今こそ耕畜連携!海外依存の問題点を解決する国産飼料のメリットを活かそう

現在、農業の現場で耕畜連携の重要性が叫ばれています。多くの農家でも、耕畜連携のことは知っていたり、必要性を感じている所もあると思います。この記事では、今なぜ耕畜連携が必要なのか、耕畜連携を進めるには具体的にどんな取り組みが必要なのかなどについて、掘り下げてみたいと思います。

耕畜連携について

耕畜連携とは、耕種農家(米麦など穀物、豆類、野菜、果実、花きなどを栽培する農家)と、畜産農家が互いに、飼料生産や堆肥の活用などで連携することを言います。具体的には

  • 耕種農家が飼料作物を作り、畜産農家に提供する
  • 畜産農家が飼料作物を使って家畜を飼育する
  • 家畜の排泄物で堆肥を作り、耕種農家に提供する

というサイクルが、耕畜連携の基本的な形です。

耕種農家:飼料作物を作付

耕種農家が作る飼料作物は、大きく分けて粗飼料と濃厚飼料の2つがあります。

粗飼料は、乾草やサイレージ(牧草、青刈りトウモロコシ、稲発酵粗飼料 (稲WCS))、稲わら、野草などがあり、濃厚飼料は、トウモロコシ、飼料用米などの栄養価の高い穀類などです。

このほか、パンくずや豆腐粕・大豆油かす、菜種油かすなどの食料残渣なども使われます。

畜産農家:堆肥を生産

一方の畜産農家では、牛、豚、鶏の糞尿を処理するために堆肥化や液肥化、乾燥処理、スラリー処理などを行っています。こうした処理をされた排泄物が堆肥として耕種農家に提供され、土づくりに使われます。

なぜいま注目されているのか

耕畜連携の説明図

耕畜連携への取り組みは早くから行われていたものの、なかなか大きな盛り上がりは見えませんでした。しかしここにきて、耕畜連携には畜産・耕種のどちらの農家からも注目が集まっています。

その背景には以下のような事情が関係してきます。

輸入飼料・肥料価格の高騰

ひとつには、輸入される飼料や化学肥料の価格が高騰してきたことです。

日本の農業や畜産は、長い間化学肥料や飼料を輸入に依存しており、令和3年度の飼料自給率はわずか25%にすぎません(粗飼料の自給率は76%、濃厚飼料の自給率は13%)。

一方で輸入飼料の価格はここ数年で上がり続け、耕種農家・畜産農家両方の経営を圧迫しています。

さらに近年、コロナ禍での資源調達の停滞やウクライナ侵攻、円安などで、肥料や飼料の原料価格はより高騰しています。飼料や肥料をこれ以上海外に依存すれば、農業や畜産を続けることができなくなる。そんな危機感から、国内での飼料や肥料の自給率向上を求める声が高まっています。

食料米の需要減少と減反政策

減反政策による飼料作物への転作が進められてきたことも、耕畜連携への追い風になっています。

国内では需要減少で主食米が余り続けているため、国は長年減反政策を続けて米の生産を抑えてきました。

食用米を作らなくなった水田で、代わりに国が作るように勧めたのが飼料用米や麦、大豆、トウモロコシなどの戦略作物です。前述の輸入飼料価格の高騰もあって、飼料となる戦略作物への作付が注目されています。

耕作放棄地の増加

日本の農業が抱える問題の一つに、耕作放棄地・放棄田の増加があります。農家の担い手が減ることで使われなくなった農地は、農業に適さない荒地となっていきます。このことで

  • 害獣の進出や治安の悪化
  • 水田が保水性を失い、洪水や土砂崩れなど水害の増加
  • 生物多様性の消失

などの問題が増えてきています。これらの農地を有効活用するために、大規模農家を中心に飼料作物の作付が進められています。

耕畜連携のメリット

耕畜連携の推進は、日本の耕作農業と畜産農業の双方に大きなメリットをもたらします。

飼料・肥料の国内自給率向上

耕畜連携の最も大きなメリットは飼料と肥料原料の国内自給率向上です。

国内で飼料作物を作れば輸入への依存も少なくなります。同様に土づくりのベースになる堆肥も地元で賄うことで、化学肥料の輸入割合も減らせます。

飼料作物の国内自給率が上がれば、現在ほど国際情勢や市場に振り回されることもありません。畜産物の自給率も回復し、結果的に食料の安全保障改善にもつながります。

農林水産省では積極的に耕畜連携を進め、令和12年度までに飼料全体で34%の自給率アップを目標にしています。

耕作放棄地・放棄田の活用/水田保全

耕作放棄地や放棄田を飼料作物の作付に利用することで、農地や水田の保全につながります。農地が適切に使われれば、洪水や土砂災害を減らすことができて、地域の安全確保にもなります。

主食米の需要が減少している日本の稲作農家にとって、飼料作物の生産は積極的に取り入れるべき選択肢と言っていいでしょう。

健全な土壌環境の形成

近年の日本農業は、化学肥料を使いすぎることで土壌の成分や微生物のバランスが崩れ、生物多様性の消失や地力の低下を引き起こしました。その結果多くの病害や連作障害がもたらされています。

国内で作られた畜産堆肥を積極的に使って有機物の豊富な土づくりを行うことで、化学肥料の使用を大幅に減らすことができます。また土壌環境を適切に保つことで、病害に見舞われる確率も少なくなることが期待されています。

耕畜連携を支える飼料作物

国内では、以下の作物が飼料用として栽培されています。それぞれの特徴やメリット、現状や今後の展望などを見ていきましょう。

飼料米

飼料米は稲作農家が最も作りやすい飼料であり、輸入トウモロコシの代替としても使われる濃厚飼料です。

畜産農家のほか、飼料会社や日本飼料工業会、配合飼料メーカーからも大量の要望があり、年間使用量は約130万トンに上ります。

令和4年産の作付面積も約14.2万haになり、その規模は年々拡大しています。

今後取り組む課題としては

  • 農地集積と大区画化や省力技術の導入
  • 他業種との連携などによる生産コストの低減
  • 多収品種の導入
  • 高付加価値化

などが求められています。

特に生産コストについては、現在15ha以上の農家で60kgあたり9,700円のところを、2025年度には7,615円にまで下げることを目標にしています。

稲WCS(稲発酵粗飼料)

稲WCS(ホールクロップサイレージ)は、稲の子実が完熟する前に穂部(籾)と茎葉部を同時に収穫し、サイレージ(ロール状にした穂や茎葉をフィルムで包み発酵させる)にした粗飼料です。主に乳用牛や肉用牛の飼料として使われます。

令和4年産の稲WCSは、約4.8万haの作付面積になっています。

耕種農家が持っている農作業機械でも生産できて、耕種農家・畜産農家の両方にメリットがあります。栽培での課題として

  • 主食米以上に生産コストの低減と収穫効率を向上させる
  • 麦類との二毛作などを推進
  • 茎葉部も使うので、十分な有機物を使う
  • 品種の選定や食用品種とかち合わない作期・作型の設定

という取り組みが必要です。使われる稲には、地域の条件に適した多くの専用品種があり、「茎葉多収型品種」と、茎葉も子実も多く、飼料用米にもWCSにも利用できる「兼用型品種」があります。

青刈りトウモロコシ

青刈りトウモロコシは、飼料用トウモロコシ(デントコーン)を完熟前に収穫して、茎・葉・実の全てを使う粗飼料です。ロール状にしたり、バンカー状にサイレージ化して、主に乳用牛に与えます。

令和3年産の作付面積は約9.6万haにもなるなど、酪農経営ではとても重要な飼料作物です。栄養価が高い、水管理の手間が少ないなどのメリットがあり、関東以西では二期作も可能で、麦などの裏作として作付けされることもあります。

子実用トウモロコシ

トウモロコシの写真

同じトウモロコシでも、子実トウモロコシは栄養価の高い子実のみを使います。主に乾燥あるいはサイレージにされ、牛だけでなく、豚や鶏にも利用できる万能な濃厚飼料として使われます。

子実用トウモロコシは飼料だけでなく食品用や工業用など多くの需要がありますが、日本では99%を輸入に頼るのが現状です。

子実用トウモロコシは

  • 労働時間当たりの収益性が高く、農業人口減少に対応しやすい
  • 小麦や大豆などとの輪作で連作障害を防ぐのに有効(後作の大豆の収量増にも貢献)
  • 根圏が大きく、作物による圃場の排水改善が見込める
  • 収穫に普通の汎用コンバインが使える
  • 安価な水田転作交付金(3.5万円/10a)でほぼ生産費が賄え、大きな投資を必要としない

などのメリットがあり、米以上に需要が大きいので大量に増産しても価格低下の心配がありません。海外産に買い負けしない安心安全な飼料として、今後国内での増産が期待されます。

牧草

牧草は主に乾草や乳酸発酵させたサイレージにされ、放牧時には生で牛の主食として使われます。

水田地帯に隣接する畜産農家と耕種農家との契約で栽培されることが多く、東北地方では牧草の3割が水田で栽培されています。

水田は面積も広く基盤も整備されているので、一般の飼料に比べて作業性も良く、排水対策や湿害に強い草種を選ぶことで高い収量が得られるのがメリットです。

種類が多くさまざまな特性があるので、水田での裏作や他作物との輪作などの多様な作付体系にも合わせられます。

稲わら

稲わらも年間90万トンが主に肥育牛に与えられる、重要な飼料作物です。

稲を収穫した後の稲わらはすき込みや焼却されて有効活用されないものも多く、育牛農家からは国産の稲わら飼料を求める声も多く上がっています。

にもかかわらず国内の稲わら飼料は国産が75%で、残り25%を中国から輸入している状況です。

そのため国では、国産稲わらの収集や飼料化に必要な機械や、保管に必要な設備の導入支援をしています。それ以外にも、稲わらが必要な畜産農家へ呼びかける、稲わら収集をする余力がない稲作農家に、余力がある稲作農家を紹介するなどのマッチングも行なっています。

耕畜連携への課題

飼料用のサイレージ

耕畜連携を進める上では、以下のような課題があります。

飼料作物のコスト

輸入飼料の価格が高騰しているとはいえ、生産コストの高さは国産飼料作物の課題です。

飼料作物の生産コスト低減のためには

  • 飼料米:生産技術の向上や多収品種利用の促進
  • 稲WCS:低コスト栽培技術の導入や多収品種の開発によるコスト低減
  • トウモロコシ:水田での湿害対策

などの取り組みが必要になってきます。

各種補助金の活用

飼料作物の生産には、減反政策に伴う水田活用の直接支払交付金を活用するのが一般的です。

主な耕畜連携に関する助成金としては

  • 戦略作物助成:⻨、大豆、飼料作物:3.5万円/10a、WCS用稲:8万円/10a
  • 強い農業づくり総合支援交付金:稲WCSなど国産粗飼料の調製・保管施設の整備などを支援(補助率:1/2以内)
  • 環境負担軽減型持続的生産支援事業(エコ畜事業):輸入飼料から水田を活用した青刈りとうもろこしに転換した場合に、拡大分に応じて2,000円/トンを助成

などの補助が受けられます。

堆肥の流通・利用に伴う困難

堆肥工場に積まれた堆肥

耕種農家では、国産堆肥を使いたいという要望が高まっています。にも関わらず、国産堆肥の利用が思うように進んでいない側面もあります。

その理由として

  1. 家畜排せつ物の発生量は畜産農家の多い地域に偏り、利用にも地域差がある
  2. 堆肥の運搬と散布に労力がかかり、堆肥利用に二の足を踏む農家がある

があり、堆肥の広域流通や利用への障壁になっています。

家畜の排泄物、特に牛ふんを使った堆肥は、粒が不均一で粘り気があることから特殊な散布機械が必要になります。しかし中小規模の農家ではそうした機械を個人で持つことは難しく、労力がかかるため特に高齢の農家から堆肥の使用が敬遠される原因となっています。

ペレット堆肥の活用

こうした課題を解決するため、牛ふん堆肥を粒状に成形加工したペレット堆肥が注目されています。

ペレット堆肥は水分や臭気の問題を解決し、保存や運搬がしやすくなるので

  • 畜産農家にとっては遠距離輸送で広域利用や品質保持がしやすい
  • 耕種農家にとっては汎用機械で簡単に土づくりを行える

という、畜産農家と耕種農家の両方にメリットをもたらします。

課題としては、施設整備にかかる投資が大きくコストがかかること、遠隔地から堆肥を購入する耕種農家にとっては肥料代の面で優位性が少ないことなどがあります。

堆肥の活用や広域流通に向けた取り組みとしては

国の「畜産環境対策総合支援事業」による補助

  • 堆肥の高品質化やペレット化など「土づくり堆肥」の生産・流通や海外輸出を促進
  • 悪臭防止や汚水処理について高度な畜産環境対策を実施
  • 畜産環境問題の解決を推進し、畜産の生産拡大

を活用するほか、地域のJAや肥料会社などが複数の畜産農家と共同で施設整備・運用する体制づくりや、生産・輸送コストの削減、付加価値向上などの取り組みが求められます。

耕種農家と畜産農家の需給ミスマッチ

もうひとつの課題は、飼料作物を作る耕種農家と、堆肥を使ってもらいたい畜産農家との間で、需要のある相手を見つけることが難しいという事案です。地域内でやり取りしている耕種/畜産農家が近くにいない場合も多く、需給のミスマッチ解消は重要になります。

こうした問題には、地域のJAや飼料・肥料メーカーが情報を集めてマッチングを行ったり、農作業を請け負うコントラクターなどの組織が仲立ちすることで解決していく仕組みづくりが求められます。

まとめ

農業でできた穀物で家畜を育て、家畜の排泄物を肥料にして農作物を育てる。耕畜連携は古くから行われてきた循環型農業の姿でした。しかし、量と効率を追い求め、価格が安かった輸入飼料と化学肥料に頼ってきた結果、日本の食料生産はいつの間にか海外の状況に振り回されてしまっています。

こうした現状を打開し、国内の食料を自前で生産するためにも、今こそ耕種農家と畜産農家が一体となって、耕畜連携に取り組む必要があると言えるでしょう。

参考資料

東北“耕畜連携”の輪:東北農政局 – 農林水産省

飼料をめぐる情勢 畜産局飼料課 – 農林水産省

ルーラル電子図書館―農業技術事典 NAROPEDIA

飼料用米をめぐる情勢について – 農林水産省

飼料をめぐる情勢 畜産局飼料課 – 農林水産省

稲発酵粗飼料 生産・給与技術マニュアル 第7版|一般社団法人 日本草地畜産種子協会

飼料作・畜産編【3】 イネWCS(稲発酵粗飼料)

「水田における子実とうもろこし生産」 – 農林水産省

飼料 – 農林水産省

持続可能な畜産物生産の取組事例集について – 農林水産省

子実用トウモロコシ 生産・利活用の手引き (都府県向け) 第1版|農研機構

稲わらについて – 農林水産省

ペレット堆肥の広域流通に向けて – 農林水産省

家畜排せつ物の発生と管理の状況 – 農林水産省

家畜排せつ物の管理と利用の現状と対策について – 環境省

循環する資源としての家畜排せつ物|農林水産研究開発レポート No.3(2002)

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