近年、環境保護と持続可能な農業の重要性がますます高まっています。
そのなかで注目されているのが、「多面的機能支払制度」です。
現在の農業は人手不足や担い手不足、他にも様々な課題を抱えており農家への負担が大きくなっています。様々な問題に対して1つ1つ解決し、どう向き合っていくかを考える必要があります。
本記事では「多面的機能支払制度」とは?メリット・課題について詳しく解説していきます。
多面的機能支払制度とは?
多面的機能支払制度(ためんてききのうしはらいせいど)は、農業や森林などの自然環境保全に対して、農家や地域の生計を支援するための制度です。
この制度は、生物多様性の保全や水源地の維持など、農地や森林が果たす多面的な機能に対して経済的な報酬を与えることで、持続可能な農業や環境保全を促進することを目的としています。
多面的機能支払制度では、農家や地域の参加者に対して、特定の条件や基準を満たすことで支払いが行われます。支払いの対象となる機能には、水質保全、土壌保全、景観維持、生物多様性の増加などが含まれます。農家がこれらの機能を適切に管理・維持することで、その価値が認められ、経済的なインセンティブが与えられる仕組みです。
農業に与える影響
多面的機能制度が農業に与える影響にどのようなものがあるのか説明します。
農業生産の多様化と収益の向上:多面的機能支払制度は、農家に対して環境保全や生物多様性の維持などの機能を報酬として支払います。これにより、農家は単なる生産だけでなく自然環境の保全にも取り組むことが奨励されます。農業の多様化や環境に配慮した経営手法の導入により、収益性の向上が期待されます。
地域の持続可能な農業活動の支援:多面的機能支払制度は、農家や地域の生計を支援する仕組みです。農業に関わる地域の雇用創出や経済活性化を促進し、地域の持続可能な農業活動の継続を支えます。
環境保全の強化:農業は水資源の利用や土壌管理などに直接的な影響を与えます。
多面的機能支払制度により、農家は環境保全に積極的に取り組む必要があります。水質汚染の予防や土壌の健全性の維持などが求められ、環境への負荷が軽減されます。
農業と環境政策の連携促進:多面的機能支払制度は、農業と環境政策の連携を促進する役割も果たします。環境保全や生態系の維持に対する農業の貢献が評価され、農業と環境のバランスを取りながら持続可能な社会を実現するための政策の一環となります。
多面的機能支払制度は、農業の持続可能性や環境保全の促進を目指す重要な制度です。農業の多様化や地域の経済活性化、環境保全の強化など、さまざまな面で農業にポジティブな影響を与えます。
多面的機能支払制度は日本でどれくらい浸透している?
「多面的機能支払制度」は、日本においては一部地域やプロジェクトで試験的な導入や実施が行われていますが、まだ完全に浸透したとは言い難い状況です。
実施地域の限定性:多面的機能支払制度は、主に農村地域や山岳地域など、自然環境への影響が大きい地域を対象としています。そのため、実施地域は限定的であり、全国的な普及は進んでいません。
試験的な取り組み:農林水産省や地方自治体などが中心となって、多面的機能支払制度の試験的な導入や実施が行われています。一部地域では、農家に対して環境保全や景観形成などの機能に対する報酬を支払うプロジェクトが実施されていますが、まだ全国的な拡大はされていません。
意識の高まりと需要の増加:環境保全や持続可能な農業への関心が高まる中で、多面的機能支払制度への需要も増加しています。農家や地域の関係者が環境への配慮や地域振興を重視し、制度の導入を検討するケースも増えています。
政策の動向:農林水産省や関連機関は、多面的機能支払制度の導入に向けて研究や検討を進めています。農業政策や地域振興策との連携を図りながら、制度の改善や拡大に向けた取り組みが行われています。
以上のように、多面的機能支払制度は日本においては一部地域や試験的な取り組みが行われているものの、全国的な浸透にはまだ時間がかかると言えます。しかし、環境保全や持続可能な農業の重要性が認識される中で、今後の普及拡大が期待される制度と言えます。
多面的機能支払制度の支払い対象となる機能とは?
多面的機能支払制度は農業全てに当てはまるわけではありません。
そこでどのような機能に当てはまるのか解説します。
水質保全:農業活動が水質汚染を引き起こす可能性があるため、水質の保全や水源地の管理が重要です。多面的機能支払制度では、農家が水質保全に貢献することで報酬を受けることがあります。
土壌保全:農地の土壌は、農業生産にとって不可欠な要素です。多面的機能支払制度では、農家が土壌の健全性を保つための適切な管理方法を実施することで報酬を得ることができます。
生物多様性の増加:農地や周辺の自然環境において、生物多様性の維持や増加が求められます。多面的機能支払制度では、農家が生物多様性を促進するための取り組みを行った場合に報酬が支払われることがあります。
景観維持:農地や農村地域の景観は、地域の特色や観光資源として重要です。多面的機能支払制度では、農家が景観の維持や改善に寄与することで報酬を受けることがあります。
炭素貯留:農業における温室効果ガスの排出削減や炭素の貯留は、気候変動対策の一環として重要です。多面的機能支払制度では、農家が炭素貯留に寄与するための取り組みを行った場合に報酬が支払われることがあります。
これらの機能に対して、地域や制度によって具体的な基準や条件が設けられます。農家がこれらの機能を適切に管理・維持することで、その価値が認められ、経済的なインセンティブが与えられる仕組みとなっています。
「多面的機能支払制度」の課題とは?
課題1:効果測定が難しい
多面的機能支払制度では、農地や森林が果たす機能の効果を評価する必要がありますが、それが困難であるという課題が存在します。
機能の効果を定量的に測定することは複雑であり、明確な指標や評価方法の確立が求められます。効果測定の困難さは、制度の信頼性や効果の正当性を評価する上で重要な課題となっています。
課題2:支払い金額の適正性が問われる
多面的機能支払制度では、農家や地域に報酬が支払われますが、その金額の適正性が問われる課題があります。支払い金額は機能の評価や農家の貢献度に基づいて決定されるべきですが、公平性や透明性の確保が難しい場合があります。適正な金額設定に関する議論や基準の明確化が必要とされます。
課題3:行政負担が大きい
多面的機能支払制度は行政が実施するため、行政負担が大きいという課題が存在します。
制度の運営や監視、支払いの手続きなどには多くの人的・資源的な負担がかかります。
また、効果測定や支払いの審査などの行政手続きにも時間とコストがかかるため、行政の効率的な運営や人員の確保が課題となっています。
これらの課題に対しては、効果測定手法の改善や標準化、適正な金額設定のためのガイドライン策定、行政プロセスの簡素化や効率化などが求められます。さらに、関係者の協力や情報共有の強化、適切な評価やモニタリング体制の整備も重要です。課題の解決に向けて、利害関係者や専門家の協力や意見交換を行い、より効果的かつ持続可能な制度の構築を目指す必要があります。
多面的機能支払制度の欧州連合での実績
欧州連合(EU)では、日本よりも早く「多面的機能支払制度」を導入して環境保全と持続可能な農業を促進してきました。EUの共通農業政策(Common Agricultural Policy)の一環として、多面的機能支払制度は重要な役割を果たしています。
EUでは、多面的機能支払制度を通じて以下のような成果が報告されています。
環境保全の促進:多面的機能支払制度は、農地や森林の環境保全に対する農家の取り組みを奨励してきました。農業地域の生物多様性の増加や水質保全の改善など、環境に対するプラスの影響が報告されています。
農業収入の多様化と経済活性化:多面的機能支払制度は、農業に関わる収入の多様化と経済活性化に寄与しています。報酬の受け取りにより、農家は環境保全や持続可能な農業活動に取り組むことができます。これにより、農業地域の経済活動や雇用の維持・創出が支えられています。
農業と環境政策の統合:多面的機能支払制度は、農業と環境政策の統合を促進してきました。環境保全や持続可能性に対する農業の貢献が評価され、農業政策と環境政策が連携する重要な手段となっています。
農家の意識変革と技術革新の促進:多面的機能支払制度の導入により、農家の意識が変わり、環境への配慮や持続可能な経営手法の採用が進んでいます。農家は環境保全のための新しい技術や方法を取り入れるための支援を受けることができ、技術革新が促進されています。
EUにおける多面的機能支払制度の成功は、環境保全と農業の統合における一つのモデルとして世界的に注目されています。
日本でも多面的支払制度の取り組みは注目されていますが、欧州連合の成功事例を見習い積極的に取り組んでいく必要があります。
まとめ
本記事では多面的機能支払制度について解説しました。
農業は世界的に衰退している産業であり、人々の生活にとって欠かせない産業です。
多面的機能支払制度のような農業の衰退を防ぐ取り組みを積極的に行う必要があると思っています。
また「みんなで農家さん」では農業に関する様々な情報を掲載しております。
農業従事者からこれから農家を目指す方まで役に立つ情報が掲載されていますので、ぜひご覧ください。
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最後までご覧いただきありがとうございました。
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