農業は、人間の生活の大部分を占める食文化に対して、重要な役割を持っていますが、国土・環境の保全における機能や役割も担っているのです。
ですが、農業生産は多かれ少なかれ、環境自体に負荷を与えていることも否めません。
食糧生産に支障をきたさない範囲で、環境への負荷を軽減して、持続可能な農業の実現が世界的に求められています。
今回は、農業の環境保護に関係している代替施肥法について解説いたします。
要注意!マイクロプラスチック問題!
世界的に、環境保護の意識は向上しています。農業分野においても「持続可能な農業」を実現するため取り組みが広がっています。
現在、農業に関連しており、注目を集めてる環境問題としては「マイクロプラスチック」があります。
まず、マイクロプラスチックとはなんでしょうか。
海洋などの環境中に拡散した微小なプラスチック粒子。厳密な定義はないが、大きさが1ミリメートル以下、ないしは5ミリメートル以下のものを指す。海洋を漂流するプラスチックごみが紫外線や波浪によって微小な断片になったものや、合成繊維の衣料の洗濯排水に含まれる脱落した繊維、また研磨材として使用されるマイクロビーズなどが含まれる。
出典元:小学館 デジタル大辞泉
という意味です。
“海洋を漂流するプラスチックごみ”や“合成繊維の衣料の洗濯排水に含まれる脱落した繊維”、“研磨材として使用されるマイクロビーズ”とあると、一見農業とは関連がなさそうに感じられるかもしれません。
なにせ海洋ですから、地上で活動する農業には縁が遠く感じるのも無理はありません。
しかし、農業においても生産資材としてプラスチックが使用されているケースが多いのです。
その中でも被覆肥料※の被膜殻は、海岸に漂着するマイクロプラスチックになっていること判明しているのです。
※樹脂などの被膜に覆われた肥料。肥料成分がゆっくり溶け出すため、長期にわたって効果が持続する。(出典元:小学館 デジタル大辞泉)
農業に関連するプラスチック問題を解決する取組みとしては…
- 使用済み農業用フィルムを適正に処理する
- 生分解性の素材を用いた生産資材の利用促進
以上のような取り組みが挙げられます。
被覆肥料の被膜殻流出を防止する「代替施肥技術」もその取り組みの一環と言えるのです。
代替施肥技術とは?
化学合成緩効性肥料の活用
化学合成緩効性肥料とは、窒素成分を多く含む尿素の溶解を抑制するため、別の物質と化学反応させて作られた肥料のことを言います。
土壌中で加水分解反応や微生物による分解反応を受けることで無機態窒素が生成されます。
化学合成緩効性肥料には、以下のような種類があります。
- ウレアホルム
- IB
- CDU
- グアニル尿素
- オキサミド
(出典元:緩効性肥料-ルーラル電子図書館―農業技術事典 NAROPEDIA
)
化学合成緩効性肥料 | 内容 | 備考 |
ウレアホルム | 尿素とホルムアルデヒドの化合物 | |
IB | 尿素とイソブチルアルデヒドの化合物 | 名称はIBの他、イソブチルアルデヒド縮合尿素、イソブチリデンジウレア、IBDU |
CDU | 尿素とアセトアルデヒドの化合物 | 名称はCDUの他、アセトアルデヒド縮合尿素、シクロジウレア、クロトニリデン二尿素 |
グアニル尿素 | 石灰窒素を加水分解して生成したジシアンジアミドを硫酸やリン酸存在下で加水分解させて生成したグアニル尿素硫酸塩(GUS)とグアニル尿素リン酸塩(GUP)のこと(出典元:緩効性肥料-ルーラル電子図書館―農業技術事典 NAROPEDIA) | |
オキサミド | シュウ酸ジエステルとアンモニアを原料として合成された化合物 |
土壌中でゆっくりと分解されるため、肥効は緩効的に働きます。
硫黄コーティング肥料の活用
硫黄コーティング肥料は緩効性肥料の一種です。プラスチックではなく硫黄で肥料成分をコーティングしているのが特徴です。
先ほどご紹介した化学合成緩効性肥料と硫黄コーティング肥料は、一般的な被覆肥料と比較すると精密な溶出コントロールができないというデメリットが挙げられます。
ですが、代替案として注目をされている農業資材なのです。
ペースト肥料の利用
ペースト肥料とは…
窒素、リン酸、カリなどの原料肥料を粉砕し、廃糖蜜アルコール発酵副産物を加えて分散させ、ペースト状にした肥料で、肥料取締法上は液状複合肥料の一種である。
肥料そのものに被膜殻を使用しないため、マイクロプラスチックが発生しないのです。
専用田植え機の導入が必要になるものの、田植えと同時に、正確な位置に正確な量を土壌中に施用することができるのです。
そのため、施肥効率は高くなり、施肥量削減にも便利なのです。
流し込み肥料の利用
流し込み肥料とは、固体または液体の肥料を水口にセットし、水とともに肥料を流し込む方法のことを言います。
一定の圃場条件として、圃場が均平であるなど必要になります。
しかし、追肥を大幅に省力化することができるので、大区画の水田にはおすすめの方法といえます。
ドローンの活用
大幅な省力化と時間短縮に貢献する方法として、ドローンの活用が挙げられます。
デメリットとして、ドローン購入コストが生じるという面はありますが…追肥のタイミングや施肥量の調節がしやすい点や、ムラのない施肥が可能になることなどがメリットとして挙げられます。
徹底防止!マイクロプラスチック流出!
被覆肥料を使用する際に実践したい水田流出防止策が二つあります。
・浅水代かきを行う
水田からの流出が発生するのは主に代かき時です。
浅水代かき(湛水深をできるだけ浅くして行う代かき)は流出防止に便利な方法です。
浅水代かきは「マイクロプラスチックや肥料成分、汚濁水の流出防止になる」といった環境負荷を軽減する観点だけでなく、「田面が確認しやすく、均平が取りやすい」といったメリットもあります。
・流出防止ネットを設置する
物理的な流出防止策も効果的です。
嬉しいのは、流出防止ネットは100円ショップで購入できる製品だけで作ることができるという点です。
全国農業協同組合連合会(JA全農)が公開している流出防止策のチラシによると
- 玉ねぎネット(ネットの網目は2mm以下)
- BBQ用の網
- クリップ
- 園芸用支柱
以上の4つの素材があれば作ることが可能です。
他には目の大きな柵を用意し、ネットにゴミや雑草が詰まるのを防止するために、その柵をネットの外側に立てることが推奨されています。
上記対策についてはYouTubeにて動画が公開されています。
プラスチック被膜殻流出防止対策
流出防止ネットの制作手順が動画で紹介されています。とても分かりやすい動画なので、導入されたい方はぜひチェクしてみてください。
農家ができる環境保護
農業用廃プラは適正に処理
農業で出たプラスチックごみは、適正に処理するようにしましょう。
先述の通り、農業由来の廃プラは産業廃棄物です。法律に基づき適正に処理する「義務」があるのです。
不法投棄や不法焼却は法律において禁止されています。
廃プラはリサイクルをすることが基本です。もっとも、先述したサーマルリサイクルに回されてしまうものもありますが…。まずは、リサイクルされやすくするためには正しく分別する必要があります。さらに、⾦属や作物残渣、泥などは取り除きましょう。
一般社団法人日本施設園芸協会のHPには、「農業用使用済プラスチック適正処理の手引き」があります。
こちらの資料を参考にして、処理の流れについて確認しておくと良いでしょう。
農業用廃プラの排出を抑制する
廃プラの削減のためには、ムダな使用を控えていくのもおすすめです。
耐久性が高く、長い期間継続して使える被覆資材を選ぶことにより、ごみの排出を抑制することができます。
それに加えて、張り替え作業の省力化、コスト削減にも役立ちます。
さらに、再利用できるものを使うのも良いでしょう。
資材を選ぶ際、マテリアルリサイクルされやすい素材を選ぶようにするといいですよ。
分解性マルチの活用
「生分解性マルチ」の活用が注目を集めています。
作物が生育している間は、ポリエチレンマルチと同じ機能を果たしてくれます。さらに、収穫後に土の中にすきこむと土壌中の微生物に分解されてなくなるというものです。
しかし、生分解性マルチは、通常のマルチに比べると高価です。
さらに、黒の生分解性マルチを透明ポリマルチと比較すると、地温が上がりにくいために初期生育が遅れるというデメリットも挙げられます。
その一方で、収穫後にマルチを剥がす作業、乾かしてから処分する作業はなくなり、処分費もかからないというメリットが挙げられます。
ごみの減量、環境への配慮という目的から、生分解性マルチの購入費に補助金を出す地域もあります(東京都あきる野市など)。
お住まいの自治体に一度問い合わせてみると良いでしょう。
生分解性マルチを畑にすき込む際には注意点があります。
完全分解性の生分解性プラスチックを畑にすき込む行為は、産業廃棄物の処理(中間処理)に該当します。
そのため、廃棄物処理法に基づく処理基準を守る必要があります。
使用後の生分解性マルチをすき込む際は、周辺へ飛散、流出が起きないよう、しっかりすき込むことが大切です。
すき込みが甘かったり、分解条件が悪く、十分に分解されなかったマルチ等が目視できる状態で地表に残留していたりすると…「不適正な処理」として自治体から指導を受けるケースがあります。
生分解性マルチについてはこちらの記事もご覧ください。
【SDGs】生分解プラスチック活用法【エコ】
まとめ
今回は「マイクロプラスチック問題」についての解説でした。
農家には一見縁遠いとイメージされがちですが、農業資材でプラスチック素材のものはたくさんあります。
持続可能な農業の実現のためにも、環境に配慮した農業を心がけましょう。
豊かな地球環境があってこそ、栄養のある農作物を栽培できるのです。
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