畜産農家でどうしても無くせないのが家畜から排泄される糞や尿です。
この糞や尿の他にも排泄物とされる物は年間でも相当の量がでています。
畜産農家ではこの排泄物の処理方法について色々と問題視されています。
問題視されている点としては悪臭問題です。
糞や尿、飼料や家畜特有の匂いは悪臭として苦情に繋がっています。
現在では住宅地の発展などが進み、昔からその地域で畜産農家をしていたとしても周辺の環境の変化で苦情に繋がるといったケースがあります。
時代の変化といえばそうかもしれませんが、畜産農家もそれに対応していかなければなりません。
昔は素掘りや野積みで管理していた物もきちんとした施設で管理しないといけない規制が出来たりと規制のルールも変化しています。
このように変化している中で排泄物をただ処理するだけではなく「何かに再利用することができないか」といった考えがでてきました。
毎年出てくる何万トンの排泄物をただ処理するだけではなく、再利用することができれば処理費用の削減や資源としても有効な物となります。
この記事では、畜産農家の排泄物問題と排泄物の有効利用として活用されているものを紹介していきます。
どんな問題があるのか、排泄物に有効利用する方法があるのか少しでも知って頂ければと思います。
畜産環境の現状
畜産環境の現状としてまず昔と現在で周辺環境がどういった変化をしてきたのかについて紹介していきます。
畜産農家を取り巻く環境の変化として、地方の発展があります。
地方の発展とは、農業を行う地域の近くまで住宅化が進み農家の近隣まで人が来るようになったことです。
これの影響としてこれまでになかった匂い問題として苦情が発生するようになってきました。
理由としては新規できた人には農業特有の匂いに対する免疫がなく悪臭と感じてしまうといったのが苦情の原因に繋がっています。
また、畜産業の農業の専業化や畜産の規模拡大に伴う排泄物の増加なども悪臭の原因です。
農業の専業化と事業規模の拡大は必然的に家畜が増加することになります。
家畜の増加は匂いの発生源が増加することでもあるのできちんとした処理を行っていなければ匂いは拡散してしまいます。
他にも新規参入者が排泄物の処理を適切に処理する方法を理解していないなど新規参入の後の対応が近年畜産農家が増加しているのに対して中途半端な現実もあります。
畜産業の苦情の発生率はここ十数年ほぼ横ばい状態です。
出典:農林水産省「畜産経営に起因する苦情発生状況」平成29年2月
家畜の排泄物量
家畜の排泄物は年間8300万tとされています。
この量だけでも相当な量が排泄されていることがわかると思います。
畜種ごとに内訳を見ると下記のようになります。
乳用牛 約2357t
肉用牛 約2442t
豚 約2238t
採卵鶏 約745t
ブロイラー 約514t
家畜の中でも牛の排泄物はやはり多くなっています。
もちろん牛と他の家畜では体の大きさがそもそも違うため排泄物の量が牛が多いのは当然になります。
しかし、ここでみて頂きたいのが豚の毎年の排泄物の量は牛と同等程度発生している点です。
同程度発生しているということは飼育の数がそれだけ多いということになります。
排泄物のデータからみてもこういった現状がわかります。
家畜排せつ物法
家畜排せつ物法が定められてた経緯としては、元々畜産農家では排泄物の処理として野積みや素掘りで管理しているような現状でした。
近年環境問題が重視されるようになってこの素掘りや野積みが環境問題があるとされるようになりました。
また、悪臭についても問題になっているためきちんとしてルールを定める必要があるとして家畜排せつ物法が定められました。
概要として下記のようになります。
〈目的〉
畜産業を営む者による家畜排せつ物の管理に関し必要な基準を定めるとともに、家畜排せつ物の処理の高度化を図るための施設の整備を計画的に促進する措置を講ずることにより、家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進を図り、もって畜 産業の健全な発展に資する。
〈概要〉
1、農林水産大臣は、家畜排せつ物の管理の方法等に関し、畜産業を営む者が遵守すべき基準を定め、畜産業を営む者は、その基準に従い、家畜排せつ物を管理しなければならない。(基準に従わない場合は、都道府県知事より指導・助言・勧告・命令)
2、利用の促進を図るため、農林水産大臣は、「家畜排せつ物の利用の促進を図るための基本方針」を策定。都道府県は、 基本方針に即し、各都道府県計画を定めることができる。
3、畜産業を営む者は、都道府県知事から処理高度化計画の認定を受けることができ、計画に従い施設整備のために必 要な資金を日本政策金融公庫から借り受けることができる。
参考、引用元:農林水産省https://www.env.go.jp/council/09water/y0917-03/mat03.pdf
これらの内容を簡単にまとめると、排泄物を処理するための施設の整備を強化して促進していくこと。
管理をきちんとしない場合には段階をおって罰金を処すことができるということです。
特に段階をおって指導、助言、勧告、命令まで段階を踏んでも是正されない場合には罰金として50万以下を処するとされているので注意が必要です。
また、この指導・助言では現場に検査があります。
この検査を拒んだ場合や不適切な報告をした場合にも罰金として20万以下を処されることになります。
排水対策
畜産農家から排出する汚水には窒素やリンなどが含まれているために流失した場合には水質汚濁の原因になります。
そこで排水に対して水質汚濁防止法によって一定規模以上の畜産事業所から排出される汚水については、所定の水質を 満たすよう処理を行うことが義務付けられています。
事業者は、排出水について、1年に1回以上、特定施設の設置に係る届出事項(硝酸性窒素等については日排水 量に関わらず、特定施設の設置の届出の対象)について、公定法により測定し、その結果を記録・保存する。
畜産経営に起因する水質汚濁防止対策として、
1 家畜排せつ物の適正な管理の徹底
2 浄化処理施設等の整備に対する支援 等の措置を講じている。
とされています。
参考、引用元:農林水産省https://www.env.go.jp/council/09water/y0917-03/mat03.pdf
排水には排泄物を処理するための物も含まれているので水で清掃したものが垂れ流しで流失しないように十分注意してください。
排泄物の利用「基本方針」
家畜の排泄物が毎年数千万トンと排泄されていることからもこれらをただ処理するだけでは非常にコストがかかってしまいます。
そこで排泄物を利用するための基本方針を農林水産省では公表しています。
その中で利用するために2つの内容を推進しています。
1、排泄物から堆肥生産
2、排泄からエネルギー生産
上記の2つについてさらに生産を推進していく必要があるとしています。
1、排泄物から堆肥生産
排泄物からの堆肥生産は持続的かつ循環的な農畜産業の実現のために必要とされています。
家畜排泄物を適切に処理して堆肥化することで、排泄物をそのまま堆肥として土地に還元するよりも水分や悪臭の除去など様々なメリットがあります。
堆肥化させたものには次に地域内の利用を促進させること、広域的に流通することが大切であるともされています。
地域内の利用促進では良質な堆肥を適切に施肥することにより、まずは自給飼料生産を推進することが重要とされています。
現在の畜産農家の飼料はほとんど海外からの輸入に頼っている状況になります。
そのため国内での生産を高めるためにも堆肥の利用から飼料の自給率を高めることは非常に重要になります。
次に広域的に流通することですが、排泄物を処理して堆肥にするということは基本的には近くの場所でしか処理がされていません。
つまり、そこから堆肥を使用するために利用することができるのも基本的にはその地域になります。
しかし、これらを広く流通することができれば排泄物の利用を拡大することにも繋がります。
2、排泄物からエネルギー生産
堆肥以外の利用方法として排泄物からエネルギーを生産することが推進されています。
排泄物からエネルギーを生産する方法としてバイオマス発電などがあります。
この排泄物からエネルギーを生産することは石油などに変わる第二のエネルギー源とされています。
家畜はなくなることがないため、排泄物もなくなることがありません。
そのため、持続的に利用が可能になると期待されています。
また、生産されてた電気などのエネルギーを売買することで農家にプラスのビジネスにもなるとされています。
畜産環境の問題解決に向けて
畜産農家の悪臭問題として処理方法が問題になってきました。
しかし、現在利用の促進として堆肥にしたりエネルギーの生産にしたりと排泄物を有効利用する方向になっています。
また、この有効利用には大きなメリットがあります。
それは適切な処理を行うことで悪臭の減少が見込まれるからです。
堆肥生産やエネルギーの生産は適切な施設でなくては処理することができません。
農家としても排せつ物法があるために不用意な処理をすることができないのでこういった再利用するための施設を使うことができればお互いに有効なメリットになります。
このため、悪臭問題と処理方法の問題を解決できるために畜産環境の問題も減少させtいくことができます。
まとめ
畜産の現状として周辺環境の変化が大きくなってきています。
1、農業地域の住宅化
2、環境問題に対する意識の向上
農業地域の住宅化はどうしようもない問題になりますが、だからといって農家側は悪臭問題を解決しなくてはいいわけではありません。
近隣の状況が変化した際にはそれに合わせてやはり対応して行かなくてはいけません。
環境問題についても排泄物から発生する有害なものが流出したりと環境的な問題が話題になっています。
そのため、素掘りや野積みのような管理ではいけません。
適切なルールにしたがって不浸透性の場所で管理する必要があります。
最後に排泄物の利用として、堆肥化とエネルギーの生産があります。
排泄物を有効に利用することで毎年何千万トンと排出される排泄物を有効に利用することができれば処理費用だけではなく、持続的かつ循環的な農業に繋げることができます。
ただの排泄物が少しでも有効的に活用することができれば環境問題の解決だけではなく、石油に変わるエネルギーにもなるとされているため今後もさらなる推進によって排泄物の
有効活用に注目して頂きたいと思います。
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