農業を行う上で、お世話になるのが農業資材。
その中でも、肥料は身近な存在ですし、活用することも多いでしょう。
肥料には、植物の生長に必要不可欠な養分が含まれています。
しかし、近年は肥料の需要増加などに伴い、
肥料の価格高騰が続いているのです。
下水汚泥を有効活用した肥料の存在が注目されています。
今回は、「下水汚泥由来肥料」を中心に、
循環型農業、肥料価格高騰への対策などを解説します。
目次
1.肥料価格高騰対策!肥料を工夫せよ
2.肥料価格高騰の理由とは?
2-1.輸入相手国と輸入量
2-2.肥料の消費量は世界的に増加傾向
2−3.肥料の調達は停滞中?
3.「下水汚泥由来肥料」の可能性
3-1.「下水汚泥由来肥料」とは?
3-2.下水中のリン活用!循環型農業への転換
3-3.汚泥肥料を配布している地域も
4.施肥コストを下げる対策
4-1.肥料コスト高騰!国からの対策
4-2.化学肥料の活用
4-3.農家に求められる対策
5.まとめ
1.肥料価格高騰対策!肥料を工夫せよ
農業において、肥料の存在は大きな要となります。
肥料には、植物の生長に必要不可欠な養分が含まれているためです。
〈肥料の三要素〉
・窒素(植物の成長を促進)
・リン酸(開花・結実をサポート)
・カリウム(根の発育を支援)
化学肥料は一般的に原油や天然ガスなどの化石燃料やリン鉱石、
カリウム鉱石等の鉱物資源が原料として利用されているのです。
日本はこれらを、中間原料
(化学工業で、原料から多数の工程を経て最終製品が作られる時、
中間で得られる化合物の総称。|出典元:広辞苑)の形で輸入しているのです。
2.肥料価格高騰の理由とは?
2-1.輸入相手国と輸入量
農林水産省によると、
日本はリン酸アンモニウム(窒素とリン酸を含む)と、
塩化カリウムはほぼ全量を輸入に頼っています。
〈主な輸入相手国〉
・尿素(窒素肥料の原料)………マレーシア及び中国
・リン酸アンモニウム……………中国
・塩化カリウム……………………カナダ
リン酸アンモニウムにおいては、
その輸入量は2020年7月〜2021年6月で51万2000トン。
その90%を中国が占めているのです。
塩化カリウムの主な輸入相手国はカナダですが、
4分の1をロシアとベラルーシから輸入しています。
2-2.肥料の消費量は世界的に増加傾向
世界における肥料の消費量は年々増加の傾向にあります。
なお、世界全体と比較してみると、
日本の肥料消費量は世界全体の消費量の0.5%ほどなのです。
〈肥料消費量トップ5〉
①中国 25.2%
②インド 15.4%
③アメリカ 10.6%
④ブラジル 8.8%
⑤インドネシア 2.9%
2−3.肥料の調達は停滞中?
リン酸アンモニウムの主要な輸入相手国である中国の輸出規制により、
中国からの調達が停滞しています。
中国は2021年10月から、
品質を確保するために輸出用肥料について成分の検査を強化、
輸出が事実上規制されている…というのが現状です。
背景には、国内供給の優先があるのではと考えられています。
また塩化カリウムにおいても、ウクライナ危機により、
輸入相手国であるロシアとベラルーシへの経済制裁が行われました。
両国へ送金することが難しくなり、輸入先を切り替える必要が出てきたのです。
日本は主要な輸入相手国であるカナダからの輸入量を増やす考えがあります。
ロシアとベラルーシに経済制裁を科す他国も考えることは同じです。
世界的に輸入先がカナダに集中してしまうと、
より価格が上昇する可能性が高くなってきます。
3.「下水汚泥由来肥料」の可能性
3-1.「下水汚泥由来肥料」とは?
このような、肥料の価格高騰が背景にあり、
「下水汚泥由来肥料」が注目されています。
汚泥とは「上下水道あるいは工場廃水の浄化に伴って多量に排出される固形物」
出店元:ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典
下水処理場や工場内の処理施設などでは、
生活排水やし尿、食品工場排水に含まれる多種多様な物質を
微生物により分解・吸着し、浄化しています。
浄化した水を放流することで河川等の水質汚染の防止にもつながります。
汚泥は、浄化の過程で生じる微生物の死骸が集まって沈殿したもの。
汚泥には植物に必要な養分である窒素やリンとともに、
重金属などの有害物質も含まれているのです。
汚泥は廃棄物として処理されています。
しかし、汚泥に含まれる成分を有効活用する方法の一種として、
「汚泥由来肥料」があるのです。
汚泥肥料の定義は「汚泥を乾燥や粉砕、発酵させることにより肥料としてリサイクルするもの」とされています。
引用元:農林水産省『汚泥肥料に関する基礎知識(一般向け) 』
汚泥肥料は有機質肥料の分類における「有機副産物肥料」の、
主な肥料として位置付けられています。
なお汚泥肥料の中で「下水汚泥肥料」は、
「下水場の終末処理場から生じる汚泥を濃縮、消化、脱水または乾燥したもの」のことです。
先ほど解説したように、汚泥には有害な物質も含まれます。
農林水産省は汚泥肥料に含まれる有害な重金属の基準を設定しています。
基準を超える濃度の有害重金属を含む製品の生産・販売は規制されています。
3-2.下水中のリン活用!循環型農業への転換
日本は化学肥料の原料として使われるリン鉱石の大半は輸入頼りなのです。
しかし、肥料の需要増加に伴う価格高騰や輸出規制などで、
簡単に手に入れることができなくなる可能性が高くなっています。
汚泥肥料、下水汚泥由来肥料の存在は決して新しいものではありません。
しかし、これまで輸入によって肥料が手軽に手に入ったことや
下水汚泥へのマイナスイメージから、積極的な活用はされてませんでした。
しかし、かつては人や家畜のふん尿などを堆肥にして、
農業は行われてきたのです。
下水中からリンを回収することができれば、
輸入資源の消費量を減少させることができます。
下水中に含まれるリンの量は、
化学肥料用に輸入している量の約14%に相当するといわれています。
とても高い割合…というわけではありませんが、
国内でまだ利用されていない資源を循環させることができれば、
循環型農業への転換が可能になります。
SDGsでも持続可能な農業への移行が掲げられています。
循環型農業はそのゴールへ合致する農業と言えるでしょう。
「下水汚泥由来肥料」はSDGsへの貢献も期待されます。
3-3.汚泥肥料を配布している地域も
資源リサイクルの観点から、地域によっては、汚泥肥料を無料配布しています。
〈汚泥肥料を配布の事例〉
・静岡県浜松市 下水処理場「東部衛生工場」
「し尿及び浄化槽汚泥由来の汚泥肥料」を配布
・大分県宇佐市
「し尿処理施設でし尿を処理する過程で発生する汚泥肥料」を配布
汚泥由来のリンを活用した肥料を販売するJAやメーカーもあります。
地域の資源を活用していることから、従来の肥料よりも2、3割安価で提供されてます。
農業分野のみならず、循環型社会の実現に向け、下水汚泥が活用され始めています。
肥料コストの削減や循環型農業に取り組む方法の一つとして
下水汚泥由来肥料の活用も考えてみてはいかがでしょうか?
4.肥料コストを下げる対策
肥料コストの高騰による対策。
農家にとっては、頭を抱えざるおえない、悩ましい問題です。
「下水汚泥由来肥料」以外のコスト削減方法についても知っておきましょう。
4-1.肥料コスト高騰!国からの対策
まずは、国の対策。代替調達先の確保と分散調達が挙げられます。
例えば、2022年6月29日の日本経済新聞によると、
全国農業協同組合連合会(JA全農)がモロッコからのリン鉱石の調達に踏み切りました。
モロッコからの輸入は、日本との距離が近い中国に比べると、
輸送コストがかかります。
しかし、いつ輸出が正常化するか予測できない中、
原料調達を1カ国に依存せず分散調達することが危機に備える上大切なことです。
4-2.化学肥料の活用
さらに、肥料コスト低減に向けた取り組みとして
化学肥料の生産効率を上げることにより、製造コストを引き下げること。
これにより、肥料価格を低減する取組も重要です。
JA全農は平成30年の春用肥料から、複数のメーカーが製造し、
全国で流通する科学肥料に対して新たな購買方式を導入しました。
〈新たな購買方式〉
・平成28年時点で約550あった銘柄を令和2年に24銘柄まで集約
・JAが農業者から予約数量を積み上げる
・競争入札にかけ、価格決定を行う
銘柄の集約と競争入札を行うことにより、購入先となるメーカーが半分に絞り込まれます。
その一方で、銘柄当たりの生産数量を大幅に拡大させて、
メーカーの製造コストを引き下げることができます。
この取組が行われる前の価格に比較すると、1〜3割の価格引き下げに成功。
なお、「化学肥料=悪」というイメージも一部で広まっていますが、
過剰な量や誤った使い方をしなければ、環境に影響はありません。
もっとも、有機肥料も過剰な量や誤った使い方をすれば、環境に悪影響が及びます。
バランスを考えて適量を使いましょう。
4-3.農家に求められる対策
各農家が、肥料コスト高騰において、できることはなんでしょうか?
農林水産省は、農家に対して以下の対策を呼びかけています。
〈農家への対策呼びかけ〉
・土壌分析を行い、肥料の投入量を控える
・局所施肥などで、肥料の投入量を控える
・国内資源の利用
・堆肥の使用
この中で、実践しやすい対策には「化学肥料と堆肥の併用」でしょう。
肥料メーカーの中には、通常の複合肥料よりも堆肥の配合を高め、
価格帯も少し安価な複合肥料の販売を拡大しているメーカーもあるのです。
化学肥料から完全に堆肥に切り替えると、
栄養バランスが変わる可能性も高いのです。
化学肥料の比率を控えつつ、
品質をみながら慎重に堆肥の使用を進めていきましょう。
農林水産省が2021年5月末に立ち上げた
「農業者の皆様へ」というページがあります。
農林水産省「農業者の皆様へ」
こちらは、効果的な肥料代節約の指南書となっています。
肥料コスト低減事例集も豊富です。
参考にしてコスト削減をしていきましょう。
5.まとめ
今回は「下水汚泥由来肥料」についての解説でした。
肥料コスト高騰から、注目され始めた下水汚泥由来肥料。
循環型農業の側面から見ても、良い影響がありそうですね。
農業を行っていると、障害は起きるものですが、
様々な工夫で乗り越えていきましょう。
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