現在、さまざまな分野でIoTが推進されていますが、
それは農業の世界でも例外ではありません。
農家の人材不足が問題視されている現在、
IoTを導入した「スマート農業」に注目が集まっています。
今回は、どのような形で農業にIoTを活用することができるのか、
実際の事例を交えながら解説していきます。
目次
IoTとスマート農業
IoTを導入したスマート農業が目指すもの
IoT導入事例一覧
IoT導入への課題
まとめ
IoTとスマート農業
最近よく耳にするIoT(アイオーティー)とは、
「Internet of Things」の略で「モノのインターネット」という意味です。
家電製品や車、住宅、工場の機械などの「モノ」にセンサーを搭載し、
ネットワークを通じてサーバーやクラウドサービスに接続され、
人を介さず相互に情報交換をする仕組みのことを言います。
この技術によって、人はどこにいても
モノが得た情報をリアルタイムで知ることができるようになりました。
例えば、通信機能を搭載したカメラが
自宅の画像をインターネット上にアップすることで、
外出中でもスマートフォンやパソコンで室内の様子を確認するなどです。
なお、よく似た言葉であるICTとは、
「Information and Communication Technology」の略で、
「情報通信技術」という意味で使われます。
これは、情報通信を使って人やモノを繋げる技術そのものを指します。
要するに、IoTはICTの中に含まれる概念のひとつです。
そして、このIoTやICT、さらにはロボット技術などの先端技術を活用し、
農業の省力化、高品質生産を実現する新しい農業を「スマート農業」と言い、
今後の農業発展に欠かせないものとして大きな注目を集めています。
スマート農業は農林水産省が推進しており、
日本は国を挙げて農業が抱える課題解決に向けて、
このような最先端テクノロジーを活用した取り組みを行っています。
IoTを導入したスマート農業が目指すもの
1.省力化と大規模生産の実現
現在の農業が抱える第一の問題は人手不足です。
スマート農業ではこの人手不足の解決策として、
あらゆる作業を自動化して生産性の向上を目指しています。
例えばトラクターなどの農機を自動操縦したり、
農園内の監視をドローンが行ったりと、
大規模な生産や管理を最小限の労力で行うことができます。
現在は人手不足に加えて高齢化も問題となっており、
農作業の省力化と労力軽減はこれらの問題解決に
繋がると期待されています。
2.天候や気象条件に臨機応変に対応
作物の品質や収穫量は天候に大きく左右されます。
そのため、スマート農業ではさまざまなセンサーを用いて
農地や作物のデータを取得し、
それらのデータを分析して適切なほ場の管理などを行います。
データに基づき生育状況や土壌の状態を把握することで、
水、肥料、農薬などの散布も
もっとも適したタイミングで行うことが可能になります。
このように、農業では天候や気象条件などに
臨機応変に対応する能力が求められますが、
頭を悩ませることなく管理がしやすい環境を整えています。
3.重労働や危険な作業から解放
農作業はかなりの重労働で、
肉体的な負担も大きく、怪我のリスクなどもあります。
農業の「きつい仕事」というイメージが、
新規就農を躊躇う要因のひとつになっていることは間違いありません。
しかし、スマート農業ではアシストスーツを着用したり、
危険な作業はロボットが行う仕組みを導入するなどして、
きつく危険な作業を避けることができるようになります。
4.初心者も取り組みやすい農業を実現
過去にデータとして存在しなかった情報を
数値として取得することができるのがIoTの大きな魅力です。
データを数値化して分析することで、
これまで農家の経験や勘などに頼ってきた部分を
再現性のあるものにすることができるのです。
熟練した農家の知識や技術をデータ化することで、
人力では対応しきれなかった範囲までカバーできるようになり、
初心者でも簡単に高いレベルの栽培を行えるなど
作物の品質向上にも大いに期待できます。
5.消費者に安心と信頼を提供
農業は食べ物を扱うため、
「安心安全」という観点は欠かせません。
消費者が求めるのは、より安全で美味しい作物です。
スマート農業では、クラウドシステムの導入によって、
消費者は生産者や作物の詳しい情報を得られるようになります。
一方、生産者は有益な情報を発信することで信頼を得ることができ、
スマート農業は消費者と生産者を繋ぐ役割も担っています。
参考:農林水産省
「スマート農業の実現に向けた研究会検討結果の中間とりまとめ」
IoT導入事例一覧
では、実際どのように農業でIoTが行われているのか、
全国の事例を見ていきましょう。
大規模水田の水管理を省力化
カネタ農場
千葉県山武市で水稲50haを営むカネタ農場は、
千葉県の「スマート農業導入実証事業」を活用して、
ひとつのほ場に水管理システムを導入。
水田の給水バルブと排水口に
通信機能とセンシング機能を持つ制御装置を設置することで、
水田の給排水を遠隔、または自動で操作できるようになりました。
同期間、他のほ場では35回もの作業を行ったのに対し、
システムを導入したほ場では代掻きから収穫前まで
約3ヵ月間の作業回数はゴミ詰まりを除去した1回のみと、
大幅な作業削減に成功しました。
参考:農林水産省 「農業新技術活用事例(令和元年度調査)」
ネットワーク化でぶどうを一括管理
奥野田ワイナリー
奥野田ワイナリーは、富士通が開発したネットワーク機器を導入し、
農園の気温や湿度、雨量データなどを取得できるようになりました。
また、農園には小型カメラも設置し、
リアルタイムでぶどうの様子を確認できる体制を整えることで
問題の早期発見、対策を行っています。
取得したデータを分析することにより、
ぶどうの適切な収穫時期なども判断可能になりました。
農機✖️ICTで日本の農業に生産性革命を
株式会社クボタ
株式会社クボタは、畑作と稲作の両方を手がける
世界有数の農業機械メーカーです。
IoTを駆使した農機の開発により、
「日本の農業に未来と希望を」をスローガンに掲げています。
無人での作業を可能にする自動運転農機や、
農薬散布や農場監視を見据えた農業用ドローンの開発による超省力化。
また、独自のクラウドサービス「KSAS」による、
農業機械と連携したデータ活用による精密化を推し進めています。
参考:https://www.kubota.co.jp/rd/smartagri/index.html
作物の安全管理で品質向上
株式会社ベジタリア
株式会社ベジタリアは、
さまざまなスマート農業のプロダクトを開発しています。
中でも「Field Server」は、
作物の安全管理が実現可能と注目されています。
ほ場の環境や生育状況を常にモニタリングし、
そのデータを解析することで、
現場を見なくても作物を管理することができます。
また、天候予測や生育環境の傾向を分析することにより、
さらに品質の高い作物の栽培を行うことが可能になりました。
参考:https://www.vegetalia.co.jp/our-solution/iot/fieldserver/
ハウスの潅水施肥をスマート化
ゼロアグリ株式会社
自動潅水装置「ゼロアグリ」は潅水と施肥をIoTとAI技術で自動化し、
「高収量・高品質・省力化」に貢献しています。
日射量と土壌水分量から蒸散量を推定し、
植物が必要としている量だけ潅水して自動で土壌環境を制御します。
従来のような経験や勘に頼らない作業が実現可能になり、
初心者でも農業に取り組みやすくなりました。
全国での導入が進んでおり、
2019年12月末時点では200台以上が使われています。
ドローンを活用した農業センシング
ファームアイ株式会社
ヤンマー株式会社とコニカミノルタ株式会社の出資により、
農業リモートセンシング・サービスを推進する
事業会社として設立されたファームアイ株式会社。
これまで数多くのサービスを提供しており、
ドローンによるリモートセンシング(※1)と
画像データの解析サービスもそのひとつです。
センシングデータや栽培履歴は蓄積して閲覧することができるので、
作業内容の共有やノウハウの継承にも活用されています。
(※1)センサー(感知器)などを使用して、
さまざまな情報を計測、数値化する技術の総称。
参考:https://ali.jp/2019/07/10/1692/
IoT導入への課題
多くのメリットや成功事例があることはわかっていても、
IoTを推し進める農家はまだまだ少ないのが現状です。
農家がIoTの導入に踏み切れない理由は、以下の理由が考えられます。
1. 初期投資やランニングコストがかかる
やはり、最も大きな理由はコストの問題です。
最先端のIoT機器は高額なものが多く、
通常の農機に比べてイニシャルコストは跳ね上がります。
例えば、トラクターや田植え機の場合、
2倍ほどの価格が相場です。
さらに、導入時の初期投資だけでなく、
維持費や通信費など月々のランニングコストもかかるため、
農家にとっての負担は決して軽くありません。
特に小規模農家が高額のIoT機器を導入するというのは、
あまり現実的ではありません。
このように、現状での農業へのIoTの普及は、
導入の段階でかなりハードルが高いと言えます。
2.的確に機器を活用し、データを活用できる人材が少ない
現在の農業従事者には高齢者が多いため、
最新の機器を使いこなせないという声も少なくありません。
仮に高齢者が集まる農村部にIoT機器を導入したとしても、
「そもそも操作方法がわからない」
となってしまうのは容易に想像ができます。
さらに、収集したデータを活用するためには
データの分析スキルも必要です。
貴重なビッグデータを正しく分析できれば問題ありませんが、
活かし方がわからなければただの数字で終わってしまいます。
今後はスマート機器を扱うためのサポート体制や、
農業分野でのITリテラシーを高める教育なども重要とされています。
3.IoT機器を使うインフラがない
環境的な問題として、
農村部にはIoT機器を導入するためのインフラが整備されていない
場合がほとんどだと考えられます。
IoT設置には電気や水道をほ場に引いたり、
通信環境も整えなければなりません。
このようなインフラ設備を業者に外注すると工事費も高くなります。
自分で引くことも可能ですが、それには専門的な知識が必要で、
余計な労力がかかってしまいます。
まとめ
日本政府は、2025年までに
「農業の担い手のほぼすべてが、データを活用した農業を実践していること」
を政策目標としています。
そして目標実現のために農家への各種補助金のほか、
新技術を持つベンチャー企業の事業参入を促進するなど、
さまざまな施策も実施しています。
農業の世界ではまだまだハードルが高いIoTですが、
多くの課題解決と新たな可能性を開花させるためにも、
業界全体が一丸となって今後も取り組んで欲しいと思います。
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