農業を行う上で、害虫や病気から農作物を守る必要が出てきます。
その際に一般的には農薬を使うことが多いですよね。
あなたは、農薬に関して正しい知識があると言えますか?
農薬は使い方を誤れば、様々な悪影響を及ぼします。
そして、「農薬=悪」という極端な偏見もあります。
農薬との良い関係を築くためにも、
もう一度農薬について復習してみましょう。
1.農薬についての理解
近年は、食や環境への意識が高い人が増えてきました。
それはそれで良いことではあるのですが…極端な偏見も生まれています。
農家にとっては便利な道具である「農薬」なのですが、
消費者側の意見として、「農薬=悪」という極端な偏見も生まれているのです。
だからと言って、完全無農薬が理想なのかと言えばそれも極論と言えます。
コストや時間もかかり、非常に手間がかかるため効率も良くありません。
さらには、有機肥料なども過剰に使えば弊害は生まれます。
農薬は病害虫や雑草による被害の予防や対策、
除草作業などの農作業の負担の軽減につながります。
防除にかかる費用抑制や、作業の省力化をすることが可能です。
適切な量と、正しい使い方をすることができれば、
環境負荷も抑えれますし、食の危険性につながることもありません。
農薬について、一度見直してみましょう。
2.どのように登録されるの?
2-1.農薬の基準
農薬はそもそも、「危険な道具」なのでしょうか?
主な農薬には殺虫剤、殺菌剤、除草剤などがあります。
農薬は非常に便利な道具ではありますが、
使い方を誤れば、目的を果たすどころか環境への負担を与えてしまいます。
そんな問題を発生させないために、公的な基準が設けられています。
農薬は「農薬取締法」に基づいて、
製造、輸入、販売、使用に至る全ての過程で規制されているのです。
その中心にあるのが「登録制度」です。
製造、輸入、販売する場合、農林水産省の登録を受けることが義務づけられています。
さらに、農作物への残留性や生物や環境への影響に関する基準が設定されています。
この基準を超えないよう使用方法が定められることで、安全確保にもつながっています。
2-1.農薬審査とは?
それでは、農薬はどのような審査を受けて登録されるのでしょうか?
〈農薬審査の大まかな流れ〉
- 申請を受けた農林水産省が、農薬の登録可否を問う検査指示を出す
- 提出された試験成績をもとに検査機関(FAMIC)が総合的に検査
品質が適正か否か
毒性の有無
農作物や土壌に対する残留性など - 検査機関が農林水産省に結果を報告
- 農林水産省が農薬登録可否を決定
検査機関であるFAMICから、あらゆる視点から検査されます。
厳しい基準をクリアして、登録許可が降りるという流れです。
明確なプロセスを通じて、
農作物を守り、人体に悪影響がない農薬に認可が降りるのです。
〈FAMICで行われる検査〉
- 農薬の薬効
- 薬害
- 安全性
- 製品の性質
これらについて検査が実施されます。
消費者が一番関心あるであろう「安全性の検査」においては、
- 農薬を使用する人への安全性
- 農薬が使用された農作物を食べた場合の安全性
- 農薬が散布された環境に対する安全性
これらに関する検査が行われています。
もちろんFAMICだけが安全性の確認を行うわけではありません。
まずは、登録申請者、すなわち農薬の製造者や輸入者が、
信頼できる試験機関に依頼します。
登録を申請する農薬の品質や安全性を確認するための試験結果等を整備します。
そして、FAMICに提出するという流れなのです。
FAMICはその結果から総合的に判断してから、
上記の安全性について検査を行います。
提出する試験成績は、薬効、薬害、毒性、残留性の4項目。
特に毒性については、重視されて調査されます。
急性毒性(短期間に多量の農薬を摂取した場合の毒性)や、
慢性毒性(少量だが長期間に農薬を摂取した場合の毒性)を調査するもの、
動植物体内で農薬が分解される経路等を把握するもの、環境への影響など…。
幅広く試験が実施されるのです。
3.残留農薬とは?
田や畑で使用された農薬は、さまざまな形で分解されていきます。
動植物や土壌微生物体内で分解されたり、
太陽光による光分解、水による加水分解など。
時間と共に減少していくというわけです。
ですが、そのごく一部が収穫物に微量に残留することもあります。
そのため農薬が使用された農作物を食べた時に、
健康に影響が出ないための残留農薬の毒性評価は必要不可欠なのです。
〈毒性評価〉
- 一日摂取許容量(ADI:Acceptable Daily Intake)
- 急性参照用量(ARfD:Acute Reference Dose)
これらが設定されているのです。
ADIとは「現在の科学的知見からみて健康への悪影響がないと推定される一日当たりの摂取量」
ARfDは「人がその農薬を24時間かそれより短い時間口から摂取した場合に健康への悪影響がないと推定される一日当たりの摂取量」
少し難しい専門用語が出てきました。
しかし、農業従事者が着目すべきは残留基準値ではありません。
「登録されている農薬の使用方法を守ること」が大切になります。
農薬の半減期(散布直後の農薬濃度が半分になるまでの期間)は、
ほとんどが数日から100日の範囲にあります。
つまり、ラベルに記載された使用方法に従って使用するようにすれば、
農薬は比較的速く、分解されていきます。
さらに、消費者は農作物を食べる前に洗ったり、
皮をむいたりしてから食べることが多いでしょう。
しかし、残留基準値の試験ではそのような行程はありません。
消費者が農作物を食べる前の行動から考えると、
実際の残留基準値の設定には、余裕があるのです。
もし、消費者が残留農薬を摂取していたとしても、
実際の残留基準値よりも少ない量を摂取していることになります。
しかし、これらはあくまでもラベルに記載された使用方法を守っている前提です。
使用方法を守らずに使用すると、基準値を上回ってしまう可能性もあります。
農薬の特徴をしっかりと理解しておきましょう。
その上で、適切な使用を心がけることが大切なのです。
農家として、農薬を安心・安全に使用するための鉄則と言えます。
4.農薬が分解される流れ
4-1.農薬と分解
殺虫剤や殺菌剤、除草剤など…さまざまな農薬があります。
いずれにせよ、目的に対して効果を発揮した後は、
速やかに分解されることが一番望ましいですよね。
田や畑に使用された農薬は、
動植物や土壌微生物による生物的な分解や
太陽光線による光分解、水による加水分解などの非生物的な分解によって、
比較的速やかに分解され、時間経過とともに減少して消失します。
それでは、生物的な分解と非生物的な分解では、
どちらの分解の方が影響が強いのでしょうか?
それは、生物的な分解が最も大きな影響を与えるのです。
つまり「残留性の少ない、微生物分解を受けやすい農薬」が、
安全性の高い農薬と言えるでしょう。
4-2.生物的分解とは?
まずは、生物的な分解の流れから見ていきましょう。
農薬の一部は、植物体内に吸収されて、
植物が持つ分解酵素によって代謝分解されたり、
植物が生育し、肥大することで薄まるなどの形で分解されていきます。
微生物は、一種類の農薬に対して多種類の分解菌が存在しています。
〈分解をしてくれる微生物の分類〉
- 農薬を、自分の成長に必要な材料とエネルギー源として利用できる微生物(農薬資化性菌)
- 共代謝※によって分解する微生物
※共代謝について
微生物がある有機物を分解するとき、それを増殖のための基質やエネルギー源として使っていない場合の代謝(引用元:土壌・地下水における微生物の分布)
農薬資化性菌は、農薬の構成成分を増殖に利用することができるため、
同じ種類の農薬を連続散布すると、増殖して土壌中の菌密度が上昇します。
これにより、農薬を分解する働きもアクティブになります。
共代謝によって農薬を分解する微生物の場合は、
農薬の分解によってエネルギーが得られるわけではないため、
農薬を分解しても菌密度のアップにはつながらないのです。
つまり、農薬を分解する働きも大きくは変わりません。
ただ、これらの微生物が農薬を分解した際に、
生じる中間代謝物が他の微生物によって分解されていきます。
これら複数の微生物の共代謝により、
農薬は最終的に無機化されていくというわけなのです。
この複数の微生物によって農薬が分解されていく過程からも、
土壌微生物の多様性はとても重要です。
4-3.非生物的分解とは?
もうひとつの分解システムが非生物的分解です。
①光分解
②加水分解
それぞれ解説していきましょう。
①光分解
土壌中では生物的な分解が主としたものになりますが、
太陽光が十分に入射する水中や土壌表面、大気中などにおいては
光化学反応による分解が主要な分解になります。
〈光化学反応の分類〉
- DIRECT PHOTOLYSIS(化合物の分子自身が光エネルギーを吸収することで起こる場合)
- INDIRECT PHOTOLYSIS(共存する物質を介して起こる場合)
に分けられます。
端的にいえば,ある物質が純水中で光分解される場合がDIRECTPHOTOLYSISで,その溶液に他の物質を添加してはじめて光分解される場合がINDIRECTPHOTOLYSISである。
引用元:中川昌之「農薬の光分解」9ページ『植物防疫VOL44』(1990年11月、日本植物防疫協会)
記事によると、多くの農薬が、地表で光化学反応を起こすと考えられる領域の光(290〜450nm)を吸収するとのこと。
地表で光化学反応を引き起こすと考えられる光の領域は290~450nmである(Crosby,
1969)。この波長光の吸収は98.6~63.5kcal/molの励起エネルギーに相当し,これは種々の共有結合の解離エネルギーに匹敵する。したがって,この波長領域に吸収スペクトルを持つ物質はDIRECTPHOTOLYSISを起こす可能性があり,実際,多くの農薬がこの領域の光を吸収する。引用元:中川昌之「農薬の光分解」9ページ『植物防疫VOL44』(1990年11月、日本植物防疫協会)
上記にある「励起」とは、
量子力学において原子や分子が外からエネルギーを与えられ、
エネルギーの低い安定した状態から、エネルギーの高い状態へと移動すること。
続いて“種々の共有結合の解離エネルギーに匹敵する”とは、
電子を共有することでできる結合(共有結合)を切断するのに、
必要なエネルギーに匹敵する、ということです。
土壌表面や大気中に届く領域の光を農薬が吸収することで、
DIRECT PHOTOLYSISが発生します。
さらに、光分解を促進する物質(光増感物質)の影響を受けて、
INDIRECT PHOTOLYSISを起こす場合もあります。
光増感物質にはカルボニル化合物(アセトン)、
クロロフィルなどが挙げられ、
加えて自然環境にも天然の光増感物質が広く存在しています。
②加水分解
化合物に水が作用して起こる分解反応。塩(えん)を水に溶かすと酸と塩基に分解する反応があり、加水解離ともいう。有機化合物ではエステルやたんぱく質などが水と反応して酸とアルコールや、アミノ酸などができる反応などがある。
出典元:小学館 デジタル大辞泉
農薬によって分解の程度は異なります。
速やかに分解するものもあればゆっくり分解していくものもあるのです。
5.まとめ
今回の解説は、「農薬の基礎知識」でした。
便利な農薬ですが、使い方を誤れば当然環境にも農作物にも弊害が生まれます。
基礎知識を身につけて、使い方を守り農作物を害虫や病気から守りましょう。
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