有機栽培と聞くと、「収穫量が減るんだよね?」「苦労して収穫しても、値段が高いから誰も買いたがらないよ」「害虫に弱いって聞くんだけど…」など、あまりいいイメージを持っていない農家さんも多いはず。
実際、日本では有機野菜の流通量はかなり低いと言えるでしょう。一体なぜ、日本では有機栽培が流行らないのでしょうか?
一方、そんな日本のお寒い有機野菜市場へ暖かな光が差すかのごとく注目されているのが、「BLOF理論」と呼ばれるもの。
「BLOF理論」とは一体どういったものなのか?詳しく解説していきましょう。
日本で有機栽培が流行らない理由
有機栽培とは?
まず最初に、有機栽培とは何なのかについて確認していきましょう。
有機栽培とは、化学肥料や農薬を用いないで行う農業のことです。有機栽培によって収穫された野菜を、「有機野菜」「オーガニック野菜」などと呼びます。
他にも、「自然栽培」と呼ばれる有機栽培と非常に似た農法があります。有機栽培とは異なるものですが、違いが分かりづらいので、下表を参考に区分けしてみてください。
農薬 | 肥料 | |
慣行栽培 | 〇 | 〇(化学肥料) |
有機栽培 | × | 〇(有機肥料) |
自然栽培 | × | × |
化学肥料や農薬は、農作物の成長を大きく促がす・害虫を除去するなど収穫面で大きな効果が見込める大変便利なものですが、微量ではあるものの人体に有害な化学物質が含まれており、健康状態に影響を与える可能性はゼロではありません。
その点有機野菜は、農薬や化学肥料を使用しません。
人体に有害な化学物質が含まれていないため、健康に被害を及ぼすことはほぼありません。さらに味の面においても、「慣行栽培の野菜よりも甘みが増して美味しい」と感じる人も多いようです。
しかし、化学肥料を使用しないことに加えて害虫に弱いため、慣行栽培と比べて収穫量が減少してしまうことは有機栽培のデメリットといえるでしょう。
日本のお寒い有機栽培事情
味も良く身体にもいい有機野菜。日本ではどれくらい食べられているのか?
実は、全く流行っていないのが現状です。
事実、農林水産省が行った消費者アンケートでは、週に一回でも有機野菜を食べていると回答した人の割合はわずかに17.5%。
そんな残念なアンケート結果を表すかのように、有機栽培を行っている農地の割合は日本全体のたった0.6%。
0.6%といったら、私が妻から小遣いをもらえる確率と一緒くらいですよ、トホホ・・・(かなりどうでもいい情報)
海外ではどうか?
日本では全く流行らない有機野菜ですが、では海外ではどうなのか?
実は、有機農業取り組み面積は年々増加を続けており、ヨーロッパを中心に有機野菜の需要は右肩上がりの状況が続いています。
特にEUでは、最近10年間で有機農地が70%も増加し、刑務所の食事にも有機野菜が使われているようです。
日本は、先進国の中でも周回遅れレベルで有機栽培が流行らない国なのです。
流行らない理由としては、国の支援制度の有無などいろいろありますが、一番は流通量が少ないことが挙げられます。
流通量が少ないとどうなるのか?有機野菜は、どうしても”お高く”なってしまうんです。
農林機構の調べによると、有機野菜の価格は、慣行栽培により栽培された野菜よりも平均で50%ほど高くなっているとのこと。
円安、原油高などの影響で物価がますます高騰するこのご時世では、有機野菜を買って食べようとするご家庭もその数を減らしているようです。
BLOF理論
では、ここで本題に入りましょう。BLOF理論の紹介です。
日本ではなかなか流行らない有機栽培ですが、BLOF理論を理解し実践することができれば、そんな有機栽培市場に一石を投じることができるかもしれません。
BLOF理論とは?
BLOFとは「Bio Logical Farming」の略のことで、日本語で書くと「生態系調和型農業理論」となります。
上の図のようにBLOF理論とは、
①アミノ酸の供給
②ミネラルの供給
③太陽熱養生処理
この3点に着目しながら、有機栽培を効果的かつ科学的に進めていこうというものです。
これまで農業従事者の勘や経験によって支えられてきた有機栽培を、感覚的ではなくちゃんとした根拠を持って推進していくことができるのです。
それぞれ詳しく解説していきましょう。
アミノ酸の供給
アミノ酸。日常生活ではよく聞く言葉ですよね。でも、それがいったい何なのかを理解しているでしょうか?
アミノ酸を一言でいうと、「命のもと」です。
僕たち人間や植物は、水分やタンパク質によって作られていますが、そのタンパク質の原料となっているのがアミノ酸。
アミノ酸は、人間や植物の生命活動の全てを司っているといっても過言ではないほど重要な要素であると言えるでしょう。
人間は口から物を食べてアミノ酸を摂取しますが、植物は光合成によってアミノ酸を生成します。
BLOF理論で肝になってくるのは、光合成が行われる過程において、如何に”炭水化物を余らせるか”というところ。
生成される炭水化物が多ければ多いほど、植物はそれを自身の身体の強化や栄養補給に使えるのです。
従ってBLOF理論では、肥料を投与する際は炭水化物付き窒素を使います。
これにより、有機野菜でありながらも害虫に強く、さらには高品質な農作物を作ることが可能となるのです。
人間でいえば、プロテインを飲んでマッチョになる、みたいな感じですかね?笑
ミネラルの供与
肥料の三要素を差して”NPK”と呼ぶことがあります。
これは、N(窒素)、P(リン)、K(カリウム)のことであり、この3つが植物の成長に欠かせない要素とされているのです。
特に窒素は、光合成をおこなう上では重要な要素の一つで、窒素の含有率が高ければ高いほど植物は効率的な光合成を行うことができます。
しかし、窒素だけを与えていればいいかというとそうではありません。BLOF理論では、光合成を行う土台である”ミネラル”を重要視します。
ミネラルが不足した状態で窒素を与えてしまうと、逆に植物は軟弱に育ってしまうのです。
このためBLOF理論では、土壌分析をしっかりと行ったうえで、”ミネラル先行窒素後追い”の施肥管理を行います。
栄養を与える前に、栄養を効率的に吸収できる環境を整えてやるということですね。
太陽熱養生処理
最後に、BLOF理論においては最も重要な要素である、太陽熱養生処理について。
前述したとおり、アミノ酸とミネラルを与えれば植物は育ってくれるのかというと、そうではありません。
一番重要な要素は、植物が育つ”土”です。土が死んでいれば、どんなに栄養を与えても植物は健全に育ってくれないのです。
土は、毎年収穫をするごとに疲弊していきます。特に、化学肥料を使い続けた場合は、土壌に生息する微生物が減少してしまい、疲弊の度合いが加速すると言われています。
BLOF理論では、太陽熱養生処理を行うことにより、土壌微生物が活発に活動する”生きた土”を目指していくという考え方をします。
太陽熱養生処理のやり方は、以下の通りです。
①まずは土壌分析を行い、必要なアミノ酸、ミネラル、窒素などを施肥する。
②土に水を撒き、土壌の水分含有率を約60%にする。
③土の前面にマルチシートをかぶせて密閉し、積算温度が450~900℃になるまでその状態を維持する。基準としては、15~30日間放っておく感じ。
④結果、土壌微生物の活動が活発化する。
上記の処理を施すことにより、土が”団粒化”されます。
団粒化とは、微生物の活動が活発化することにより粘土と有機物が結合し、大小の土の塊が出来る現象のことを言います。
団粒化により土壌の病原菌は減少し、農作物の病気を防ぐことができます。
さらに、団粒化により土壌に隙間が出来るので、土中の酸素量が増加し根の呼吸量も向上します。
結果として、収穫量の増加のみならず、高品質な農作物の生成が可能になるのです。
BLOF理論で収穫量UP!?
上で解説したように、BLOF理論を正しく実践できれば、農作物の質だけでなく量も劇的に増やしてくれる可能性を秘めています。
ここで、そんなBLOF理論の有効性が分かる実践例について紹介します。
北海道で水稲を中心に農業を行っている前田忠さん(仮名、30歳)は、大学卒業後に父親から農家を引き継ぎました。
もともと収穫量が安定しない地域だったこともあり、前田さんの畑では収穫量が不安定で、「今年は生活していけるのだろうか?」と、不安な毎日を過ごしていたようです。
先輩農家からのアドバイスを実践してみるのですが、大きな改善は見られなかったそうです。
しかし、ここで前田さんに転機が訪れます。
勘と経験に頼る農業に限界を感じていた前田さんでしたが、後輩の勧めによりBLOF理論の公演に参加しました。
科学的かつ理論的に農業を捉えようとするBLOF理論に、前田さんは衝撃を受けたと言います。
前田さんはさっそく土壌分析を行い、BLOF理論の実践スタート!
1年目はさしたる変化はありませんでしたが、2年後、前田さんの畑に変化が訪れます。根の張り方が明らかに力強くなり、病気になる数も激減したということです。
さらに、収穫はBLOF理論実践前よりも約20%も増加。
土壌作りや施肥をBLOF理論に基づき根本的に見直した努力と工夫が、結果として現れたのです。
やればやった分だけ成果として現れるBLOF理論を目の当たりにし、「今は仕事が楽しくて仕方ありません」と、前田さんは笑顔で語っていました。
まとめ
以上、科学と数字で農業を捉えるというBLOF理論について紹介してきました。
BLOF理論が一般的になり有機野菜の流通量が増加すれば、有機野菜は今よりも安い価格で店頭に並ぶことでしょう。
さらに言えば、ヨーロッパがそうであるように、日本で有機野菜を食べることが当たり前になる日が来るのも、そう遠くはないのかもしれませんね。
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