ほうれん草は「緑黄色野菜の王様」と呼ばれるほど栄養価の高い優れた野菜です。
ほうれん草といえば「鉄分」のイメージが強いかと思いますが、他にもガンの抑制や動脈硬化予防など、私たちの健康な毎日に必要な栄養がぎゅっと詰まっています。
積極的に摂取したい「ほうれん草」ですが、栽培しやすい品種が多く、野菜の栽培経験がない方でも簡単に栽培することができます。
しかし、葉が黄色くなって大きく育たず枯れてしまうことや、花が咲いて生育不良になるなど、失敗する可能性も十分にあります。
この記事では、栄養とおいしさが詰まった魅力的な「ほうれん草」の栽培方法について紹介します。
また、上手に育てるコツや、初心者におすすめの品種などについても知ることができますよ。
「初心者だけどほうれん草を育ててみたい。」
「ほうれん草の栽培で失敗したので成功するコツを知りたい。」
「いつか収入につなげたいので需要の高い野菜を効率よく栽培したい。」
という方は、ぜひ参考にしてください。
ほうれん草は「緑黄色野菜の王様」
「緑黄色野菜の王様」や「総合栄養野菜」などと呼ばれることもあるほうれん草。
この理由はβカロテンをはじめとするビタミン類、ミネラル類、食物繊維などを多く含んでおり、栄養素の宝庫であることが関係しています。
ホウレンソウは、300年前に中国から入ってきた東洋の品種と、明治になって欧米から入ってきた西洋の品種に分かれます。東洋の品種は葉先がとがって切れ込みがあり、西洋の品種は葉先が丸くなっているのが特徴です。
ほうれん草の栽培難易度とは
栽培難易度★★☆☆☆(やや簡単)
ほうれん草は栽培難易度が低く、初心者におすすめの野菜のひとつです。
種まきから1~2ヶ月程度で収穫できるため、栽培期間が短く生長が早いです。
トウ立ちなどで生長不良を起こすこともありますが、適切な土づくりをすること、秋まき栽培をすることなど、ポイントをきちんとおさえれば、水やりも追肥もしなくても育てることができますよ。
プランターでも栽培可能なので、畑がない方にもぴったりです。
ほうれん草栽培の5つのコツとは
ほうれん草栽培は栽培期間が短いものの、栽培環境を整えてあげないとうまく育ちません。そのため、初心者にはやや難しい面も存在します。
しかし、ポイントを押さえながら栽培することでおいしいほうれん草を収穫することができますよ。
ここでは、成功に導くネギ栽培のコツを5つ紹介します。
適温で育てる
ほうれん草は高温を嫌う特徴があり、適温で育てることが重要です。
発芽の適温は15~20℃とされ、発芽は4℃までは可能です。
25℃以上では発芽が抑制され、35℃以上になると発芽できなくなります。
栽培適温は15~20℃で、低温に強くマイナス10℃~マイナス15℃にも耐えることは可能です。
逆に耐暑性は極めて弱く、25℃以上では生育が抑制され、立枯病、根腐病などの病害が多発します。
そのため、気温が高くなりやすい春まき栽培よりも、秋まき栽培のほうが失敗を減らすことが可能です。
土壌を酸性にさせない
ほうれん草の大敵は酸性土壌です。
酸性の土壌で栽培すると、全体的に葉が黄色くなり、枯れてしまいます。
最適はPH6.5、一般的な土のPHは5.0~5.5位。
そのため、栽培をはじめる前の土づくりが重要です。
カキ殻・帆立貝殻を粉砕した有機石灰や苦土石灰、堆肥、ボカシ肥などをまいて、すきこんでおきましょう。
水はけを良くする
ほうれん草は排水が悪いと生育が悪く病気になります。
最初のタネまきの時だけはたっぷりと水をあげますが、後は収穫までほとんどいりません。消石灰は土が固くなるので避けて、なるべく有機石灰を使いましょう。
また、排水が悪い場所では、必ず畝立てをすることが必要です。
トウ立ちを予防する
「トウ立ち」とは花芽が分化することをいいます。
花が咲くと栄養分が花へ取られてしまい、品質が悪くなるため、避ける必要があります。
トウ立ちは日照時間に影響されるため、暖かい時期に収穫する春まきは非常にトウ立ちしやすいです。
秋まきはトウ立ちしにくく、はじめてほうれん草を育てる方におすすめです。
街灯やネオンサインなどの明かりにも反応するため、夜間でも明るい環境ではほうれん草があっという間にトウ立ちします。
ほうれん草を栽培するときは夜間の明かりにも注意して場所を決める必要があります。
また、トウ立ちしにくい品種も多く存在するため、それらを選ぶことで失敗を避けることが可能です。
初心者におすすめのほうれん草の品種とは
ほうれん草にはいくつか種類があります。
ここでは、ほうれん草の種類の特徴と初心者におすすめの品種について紹介します。
ほうれん草の種類とは
参照:910022717.jpg (881×850) (alic.go.jp)
【東洋種】
主に秋まき専用として使われる種類です。
葉肉が薄く、葉の形はトゲのような段(欠刻)が3段以上あります。
葉柄の元や根は濃い赤色で葉質がよく、土臭さが少ないのが特徴です。
タネの形状は針種(角種)で、タネまき時にはトゲに注意が必要です。
【西洋種】
主に春まき専用として使われる種類です。
葉は肉厚く、トゲのような欠刻が少なく、ちぢみのあるものもあります。
葉柄の元や根は淡い赤色で、土臭さが強いです。
タネの形状は主に丸種ですが、中には針種もあります。
【F1(一代交配種)】
東洋種と西洋種の交配によって育成されたいいとこどりの種類です。
春まき、秋まきのどちらも可能です。
一般に生育が早く、葉肉が厚く、収量が多く安定したものが多いため、初心者におすすめです。
現在の主要品種は両者の特性を併せ持っ た F1 品種で、育てやすく味もよく、市場を ほぼ独占しています。
ほうれん草のおすすめの品種とは
【アクティブ】
参照:暑さに強い ほうれん草:アクティブ[野菜タネ サカタ]:種(タネ) 『園芸ネット』本店 通販 engei.net
トウ立ちが遅く、べと病に強いため、タネまきのタイミングがずれても失敗が少ないF1種です。
葉は広く濃い緑色で、浅い切れ込みが入ります。
生長がやや遅いものの立性で株張りがよく、たっぷり収穫できます。
【サンライト】
参照:Amazon | サカタのタネ 実咲野菜3404 どっさりほうれん草 サンライト PRIMAX 00923404 | 野菜
トウ立ちが遅く、早春~初夏と夏~秋まきができる暑さに耐性があるべと病に強いF1種です。
肉厚で丸みをもった葉がたっぷりと茂る栽培しやすい品種です。
【早生サラダあかり】
参照:ほうれん草 あかり – 検索 画像 (bing.com)
アクが少なく生食が可能なサラダ用のF1種です。
生育が早く葉枚数が多く、株張りは良好で栽培しやすいため、初心者にもおすすめです。
ほうれん草の栽培時期
参照:ホウレンソウの育て方・栽培方法|失敗しない栽培レッスン(野菜の育て方)|サカタのタネ 家庭菜園・園芸情報サイト 園芸通信 (sakata-tsushin.com)
ほうれん草は基本的に春まき・秋まきが基本です。
夏まきも可能ですが、暑さに弱く失敗しやすいため、初心者は避けたほうがいいでしょう。
春まき栽培:3月~5月上旬に種まきをし、4月下旬~6月上旬に収穫します。
秋まき栽培:9月~10月に種まきをし、10月~12月に収穫します。
種まきから収穫までの期間は春まきは1~1.5ヵ月、秋まきは1.5~2か月程度です。
栽培期間は他の野菜と比べても短期間といえます。
タネまき準備
【土づくり】
先述したようにほうれん草は酸性の土壌に弱いです。
酸性土ではほとんど生育せず、赤や黄色い葉になって枯れてしまいます。
そのため、タネまき準備として石灰で中性化することが必要です。
酸性の程度によって加減しますが、苦土石灰や有機石灰を200~300g/㎡が適量です。
これは、他の野菜の倍程度の量になりますが、ほうれん草栽培には多めの石灰が必要になります。
石灰はタネをまく7日前までに行ないましょう。
また、その石灰肥料が有効に働くようにタネまきの30日前までに完熟堆肥を入れます。
牛糞堆肥などで1~2kg/㎡は必要です。
肥料は成分量でチッソ20~25g、リン酸10~15g、カリ10~15gとされていますが、10:10:10の配合飼料で約200g/㎡程度の元肥だけで十分です。
ちなみに、ほうれん草の生育期間は2か月程度なので、追肥の必要はありません。
【畝づくり】
高さのない平畝で作る場合は120㎝幅で種まきの溝を4条、高さのある高畝で作る場合は90㎝幅で2条にします。
耕土が最低でも45㎝以上になるように深めに耕します。
タネまき
用意した2~4条の溝にスジまきします。
1㎡あたりのタネの量は10mlで、1週間程度で発芽します。
春まきでは日照時間が長い影響でトウ立ちしやすいため、やや少なめにタネをまき、株間が狭いことによってストレスがかかり、トウ立ちを進んでしまうことを防ぎましょう。
ほうれん草には夏まき栽培も存在しますが、発芽適温である20℃以下に保つことが難しく、初心者にはおすすめできません。
気温の下がった秋まきや春まきであれば水分量に注意すれば、発芽しやすくとても失敗が少ないでしょう。
タネまき後は、タネの上から1㎝程度の土をかぶせ、軽く上から押さえて、タネが土の水分を吸収しやすいようにします。
その上にワラを敷き、乾燥や強い雨による被害を防ぎます。
手入れ
【追肥】
追肥は基本必要ありませんが、生育状況をみてチッソ主体の速攻肥料や液肥をあたえましょう。
もし低温期の栽培で収穫までの期間が2ヶ月以上に及ぶときは、元肥が効果が切れてきます。
このような場合は25g/㎡程度の追肥を行います。
寒さが厳しい時期は布などをべたがけしておくと高い品質が保てます。
【間引き】
本葉が出始め、本葉4~5枚の頃、土が乾燥していない時に、密生している部分を手で間引きましょう。
本葉が15枚くらいになれば間引きながら収穫をしましょう。
収穫
収穫では、春まきでは葉の数が8~10枚、秋まきでは15~20枚の頃に収穫するのが最適です。
大きいものから間引きして収穫します。
また、「えぐ味」の基になる硝酸態窒素は収穫方法によっても変化します。
朝どりより夕どりの方がホウレンソウの硝酸態窒素が少なく糖度も 高くなるためおすすめです。
病害虫とその対策方法
ほうれん草は比較的病害虫の被害にあいにくい野菜ですが、土壌が酸性気味になったり気温が高くなると病気が多発します。
ほうれん草に発生しやすい病気は炭そ病、立枯病、べと病、モザイク病などです。
また、アブラムシ、ハダニ、ヨトウムシ、ネキリムシの害虫被害も起きやすいです。
対策としては連作を避けることです。
ほうれん草は連続して育てると連作障害が発生し、病気が発生してしまうため、一度栽培した場合、2年以上空けるようにしましょう。
また、ホウレンソウのべと病は低温で多湿条件が続くと発生しやすくなります。
タネの厚まきや排水が悪い土壌は発生しやすくなるため避けましょう。
モザイク病のウイルスを媒介するアブラムシ類は、防虫ネットや黄色の粘着テープなどで防除することができます。
また、畑周辺の雑草は、アブラムシ類の飛来源となりウイルスの保毒源となるので除草しておくようにします。
ウイルス性の病気(モザイク病など)は薬剤による治療が一切効きません。
発生する前にウイルス性の病気を媒介する害虫(アブラムシ類・センチュウ類)の飛来・寄生には細心の注意を払うようにしましょう。
べと病や炭そ病などカビによる病気の発生は多湿な土壌が原因です。
水はけが悪い土壌・雨が多い気候で病気が発生しやすくなるので、梅雨時期と秋の長雨時期は特に注意が必要です。
春まきを避けるか、水やりは表面が乾燥した時に最低限行うようにしましょう。
ほうれん草の魅力と楽しみ方とは
ここでは、一年を通しておいしく楽しむことができるほうれん草の魅力について紹介します。
優れた栄養価をもつ
ほうれん草は「緑黄色野菜の王様」と呼ばれるほど、優れた栄養価をもつ野菜です。
ミネラルが豊富に含まれているだけではなく、ビタミンA(カロテン)、 ビタミン B1、ビタミン B2 も多く含むので、ホウ レンソウの栄養分は驚異的とさえいえます。
緑黄色野菜の中でも抜群の栄養価を誇り、骨を 形成するカルシウムやマンガン等のほか、豊富な 栄養素がバランス良く含まれています。
そのため、
- 鉄分や葉酸による貧血予防効果
- β‐カロテン、ビタミンAによるがん抑制作用
- ビタミンC、Eなどの抗酸化ビタミンによる動脈硬化予防
などの効果が期待されています
幅広い料理に使われる
ほうれん草はうまみが強い野菜であり、メインから副菜までさまざまな料理に使われます。
胡麻和えやお浸しのような和食だけではなく、グラタンやオムレツなどの洋食にもよく合います。
また、ほうれん草の鮮やかな緑色は料理を鮮やかに彩りよくしてくれる魅力もあります。
ほうれん草には独特の「アク」があるため、ゆでたり炒めたりといった加熱して食べる方法が一般的ですが、中にはアクの少ない品種もあり、サラダにして生食することも可能です。
生食することでほうれん草の新たなおいしさを楽しむことができますし、ほうれん草の優秀な栄養分を熱で溶かすことなく摂取することができますよ。
冷凍保存が可能
ほうれん草は非常にデリケートで鮮度が落ちるのが早い野菜です。
冷蔵保存では2~3日しか新鮮な状態を保てませんが、冷凍保存をすることで1か月程度はおいしい状態のほうれん草を食べることが可能になります。
さらに、冷凍することで栄養価も損なうことなく閉じ込めることができますよ。
保存方法は、洗ってカットしてそのまま保存袋に入れるだけです。
かさを減らすために茹でてから保存することも可能ですが、筋っぽさが残ってしまうこともあるため、手間のかからない生のまま保存する方法がおすすめです。
自分で栽培し、大量に収穫して食べきれない場合も冷凍保存をすることで、長期間楽しむことができるのは嬉しいですね。
まとめ
緑黄色野菜の王様と呼ばれる「ほうれん草」の栽培方法のコツとその魅力について紹介しました。
ほうれん草は他の野菜と比べても栽培期間が短く、野菜栽培の経験が浅い初心者にもおすすめの野菜です。
ただし、土壌が酸性に傾かないように土づくりをしっかりすることや、トウ立ちをしにくい秋まき栽培で育てること、水を与えすぎないようにするなどのポイントをしっかりと押さえることが重要です。
はじめて家庭菜園に挑戦するという方も経験者の方も、今回紹介した内容を参考にほうれん草の栽培にぜひチャレンジしてみてください。
また、ほうれん草はミネラルやビタミンが豊富で、優れた栄養価をもつ緑黄色野菜です。
うまみが強く味が良いだけではなく、彩りの良さも魅力のひとつであり、さまざまな料理に活用されています。
年間を通して需要が高いため、栽培に慣れたら自分で販売し、収入を得ることもできます。
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家庭菜園についてさらに詳しく知ることができるだけではなく、もっと大きな規模でやってみたいという方や、収入につなげてみたいという方にとって、必要な情報を知ることができます。
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参考文献:
市川啓一郎著「タネ屋がこっそり教える 野菜作りの極意」一般社団法人 農山漁村文化協会発行,2021年
林重孝著「有機農家に教わる もっとおいし野菜のつくり方」社団法人 家の光協会発行,2011年
日本土壌協会「環境にやさしく美味しい農産物」:TK25_P02-P19_final.indd (japan-soil.net)
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