塩類集積とは?塩類集積から農作物を守るコツを徹底解説

「温度や湿度の管理、水管理、施肥などに気を使って植物を育てているけど、思ったように育たない…」とお困りではありませんか?手間暇かけているのに、なかなか植物が育たなければ、育てるのが苦しくなってしまいます。

しかし、もしかしたらそれは施肥した栄養塩類が地表面に集積し、植物に悪影響を与えているのかもしれません。塩類集積(えんるいしゅうせき)が関係している可能性が考えられます。塩類集積によって塩害などが発生しているかもしれません。

「塩害って海の近くや海水からしか発生しないのでは?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、そんなことはありません。そこで今回の記事では、塩類集積の概要や原因、対策について詳しく解説していきます。

塩類集積(えんるいしゅうせき)とは

塩類集積とは、土の中で水に溶けているリン酸塩や硝酸塩といった栄養塩類が蒸発により上方へ移動し、地表面に集積する現象のことです。露地栽培だと通常地表面の塩類は雨水により流されますが、施設栽培では降雨の影響を受けないため土壌の肥料成分の塩類が流れにくくなっています。そのため塩類集積が起こりやすくなっているのです。

施設栽培は施肥量自体が多くなってしまい、それも原因の一つになっています。特に休耕期は水を与える作業を行わなくなり、地表面から下降する水が少なくなります。また被覆資材の影響で外気の温度より内部の温度が高くなるため土壌の水分蒸発がより進み、地下水が地表面に上昇します。そのため塩類集積が発生しやすくなってしまうのです。

関係性が深い「EC」とは?

塩類集積には「EC」が関係しています。

ECとは「Electrical Conductivity」の略で、訳すると電気伝導度という意味です。土壌中には様々な物質が存在しており、その中でも作物の栄養分となる物質が塩の形で存在しています。

塩は酸と塩基の化合物で、水中でイオンになって電流が流れやすいものです。この電流の流れやすさを示すのがECであり、mS/cm(ミリジーメンス)、dS/m(デスジーメンス)という単位です。このECの値が大きければ大きいほど、土壌中に塩類、つまり肥料分がたくさんあることを示します。

このECが高いということは、土壌中の塩類濃度が高いことを示し、非常に高い状態が塩類集積となります。

園芸作物ごとに適正なEC値(mS/cm)は以下のとおりです。

黒ボク土:果菜類0.3~0.8、葉・根菜類0.2~0.6

沖積土・洪積土:果菜類0.2~0.7、葉・根菜類0.2~0.5

砂質土:果菜類0.1~0.4、葉・根菜類0.1~0.3

塩類集積が起こる原因

塩類が地表面に集積し、植物に悪影響を与えている塩類集積ですが、発生する原因は複数あります。主に以下のような原因があげられます。

  • 降水不足
  • 土壌排水不良
  • 土壌の塩類含有量

降水不足

降水不足は、塩類集積の主要な原因の一つです。乾燥地域や乾燥した季節において、降水量が不足すると、土壌や地下水中の塩類が蒸発して表面に残り、濃縮されます。これは特に地中海地域や砂漠地帯などの乾燥した気候に影響を及ぼしやすいです。降水不足の結果、土壌中の塩分濃度が増加し、作物栽培に支障をきたすことがあります。

また、降水不足により灌漑が必要となる農地では、灌漑水にも塩分が含まれることがあります。このため、適切な灌漑管理が重要であり、過度の灌漑によって塩類集積が悪化することもあります。

土壌排水不良

土壌の排水が不良な場合、塩類が蓄積しやすくなります。排水不良の土壌では、水が効果的に排水されず、土壌中に滞留することが多いため、塩類も同様に滞留し、濃縮されます。これはしばしば低地や谷間の土地で見られ、地下水位が高い地域でも発生しやすいです。

土壌排水改善策としては、適切な排水システムの設置や土壌改良が行われます。排水システムは水を適切に排出し、土壌中の塩類を流出させる役割を果たし、土壌改良は土壌の物理的・化学的特性を改善し、塩類の滞留を減少させる助けになります。

土壌の塩類含有量

土壌の塩類含有量が高い場合、塩類集積がより一層顕著になることがあります。一部の地域では、土壌中に元々多くの塩類が存在し、これが降水や灌漑水と相まって塩類集積を悪化させます。土壌中の塩類が多い場合、これらの塩類が根によって吸収され、作物に有害な影響を及ぼすことがあります。

土壌の塩類含有量を管理するためには、塩分を除去するための土壌浸透処理や灌漑水の品質管理などが必要です。これにより、塩類集積が緩和され、作物の生産性や土壌の品質が向上する可能性があります。

塩類集積によって起こる被害

塩類集積が起きてしまうことによってどのような被害が引き起こされてしまうのでしょうか?ここからは塩類集積によって起こる被害の症状について解説します。きちんと被害を把握して対策を打っていきましょう。

塩害による水分吸収機能の低下

塩類集積によって塩害が起き、水分吸収機能の低下によって植物は育たなくなってしまいます。

肥料成分が土壌の表面に溜まることで土壌の塩類濃度が高くなっていくことで、根っこの細胞膜の内側より外側の塩分濃度が高くなります。濃度を整えようとする作用が働き、濃度の薄い方から濃い方へ水とが移動しようとするため、根っこは水分を吸収することが難しくなります。

そのため、根は栄養分や水分を吸収することができなくなります。水分吸収機能の低下により、適切に水を与えても高温時には葉が萎れます。葉色は濃く生育が遅れ、果実は色付きが悪くなり肥大しません。塩類集積が植物に与える影響は非常に大きいです。

ガス障害による植物の劣化

塩類集積によって、植物へのガス障害も引き起こされます。

ガスは気孔から植物体内へ侵入し、細胞の酸素を奪うため葉っぱが黒ずんで衰えてきます。また、葉が黄色へ変化したり、ポツポツと不規則な斑点が生じたりします。

ガス障害は2種類あり、アンモニアガス障害と亜硝酸ガス障害があります。

2つのガス障害は症状が似ており、被覆ビニールについた水滴のpHを測定することによりどちらが発生しているか確認ができます。

pHを測定して、アルカリ性であればアンモニアガス障害、酸性であれば亜硝酸ガス障害の可能性が高いと判断できるでしょう。

2つのガス障害は以下のような流れで発生されてしまいます。

アンモニアガス障害

1.土壌pHがアルカリ性に傾き、アンモニア硝化菌の活動が停滞

2.アンモニア態窒素の分解が遅れ、土壌にアンモニアが蓄積される

3.施設内の温度が急激に上昇した場合にアンモニアガスが発生する

亜硝酸ガス障害

1.土壌pHが酸性に傾き、亜硝酸硝化菌の活動が停滞

2.亜硝酸態窒素の分解が遅れ、土壌に亜硝酸が蓄積される

3.施設内の温度が急激に上昇した場合に亜硝酸ガスが発生する

塩類集積の対策方法

塩害とガス障害を引き起こしてしまう塩類集積ですが、どのように対策すればよいのでしょうか?ここからは塩類集積の具体的な対策方法について4つ解説します。

  • 散水にて除塩を行う
  • 腐植酸資材の活用
  • 塩分に対しての耐性が高い緑肥の利用
  • 土の入れ替え

散水にて除塩を行う

塩類集積の場合は、水で洗い流して散水除塩を行いましょう。

休耕期にビニールなどの被覆資材を剥がし、わざと雨を当てましょう。そうすることで雨水を利用して表土に蓄積された塩類を洗い流すことができます。積雪地域では雪を積もらせて雪解け水を利用しても良いです。もしもガラスハウスなど対応が難しい場合は、スプリンクラーなどを利用して水で洗い流していきましょう。

この方法は一般に多くの圃場で活用されています。しかし、塩類集積が起きてしまってからの対処療法なので、根本的な解決にはなりにくいです。露地栽培の場合散水除塩の方法としては、圃場の周辺を畔で囲み、水を流して水を地下に浸透させる方法です。塩類を含んだ水の再上昇を防ぐために地下に排水設備を設置するなど、手間やコストがかかります。散水除塩では、圃場から流れ出た塩類が河川や地下水などに流れ、環境汚染問題になることがあるため、注意が必要だとされています。

腐植酸資材の利用

塩類集積には、腐植酸資材を活用するのもおすすめです。

塩類障害は腐植物質の少ない土壌などで起こりやすいと考えられています。腐植酸を投入することで、塩類障害の悪化を防ぐ効果があるとされています。ただし、腐植物質を施用する場合の注意点としては、腐植質でも「ニトロフミン酸」「腐植酸苦土肥料」などは塩が含まれており、塩類集積対策には逆効果です。成分を確認して活用するようにしましょう。

塩分に対しての耐性が高い緑肥の利用

塩類集積には、緑肥を活用するのもおすすめです。緑肥は「クリーニングクロップ」とも呼ばれています。

塩分に対しての耐性が高く、土の栄養分が旺盛なトウモロコシ、マメ科のクロタラリアなどの緑肥を利用することで、土壌中の余分な塩類を除去することができます。刈り取った緑肥は、土に還したほうが良いという見解と、圃場の外に持ち出したほうが良いという見解があります。前者の考え方は、吸収した余分な塩類は緑肥が体内でタンパク質に変化させ、土に戻すことで有機物の補給になるというもので、後者はそうではないとする考え方のようです。育てる品目や土の条件によって違うのかもしれません。

土の入れ替え

塩類集積の対策には、土の入れ替えも良いでしょう。

塩類濃度の衝撃を和らげるために、地上から30cmまでの土と深さ30~60cmまでの土を入れ替えます。しかしこの作業を実施する場合は、小型ユンボなどの特殊機械を用意する必要があります。

地層の違いにより土壌環境が変化する場合があるため慎重に進めると良いでしょう。手間と労力がかかりますので農地面積が広い場合は現実的な方法ではないかもしれませんが、地表から除去した土壌表層を地力の弱い圃場へ還元する方法もあるようです。

まとめ

今回の記事では塩類集積の概要や原因、対策について詳しく解説しました。

塩類集積とは、土の中で水に溶けているリン酸塩や硝酸塩といった栄養塩類が蒸発により上方へ移動し、地表面に集積する現象のことです。塩類集積が引き起こされると、塩害やガス障害などの症状が起こってしまいます。そのためいち早く対策が必要です。

塩類集積の対策方法をまとめると以下の通りです。

  • 散水除塩
  • 腐植酸資材の活用
  • 緑肥の活用
  • 土の入れ替え

農地において過剰な施肥は農地を不健康にさせてしまい、そこで育つ農作物や植物に悪影響を与えます。土壌の環境は目に見えない分、配慮することが重要です。植物の生育との関係性が非常に大きいので、温度や湿度、水管理はもちろんpHやECなども管理していけると非常に効果的です。

農作物や植物を育てるには、土壌が非常に重要になってきます。そして成長を促進させていくには定期的な土壌のメンテナンスが重要となります。土壌改良材なども非常に種類があり効果も高いものが多いです。現在の土の環境を良く観察し適切に活用し、塩類集積にしっかり対応していきましょう。

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