知らなきゃヤバイ!?”防除の基本”と言われる「耕種的防除」とは?

病気と害虫。

天候を除けば、農家の方にとっての天敵はまさにこの二つといってもいいでしょう。

農家の方々は、作物を安定的に収穫するため、この二つと戦うための工夫を凝らしてきました。

農作物を病気と害虫から守る施策のことを、農業用語で「防除」と言います。

そして、数ある防除法の中でも”基本”と言われている方法が、今回紹介する「耕種的防除」なのです。

これは、これから農家を目指そうとする方にとっては必須の知識と言ってもいいでしょう。

一体どんなものなのか?その中身に触れていきましょう。

4つの防除法(IPM)

耕種的防除法を理解するには、まずは防除の基本について知っておく必要があります。

防除には、大きく分けて以下の4つの方法があります。

①物理的防除法
②生物的防除法
③耕種的防除法
④科学的防除法

そして、化学農薬に依存した農業から脱却し生産性を維持しつつも地球環境に配慮したこれらの防除技術のことを「IPM(Integrated Pest Management)」と呼びます。

では、この4つの防除法についてそれぞれ概要を解説していきましょう。

物理的防除法

物理的防除法とは、熱、光、風力などの物理的な力を利用して病害虫を予防する方法のことです。

具体的には、熱で土壌に生息する病害虫を死滅させる方法や、風で吹き飛ばし、袋に捕獲してそのまま圧死させる方法などがあります。

実施した場合の防虫効果は高いのですが、土中に生息する他の微生物までも死滅してしまうので、土壌生物相が単調化してしまうという欠点があります。

生物的防除法

生物的防除法とは、生物が本来持っている寄生性、捕食性、誘引性などの性質を防除に活用する方法です。

具体的には、天敵を住まわせて病害虫を捕食させる方法や、病害虫のフェロモンを狂わせて交尾を妨げる方法などがあります。

環境汚染や生態系にダメージを与える危険性が低く非常にクリーンな防除法ではあるものの、効果が限定的で汎用性が低いという欠点があります。

耕種的防除法

今回のメインテーマである耕種的防除法は、無病苗の使用や土壌改良、栽培環境の適正化などの「栽培方法の改善」によって防除効果を得るというものです。

こちらも、安価に導入が可能なうえ生物的防除法と同じく地球環境に優しい防除法として期待されているのですが、即効性が低く、効果が出るまでには長い時間がかかります。

(後ほど詳しく説明します)

科学的防除法

なるべく環境負荷の少ない化学農薬を使用して防除を行おうとする技術のことを、科学的防除法と言います。

科学的防除法は、物理的防除法、生物的防除法、耕種的防除法のような農薬によらない防除技術と比べて、即効性が高く安定的な効果が期待できます。

ただし、農薬の毒性を低くすると効果の範囲が限定的になるため、農薬選びには慎重を期す必要があります。

7種類の耕種的防除法とそのメリット

防除法の概要が理解できたところで、次はいよいよ本題の耕種的防除法について、さらに詳しく解説していきましょう。

上で解説したとおり、耕種的防除法とは作物の栽培方法や環境条件などを適切に管理して、作物や環境が本来有している”病害虫の発生を抑制する作用”を効果的に活用する技術のことです。

人間に例えるのであれば、薬を飲んで風邪を治すのではなく、食生活や生活習慣を見直して免疫力を高め、人間が本来持っている抵抗力で風邪を予防しようとする発想によく似ています。

特に最近では、インターネット等の影響により「農薬を使わない野菜の方が身体に良い」という考え方が広く普及しました。

これにより、化学肥料や農薬を使用しない耕種的防除法の重要性が高まってきているのです。

日本農業協会(JA)によると、耕種的防除法には以下の7つの方法があります。

抵抗性品種

抵抗性品種とは、もともと病気になりづらい特性を持った品種のことを言います。

抵抗性品種を利用することで、環境に負荷をかけることなく作物を防除することが可能です。

仮に抵抗性品種に病害が発生してしまったとしても、病原菌密度を最小限度に留めることができます。

台木

台木とは、病原菌に抵抗性を持つ作物の”根”から”根に近い部分”を活用し、その上に所望の品種を繋げて(接ぎ木)栽培する技術のことです。

作物は、汚染している土壌から病原菌に感染するというパターンが多いのですが、台木の技術を駆使すれば、土壌からの感染リスクを大きく減らすことができます。

圃場衛生

圃場(田んぼや畑などの総称)内に生える雑草には、病原菌が寄生している可能性があります。

作物が病原菌に侵されてしまうことが無いよう、雑草などを取り除くなどして圃場の整備を行うことが圃場衛生です。

他にも、作物の栽培を終えたときに圃場に残る作物残にも病原菌が付着している恐れがあるため、それらの処理を行うことも忘れてはいけません。

有機物の施用

土壌に有機物を施用することにより、土壌に生息する微生物を活発化させます。

活発化した微生物は、作物の天敵である病原菌を減少させるという作用をもたらしてくれます。

土壌pHの調整

土壌のpH値を、作物の成長に適した数値(5.5(弱酸性)~7.0(中性))付近に調整する必要があります。

ほとんどの場合は、土壌は酸性に偏ってしまう傾向があるため、石灰質肥料を投入してpH値を弱酸性~中性に寄せるというやり方が一般的です。

稀にアルカリ性に偏る場合がありますが、その場合は硫安や過リン酸石灰などの酸性資材を投入することによりpH値を調整することができます。

輪作

輪作とは、 同一耕地に異なる種類の作物を交互に繰り返し栽培することを言います(例:1年目→トマト、2年目→さつまいも、3年目→さやえんどう、4年目→…)。

毎年同一の作物を栽培し続けていると、特定の病原菌が大量発生し土壌が汚染する”連作障害”が発生してしまいます。

輪作を行うことで病原菌の寡占化を抑制し、連作障害を防止することができるのです。

雨除け栽培・袋かけ栽培

フィルムなどにより被覆を行ない雨がかからないようにして野菜を栽培する方法を”雨除け栽培”、果実などに直接袋をかけて害虫の接触を直接防ぐ方法を”袋掛け栽培”と言います。

病原菌の感染は、”根”からだけとは限りません。

雨などによる土壌の跳ね返りや害虫の接触など原因となり、作物が病原菌に感染してしまう場合も十分に考えられます。

感染の危険から作物を物理的に隔離してしまうこのやり方は、高い防除効果があるとされています。

なぜ耕種的防除法が”防除の基礎”なのか?

では、上で紹介した4つの防除法のうち、なぜ耕種的防除法が”防除の基礎”と呼ばれているのでしょうか?

実は、耕種的防除法の歴史古く、人間が田畑を耕すようになってから既に実践されてきたと言われています。

例えば、耕種的防除法の一つである輪作。

これは、古代ローマ(紀元前753年~476年)の書物において「輪作はアフリカおよびアジアの文化である」という記述がされていたというから驚きです。

2000年以上も前から、人類は輪作の有用性に気付いていたのですね。

現在の耕種的防除法には、我々の祖先が何千年という長い年月をかけて培ってきた長い歴史が詰まっているのです。

また、比較的安価で実践できるという点も基本といわれる所以です。

耕種的防除法を行うためには、大規模な施設や高価な機械などは必要ありません。

知識と経験があれば、誰でも実践することができるのです。

耕種的防除法のデメリット

即効性が低い

耕種的防除法の大きなデメリットの一つは、その効果が表れるまでに長い時間を要するということです。

例えば、新しい抵抗性品種を開発するということであれば、開発に着手してから市場に出回るまでに数年単位の時間がかかります。

土壌に有機物を施用しても、生態系のバランスが適切な形で構成されるまでに数年単位の時間がかかってしまいます。

頑張って防除いるにも関わらずなかなか結果に現れないため、途中でモチベーションが低下してしまったという農家さんも少なくありません。

効果が限定的

耕種的防除法は、”これさえやればオールオッケー!”というような、万能の方法がありません。

育てている品種によって、防除の内容を変えていかなければなりません。

例えば輪作では、野菜の種類によって連作障害を回避するための休閑期間が定められており、一度収穫を終えてしまうとしばらくはその野菜を栽培できなくなります。

このように、耕種的防除法を正しく効果的に行うためには、正しい知識と長い経験が必要になってくるのです。

生産性の向上に繋がりづらい

耕種的防除法は、確かに有害性が低く地球環境にも優しい優れた防除法ですが、実践したからといって収穫量が増えるかというとそうではありません。

収穫量を増やすのであれば、やはり化学肥料や農薬を使用した方が費用対効果は高くなります。

収穫量が見込めるかどうかは、農家の方にとっては死活問題。

「家計が苦しいため、耕種的防除法よりも即効性が高い化学肥料や農薬を使用した慣例農業を優先的におこなった」という農家さんがいたとしても、それは誰も責められることではないでしょう。

耕種的防除法の今後

SDG’sの世界的な広まりなども背景となり、地球環境保護の風潮は今後さらに高まりを見せていくことでしょう。

そのように考えると、農業の世界における耕種的防除法の必要性もますます重要視されていくことが予想されます。

今後の耕種的防除法に求められることは、これまで経験や勘によって行われてきたものを、科学技術や最新の通信技術を駆使してデータ化していくことです。

これにより、安定的かつ低コストで耕種的防除法を行っていけるようになります。

また、農家の方の生活を守るためにも、耕種的防除法を行うための支援制度や融資制度が整備されていかなければなりません。

まとめ

今回は、農業と基本とも言われる耕種的防除法について紹介してきました。

数ある防除法の中でもひときわ歴史の長い耕種的防除法。

人類がここまで長い間実践してきたというこの事実は、まさにこの防除法の有用性を証明していると言えるのではないでしょうか。

農業を始めたら、まず実践するのは”防除の基礎”と言われる耕種的防除法です。

農家志望のみなさんは、覚えておいてくださいね!

今後の耕種的防除法の発展に期待しましょう。

「みんなの農家さん」では、農業に関する最新情報や気になるトピックスなどを逐次配信しています。

 興味が湧きましたら、是非とも他の記事も読んでみてくださいね。

報告する

関連記事

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

コメントするためには、 ログイン してください。