「常温煙霧」という防除方法は聞きなじみがない方が多いと思いますが、「常温煙霧」という名前を見ると推測できる通り、常温(熱源なし)で煙霧(コンプレッサーで薬剤を細かい煙状の霧)するという意味で、煙霧するための専用の機械を用いて農薬を送風ファンなどで施設内に拡散・霧散させる方法のことです。
常温煙霧の特徴、使うことによるメリットとデメリット、そして導入事例について解説していこうと思います。
常温煙霧とは?
常温煙霧というのは農薬散布に使われる手法の一つで、常温煙霧機という専用機械を使用し、薬液を散布する方法です。
少量散布法という方法の一種であり、野菜、花木類、果樹の施設栽培に使われています。
常温煙霧機は、農薬を入れる薬液タンク、圧縮するコンプレッサー、散布するための噴霧ノズルと送風機で構成され、噴霧ノズルから噴出した薬液を、圧縮空気によって2〜10μmという超微粒子の霧にし、送風機で施設内に拡散・飛散させます。
拡散させる方法には「標準法」と「ダクト法」というものがあり、ダクト法のほうが標準法より散布効率に優れています。
他にも、静電式常温煙霧法という、噴霧ノズルの先端に付けた電極に直流電流を流し、薬剤の微粒子に帯電させてから散布する方法も開発されています。
これらの方法では、非常に細かい微粒子状となった農薬は農作物の葉や茎など農作物全体に付着し、防除効果を与えることができます。
この常温煙霧という方法ですが、開発されたばかりの技術かと思いきや、実は昭和の終わり頃まで使われていた技術だそうです。
当時は使える薬剤が限定されていたことや機械の操作方法が広まらなかったことで、徐々に使われることがなくなり、害虫を駆除するためには、その害虫の天敵となる虫(例えば蜂など)を導入し、対抗策をとっていました。
しかし、キュウリではアザミウマ類が媒介するウイルス病が問題になっていることや、年間を通して様々な病気が発生することから、農薬散布による防除が主のまま。
害虫防除以外にも病害を防除する必要性と省力化のために、常温煙霧の再検討と実験、登録農薬が増えたことで見直されてきました。
常温煙霧の特徴
通常用いられる農薬散布方法は、噴霧器などを使って作業者自身が農作物全体にかけるため、作業時間と体力を使う負担の大きい作業で、重労働となってしまいます。
さらに農作物が大きく育ち繁茂すると、農薬の付着する場所によるムラが生じたり、キュウリなどの生育スピードの速い作物では成長すると薬のかかっていない部分が増えるため、頻繁な防除作業が必要となり、時間と労力をともなってしまいます。
しかし、常温煙霧という方法を用いるのであれば、一度設置したあとは散布液の用意とスイッチを押すだけという作業のため、通常の農薬散布と比べて数時間のコストカットができます。
また、従来では日中に行っていた防除作業を夜間に行えるので、日中帯作業に割いていた労働力を有効に活用できるのもポイント。省力化と労力分散を兼ね備えた画期的な防除方法といえるでしょう。
燃焼煙霧法という方法もあり、こちらの方法ではパルスジェットエンジンを使います。
パルスジェットエンジンによって共鳴振動エネルギーが引き起こされ,排気管内に噴射された農薬の濃厚液を3μ程度の微粒子に霧化し、施設内に拡散させる散布法です。こちらも常温煙霧と同じく、登録された農薬(薬剤)であること、使用される液剤は少量という特徴があります。
常温煙霧登録薬剤
常温煙霧に用いられる薬剤は農薬であれば何でもよいというものではありません。
”農薬は危険なもの”、”無農薬でなければ食べない”と考える方もいますが、登録される農薬は、人間が病気になったときに服薬する薬と同様に、厳格な安全性の試験をします。
そのため、登録内容に基づいた農薬を使用した農作物であれば、健康に影響がないそうです。
農薬を全く使わなければ、農作物は害虫などに食べられたり病気が発生して人間が食べれたものではなくなったりしてしまうということは、少し考えればわかることですね・・・。
常温煙霧に使われる薬剤の一つに、「ダニコール1000」というものがあります。
この「ダニコール1000」について少し深堀してみましょう。
ダコニール1000は70以上の作物と、約180種類の病害に対しての登録を持つため汎用性があり、薬害による影響の心配も少ないため、使いやすく優れた特徴を持つ防除薬です、薬剤耐性菌の病害である「トマト葉かび病・すすかび病・キュウリ褐斑病など」にも予防効果があります。
他にも「残効性」や「耐雨性」に優れていて薬班による汚れも少なく、有用昆虫であるミツバチなどの、害虫の天敵への影響も少ないそうです。
うどん粉病など、ベランダ菜園での悩みどころの病害に対しても予防薬として使えるので便利です。
ダコニール1000は下記のように使用できる作物・使用できない作物や期間があります。
・りんご:ゴールデンの後代品種 (つがる、世界一、ジョナゴールド等)には使用しない。また、落花後20日間はサビ果が多くなる可能性があるので散布しない。
・なし:二十世紀以外の品種には使用しない(二十世紀であっても7月以前に使用すると葉に薬害を生じる)。
・もも(有袋栽培):袋を取った直後は日焼け症状が出る場合があるため避ける。
・いちじく:果実肥大期の初期、夏期の暑い時間帯(高温時)の散布は避ける。
・ねぎ及びわけぎ:播種時~出芽直後は、生育が抑制される場合がある。
・レタス:高温期は避ける。
・しそ:葉にかからないように根本に散布する。
・花木類:花木が色づいてからと、収穫間際の散布は避ける。
・芝:夏期の暑い時間帯(高温時)の散布は黄変などが起こる場合があるため注意する。
・その他の適用作物・新品種:病害虫防除等の関係機関の指導を受ける。
常温煙霧で使う場合は、専用の常温煙霧機を使い、煙霧が直接農作物に当たらないようにする、できるだけ夕方以降に作業し、6時間以上密封する、という注意事項があるので、使用方法なども併せて確認するといいですね。
他の登録薬剤については下記の表に簡単にまとめてみましたので、参考になるかと思います。
常温煙霧を使うことによるメリットとデメリット
常温煙霧を使うことでどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
まずはメリットからです。
メリット
・作業時間の短縮
自動で煙霧してくれるため、作業者の作業負担が減ることによる時間の短縮と効率が良くなります。
夜間に農薬を散布してくれるのであれば、日中作業では農薬の散布が不要もしくは少しの作業となるでしょう。
常温煙霧を導入するまえであれば日中帯に行っていた薬剤散布の時間を別な作業時間に充てれる、というのは作業者にとっては嬉しいことだと思います。
・薬剤散布の効率化
煙霧状の薬剤のため、隅々まで行き渡らせることもできます。
・薬剤量の減少
少量の薬剤を散布するため、通常の薬剤散布時と比べて薬剤の使用量が減少します。
・薬剤のコストカット
薬剤の使用量が少なくなるということは、必然的に薬剤にかけるコストも下げることに繋がります。
・効率的な防除
煙霧状の薬剤は農作物の隅々まで行き渡らせられるため、非常に効率的・効果的な防除が期待できます。
薬剤の効果時間も永続的ではないため、定期的に自動で全体に散布できるのは魅力的ではないでしょうか。
・湿度を抑制できる
高濃度な薬剤を少量散布するため、使用する水の量は少量で済ませることができます。
そのため、散布後の湿度上昇による作物への影響を抑えることができます。
次はデメリットです。
デメリット
・閉域空間が必要
ビニールハウスハウス内など、薬剤を散布した後は閉じ込めておけるために建物内などでなければ効率がよくなりません。
そのため、ビニールハウスなどの施設の設置・維持費がかかってきます。
・専用機械の購入
常温煙霧機は専用の機械を使用しなければ、故障などのトラブル・効率的な散布ができません。
そのため、常温煙霧機の購入費がかかります。
・適切な薬剤を使用する
常温煙霧では、登録された薬剤のみを使用します。
登録外薬剤では機械の故障や薬剤の効果が期待されたものとならない可能性が高くまた、安全性の問題もあり推奨はされていません。
常温煙霧を利用する場合は、必ず「登録薬剤」なのかを確認しましょう。
常温煙霧機
常温煙霧ができる機械をご紹介します。
「ハウススプレー」/有光工業(株)
スイッチを押すだけで起動するため、夜間の無人状態でも防除作業ができる常温煙霧機です。
少量散布式のため作物の薬による薬斑が少なく、においが残ること、そしてハウス内の湿度を上げることがないため天候にも左右されません。
常温煙霧導入の事例
・花木類
装飾などで飾ることが多い花木類は、汚れてしまうと商品価値がなくなってしまいます。
薬班による汚れが少ないため、安心して薬剤を使用することができます。
・トマト、ナス
トマトやナスに薬班が出てしまうと、1つ1つの作物から拭き取る作業が必要になるため、手間と時間が非常にかかります。
・果樹
密集して成っているミカンなどは薬剤の散布量が多くなり、手間と労力がかかります。
常温煙霧を使うことにより、労力と薬剤自体の削減ができ、減農薬で栽培できるようになります。
まとめ
常温煙霧を行うことによって、作業時間や薬剤の効率的な散布など有効なメリットがあると言えることがわかりました。
薬剤の散布は手間や時間がかかるため、微粒子状でかつ作業者の負担が減らせるというのは大変楽になると思います。
常温煙霧を導入することで、時間の効率化や散布のための時間を別な作業にあてたり、薬剤の使用量を減らすことなど多数の恩恵を受けることができるようになります。
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