農業を営んでいる方の中には、今後のことを考え、事業承継を検討している方も多いのではないでしょうか。
今回の記事では、農家における事業承継の種類や課題、事業承継の方法などを解説していきます。
農家における事業承継
農業は人手不足や高齢化などの問題に直面しています。このため、農家における事業承継が注目されています。本記事では、事業承継とは何か、なぜ農家において事業承継が必要か、そして農家事業承継の課題や成功例、ポイントなどを解説します。
事業承継とは
事業承継とは、経営者の後継者が事業を引き継ぎ、経営を継続することを指します。事業承継は、経営者の高齢化や後継者不足などによって必要になる場合があります。また、事業承継によって、長年にわたって築き上げた企業価値を維持し、発展させることができます。
農家における事業承継の背景
農業において、高齢化や後継者不足などの問題が深刻化しています。農家においても、事業承継が必要になっています。農家事業承継の背景には、次のような問題があります。
- 農家の高齢化:農家の平均年齢は65歳以上であり、後継者がいない農家が増えています。
- 農家の減少:都市部への人口集中などにより、農家数が減少しています。
- 価格競争の激化:農業生産物の価格競争が激化し、農家の経営が厳しくなっています。
これらの問題により、農家事業承継がますます重要になっています。
農業の事業承継の種類
農業における事業承継には、親族内への承継、親族外への承継、そして第三者への承継(M&A)の3つの種類があります。それぞれの特徴やメリット・デメリットについて解説します。
親族内への承継
親族内への承継とは、経営者の家族が事業を引き継ぐことを指します。農業においては、親族内への承継が一般的です。その理由は、次のようなメリットがあるためです。
- 経営者の意向を理解しているため、スムーズに引き継げる。
- 家族との信頼関係があるため、経営に必要な情報やノウハウを共有しやすい。
- 相続税の負担が軽減される。
しかし、親族内への承継には、次のようなデメリットがあります。
- 後継者の能力や意向によっては、経営が悪化するリスクがある。
- 家族内の不和やトラブルが発生する可能性がある。
親族外への承継(従業員等)
親族外への承継とは、従業員や社外の人材が事業を引き継ぐことを指します。親族内への承継が難しい場合や後継者がいない場合、親族外への承継が選択されることがあります。親族外への承継のメリットは次のような点が挙げられます。
- 従業員や社外の人材による承継によって、新しいアイデアやビジネスモデルが導入される可能性がある。
- 従業員など既存のメンバーが引き続き経営に携わることで、安定的な事業継続が期待できる。
- 経営者の退職後も、経営者のノウハウが残りやすく、スムーズな引き継ぎが可能となる。
一方で、親族外への承継には次のようなデメリットもあります。
- 引き継ぎ資金が確保しにくい場合がある。
- 従業員などが経営者になる場合、運営資金の調達や財務管理など、新たな課題が発生することがある。
- 親族外の経営者が就任する場合、既存の従業員や地域住民との信頼関係の確立に時間がかかることがある。
第三者への承継(M&A)
第三者への承継とは、事業を引き継いでくれる企業や個人に買収されることを指します。農業においても、大手企業や農業関連企業に買収されるケースがあります。第三者への承継のメリットは以下のようなものがあります。
- 引き継ぎ資金を確保しやすく、事業承継が円滑に進められる。
- 買収企業が持つノウハウや技術を導入することで、事業を拡大することができる。
- 買収企業のブランド力やマーケティング力を活用することで、事業の競争力を高めることができる。
しかし、第三者への承継には以下のようなデメリットもあります。
- 買収企業が経営方針や経営哲学が異なる場合、既存の従業員や地域住民との調和が取りにくいことがある。
- 買収企業によっては、事業が分割売却されたり、経営合理化のために従業員削減が行われたりすることがあるため、社会的な影響が懸念されることがある。
- 農業は、地域とのつながりが非常に強い産業のため、買収企業が地域との関係を大切にしていない場合、地域の信頼を失うことがある。
農家における事業承継の現状
農業における事業承継は、今後ますます重要になると考えられています。しかし、現状では様々な課題があり、事業承継が遅れるケースも少なくありません。以下に、現状を整理してみました。
事業承継の遅れ
事業承継に関する問題として最も大きなものが、遅れによる影響です。農家の多くは高齢であり、次の世代に引き継ぐことができていない場合が少なくありません。そのため、事業承継が遅れると、農業生産量の減少や地域経済の低迷など、様々な問題が生じることがあります。
高齢化による後継者不足
農家の高齢化による後継者不足も、事業承継に関する大きな問題の一つです。若者が農業を継ぐことが少なくなり、農家の廃業が増加する傾向にあります。そのため、農業における次世代の育成や若者の農業就業支援が求められています。
資金調達の難しさ
事業承継には多額の資金が必要です。しかし、農業においては、収入が安定していないことが多いため、資金調達が難しいという課題があります。特に、資金調達ができないことが理由で事業承継が遅れるケースもあります。
農地の分割・売却の問題
農地の分割・売却に関する問題も、事業承継について考える上で大きな課題です。相続に伴って農地が分割され、小規模農家が増加することが問題となっています。また、地価の高騰や土地利用制限の問題などもあり、農地を継承することが困難な場合があるため、事業承継に影響を与えることがあります。
農家事業承継の成功要因
前章で述べたように、農家における事業承継は多くの課題を抱えています。しかし、事業承継を成功させるためには、以下のような要因が重要となります。
経営計画の策定
事業承継を成功させるためには、まず経営計画の策定が必要です。経営計画を策定することで、今後の経営戦略や目標を明確にすることができます。また、経営計画には資金調達や労務管理などの具体的な施策も盛り込まれます。経営計画を策定することで、後継者にとってはどのような経営をしていけばよいのかが明確になり、円滑な事業承継につながります。
継承者の育成
継承者の育成も事業承継の成功には欠かせません。継承者には、経営に必要な知識や技術、人間力など多岐にわたるスキルが求められます。そのため、継承者の育成には時間と労力が必要です。具体的には、経営者からの経営指導や社外研修の受講、実務経験の積み重ねなどが挙げられます。また、継承者には、先代が築いた信頼やノウハウを引き継ぐためにも、家族内や地域内でのコミュニケーションや人脈の構築が重要です。
税制上の優遇措置の活用
事業承継には、税制上の優遇措置が用意されています。たとえば、相続税法においては、事業承継に関する特別措置として、農地等の資産評価を軽減する「特例措置」や、農業に関する経営支援を受けることができる「特例措置B」が用意されています。これらの特例措置を活用することで、相続税負担の軽減や資金調達の円滑化などが期待できます。
地域の協力
農家事業承継において、地域の協力は非常に重要な要素となります。地域の人々が承継者の育成や事業継続に関心を持ち、支援してくれることは、後継者の自信につながります。
地域の協力には、様々な形があります。例えば、地元の農協やJAが、承継者の育成や経営相談に乗ることができます。また、地元の中小企業や自治体との連携により、新たな販路を開拓することができる場合もあります。
さらに、地域でのイベントや活動への参加などを通じて、地域の人々とのコミュニケーションを深めることも大切です。地域の人々から支援されることは、後継者にとっての自信につながるだけでなく、地域全体の活性化にもつながることがあります。
農家事業承継の方法と手続き
事業承継の方法は、相続、売却、M&Aなど様々な方法がありますが、農業の事業承継においては、相続が最も一般的な方法です。ここでは、相続に伴う手続きについて説明します。
相続手続きの基礎知識
相続とは、亡くなった人の財産が、遺産として法定相続人に分割されることを言います。農家の場合、土地、家屋、農業機械などの資産だけでなく、農業のノウハウや人脈などの無形資産も含まれます。
相続手続きには、遺言書がある場合とない場合で異なりますが、遺言書がない場合は法定相続人による遺産分割が行われます。また、相続人には、配偶者、子ども、父母などがいますが、農家の場合は、土地を実際に耕している後継者に農地を承継させることが多いです。
遺産分割協議書の作成
相続人が遺産分割について合意した場合、遺産分割協議書を作成します。遺産分割協議書には、相続人の氏名、相続財産の種類と価額、相続分の割合などが記載されます。
遺産分割協議書は、公正証書を作成する場合と、家庭裁判所に提出する場合があります。公正証書を作成する場合は、公証役場に申請し、公正証書を作成してもらいます。家庭裁判所に提出する場合は、家庭裁判所に申請し、家庭裁判所が認めた遺産分割協議書を作成します。
農地の承継手続き
田畑などの農地は、相続によって承継する場合、承継者が農業経営を継続することが前提となります。そのため、農地の承継手続きは、一般的な不動産の相続手続きとは異なる点があります。
まず、農地の承継手続きには、「農地転用規制法」という法律が適用されます。この法律は、農地の利用形態を変更する場合に、事前に行政庁に届け出ることを義務付けています。つまり、相続によって承継した農地を農業以外の目的で利用する場合には、届け出が必要になります。
また、農地の承継には、次のような手続きが必要になります。
- 相続人全員が協力して申請書を作成し、市町村役場の農地課に提出する。
- 申請書には、相続人の氏名や住所、農地の所有状況、承継者が農業を継続する旨の誓約書などが必要。
- 市町村役場が申請書を審査し、承継を認めると、承継人に対して承継登記の手続きを指示する。
- 承継登記は、登記簿謄本や地籍図などの書類を用意し、法務局に提出することで行われます。
これらの手続きは、時間や労力を要するため、事前にしっかりと準備しておくことが必要です。また、農地承継には、相続税の特例や補助金制度などもありますので、詳細については専門家に相談することをおすすめします。
財産評価の方法
財産評価は、事業承継において非常に重要な要素です。財産評価を行うことにより、事業承継に必要な財産や資産を正確に評価することができます。農家事業承継においても、財産評価は欠かせないものとなっています。
財産評価には、法定評価と協議評価があります。法定評価は、相続税や贈与税などの税金の評価基準として定められている評価方法であり、相続税法や贈与税法に基づいて評価されます。一方、協議評価は、事業承継において継承者と相続人が話し合いの上で決める評価方法です。このように、財産評価には複数の方法がありますが、農家事業承継においては、協議評価が一般的です。
財産評価においては、農地の評価が特に重要なポイントとなります。農地の評価には、農地の地価や土地の形状、水田か畑か、使用している施設や機械の評価などが含まれます。また、農業に関わる設備や機械、作物、家屋などの評価も必要です。これらを正確に評価し、適切な評価額を導き出すことが、事業承継における財産評価の重要なポイントとなります。
農家の事業承継における相談先
農家の事業承継においては、一人で進めることが困難な場合があります。そのようなときは、以下のような相談先を利用することができます。
農林水産省
農林水産省は、事業承継に関する情報提供や相談窓口を設けています。特に、農地の承継については、所在地の農林水産事務所に相談することができます。
地方自治体
地方自治体でも、事業承継に関する相談窓口を設けている場合があります。自治体によっては、相続税や贈与税の減税制度を活用するための手続きなども支援している場合があります。
農業協同組合
農業協同組合は、事業承継に向けた支援サービスを提供しています。農業協同組合に加入している場合、会員には無料で利用できる相談窓口が設けられていることがあります。
信用金庫・銀行
農家の事業承継においては、資金調達が大きな課題の一つとなります。そのため、信用金庫や銀行に相談することも重要です。特に、事業承継に伴う融資制度を活用することで、資金調達を円滑に進めることができます。
まとめ
農家の事業承継は、農業を支えるうえで非常に重要な課題です。しかし、事業承継が進まないことで農業の衰退が進んでしまうこともあります。そうした問題を解決するためには、事業承継に対する関心を高めることが必要です。また、事業承継のための支援制度や相談窓口を積極的に活用することも重要です。農業を次世代に継承するためにも、事業承継に向けた取り組みを進めていくことが求められています。
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