昨今、若い世代を中心に農業への関心が高まっています。しかし、農業は会社やお店などの他の産業とはまるっきり勝手が違います。これから農業を始めたい、仕事にしていきたいと思っていても、何をどこから手を付ければいいのか、分からない人も多いと思います。
そんな新規で就農を考えている方に向け、今回紹介するのが職場体験です。
職場体験では農業の何がわかり、何を得られるのか、見ていくことにしましょう。
農業の職場体験とは?
農業の職場体験は、田植えや稲刈り、野菜や果物の収穫、時には食品加工など、農産物の生産現場で行われている作業を実際に自分たちで体験することです。
多くの方は子どもの頃学校の授業で工場見学や、お店での商品作り体験などをしたことがあるでしょう。しかし、農業の職場体験の場合は他の仕事と違い、目的の違いによって行う作業の種類や範囲も変わってくるのが特徴です。
農業体験の目的
農業体験にはさまざまな目的があります。その中には、
- 学校教育の一環として行われるもの(食育・環境などの総合学習)
- 大人のリフレッシュやストレス解消
- 安心・安全な農産物への理解を深める
- 企業の社員研修や福利厚生プログラム
など、多岐にわたります。こうした体験に共通するのが、日本の食や農林水産業に対する関心や理解を深め、生産者への感謝や食べ物を大事にする心を養うという目的です。
農業の担い手を育てるための職場体験
そして農業の職場体験のもう一つの目的は、年々減少しつつある農業の担い手を育てることにもあります。農業への理解や関心を深めることで、子どもや学生だけではなく、就職や転職先の選択肢にしてもらうこと、そのために必要な知識や技術を、実際に体験してもらうことを目的とした農業体験があります。
本記事では、主にこの新規就農希望者を対象にした職場体験を取り上げていきます。
職場体験にはどのようなものがある?
農業の職場体験は、学校教育の一環で行われるものを除くと、短期のものから、長期にわたるものまで、期間によっていろいろなコースがあります。また主催者も、JAや自治体、農業法人などまちまちです。
娯楽・レジャー型農業体験
主に社会人やシニア層を中心に、土いじりや農作業に興味がある、安心な食材が欲しい、家庭菜園を始めたいなど、趣味として農業を体験したいという方向けのコースです。
期間は1日だけのものや、週末ごとに何度かに分けて行うものが主で、収穫体験や野菜の育て方など、最低限必要な知識を習います。最近では里山での民泊ツアーなど、レジャーと組み合わせたタイプも人気です。
就農希望者向け農業体験
仕事として新規就農を視野に入れている人は、主にこちらの職場体験に参加します。
期間は2〜3日から数週間あるいはそれ以上と幅があり、自治体主催の場合は2〜5日位の短期間が多いようです。受け入れ先の農家に宿泊やホームステイをして、より実際の農家の仕事や暮らしに即した内容の農作業を体験します。
このほか、地域によっては農業実践学校などの専門教育機関で、農業体験を実施しているところもあります。
農業インターンシップ制度
就農者向け農業体験の中でも、農林水産省の補助事業として日本農業法人協会が運営しているのが農業インターンシップです。
就業期間は2日以上6週間以内であり、就農を希望する学生や社会人を対象に就業体験を行います。受入先は協会に登録されており、受入側、体験者側の両方とも、受入のルールや心構えを遵守することで、スムーズな就業体制を取るよう求められています。
就農者向け職場体験と就農研修はどう違う?
新規就農希望者が、就農前に実際に農業を学ぶ方法としては、職場体験のほかに農業研修があります。では、この2つはどう違うのでしょうか。また、新規就農を考えている方にとっては、どちらの方法がいいのでしょうか。
職場体験
農業の職場体験は、短期もしくは中期間で、現場の作業内容を「知る」ことと「体験する」ことが目的になります。参加費用については無料または少額で、滞在期間の食費や宿泊費は受入側が負担する場合が多いようです。
就農者向けといってもあくまで体験であり、お試しです。職場体験をしたからといって必ずしも農家になる必要はありませんので、興味があれば気軽に参加することができます。
農業研修
農業研修は、将来就農を予定している者が、1〜2年の長期にわたり、研修生として本格的・実践的に農業を学ぶものです。地方自治体や農業法人のほか、農業センターや農業大学校などの教育機関で研修を受けるケースもあります。
職場体験と違うのは、
- 農家に住みこむのではなく自活して研修を受ける
- 農業技術のほか、経営や最新技術、業界の動向など、事業者としての教育も受ける
- 座学など現場以外での研修や学習もある
- 国や自治体から研修費や生活費の補助が得られる(条件あり)
などで、新規就農に向けた最終段階としての制度となります。
研修は助成金での公的支援を受けて勉強をするため、途中でやめれば助成金の打ち切りと返却が求められます。農業で生計を立てるという強い意志がある方にはおすすめです。
一方、就農の希望はあるものの、どこまで本気で取り組めるのか不安がある方にとっては、職場体験が有効な手段となります。
職場体験のメリット
では新規就農希望者にとって、職場体験のメリットとは何でしょうか。すでに農業を志すと決めているのなら、わざわざ職場体験を行う必要はないと思う方もいるかもしれません。
ですが、「農業の経験も知識もないけれど、夢と理想を持って農業に参入したい」と考えている人ほど、職場体験を行うことをおすすめします。
就農前に農業を体験できる
何よりも大きなメリットは、就農前に農業の仕事がどのようなものかを、身をもって体験できることです。一口に農家といっても、その仕事内容は非常に多彩です。もちろん職場体験の段階ではその一部でしかありませんが、中には「こんな仕事もあるのか」と思うような発見もあります。
普通ではなかなか見られない、広くて深い農業の世界に触れることができます。
自分の適性を見極められれる
農業の職場体験、特に就農を前提にしているコースの場合は、必ずしも楽しいことや、自分のやりたい作業ばかりとは限りません。より実際の仕事に即した作業も多くなり、退屈な作業、辛い作業、汚れる作業も出てきます。
農業研修との違いのところでも述べましたが、職場体験の利点のひとつは、自分が本当に農業に向いているのか、この仕事をずっと続けていくことができるのかを、この段階で知ることができることなのです。
地域社会での生活を知ることができる
職場体験では、実際に農家で生活しながら働きます。当然、ご近所や地元住民との交流もあるでしょう。また農村や地方での生活の、都市部との違いに戸惑うこともあるかもしれません。仕事だけではなく、こうした生活環境や地域の風土、人とのつながりなどを知ることができるのも職場体験のメリットです。
雇用のミスマッチを防ぐことができる
雇用のミスマッチは、働く側だけではなく、受け入れる側(農業法人・農家)にとっても頭の痛い問題です。かたや思っていた仕事と違う、かたや思っていたほど働いてくれない、となり、どちらにしても「こんなはずじゃなかった」となるのは損失です。
あらかじめ職場体験をして農業知識や経験不足等によるミスマッチが少なくなれば、早期離職を防ぎ、よりスムーズな就農活動につながることが期待できます。
就農者向け職業体験の内容とは?
それでは、実際に就農者向けの職場体験ではどのようなことをするのでしょう。
受入先の農家や農業法人、経営作目、職場体験の期間などによっても多少の違いはありますが、基本的には農作業全般を行ってもらうことになります。
作業に当たっては、当然ながら農家の方の指示や指導を受けながら行います。
農産物の栽培
最も多いのが、農産物の栽培作業です。
野菜農家の例でいうと、
- 耕うん、堆肥や肥料をまくなどの畑の準備
- 種まき、定植、水や除草、病害虫防除などの管理作業
- 収穫・出荷、畑の片付け
果樹生産ならその他に受粉作業や枝の剪定などの作業が加わります。
稲作農家の場合は、季節によって異なりますが、わらや肥料まき、水の管理、稲刈りやその後の乾燥などを行います。
農産物の加工・販売
次に多い体験内容が、農産物の加工と販売です。一例として
- 稲作農家:精米作業
- 果樹農園:ジャムの加工
- 酪農:チーズ加工
- 養鶏場:鶏卵のパック詰め
などさまざまな作業を行います。このほかにも、これらの製品を直売所などで販売する仕事も体験することができます。
家畜の飼養
牧畜農家や酪農家での職場体験では、家畜の飼養に関わる作業が多くなります。
牛・豚・鶏のどれにも共通する主な作業としては、家畜に餌を与える給餌、小屋の掃除や排泄物の処理(除糞)などがあります。このほか、乳牛なら搾乳や哺乳、ブラッシングや加工品製造、肉用牛なら体重測定、養鶏なら集卵作業など、扱う家畜によって特有の作業が発生します。
その他
上記以外の農家の場合、花卉農家なら種まきや移植、芽かき・芽接ぎ、挿し木、出荷・配送業務、きのこなら菌の種つけや温室管理などがあります。
また、受入先が農業法人の場合だと
- レストランや直売所の手伝い
- 試験場や近隣農家の見学
- 経営者の商談や会合への同行
など、経営や商売に直結する仕事にも参加させてもらえる機会があります。
職場体験までの流れ
最後に、就農希望者の農業を体験してみたいという方に向けて、申し込んでから終了までの一連の流れをご紹介いたします。なお、詳細については申し込み先によって異なりますので、それぞれの募集要項や注意事項をご確認ください。
各自治体・実施機関への窓口へ申し込む
初めに、自身が希望する地域や自治体で就農者向けの農業体験の実施状況を調べます。
もし自治体が実施していなくても、「農業インターンシップ」なら全国に受入農業法人が登録されており、経営作目別でも検索ができます。
申し込み方法は実施先によって違いますが、Webから応募する方法か、申込書を郵送もしくは持参で提出する方法が一般的です。
事前準備や面接など
申込み後、実施機関では書類選考や職場体験の受入先への連絡を行い、今後の流れについての相談や、面接を行います。
この時点で受入先の農家と、注意事項や宿泊の確認、持ち物や交通手段などを確認します。
終了後は報告書を提出
職場体験終了後は、アンケートや体験報告書を作成し、所定の提出先へ送ります。
その後、事務局や実施先からヒアリング調査が行われることがあります。
職場体験を経て本格的に就農の意思が固まった方は、ここで改めて新規就農相談を受けられますので、積極的に活用してください。
まとめ
農業の職場体験は、一般的になじみのうすい農業という仕事を、より実態に近い形で知ることができます。同時に、就農準備の前段階として自分の適性や希望を明確にすることができるという、大きなメリットがあります。
農業に夢と野望を抱く新規就農者の方こそ、一度体験してみることで失敗や後悔のない仕事選びをしていただきたいものです。本格的な農業研修まで踏み込むことに迷いがある方は、まず参加してみてはいかがでしょうか。
参考資料
農業インターンシップとは | 体験する | 農業をはじめる.JP (全国新規就農相談センター) (be-farmer.jp)
農業インターンシップ| 公益社団法人 日本農業法人協会 (hojin.or.jp)
新規就農希望者向け農業体験ツアー | 全国の自然豊かな農地で開催中! (farming-experience.org)
東京都で就農する(農業で働く) | 東京都の農林水産総合サイトTOKYO GROWN
農業体験研修・農業技術研修のご案内 – 東京都農林水産振興財団ホームページ (tokyo-aff.or.jp)
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