指定生乳生産者団体制度が廃止される?国産牛乳の危機!

近年、食卓には欠かせない「牛乳」が販売危機に陥っています。

また、酪農家を支えている生乳委託販売シェア95%以上の「指定生乳生産者団体」も廃止されます。

日本の牛乳を救うにはどうすればいいのか、指定生乳生産者団体制度がどんな役割をしていて廃止になると消費者にどんな影響がるのかをわかりやすく解説していきます。

国産牛乳がなぜ危機なのか

牛乳は元々、生乳から作られます。

生乳は生ものであり腐敗しやすいため、バターやチーズなどにも加工されますがその多くが牛乳です。

今では、食卓や学校ではもちろんの事、飲食店など様々な場面で欠かせない「牛乳」です。

ですが、近年は新型コロナウイルスの影響で学校や飲食店などが機能できなかったり、国からの指示で工場で改革を求められ、新しい機械を導入するなどして、酪農家が大打撃を受けている状況だからです。それに加え、ウクライナ戦争の影響で粗飼料と濃厚飼料の価格高騰などがあげられます。

そして、指定生乳生産者団体制度でその95%以上の委託販売を受けていた指定団体が廃止になり、生産者は混乱しています。

その状況をうけ、離農する方が増え生産数が減少している傾向がります。

そのため、国産牛乳は危機を迎えているのです。

指定生乳生産者団体制度

指定生乳生産者団体制度(指定団体)とは、酪農家が委託販売を依頼する制度の事です。

冒頭でもお伝えした通り、牛乳は「生もの」であり鮮度が大切です。

生乳からバターやチーズなども作られますが、多くは牛乳となり販売されています。

ですので、特定地域内で1団体のみ指定される指定団体が、当該地域内 の生乳を※一元的に集荷したうえで、乳業メーカーに対して多元的な販売・送乳を行 う制度です。

日本に流通している生乳の95%以上は酪農家から指定団体へ委託をされています。

そして、牛乳は毎日生産される一方、腐敗しやすく貯蔵性がない液体であること(生乳の特性)から、短時間のうちに乳業メーカーに引き取ってもらう必要があり、酪農家が価格交渉上不利な立場に置かれる傾向があるのです。

このため、指定生乳生産者団体(指定団体)が、より多くの酪農家から生乳の販売委託を受け、価格交渉力を強化して乳業メーカーと対等に交渉しています。

※一元集荷とは、酪農家の多くは農協などの組合組織に属し、農協は指定団体となり、指定団体は、前述の雪印やよつ葉といった乳製品メーカーへ販売します。 これを「一元集荷 多元販売」といいます。

次に指定団体の役割を説明していきます。

指定団体の役割とは

指定団体の役割はおおまかに3つあります。

①多くの生乳を取り扱うことによる乳業メーカーとの価格交渉力の強化

②酪農家の所在地などを踏まえた効率的な輸送ルートの設定による生乳の輸送コストの低減

③日々変動する生乳の生産量と需要量に対応し、生乳を廃棄することなく販売する機動的な需給調整

 国としては、指定団体を通じて加工原料乳生産者補給金を交付することにより、このような取組を後押し しています。

指定生乳生産者団体制度が廃止

規制改革推進会議の答申に沿ってまとめられた「農業競争力強化プログラム」に基づく「農業競争力強化支援法」を中心とした関連8法の1つとして成立した「改定畜安法」で、酪農の指定生乳生産者団体(以下「指定団体」)は廃止される。 生乳の全量委託を義務付けてはならないことになりました。

今回の指定団体制度改革は、内閣府の規制改革会議(当時)が2016年3月に公表した、指定団体制度を「廃止」するべきという「意見」から開始された。

規制改革推進会議のより急進的な改革案の提示と自民党による押し戻しを経て、2016年11月の政府公表の「農業競争力強化プログラム」という形で決着した。

この「プログラム」にもとづき、畜産経営の安定に関する法律(以下、畜安法)等の改正法案が2017年5月に国会へ提出され、翌6月に成立した。新制度は、2018年4月から開始されることになる。制度改革の目的は、2017年5月公表の規制改革推進会議の「第1次答申」によると、「生産者が、荷先を自由に選べる環境の下、経営マインドを持って創意工夫しつつ所得を増大」とされている。酪農家が販売先を自由に選択できるように改革すれば、所得が増えるとの理屈である。具体的な改革内容は、補給金交付要件からの指定団体共販参加の除外と、部分委託の拡充である。ただし、酪農家の販売選択が自由、言い換えれば、生乳販売を巡る競争が活発になれば、どのように所得が拡大するかについての具体的な記述はない。改革内容と改革目的とされる所得向上との間に乖離があると思われ、畜安法改正案に関する国会審議でもこの点が特に問題視された。この間の農協改革の経緯を踏まえると、農協共販を国の政策として優遇する指定団体制度を廃止し、生乳販売における競争を強化することが目的と考えられる。つまり、改革自体が目的だったのである

上記[農業市場研究 第 26 巻第3号(通巻 103 号)2017. 12] 25一部引用

つまり、指定団体は農業競争強化プログラムという名称に代わり生産者は販売先を自由に選べます。自由に販売先を選択して所得をあげましょうとなったわけです。

ですが、所得をあげたい生産者はたくさんあるにも関わらず販売先が少なければ競争になり売れなくなった酪農家は離農してしまいます。

なので、この改革が失敗だったといわれています。

規制改革推進会議は、酪農家の生乳を一元的に集荷する組織を指定する「指定団体制度」のせいで自由な販売ができずに、酪農家の所得が低迷するのだと指摘し、「酪農家が販路を自由に選べる公平な事業環境に変える」として、2017年に「畜産経営の安定に関する法律」(畜安法)を改定した。
 
しかし、単に自由にすれば社会的利益が増やせるというのは机上の空論に近いことは、タクシー業界の規制緩和をはじめ、何度も経験してきたことでもある。案の定、生乳流通自由化の期待の星と規制改革推進会議がもてはやした会社が2019年11月末ごろから一部酪農家からの集乳を停止したと、2020年3月に報道された。
 
腐敗しやすい生乳が小さな単位で集乳・販売されていたのでは、極めて非効率で、酪農家も流通もメーカーも小売も混乱し、消費者に安全な牛乳・乳製品を必要なときに必要な量だけ供給することは困難になる。つまり、需給調整ができなくなる。そのとおりに、酪農の規制改革は失敗した。
 
こうならないように、まとまった集送乳・販売ができるような農協による共同出荷システムが不可欠であり、そのような生乳流通が確保できるように政策的にも後押しする施策体系が採られているのは、世界的にも多くの国に共通している。象徴的なのは、「生乳の腐敗性と消費者への秩序ある販売の必要性から、米国政府は酪農を、ほとんど電気やガスのような公益事業として扱ってきている」(フロリダ大学キルマー教授)という言葉である。
 
基礎食料としての牛乳・乳製品を供給する酪農に対する諸外国の国家戦略的支援に比較すると、日本の酪農は世界的にも最も制度的な支援体系が手薄いと言える。それなのに、過保護な日本酪農の規制を撤廃し、もっと貿易自由化すれば、強くなって酪農所得が向上すると言って、結果的には、酪農を痛めつけている。このままでは、酪農所得はさらに減り、飲用乳さえ小売店頭から消えかねない危機が迫っている。
   (紹介文執筆者: 農学生命科学研究科・農学部 教授 鈴木 宣弘 / 2020)引用

引用元 https://www.u-tokyo.ac.jp/biblioplaza/ja/F_00095.html

やはり、多くの生産量を集送乳・販売ができないと輸送コストが割り増しになってしまい経営圧迫をしてします。

所得だけに論点がいってしまい、廃止決定後に問題が発生しています。

消費者にとっても安全性が欠けてしまっては不安が募ります。

指定団体の廃止によるメリットとデメリット

メリット

・酪農家が販売価格を決められる

・部分委託の上限がなくなる

デメリット

・酪農者の負担が増える

・プール乳価が減る

・バターやチーズなどの在庫が増える

・販売量が減り廃棄量が増える

・輸送コストの負担が酪農者にかかる

・生乳は腐敗しやすため、小さな単位では非効率となる

これからもわかるように、指定団体が廃止される事で集乳から販売にかけてのシステムが無くなってしまうのはどうなのかと議論されていました。

メリット、デメリットがあるなか法改正後の酪農者の反応は?

規制推進会議の地域産業活性化ワーキンググループは、生乳流通制度改革のフォローアップとして農水省からヒアリングを行った。

昨年6月に閣議決定された令和3年規制改革実施計画では全国的に生乳取引に関する実態調査を行うこととしていた。
 背景には生乳流通の制度的な独占は法改正で解除されたが、「依然として指定生乳生産者団体による実質的な独占が継続されている」との同会議の答申がある。

調査は昨年8月~10月。回答した酪農家は約6100戸で回答率は45%だった。
制度改正以降、生乳の出荷先の変更を検討した酪農家は5%、実際に出荷先を変更したのは1%だった。

89%に当たる5139件の酪農家は「変えたことはない」「変えようと思ったこともない」と回答した。その理由について「指定団体のほうが良いと考えたため」、「指定団体の需給調整を重視したため」との回答が多かったが、「農協を通じた出荷は全量出荷する条件が提示されたため」など独占禁止法と農協法といった法令上問題となり得る行為を受けたとの回答もあった。
そのため個別に聞き取り調査を行ったところ、一部には農協事業の利用強制との指摘を受ける可能性のある行為と考えられるものもあったが、全量出荷義務などを実際に示されたことなどは確認されなかった。

農水省は今回の聞き取りは一方だけの調査であるため、実際に法令違反かどうかを問う調査ではないとしている。今後関係者への対応を検討する際の課題とする。

また、農水省が作成した「指定事業者が生乳取引を拒否できるルール違反の事例集」についての調査では、事例集を見てない酪農家が7割であり、見た酪農家からは「当たり前のことが書かれている」43%、「取引先は自由に選べるが、契約のルールは守る必要があると感じた」56%という結果だった。

また、この事例集を見た酪農家のうち出荷先を変えていないが変えようと思った者は6%、事例集を見ていない者では「変えようと思った」が5%であり、農水省は「事例集と酪農家の出荷先の選択には明確な関連性は認められない」としている。
規制改革会議のWG委員からは全国調査への農水省の真摯な対応を評価する一方、酪農家が萎縮することなく自由に出荷できるように指定団体やJAは環境整備をすべきだとの指摘も出た。

そのほか、「なぜ法令違反が発生するのか、さらに分析を」「今後もフォローアップすべき」などの意見も出た。農水省は生乳の適正取引推進ガイドラインを年度末までに作成して現場に周知する方針。規制改革推進会議の事務局に2週間をめどに対応を報告するとしてる。

JAcom引用:https://www.jacom.or.jp/nousei/news/2022/03/220315-57532.php

上記からもわかるように制度改正以降、生乳の出荷先の変更を検討した酪農家は5%、実際に出荷先を変更したのは1%だったことから、指定団体を選ぶメリットの方が大きいようです。

やはり、酪農家が出荷しにくくなってしまえば生産率は低下してしまい悪循環となってしまいます。

牛乳の危機には他にもある

酪農家の中でも問題視されているのが粗飼料と濃厚飼料の価格高騰です。

ウクライナ戦争の影響でエサが輸入されないため、価格が高騰しておるようです。

ですが、粗飼料と濃厚飼料の価格が高騰しているにも関わらず販売価格はここ20年変わっておらず値上がり検討されるも販売価格は10円/kgほどの値上がりしかしていません。

酪農者からすると販売価格を25円/kg以上の値上げをしないと赤字のようです。

結果、酪農者の所得が低迷している事が原因で離農を選択される事にも繋がるようです。

そうなると、牛乳をはじめ、バターやチーズなどの国産の乳製品がスーパーなどから消えてしまう事態がおこりかねません。バターやチーズなどの加工製品は海外からの輸入も多いですが、雪印やよつ葉などの有名メーカーからの販売も危うくなってしまいます。

消費者としてできること

日本の牛乳を救う「プラスワンプロジェクト」がスタートしています。

~毎日牛乳をもう(モ~)1杯。育ち盛りは、もう(モ~)1パック~

これをテーマに育ちざかりの家庭はヨーグルトや牛乳をいつものにプラスもう1本を推進しています。

消費者がたくさんの乳製品を消費することにより酪農家を助けるとともに、廃棄量を減らす事ができます。

みんなでたくさん消費していきたいところです。

まとめ

当たり前のように飲んでいる牛乳が、学校や飲食店、スーパー、食卓から消えてしまうのは少し寂しい気持ちになってしまいます。

牛乳は飲用はもちろんのこと料理やお菓子、パンなど幅広く利用できるものなのでなくなってしまって他の食品にも影響があります。

日本の未来のために乳製品を守っていきたいです。

当サイト「みんなで農家さん」では「国産バナナ」をはじめ、稼げる農業をコンセプトにたくさん学べる場となっています。新規就農者へのサポートを展開しています。

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