農業機械士という資格を持つ者のことをご存知ですか?
耳にしたことはあっても、資格は持っていない。
知ってはいても、資格は持っていない。
そんな方も多いと思います。
農業を仕事としてやる以上、持っていた方が今後の農業生活で役に立つ時が必ずくる農業機械士という資格について、詳しくご紹介します。
取っておいて損はない農業機械士の資格の取り方や、取るために必要な研修、その研修の日程など、必要なことをまとめてお伝えしますので、少しでも興味のある方は、このまま読み進めてみてください。
農業機械士とは?
畑や田んぼなどの農業をする上で、トラクターやロータリー、コンバイン、田植え機など、無くてはならない作業が大変な仕事は多々あります。
ですが、どれも便利な一方で扱い方を誤ると事故やケガにつながる点では共通です。
しかし農業機械による死亡事故も多く発生しています。
農林水産省によれば、2019年に発生した農作業事故死亡者281人のうち、184人(65.5%)が農業機械作業によるものです。
そんな死亡者を少しでもなくすために、農業機械の扱い方を学べる資格の一つが、農業機械士です。
研修や試験が各地で実施され、農業機械に関する知識を得られます。
農業機械は大型のものもあり、決して安いとは言えません。
想定外の動作をさせたり、日々のメンテナンスを怠ったりすれば、故障してしまい、結果的に機械の寿命を縮めるということもあるでしょう。数百万円の機械を頻繁に買い替えていては、経営が圧迫されてしまいます。
もちろん、故障した機械をそのまま使っていては、事故に遭ってしまう可能性も高まります。
そんな農業機械を長く安全に使うため、農家で日々できることを知れるという点でも、農業機械士はとても身近で、仕事に活用しやすい資格だと言えるかもしれません。
資格を取得するには?
では、農業機械士の資格はどのようにすれば取れるのでしょうか。
農業機械士には、「農業機械士」と、指導者として活動するための「指導農業機械士」の2種類があります。
農業機械士……
農業機械士とは、農業機械士養成研修に合格し都道府県知事から認定された人に与えられます。
つまり、農業機械の構造や機能・取扱いに関する知識を代表として、点検や簡単な修理の方法、安全な操作方法、効率的な利用方法、運転操作と取り扱い方法といった技能など、農作業を行う上で重要な知識や技術を身に付けた人に与えられます。
指導農業機械士……
農業機械士にプラスして、農業機械の導入利用に関する専門的知識を持つことや、農業機械の管理に関する専門的知識を持つこと、安全に作業するための専門的知識を持つことなどが要求されます。
簡単に言えば、農業機械士よりもさらに専門的な知識が必要になります。
受験をする条件は、18歳以上の農業者で、農業機械士養成研修を修了し、大型特殊自動車免許を取得している必要があります。
大型特殊自動車免許
なぜ大型特殊自動車免許が必要なのか。
それは大前提として、トラクターを公道で運転する可能性があるからなのです。
運転免許が必要になるのは基本的に公道を自動車や機械が走行する場合です。
つまり、トラクターをほ場内だけで使用する場合、運転免許は必要ありません。
ただし、実際の現場では、「軽トラックに資材を積み込んでほ場まで運ぶ」「倉庫からほ場へトラクターで直接移動する」といった場合が多いことから、運転免許は取っておいたほうがよいでしょう。
なお、補足となりますが、道路運送車両法においてトラクターなどの農耕用車両は、時速35km未満ならサイズにかかわらず小型特殊自動車に分類され車検は不要です。一方、時速35km以上出る農耕用車両は大型特殊自動車に分類され、車検が必要になります。
また、トラクターをほ場などの私有地でしか使わず、公道を一切走らない場合でも自動車税の申告をしてナンバープレートの交付を受けなくてはいけません。その際の申告先は小型特殊自動車の場合は市町村、大型特殊自動車の場合は運輸支局になります。
ほ場内だけで使用する場合でも一定の維持費用がかかることは理解しておきましょう。
話は戻りますが、トラクターの運転免許で注意したいのが、道路運送車両法と道路交通法における扱いが微妙に違う点です。
主に車検や自動車税の区分を定めている道路運送車両法では、農耕用車両はサイズの違いの区分がありますが、車両区分は変わりません。
一方、免許や交通ルールに関して定められた道路交通法では農耕用車両についての区分はなく、道路運送車両法における小型特殊自動車のうち、「長さ4.7m」「幅1.7m」「高さ2.0m(安全キャブや安全フレームは2.8m以下)」「最高速度時速15km」のいずれかを超えたものは、大型特殊自動車に分類されてしまいます。
小型特殊自動車は普通免許でも運転できますが、大型特殊自動車の運転には大型特殊自動車免許が必要です。
実際にはトラクターの多くの機種が大型特殊自動車に分類されるため、これから農業に従事する人は大型特殊自動車免許を取得しておくことをおすすめします。
●農耕車限定の免許も用意されている
トラクターの運転に大型特殊自動車免許が必要だとわかっても、実際に免許を取得するには費用も時間もかかります。できるだけ効率的に免許を取得したい人におすすめなのが、農耕者限定免許を取る方法です。
この免許を取得すればトラクターなどの農耕車両に限り、大型特殊自動車に分類される自動車であっても運転できます。
農耕者限定免許を取得するメリットは、自動車学校だけでなく各道府県の農業大学校でも取得できるケースがあることです。
農業大学校の学生以外でも研修や試験を受けることが可能で、早ければ3日程度で資格を取得できます。また、費用も数千円程度で、自動車学校を利用するよりお得になるケースも多いでしょう。
●けん引免許が必要なケース
マニュアスプレッダーやロールベーラなどの農作業機をトラクターに装着した状態で公道を走行する場合は、別途けん引免許が必要になるケースもあります。
けん引免許が必要になるケースとは、農耕トラクターで車両総重量750kgを超える農作業機をけん引する場合です。
逆にいえば、車両総重量750kg以下の農作業機は、けん引免許がなくても「灯火器類の設置」や「運行速度(時速15km以下)」などの条件を満たせば、農作業機を装着およびけん引した状態で公道を走行できます。
なお、けん引免許にも農耕者限定免許があり、大型特殊自動車免許と同じく農業大学校で取得可能なので、興味がある方はチェックしてみてください。
農業機械士養成研修とは?
そもそも農業機械士になるには、農業機械士養成研修という農業機械の運転操作や点検整備などについての研修を受講しなければなりません。
この農業機械士養成研修を受講するには、受講する都道府県内に居住する18歳以上の農業者、農業後継者及び農業関係者で、市町村長又は農業関係団体の長の推薦を受けた者であること、という受講資格を満たしていなければなりません。
研修科目は以下のようになっています。
●学科
・農業機械の作業安全及び効率利用
・トラクタの構造機能と取り扱い
・トラクタの点検と故障診断及び簡易な修理
・工具の取り扱い
・作業機の構造機能と取り扱い
●実技
・トラクタ運転実習
・プラウ着脱
・トラクタ点検
・簡易な修理及び工具等の実技検定
・プラウの取り扱いと作業方法
・ツースハロー等の取り扱いと砕土整地実習
なお、研修期間はどこでもおおよそ7日間になります。
日程を把握し、その期間は予定を空けておくようにしましょう。
指導農業機械士養成研修とは?
ちなみに、指導農業機械士の資格を取得するには、指導農業機械士養成研修を受講しなければなりません。
この指導農業機械士養成研修を受講するには、農業機械士の認定後、農業機械を3年以上運転した農業者等でなければならない、という受講資格を満たしていなければなりません。
研修科目は以下のようになっています。
●学科
・農業機械の作業安全及び効率利用
・トラクタの構造機能と取り扱い
・トラクタの点検と故障診断及び簡易な修理
・工具の取り扱い
・作業機の構造機能と取り扱い
●実技
・トラクタ運転実習
・プラウ着脱
・トラクタ点検
簡易な修理及び工具等の実技検定
・プラウの取り扱いと作業方法
・ツースハロー等の取り扱いと砕土整地実習
試験内容と難易度
試験内容は学科と技能をとわれる実技試験に分かれています。学科では主に以下の内容が問われます。
・農業機械の構造や機能に関する知識
・点検や整備方法
・故障の診断
・簡易な修理方法に関する知識
・効率的な利用方法
・安全な作業をする方法
技能をとわれる実技作業試験では以下の内容が問われます。
・農業機械の運転操作と取扱い作業に問題がないか
・点検整備や故障の診断ができるか
・簡易な修理が行えるか
簡単に言えば、農業機械を安全に問題なく操作できる技能があるか、簡単な修理や点検ができるかが問われます。
農業機械士の難易度は資格の中でも非常に簡単な部類に入ります。
ただこの資格を取得したからと言って、何か特別なメリットがあるわけではありません。
どちらかというと取得のために勉強することに意味がありますので、農作業を始めるのであれば、合格率や難易度関係なしに、農業機械士の取得を目指しながら勉強を進めていきましょう。
ちなみに、受験日は全国統一ではありません。
「〇〇県 農業機械士研修」と検索すれば出てきます。
住んでいる県ごとに違うので、取得前に必ず調べるようにしましょう。
農業機械士技能検定試験テキスト
農業機械士技能検定試験用のテキストも販売しているようです。
日本農業機械化協会が著者となっていますので、前準備としては最適かもしれません。
不安があるという方は、購入をおすすめします。
著者:日本農業機械化協会 編
定価:2,200円 (税込)
ISBNコード:2300100268521
発行日:2019/10
出版:日本農業機械化協会
判型/頁数:B5 248ページ
解説
農業機械士技能認定試験の受験を目指す方々を対象としたテキスト。
多忙な仕事に追われる皆さんのため、出来るだけ少ない時間と労力で効率よく学習して合格をできるように目指すことがねらいです。
(第5版では「第5章 農業機械の作業安全」などを改訂)
目次
1.農業機械の基礎
2.農業機械の構造及び機能と取扱い、並びに点検整備と簡易な修理
3.農業機械の点検整備用機器と使用方法
4.農業機械の効率利用
5.農業機械の安全作業
このような内容のものになります。
補足〜農業機械整備技能士〜
農業機械士について検索していると、農業機械整備技能士についての記事もたくさん出てきたかと思われます。
なのでここで少しだけ農業機械整備技能士について触れておきます。
農業機械整備技能士とは、トラクタやコンバインなど、農業や酪農業などに用いられる内燃機関、電動機などを動力とする農業機械の整備に必要な技能・知識を認定する国家資格を持つ人たちのことです。
つまり普段私達が乗っている自動車を整備する人たちの農業機械専門バージョンということになります。
農業機械を持つ人たちにとって、大切なパートナーになる人たちでもあるので、故障したときや、万が一のことがあった時のために、信頼のおける農業機械整備技能士を見つけておくことも大切です。
まとめ
農業機械士について、少しは理解を深めることができたでしょうか。
もし、農業機械士の資格は持っていないないけれど、興味はあるという方は、自身にとって損にはならない資格ですので、検討してみてください。
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