堆肥といっても、様々な種類があります。今回はその中でも未熟堆肥と完熟堆肥について取り上げたいと思います。
ですが、その前に前知識として、堆肥について説明します。
堆肥について
堆肥とは、稲わらや落ち葉、家畜ふん尿、食品残渣などの有機物を、微生物の力を使って分解させ、腐熟させたものです。
堆肥は用土に混ぜると、土の中の土壌微生物や作物の根から放出されるクエン酸などにより分解・溶解されて、養分として作物の根から吸収されます。
吸収されずに土に残った腐植は水分や肥料の成分を保持し、よい土にするとされています。
肥料と堆肥は似ていますが、それぞれ役割が異なります。
肥料は植物の栄養を補うもので、窒素(N)、リン酸(P)、カリウム(K)が三大要素となっていますが、一方で堆肥は、肥料分を補うだけでなく、土壌の改良も大きな役割です。
堆肥を使うことで適度な水はけと水もちのよい土を作ります。
有機質を加えることで、土の中の有機質や粘土などの微細な粒が集まって団子状になる「団粒構造(だんりゅうこうぞう)」という土の状態を作りやすくなります。団粒構造ができると、土中に微細な隙間がたくさん生まれて、水や空気が多く含まれる土になります。
こうして常に土の中に適度な水と空気(酸素)があることで、根が健全に育ちやすくなるのです。
また、土が固いと植物は根を伸ばすことができず、水はけも悪くなります。土壌中に隙間ができると土がふかふかと柔らかくなり、根が伸びやすくなります。土が柔らかくなることで根がよく張り、植物の生育にもよい影響をもたらします。
土が改善されることで根が張りやすくなり、地上部も健全に大きく生育できるので、野菜などの栽培では結果的に収穫量も多くなります。
また、有機質が豊富な土は水や空気(酸素)を多く含みますが、同時に肥料分も多く保持することができます。
日本は雨が多い気候なので、肥料を施しても雨により流されてしまいやすいのですが、土の保肥力(肥料を保持する力)が高まるのも、野菜の収穫量が増える理由の一つです。
また堆肥自体にも肥料となる成分が含まれていて、根から吸収されることで植物の成長を促します。
堆肥により土壌が豊かになることで、土中に多様な微生物が棲むようになります。
これにより特定の病原菌だけが極端に増えることが起きにくくなり、病気の発生が抑えられ、植物が健康に育ちます。
健康な植物や土壌は害虫の発生も抑えることができます。
つまりこれらを簡単にまとめると、
・土が柔らかくなる
・収穫高のアップにつながる
・病害虫の発生を抑えられる
ということになります。
ですので、農業を行う上で重要なものでもあるのです。
未熟堆肥と完熟堆肥
1を踏まえた上で未熟堆肥と完熟堆肥について説明します。
未熟堆肥とは未だ熟成されていない堆肥のことです。
未熟堆肥だと、葉や木の枝などの原形が残っていたり、強い臭いがします。
それに対して完熟堆肥というのは有機物の分解が進み、くさい臭いがなく、水分が蒸発し、手で触るとフカフカした感触の堆肥のことをいいます。
とはいっても、未熟堆肥は堆肥の原型ですから、本来は悪いわけではありません。
畑や菜園に投入しても、作付けまでの時間的な余裕があれば、土の中で有機物がゆっくり分解して良い堆肥になります。
しかし、その時間的な余裕がないまま、まだ途中段階のものを土に投入して、種をまいたり植えつけたりすることはよくありません。
というのも微生物が土の中で活発に活動して、土中の窒素が欠乏したり、二酸化炭素が大量に発生したりして作物に害を与えるからです。
また、分解の途中段階で、有用微生物が増えると同時に、病原菌の活動も活発になりますから、病原菌が作物の根に侵入して被害がでます。
ですので、基本的には未熟堆肥ではなく、完熟堆肥を使うようにしましょう。
見分け方
とはいっても、自分で堆肥を作る場合どうやって見分ければいいのか……と思う方もいると思います。
完熟堆肥と未熟堆肥の見分け方で大切なのは、臭い、湿り気、色などです。
①家畜ふんの臭いがしない
堆肥に水を含ませたとき、ふん臭があるのはまだ未熟です。ベタベタと粘り気があるのもまだ発酵が不十分な状態です。
②手の平で揉んでも素材の臭いがしない
作った堆肥を水に浸けて、両手の手のひらで揉むように洗います。オガクズやバークがまだ塊で残っていることがあるとき、その臭いをかいでみて、素材の臭いが残っているようであれば、まだ未熟状態です。
③堆肥がどの部分も同じ状態である
堆肥の塊を割って、中の状態を見てみます。全体が同じ状態なら完熟で、真ん中の部分の色が違っていたり、ふんの臭いが残っていたりしたら、発酵が不十分ということです。
④熱湯を注ぐと液が黒っぽくなる
耐熱性のコップに堆肥を5分の1ほど入れて、そこに熱湯を注ぎます。そのまま放置しておくと液が黒っぽくなり、底に沈殿物が溜まってきます。
主にこの4つが重要となります。
また、良い堆肥は、液面に浮いているゴミが少ないこと、液の色が濃いこと、コップの底から液面までの液が濃淡の滑らかなグラデーション状であることが条件に入ってきますのでその点もチェックのポイントとなります。
堆肥の作り方
次に堆肥の作り方についてご紹介したいと思います。
実は簡単に作れる堆肥。SDGsにも繋がりますので、できる方はぜひ実践してみてください。
※SDGsとは「持続可能な開発目標」。簡単に言うと「世界中にある環境問題・差別・貧困・人権問題といった課題を、世界のみんなで2030年までに解決していこう」という計画・目標のことです。
①電動の生ごみ処理機
短時間で堆肥が完成し、臭いが少なく撹拌をしない点がメリットです。
キッチンのシンクに設置する「ディスポーザー」も、処理後に堆肥として使えるタイプがあります。
●用意するもの
・電動の生ごみ処理機
・野菜くずなどの生ごみ
●作り方
1.生ごみの水分を切って処理機に入れ、操作する
2.容器がいっぱいになるまで1を繰り返す
3.取り出して堆肥として使用する
※注意点
設備の費用や電気料金がかかる上、音や振動が出る点がデメリットです。
なお、処理が乾燥のみで堆肥にならないタイプもあるので、購入時に確認してください。
バイオ式の大型の処理機は、屋根がある屋外で使用しましょう。
②密閉式のコンポスト
場所を取らない点がメリットで、カラフルなデザインも販売されています。
●用意するもの
・密閉式コンポスト
・野菜くずなどの生ごみ
・嫌気性微生物の促進剤
・撹拌用のスコップなど
●作り方
1.コンポストの底に促進剤を入れる
2.生ごみを入れ、促進剤をふりかける
3.スコップなどで全体を混ぜる
4.中ぶたがあるタイプは載せ、コンポストのふたをしっかり閉める
5.定期的にコックを開いて発酵液を抜き、液体肥料などとして使う
6.容器の8分目になるまで2~5を繰り返す
7.1次発酵として15日ほど置く
8.取り出して土と混ぜ合わせ、新聞紙などをかぶせて2次発酵を行う
※注意点
1次発酵の間はふたを開けられないので、コンポストを2つ用意して交互に使う方法がおすすめです。
2次発酵の期間は、季節にもよりますが10日~1カ月ほどです。
チャック付きのビニール袋で代用するときは、野菜くずなどをこまかく刻んで嫌気性の促進剤とともに入れ、空気を抜いて密閉したら1週間を目安に取り出してください。
その後は同様に土と混ぜて、2次発酵を行います。
③段ボールコンポスト
コストがかからない作り方として人気が高く、手軽なキットも販売されています。
堆肥作りの基になる「基材」の組み合わせは多彩なので、各自治体のホームページなどで紹介されている配合を参考にしてください。
●用意するもの
・段ボール2箱
・ガムテープ
・すのこや網などの台
・野菜くずなどの生ごみ
・基材になる促進剤
・スコップなど
・虫除けのカバー(ネットや布など)
●作り方
1.2つの段ボールを組み立ててガムテープで底を留め、二重にする
2.雨が当たらない場所で、すのこなどの台の上に設置する
3.基材と少量の水を入れて混ぜる
4.生ごみを入れるたびに、基材と混ぜ合わせる
5.ふたをして虫除けのカバーをかぶせる
6.いっぱいになるまで4~5を繰り返す
7.1~2カ月ほど熟成させ、その間は2週間に1回くらいのペースでかき混ぜる
※注意点
こまめな撹拌が必要で、虫や臭いが発生しやすい点がデメリットです。
段ボールは耐久性がないので丁寧に扱い、すき間や破れはガムテープでふさぎましょう。
容器はプラスチック製のカゴなどで代用できますが、通気性がよい不織布(ふしょくふ)や麻袋などを中に敷くか、外側をおおってから基材を入れ、虫の侵入を防いでください。
④不織布のコンポスト
通気性がよい不織布のコンポストは、毎日の撹拌をしない点がメリットで、少量であれば雑草や落ち葉も投入できます。
●用意するもの
・不織布のコンポスト(袋とカバー)
・専用の促進剤
・野菜くずなどの生ごみ
●作り方
1.不織布の袋の底に1cmほどの土を入れ、決められた量の促進剤を加える
2.ごみなどを入れ、促進剤をふりかける
3.袋の口を閉じ、カバーのファスナーもしっかりと閉める
4.容量が8割くらいになるまで、2~3を繰り返す
5.中身が隠れる量の促進剤と、土を1cmほど入れる
6.カバーから袋を出して少量の水を加え、口をしっかりと閉じて熟成させる
7.期間が過ぎたら中身を出し、土と混ぜて10日ほど置いてから使う
※注意点
管理の状態によっては虫が入りやすく、臭いが出ることもあります。
不織布の袋は破れやすいので、取り扱いに気を付けてください。
熟成の期間は、夏場は2週間ほど、冬場は20日ほどです。
⑤土に置くコンポスト
たくさんの堆肥を作れる点がメリットで、近年ではおしゃれな陶器製も販売されています。
●用意するもの
・土に置くコンポスト
・小石やレンガなど
・虫除けのネット
・腐葉土や土
・発酵用の促進剤
・落ち葉や雑草、野菜くずなどの生ごみ
・スコップなど
●作り方
1.コンポストの底の直径に合わせ、10~20cmほどの深さで土を掘る
2.小石やレンガを置き、虫除けのネットを設置する
3.コンポストを置き、上から腐葉土や土を入れる
4.落ち葉や生ごみなどを入れる度に撹拌する
5.ときどき促進剤や土などを加えて混ぜる
6.8分目くらいになるまで4~5を繰り返す
7.夏場は1カ月ほど、冬場は数カ月ほど置いて熟成させる
※注意点
投入の度に撹拌が必要で、虫やネズミなどが入りやすい点がデメリットです。
コンポストの中で熟成させる場合は、2つの容器を交互に使うと効率的です。
土に混ぜて熟成させるときは、早ければ1カ月、長いときは半年ほどかかります。
⑥回転式のコンポスト
容器ごと回転させ、中を撹拌するタイプのコンポストもあります。
●用意するもの
・回転式のコンポスト
・ドライバーなどの工具
・専用の促進剤
・野菜くずなどの生ごみ
●作り方
1.コンポストを組み立てる
2.説明書に従い、促進剤と生ごみなどを投入して回転させる
3指定された重さになったら中身を取り出し、土と混ぜる
4.3カ月~半年ほど熟成させる
※注意点
組み立て式でサイズが大きい上に、容量が増えたときは回転時に力が必要です。
また、雨が入ると腐敗しやすいため、置き場所を選びましょう。
固定した容器に付いたハンドルを回し、中だけを撹拌するタイプもあります。
⑦ミミズコンポスト
「シマミミズ」が生ごみを食べて分解するシステムで、容器とミミズがセットで販売されています。
ミミズコンポストは、紙類や掃除機のホコリ、髪の毛ごみなども処理できます。
●用意するもの
・ミミズコンポストのセット(ケースやココナッツ繊維など)
・新聞紙
・野菜くずなどの生ごみ
・石灰
●一般的な作り方
1.コンポストの1段目に新聞紙を敷き、ミミズと土を入れる
2.2段目にココナッツ繊維をセットして軽く水をかける
3.2段目に生ごみなどを入れ、かき混ぜる
4.「水をかける」「下段のコックから液体肥料を抽出する」「石灰で中和する」の作業を週に1回程度行う
5.3~4を繰り返す
6.2段目がいっぱいになったら、3段目にココナッツ繊維と生ごみを入れて同様に管理する
7.1段目を外し、堆肥を取り出して使用する
8.外した1段目は、次回の3段目として使う
※注意点
気温が30度以上のときは毎日水をかけ、冬は段ボールなどで保温してください。生ごみを入れ過ぎると、虫が発生することがあります。
1日500gの生ごみを入れた場合、半年ほどで堆肥ができます。
まとめ
堆肥について、そして未熟堆肥と完熟堆肥の違いについてわかりましたでしょうか?
また、堆肥の作り方についても、自分に合った作り方を見つけることができましたでしょうか?
少しでも皆さんの農業ライフにお役立てできたら幸いです。
そしてこちら、「みんなで農家さん」では、農業が好きな方、農家を志す人、農業従事者の方へ役立つ、最新情報やコラム、体験談などをこれからもお届けいたします。
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