農業用ため池の役割とは?活用方法や管理方法を解説

農業を行う時に農地の近くに「ため池」があるという方はいますでしょうか?
農業をする上で「水」というのはなくてはならない物で「水」を農地に供給する方法は様々です。
その方法の1つとして「ため池」というものがあります。
この記事では農業用のため池について・活用方法・管理方法について詳しく解説していきます。

農業用ため池の役割とは?

そもそもため池はなぜあるのでしょうか?
ため池とは降水量が少なく、大きな河川に恵まれない地域などで農業用水を確保するために人工的に造られた池を指します。

そしてため池の役割は農業用水だけでなく、「生物の生息・生育場所の保全」「雨水を一時的にためる洪水調整」「土砂流出防止」など様々な役割を果たしています。
またため池は釣りなどを楽しむ憩いの場ともなっていますが、場所によっては禁止されているところもありますので注意が必要です。

ため池の構造について

ため池には雨水をためられるように造られており、「谷池」と「皿池」の2つに大きく分類されています。

▼谷池
谷を堰き止めて築いたため池です。堤体が高くて短いのが特徴で山に囲まれていることから大きなため池であることがほとんどです。
ため池の大きさは集水面積に比例するので貯水量も大きい傾向があります。
また谷池は集落の上流域に所在しているので、地震や大雨で決壊した場合は被害が大きくなると言われています。

▼皿池
窪んだ土地の周りに堤体を設けることで築いたため池です。
堤体が低くて長いのが特徴であり、集水面積は一般的に狭く貯水量も少ないです。
また中には用水を中継する役目を果たしているケースもあり、生活排水などが混じり水質が富栄養化している例もあります。

また親子池というのもあり、複数のため池が柵上に連なっている池を指します。

引用:https://www.maff.go.jp/j/nousin/bousai/bousai_saigai/b_tameike/attach/pdf/index-136.pdf">農林水産省

また、ため池の構造として水をためる「堤体」や洪水を安全に下流へ流すための「洪水吐き」、水や田畑などに取り入れるための「取水施設」などからなっています。
詳しくは下の図を参考にしてください。

引用:農林水産省

ため池の管理のポイント

ここからため池の管理方法について解説していきます。

管理者を知ること

ため池は基本的に管理者が存在しています。これは「農業用ため池の管理および保全に関する法律」により、ため池は誰が所有し管理しているのかを届け出ることが義務づけられたからです。

農業を行う際、周辺の地域にため池があれば管理者に水の使用方法について聞いておくことは重要であり点検方法を把握しておくことも大切です。

またため池は全国の約1割が行政の管理であり、残り全ては民間が管理するため池です。ため池の管理者がわからない場合は自治体などに問い合わせてみましょう。

点検を必ず行う

ため池はとても便利なものですが自然災害等で決壊すると重大な事故につながる恐れがあります。
基本的な点検箇所は堤体・洪水吐き・取水施設・周辺状況など約20項目があります。
【例】
・堤体にひび割れはないか
・洪水吐きにゴミや土砂の詰まりはないか
・取水施設のコンクリートと堤体の間に隙間はないか

また、ため池は基本的に秋・冬の時期は使わないため水をなくして底に溜まったゴミを掃除し、日光で干す「かいぼり」を行います。
また常に危険な場所はないか確認して、人が転落する危険性がある場合は転落防護柵や子供などが上らないように有刺鉄線などを設置するのも大事なことです。

またよく怠りがちなのが「草刈り」です。
草刈りは堤体の様子が見やすくなり異変にも気づきやすくなります。
ちょっとした管理が利用のしやすさ事故を防ぐポイントになります。

ため池の活用について

ため池というのは何も農業用水だけに使用するものではありません。
もちろんため池の大きさや深さにもよりますがため池は様々な活用方法がありますので解説します。

自然環境の保全

ため池は人工的に造られたものですが長年の利用によりため池やその周辺では地域によって異なりますが希少種も含めた多様な生物の生息生育の場となります。
植物や昆虫など様々な生物が生息すれば、良好な景観や水辺環境により地域の自然環境を形成し、近年重要視されている自然環境の保全に貢献します。

地域住民の憩いの場・観光地になる

ため池は花や生物などが多くなれば自然に触れることができる場所として地域住民の憩いの場や観光地としての役割も果たします。
また都市と農村の交流の場ともなり、訪れた人々に安らぎや潤いの空間となり、観光客が増えれば地域の活性化にも繋がります。

学習の場

子供や地域住民等が身近に魚や昆虫、水生植物などと触れ合うことができ小学校などの学習や自然観察の場としても提供できます。
また近くに農地があれば合わせて農業の仕事についても紹介することができ、近い将来農業を仕事とする子供も出てくるかもしれません。
ただし水害事故などに気を付ける必要があります。

洪水の調節・緊急時の水源

ため池が雨水を一時的に貯留することで河川の増水等を緩和させ洪水を軽減するとともに土砂の流出を防ぐなど下流域への被害を未然に防止しています。
逆に自然災害などで水が必要になった時に火事であれば消化用水や生活雑水として活用することもできます。

歴史的文化財としての活用

ため池は場所によって歴史的文化財になっている池もあります。
ため池の築造は古く地域の歴史でもありますのでため池に関係した昔話や伝説なども多く残っています。大切な水を守るため信仰の対象として水神様、龍神様等を祀っている池や地域の祭りを行っている池も多く地域の文化を育んでおり、観光地として人気のあるため池もあります。

ため池による被災事例と防災・減災対策について

最後に自然災害によって起きた「ため池の被災事例」、そして防災・減災対策について紹介します。

被災事例

平成30年6月28日から7月8日にかけて梅雨前線や台風7号の影響により西日本を中心に全国的に広い範囲で大雨となりました。この大雨は多くの地域で観測史上第1位となる降水量が観測され広範囲で長時間の記録的な大雨となり、1府10県に大雨特別警戒が発表されました。
この豪雨により、2府4県で合計32ヶ所の農業用ため池が決壊し下流地域に大きな被害をもたらしました。
大雨が収束した後も変状が見つかったため池において避難指示が相次ぎ、下流地域の住民を中心に更なるため池の被害の発生に不安が高まったものです。

被災事例を踏まえた防災・減災対策

こういった被災には様々な理由がありますが、大きな理由として「所有者交代による権利関係の複雑化」「利用者を主体とする管理組織の弱体化」など日常の維持管理が行われていなかったことが懸念されています。
こういった自然災害というのは必ず起きますが、起きた時の対策というのはしなければなりません。
そこで令和元年に「農業用ため池の管理及び保全に関する法律(ため池管理保全法)」が制定されました。

またもう1つの対策としてため池の所有者等による適正な管理活動を支援するため多くの都道府県で「ため池サポートセンター」が設立されました。

この「ため池サポートセンター」は、
・現地調査
・ため池管理者への技術指導
・ため池管理者を対象にした研修会
・ため池管理者からの相談対応等
などが行われています。

農業用ため池の防災・減災はこういったサポートを有効に活用することやため池に関する知見を有する「土地改良事業団体連合会」を活用する、ため池の設備を強化する国の補助金を使用するなどの取り組みが対策といえます。

農業用ため池の多くは古くから地域に存在し、農業用水の確保をはじめとする様々な機能があります。
一方で農村地域における過疎化・高齢化など農業用のため池を取り巻く環境は大きく変化しています。そのため自然災害時における農業用ため池の決壊リスクも高い状況にあると考えられます。
今回紹介した防災対策以外にも個人でできるような取り組みを少しでも行うことで国民の生活や命を守るためことにも繋がります。

まとめ

農業用ため池について役割・活用方法など紹介しました。

ため池というのは古く歴史があり、農業のみならずとても便利なものであります。
一方で大きな被害をもたらすモノであるということも認識しておく必要があります。
この記事を読んでため池の知識を得て、点検等に少しでも積極的になっていただけると幸いです。

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最後まで閲覧いただきありがとうございました。

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