都市で生まれ育った人が地方に移住すること
  • Jターン:完全なUターンではなく、地方から都市部へ移住したあと、出身地以外の地方、特に出身地に近い地域へ戻ること

 主に上記の3種パターンからなるUIJターンは、従来の大都市集中傾向から地方回帰へという人口移動の方向転換という文脈で言われます。

UIJターンをめぐる動き

「都市から地方へ」というムーブメント自体は、意外と古くからありました。1960〜70年代のオイルショックや有機農業運動、90年代のバブル崩壊による精神的豊かさの見直しや環境意識の高まりなどで、UターンやIターンをする人の数もそれなりに存在しました。しかしいずれも社会に大きな影響を与えるには至っていません。

地方回帰が始まった2000年代後半

潮目が変わり始めたのは、2000年代後半から2010年代にかけてです。この頃には

  • リーマンショック(2008年)
  • 東日本大震災(2011年)
  • 消滅可能性自治体レポート(2014年)

など、人々の価値観やライフスタイル、地方自治体のあり方を大きく揺るがす出来事が相次ぎました。その世相を反映するかのように、平成17年には農山漁村への定住希望者の割合は30代で17.0%だったものが、平成26年には32.7%、40代では15.9%から35.0%と、都市部から地方移住への関心はこの時代から高くなっています。

近年再びUIJターンに注目が集まっている

その後UIJターンの移住者数は横ばいが続きましたが、近年再び地方暮らしを希望する人に向けた相談件数が増加しています。

令和3(2021)年の相談件数は過去最大の4万9,514件に上りました。これは前年より29%もの増加であり、しかもその約半数が20〜30代までの層からの問い合わせです。

同年の内閣府調査でも、都市住民の26.6%が農山漁村地域への移住願望があるという回答が出ており、中でも18〜29歳で37.3%、50〜59歳で34.5%という数字が目立ちます。

出典:第1節 田園回帰の動向:農林水産省

この動きは単なる移住相談のみにとどまりません。実際に離島や中山間地域など条件不利な過疎地域や小規模区域でも、都市部からの移住者が増えている区域が拡大しています。

なぜいまUIJターンが増加?その動機と背景は

ではなぜいまUIJターンの希望者や、実際の移住者が増えているのでしょうか。ここでは総務省による過疎地域への移住者を対象にした調査結果を踏まえて、その動機や背景に迫ってみましょう。

自然志向による田園回帰

移住の動機として最も多かったのが、

気候や自然環境に恵まれたところで暮らしたいと思ったから(47.4%)

です。都会のビル群や緑のない環境ばかりで暮らす人々にとっては、山や海、森など豊かな自然は大きな魅力であることがうかがえます。

また近年、SDGs(持続可能な開発目標)が叫ばれていることも、こうした傾向に拍車をかけていると言えるでしょう。

都市部の住環境の悪化

この他に多かった回答としては、

都会の喧騒を離れて静かなところで暮らしたかったから(27.4%)

があります。慢性的な交通渋滞や満員電車、車や電車の騒音、市街地や繁華街の雑踏、人の多さなど、都市の環境からくるストレスは容易に人を疲弊させます。

こうした状況を脱し、人間らしい生活を求めて地方へ安住の地を求める人が多いのは無理もないでしょう。

人生観や価値観の変容

ここ数年の傾向を反映した回答結果として

それまでの働き方や暮らし方を変えたかったから(30.3%)

があり、Iターン移住者に限れば実に44%という高い結果が出ています。

特に、2011年の東日本大震災をきっかけに人生観や価値観が大きく変わった人は少なくありません。そこへ来て新型コロナウィルスの蔓延による生活様式の変容は、都市生活のもろさ、過密都市のリスク、仕事重視の働き方や住み方への疑問などを改めて突きつけられる出来事になりました。

これらの調査結果は、地方や農村の持つ価値・魅力が再評価され、日本人の「田園回帰」が少しずつ浸透していることを示しています。もちろんこれ以外にも地方移住に至る動機はさまざまです。ここでは、上記以外にもUIJターン別に多かった回答を紹介しましょう。

Uターン者

  • ふるさと(出身地)で暮らしたいと思ったから(71.1%)
  • 家族や親せきが近くにいるところで暮らしたいから(39.8%)

I ターン者

  • 自分の資格や知識、スキルを活かした仕事や活動がしたかった(21.4%)
  • アウトドアスポーツなど趣味を楽しむ暮らしがしたかったから(26.2%)

J ターン者

  • ふるさとではないが、なじみのある地域で暮らしたいから(43.8%)
  • 家族や親せきが近くにいるところで暮らしたいから(31.3%)

J ターンで面白いのが、この「ふるさとではないがなじみのある地域」という答えです。

これには、旅行などで訪れた地域や、親戚・知人の住む地域などのほか、ボランティア活動やふるさと納税などの活動を通して関わるようになった、いわゆる「関係人口」の対象としての地域があげられます。

UIJターンにはどんな業種が多い?

UIJターンで地方へ移住した人はどのような仕事に就いているのでしょうか。

割合が最も多いのは第三次産業で全体の約75%に上り、第二次産業は約18%と続きます。

この記事の読者が特に関心が高いであろう農林水産業などの第一次産業は、約7%に過ぎません。

とはいえどの自治体でも担い手となる農業者の確保は大きな課題であり、地元出身者であってもなくても、新規就農希望者の移住は歓迎されています。

UIJターンの課題

では、UIJターンで懸念される課題には、どのようなものがあるのでしょうか。ここでも、アンケート調査をもとにした移住者の声を参考に見ていきましょう。

仕事や収入

UIJターンで最も不安視されているのが仕事や収入の問題です。令和4年の内閣府調査では、回答者の実に半数(50.2%)が地方移住にあたっても仕事や収入への不安をあげています。賃金体系が都市部より低い地方では、多くの人が収入減を不安視している様子がわかります。

内訳としては

  • 賃金収入の低下・不安定化(32.4%)
  • 就職先が見つけづらい(15.3%)
  • 移住に伴う生活基盤の確立(12.4%)

が高い割合を占めており、調査結果でも1〜3割の減収という結果が多くみられます。

ただし「減収していない」人の割合も44.8%となっており、実態としては必ずしも減収を伴うとは言えないようです。

雇用のミスマッチの問題は、地方、都市を問わず転職における大きな課題です。地方移住にあたっては、自治体のサイトの就労支援や就農支援を必ずチェックし、できる限り現地の事情に通じた担当者とのコンタクトを取るようにしましょう。

人間関係や地域コミュニティ

移住者、特に都市生活の経験しかないIターン移住者にとって不安になるのが、地方の人間関係や地域社会との関わりです。濃密な近所付き合いやプライベートへの介入を嫌う人、自分の時間を重視する人にとっては、田舎の暮らしは厳しいかもしれません。

また受け入れる側の地域でも、都会からの移住者との接し方や受け入れ方に苦労するケースは少なくありません。つい最近でも「集落生活の面倒さを理解してほしい」「都会風を吹かさないように」などのお願いを「七か条」として公開した福井県のある町が批判される騒動が起きています。

こうした問題を少なくするためにも

  • 移住者、地域社会の双方が相手を理解し、歩み寄れるよう努めること
  • 移住相談員やお試し移住など、地域暮らしをサポートできる制度の整備

などの取り組みが必要と言えるでしょう。

移住を希望する人は、極力現地を何度も訪れて情報を得る、地域おこし協力隊へ参加するなど、その地域を事前に知る試みが重要です。どうしても人付き合いが苦手ならば、地方の中核都市への移住など、自分に合った選択肢を探す方が良いでしょう。

住環境の問題

移住希望者が意外に苦労するのが、空き家の問題です。

特に地方では家は「購入する」という意識が強く、借家が少ないという側面があります。しかし移住者のニーズは「賃貸の」戸建て空き家という要望が多く、ここでミスマッチが生じてしまっています。

ニーズがあるのに空き家を賃貸にできない要因として

  • 知らない人に貸したがらない
  • トラブルへの警戒や地域住民からの否定的な評判
  • 家財道具が片付けられない
  • 手間の割に家賃額が低く、事業として成り立ちづらい

などがあります。こうした問題を解決するため、借りる側も貸す側も、行政が間に入る「空き家バンク」を積極的に利用することが求められています。

その他

その他に移住者が直面した問題としては、

  • 買物や公共交通等の利便性(24.0%)
  • 移住賃金の不足(20.6%)
  • 医療・福祉施設(18.6%)
  • 子育て・教育環境(14.8%)

などがあげられています。ただし、買物や公共交通等の利便性については、情報通信環境の改善などが反映されてか2年前の調査より回答割合が減少しています。

国のUIJターン推進政策

少子高齢化や過疎化に悩む自治体や、農村・中山間地域保全の重要性を訴える政府は、UIJターンによる地方移住を推進するために多くの支援事業を行っています。ここでは、その代表的な政策を簡単に取り上げてみましょう。

地方創生移住支援事業・マッチング支援事業・地方移住支援窓口機能強化事業(内閣府)

これは内閣府による自治体の移住支援を支援するもので、

地方創生移住支援事業は東京23区の在住・在勤者が東京圏外の地域に移住して就業・起業した者に移住支援金を給付するなどの事業です。

この他、移住支援金対象となる求人情報の提供や、効果的な求人広告作成などを支援するマッチング支援事業、市町村の移住支援窓口強化のために大都市圏の企業人材を受け入れる

地方移住支援窓口機能強化事業などがあります。

中途採用等支援助成金(UIJターンコース)

こちらは、厚生労働省による事業主向けの支援制度です。この制度では、東京圏からの移住者を雇用した事業主に対し、採用活動経費の一部を助成するものです。

UIJターン就農を推進する自治体の事例

現在、全国各地の多くの自治体でUIJターンによる移住者の呼び込みを積極的に推進しています。ここでは特に就農支援にスポットを当てて、特徴的な取り組みを行っている自治体の事例を紹介していきます。

【事例①】島根県

 県をあげて移住促進に熱心な島根県では、交通費の助成や引越し費用割引、無料職業紹介のほか、Uターン・Iターン者が農林水産業や伝統工芸・介護分野の産業を体験する場合に、滞在費の一部を助成する制度を設けています。

島根県は新規就農支援も特徴的です。農林漁業で新規就業を検討する場合、専業農家としての支援のほか、半農半X(副業・兼業農家)を前提とした支援事業も推進しており、それぞれの就農形態で就農前研修経費助成や就農準備資金、経営開始資金などの補助金が用意されています。

【事例②】岡山県岡山市

  岡山市では、特に住宅や就労を中心とした移住支援制度に力を入れており、購入の場合は最大30万円、賃貸の場合は33,000円を上限とした住宅支援補助金制度を設けています。

市では民間支援団体や業界団体・不動産業界団体で構成される移住・定住支援協議会により、各種相談会や移住体験ガイド・移住者交流会なども行われています。

就農支援では、市の農林水産課による「UIJターン園芸農業者支援事業」があります。

これは岡山市にUIJターン移住して園芸農業を始める方に、上限100万円、1/2以内の補助率で就農の初期投資を支援する制度です。

支援するのは農業機械・施設・資材の購入で、専業農家だけでなく兼業農家や後継ぎ農家も対象になっているのが魅力です。

【事例③】青森県弘前市

弘前市では、東京圏UJIターン就職等支援金や弘前市Uターン就職等支援金など、移住支援金を拡充させているほか、お試しハウスや暮らし体験など、都市出身者がスムーズに地域に馴染めるような移住前体験にも力を入れています。

弘前市の就農支援で特徴的なのは、農業里親研修制度です。これは就農希望者に対して、認定された里親農家が農業技術の指導、農地探し、地域定着などの総合的なサポートを行う短期間のトライアル研修と、その後1〜3年の里親実践研修を行う2段階の支援制度です。

この制度にも、就農希望者の研修受講のために住む住居の家賃補助が適用されます。

他にも弘前市では、新規就農者に対する国の交付金や、経営を進める設備投資に対して補助金や融資を行うなどの支援も行っています。

まとめ

さまざまな弊害が叫ばれてきたにもかかわらず、東京一極集中や地方自治体の過疎化はとどまることがありませんでした。しかし、近年の社会の変化によって、地方や農村の価値が見直され、UIJターンも盛り上がりを見せています。生まれ故郷や近隣の街で、農業で新しい暮らしを形成したい、都市にはない魅力を地方に見出したいと考えている人は、UIJターンによる新規就農は有望な選択肢となることでしょう。

参考資料

地域への人の流れに関するデータ|総務省 (soumu.go.jp)

調査結果の概要|総務省 (soumu.go.jp)

第5回 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査|内閣府 (cao.go.jp)

第1節 田園回帰の動向:農林水産省 (maff.go.jp)

1 UIJターンを伴う転職の実態|中小企業庁

地方移住をめぐる現状と課題|地方創生 内閣官房・内閣府総合サイト

UJIターン促進のための取組 (maff.go.jp)

デジタル田園都市国家構想交付金(地方創生推進タイプ(移住・起業・就業型))の交付対象事業の決定(令和5年度第1回)について (chisou.go.jp)

中途採用等支援助成金(UIJターンコース)|厚生労働省 (mhlw.go.jp)

くらしまねっと|しまね移住情報ポータルサイト

UIJターン園芸農業者支援事業 | 岡山市

新しい移住パンフレットができました!! | 岡山市

就農 |弘前ぐらし 青森県弘前市の移住・交流・UJIターン応援サイト

移住支援制度 |弘前ぐらし 青森県弘前市の移住・交流・UJIターン応援サイト

都会風吹かすな、…「正直すぎる」移住案内はアリ? 福井・池田町「七か条」がネットで炎上|東京新聞

3年で東京に戻ってきた。新婚さんが北海道移住に失敗した理由とは?|ソトコトオンライン

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