農業の衰退は本当なのか【就農者数】から見た時に

ニュースや雑誌、Webいたるところにある情報の中で「農業業界は衰退傾向にある」と一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。

実際はどうなのかでしょうか。

結論から言うと、聞いたことがあるように農業業界は衰退傾向にあります。

しかし、この衰退とは何を指しているのかまではそのまで知っている人は少ないのではないでしょうか。

農業業界の衰退とは農業従事者が減少、高齢化してきていることを農業業界の衰退として取り扱われている場合が殆どです。

現実問題として少子高齢化が進み農家での従事者の年齢は60歳を超える人が多くなってきています。

新規就農者の数もそこまで多くありません。

ですが生産性などについては昔に比べて農業の機械化や農薬の進歩などもあり昔と比較したからといって大幅に減少しているわけではありません。

そこでこの記事では農業業界が衰退していると言われていることについてと農林水産省が調査し掲載している担い手の動向から農業の衰退がどうなっているのかについて紹介していきます。

農業は私たちの生活とも直結する問題でもあります。

新規就農を目指している人や農業に興味がある人、農業という業界について知りたい人はぜひ最後まで一読下さい。

農林水産省の農業に対する考え

農林水産省は農業業界の課題として大きく2つのことを課題としてあげています。

1.生産性の向上

2.食糧自給率の向上

この2つを今後の急務として2030年までに向上するように目標をたて色々な取組を行なっています。

なぜこの2つのことが急務なのでしょうか。

それは日本の食糧自給率がそもそも低いためです。

現在の日本はグローバル化の影響を受けて食生活が昔と比較しても大幅に変化しました。

結果として、輸入が多くなり現在の物の多くは輸入品によって賄われています。

先進国の中でも食糧自給率が約38%と低いのは日本ぐらいです。

輸入にはリスクが伴っているため日本はそのリスクを避けるためにも自国での食糧自給率と生産性を向上を図らなくてはいけないというのが農林水産省としての見解です。

2つの課題をクリアするためには

食糧自給率も生産性の向上も簡単に向上させられるわけではもちろんありません。

まず第一に農業での就農者が少ないことが問題なのです。

食糧自給率を上げるためには生産を向上させなくてはいけません。

しかし、生産性を向上させるためには労働する人がいなければ生産性を向上させることもできません。

そのため、現在の労働者が減少している現状は

目標達成のためには難しい状態です。

また、農業業界が衰退傾向にあると言われている要因としてこの労働者の減少が全てに直結しているとして言われるようになっています。

そこで、農林水産省は新規就農者や企業の新規参入がしやすいように助成金や補助金、研修制度、企業参入のための条件の緩和などを設けています。

担い手動向とは

農林水産省は農業の担い手動向を調査しています。

目的としては、

1.農業の従事者数がどのような傾向になっているのか

2.認定農業者数の推移

3.農地の現状について

これらを確認するために調査を行っています。

調査を行うことで農業の現状を把握することができ、政策や制度の改定などを検討する一つの材料としても取り扱いが可能になるためです。

次からは農林水産省の担い手動向の結果を簡単にまとめながら現状の農業について紹介していきます。

参考、引用元:農林水産省「担い手動向」https://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/h26/h26_h/trend/part1/chap2/c2_1_03.html

新規就農者数の推移

持続的で力強い農業構造を実現するためには、基幹的農業従事者と雇用者を合わせた農業就業者が90万人必要と見込まれています。

この90万人の条件として60歳以下の年齢層で青年層が毎年2万人程度確保していくことが必要ともされています。

現在の令和4年度のデータとしては

基幹的農業従事者数 122万6000人

ですがこのうちの65歳以上の従事者が86万を締めています。

つまり、36万6000人しか現状としては満たしていないのです。

新規就農者数で見ると平成26年から令和3年までの約5〜6万人が参入してきています。

新規就農者数だけでいけば多少の変動はありつつも確保できている状況です。

就農者数参考、引用元:農林水産省「農業労働力に関する統計」https://www.maff.go.jp/j/tokei/sihyo/data/08.html

青年の就農への関心

引用元:https://shisetsuengei.com/news-column/work-efficiency/work-efficiency-046/

担い手動向調査の結果として青年層の就農への関心は増加傾向であるとされています。

これは「新・農業人フェア」の来場者数を元に算出されています。

このフェアでは農業を仕事にしたいと考えている全ての人を対象とした総合就農相談会で来場者数が前年度比に比べて10.2%増加しています。

この内の来場者数で見ると30歳以下が66%を占めていることからも若者層が農業に興味を持っているのが増加していることが見て取れます。

このことから少しずつではありますが若者が農業に興味を示していることがわかります。

認定就農者

認定就農者とは「農業経営基盤強化促進法」に基づき、農業者が経営発展を図るため、5年後の経営改善目標を記載した計画を作成し、市町村が認定する制度です。

この制度は地域の担い手として活躍が期待されていますが、実際推移としてはどうなのかを見ていきます。

2006年から2010年までは増加傾向となっていますが、高齢などを背景に2011年からは減少傾向となっています。

しかし、認定農業者の法人で見ると一貫して増加していることが分かります。

企業の農業参入

認定農業者数の推移でも紹介したように農業に参入する法人は増加しています。

ではなぜ増加傾向となっているのかそれは「農地法改正」と「農業生産法人の体制見直し」がされたことが大きな要因として挙げられます。

法人の経営は実際どれくらいの増加しているのかですが2014年では1万5300法人となっており、2000年から比較すると約3倍増加しています。

畜産や農作物といった経営ごとに見てもどのジャンルも増加していています。

これらの要因となった改正とはどんな風に変わったのかについてここからは見ていきます。

農地法改正

この農地法の改正によって企業が農地を利用して農業経営を行うための要件が大幅に緩和されました。

内容としては、

・リース方式(貸借)であれば企業やNPO法人等の一般法人(農業生産法人以外の法人)であっても全国どこでも参入が可能

・リース期間も最長50年に延長

これは企業が参入するのに非常に参入がしやすくなりました。

今までは条件が厳しかったため参入が難しかったのですが、このリース方式であればどこでも参入可能になったことが企業参入を後押しした形となりました。

また、担い手が十分にいない地域では企業の参入によって地域農業の担い手確保にもつながることが期待されています。

農業生産法人の体制見直し

この農業生産法人の体制見直しについても企業にとってはとてもメリットがある改正となっています。

内容としては、

1.役員の農作業従事要件については、役員等の1人以上が従事すればよいこととする

(現行は役員の4分の1超)

2.構成員要件については、農業者以外の者の議決権は2分の1未満までよいこととする

(現行は原則4分の1以下)

この見直しの目的としては「農林水産業・地域の活力創造プラン」等において、6次産業化等により経営の発展を目指す法人を支援するためです。

結果として企業の参入が増加しているため、改正はうまくいっていることが分かります。

結局農業業界は衰退しているのか

ここまで新規就農者数や認定就農者、企業参入数などを紹介してきましたが、殆どが増加傾向にあるため本当に農業は衰退しているのか不思議に思うかと思います。

冒頭でも言いましたが農業業界は衰退しています。

それぞれで見ると増加しているように見えますが従事者数で見るとそんなことはありません。

基幹的農業従事者数

平成27年 175.5万人 うち65歳以上 114万人

平成28年 158.6万人 うち65歳以上 103.1万人

平成29年 150.7万人 うち65歳以上 100.1万人

平成30年 145.1万人 うち65歳以上 98.7万人

平成31年 140.4万人 うち65歳以上 97.9万人

令和2年 136.3万人 うち65歳以上 94.9万人

令和3年 130.2万人 うち65歳以上 90.5万人

令和4年 122.6万人 うち65歳以上 86万人

この8年のデータを見るだけでも従事者が相当数減少していることが分かると思います。

全体従事者のうち65歳以上の人数からみても高齢化が進んでいることも分かります。

つまり、新規就農者や企業参入数が増加傾向にあるだけで就農者が定着していないことによる離農者が多い。

推移を考えれば農林水産省の目標としている60歳以下で90万人と農業での課題の2つを達成するのが現状のままでは難しいことがわかります。

過去と比較した際に全体として考えれると農業業界が衰退していると言えるわけです。

まとめ

農業業界は衰退している。

この情報は間違っていません。

農林水産省が出している担い手動向や新規就農者数、従事者数などのデータからみても一目瞭然です。

生産性がそこまで大幅に下がっていないならいいのでは?と思う人もいるかと思いますが、もう一度なぜ就農者を増加しないといけないのかおさらいしておきます。

農業での大きな課題は2つ

・生産性の向上

・食糧自給率の向上

この2つを向上させるためには労働力がないと実現しません。

つまり現状のまま労働者が減少すれば必然的にこの2つの課題は達成することができないためです。

農業業界が衰退していると言われるのはこの就農者不足になっていることが衰退していると言われる要因なのは間違いありません。

今後就農者を増加させるべく農林水産省では現在も色々な制度を行なっています。

これらの制度の利用や農業により若者が興味をもって就農者数を増加させることが非常に大切になってきます。

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