「ウイルスフリー苗」という単語を聞いたことはあるけど、実際には使ったことがない……という方も、手を出そうか迷っている方方もたくさんいると思います。
そこで今回はそんなウイルスフリー苗について掘り下げていきたいと思います。
ウイルスフリー苗とは?
皆さんは、ウイルスフリー苗という言葉を耳にしたことはありませんか?
そもそもウイルスとは、様々な病気の原因を引き起こす目には見えない非常に小さな生き物です。
植物においてはウイルス病に感染すると、葉がモザイク状になったり、ちぢれたりして生育が悪くなり収量が低下します。
植物ウイルスは主としてリボ核酸(RNA)とたんぱく質が結合した核たんぱく質の巨大分子ですが、その大きさは20~1000nm(1nmは百万分の1mm)程度と非常に小さく電子顕微鏡でしか見ることが出来ません。
カビやバクテリアよりもはるかに小さい病原体で、人工培養が出来ず生きている細胞中でしか増殖できません。この小さな病原体が植物に寄生、増殖することにより様々な病気を引き起こします。
しかし植物がウイルス病にかかっても、それを治療する有効な農薬は未だに開発されておらず、ウイルス病になった株を早期に抜き取り、その蔓延を防ぐしか方法のない大変厄介な病気です。
幸い植物ウイルスは特殊な例外を除いて、種子には侵入しないため、種子繁殖性作物(一般に種子として売られている作物)では種子を経ること(世代交代する)でウイルスが除去されてきました。
しかし作物の中には種子の出来にくいもの(多くのイモ類やニンニク、ラッキョウ等)、できても遺伝的に固定していないので種子では品種の性質が変わってしまうもの(多くの果樹類、イチゴ、カーネーション、キク等)があります。
これらは長年にわたる栄養繁殖(種子からでなくイモ、株、苗からの繁殖)が長く続けられたためにウイルスに感染していない個体がなくなり、品種の劣化が進み産地の消滅を招くことさえあり、作物からウイルスを取り除くことは重要な課題でした。
そこで、どうにかならないかと考え作り出されたのがウイルスフリー苗となるわけです。
ウイルスフリー苗とはその名前の通り、現在までに知られているウイルスには感染していない苗のことです。
ウイルスフリー苗は、生育が良く、形状が揃うなど良質の作物ができ、収穫量が多いことが特徴です。
このため、農家からの需要が高く、野菜や果物は自治体が、花は企業が中心となって普及を推進しています。
今回はそんなウイルスフリー苗に関することをご紹介できたらと思っています。
ウイルスフリー苗はどうやって手に入れるのか
ウイルスフリー苗を作る場合には、茎頂培養(メリクロン)と呼ばれる技術を使います。
茎頂培養とは成長点にある茎頂分裂組織を切り出し、無菌状態で培養することです。
茎頂培養はメリクロンとも呼ばれています。
業者は茎頂培養で作成したウイルスフリー苗を無菌状態で増殖させ、その苗を販売します。
この培養と増殖、順化と呼ばれる過程には1年から2年ほどの時間が必要です。
そのため、農業家の人や、趣味の家庭菜園で使いたいという人には時間や手間、費用がかかりすぎる上に設備も必要となってきますので、購入することをおすすめします。
ちなみに一般的には、ホームセンターやネット通販ではウイルスフリー苗は販売されていません。
種苗会社のウェブサイトなどから注文しましょう。
※ウイルスフリー苗が作成されている品種の場合には、すぐに受け取ることも可能ですが、ウイルスフリー苗が作成されていない品種の場合には、作成に時間とお金が必要です。
〜ウイルスフリー苗購入場所〜
上記のホームページから購入できるようですので、購入時の参考にしてみてください。
この他にも販売している会社はあるので、もし欲しいものが見つからなかった場合は検索してみてください。
ちなみに、すでにウイルスフリー苗及びメリクロン苗として販売されている主な野菜及び花き類はこちらになります。
〈野菜〉
バレイショ、イチゴ、サツマイモ、ナガイモ、ニンニク、ヤマトイモ、ジネンジョ、ツクネイモ、ワサビ、ワケギ、ウド、食用キク、サトイモ、坊主知らずネギ、(ショウガ、ミョウガ、コンニャク、アスパラガス)など
〈花き〉
ラン類、カーネーション、カスミソウ、ユリ、キク、スターチス、マーガレット、ガーべラ、デルフィ二ウム、リモニウム、リンドウ、サイネリア、セネシオ、グラジオラス、アマリリス、ブーバルシア、スモークツリー、(シクラメン、アジサイ)など
ウイルスフリー苗のメリットとデメリット
ここまでの記事を読んでいると、ウイルスフリー苗の方が育てやすいからいいかも、と思った方も多いとは思いますが、その反面デメリットもやはり存在します。
ですのでここで、メリットとデメリットの両方の観点を見ていこうと思います。
●メリット●
・ウイルスに感染していない
・ランナー由来の病気が発生しない
・伝染病を予防できる
・生育が良い
・形状が揃う
メリットはやはりこの点になります。
発病リスクを最小限に抑えるためには、日々の防除だけでなく最初から病気を持っていない苗を使うということが重要です。
発病リスクを抑えれば、抑えるほど、生育が良い作物が多く収穫できるという良い方向への連鎖にも繋がります。
●デメリット●
・苗の値段が高い
・苗の発注から受け取りまで1年から2年ほど必要
・栄養成長が盛んすぎて収穫量が少ない
・変異の可能性がある
・病原菌やウイルスが完全に除去されていない可能性がある
・うどんこ病や灰色かび病、根腐れ病などの病気は防げない
・苗を受け取った後に病気やウイルスに感染する可能性がある
・設備と技術が必要なので自分たちで作るのが困難
このように、意外にもメリットよりもデメリットが多く目立ちます。
ですので、自分にとってどこを一番気にかけるかが、大切なのかもしれません。
※苗の値段は品種により異なりますが、市販のもので一苗500〜10,000円ほどかかります。
さらに市販されていない品種のウイルスフリー化を業者へ発注すると、数十万円の費用が必要となる場合があります。
ウイルスフリー苗の効果
作物にウイルスが侵入することで葉にモザイク、萎縮が発生し光合成能力を弱め、収量の低下を招きますが、ウイルスフリー化することで、作物本来の能力を発揮し収穫量が増加します。
カネコ種苗(株)カタログより
http://www.kanekoseeds.jp/news/20220428.html
サツマイモ(サツマイモ斑紋モザイクウイルス)
1. 帯状粗皮症(イモに帯状の退色したしわが入る症状)および退色症がなくなり表皮がきれいになり、紅色が濃く、鮮やかになります。
2. イモの肥大が良くなり、収量が20~30%アップします。
3. イモが短めになり、曲がりが少なく、形状が安定し秀品率がアップします。
4. 貯蔵性が良くなります。
ヤマノイモ(ヤマノイモモザイクウイルス:ヤマトイモ、ジネンジョ、ツクネイモ)
(ヤマノイモえそモザイクウイルス:ナガイモ)
1. 生育が旺盛になり天候不順などの不良環境下においても肥大力があります。
2. 優良系統選抜によりもののバラツキが少なく、品質がよく秀品率が高まります。
この様な効果が得られるのは、バイオテクノロジー技術だけでなく、種苗メーカーが品種の優良系統の選抜をし、増殖することにより品質的に安定したウイルスフリー苗を提供しているからなのです。
事例【いちご農家】
イチゴ栽培での一番の問題は、病気やウイルスが発生することです。炭疽病などの病気により、イチゴの収穫量が半分になってしまうということも起こりえます。
害虫などが媒介し病気になることが多いのですが、中には遺伝的に病気にかかっている苗も存在します。
これはイチゴの苗が、親株と呼ばれる1つの苗から10~20程度の苗を採取する方法で増やされるためです。
つまり、病気の苗を増やさないためには、親株が病気にかかっていないかどうかが重要になってきます。
ですので、多くのいちご農家で、ウイルスフリー苗が使われています。
ちなみに、さつまいも、長芋などの農家でもウイルスフリー苗が使われていることが多いです。
また、栽培地でのウイルス感染防止は難しいため、毎年又は2年に1回ウイルスフリー苗に更新しているところが多くなっているようです。
まとめ
ウイルスフリー苗がどんなものなのか、わかっていただけましたでしょうか?
必ずしも、ウイルスフリー苗がいいと言うわけではなく、栽培する野菜や果物にウイルスフリー苗か適しているか、自分がどこを一番気にかけるかが、ウイルスフリー苗を使うかどうかの判断基準になると思います。
どうしようか迷ったときは、まず立ち止まってその2点を考えてみてくださいね。
また、農家で使用する場合と違って、家庭菜園の場合は自身が食べたい分だけ作ればいいので、農家ほどウイルスフリー苗に対するコストはかかりません。
現在種苗メーカー等の増殖技術も高まり、以前と比べてコスト的にもかなりお値打ちになってきました。ですので家庭栽培の場合は、失敗するリスクが軽減するウイルスフリー苗の購入がベストかもしれません。
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