近年、地方への移住や、食への関心の高まりから、農業を志す人が増えています。

一方で、本格的な事業として農業を行うには、初期投資や収入などのハードルがあることに加え、知識や技術、経験といった面で不安を感じる人も少なくありません。

こうした新規で就農を目指す人たちをサポートするため、政府がそれまでの制度を改めた支援対策が新規就農者育成総合対策です。

新規就農者育成総合対策の概要

新規就農者育成総合対策は、農業の将来を担う農業者の育成と確保に向け、政府が取り組む複数の支援策の総称です。

その内容は資金の給付に加え、サポート体制を整えたり、教育や人材確保の強化に努めるなど多岐に渡っています。国によるこうした就農支援策は平成24年度から行われていましたが、内容の見直しを経て、2022年4月から新たに制定されました。

総合対策の背景と目標

この対策が立てられた背景には、農業が抱える高齢化と将来の担い手不足という問題があります。

農業は国民の食料供給を支える重要産業です。にもかかわらず、主に自営農業で働いている人口は平成27年から令和2年の5年間で、約23%近く減少し、そのうち70歳以上が約42%を占めています。

出典:新規就農者の確保と定着について

農業の担い手不足の原因として挙げられるのが

  • 新規参入のハードルが高い=農地や設備、当座の生活費などの資金準備
  • 採算性が高くない
  • 作業量が一定でなく、不安定

などです。

こうした問題を解決するために、農林水産省は新規就農者を増やすための対策を打ち出しました。

今回の新規就農者育成総合対策では、

令和5年までに49歳以下の農業従事者を今より40万人増やす

という目標を掲げています。

新規就農者育成総合対策の内容

それでは、新規就農者育成総合対策は具体的にどのような対策を行なっているのでしょうか。

この総合対策の内容は、大きく分けて

  • 就農者への資金援助
  • 技術面の支援事業
  • 人材呼び込みの促進

に分かれています。それぞれについて見ていきましょう。

就農者への資金援助

これから農業を始めたいと思っている人にとっては、最も気になるのが資金面での援助だと思います。

この総合対策で新規の就農者に資金援助を行う制度には、経営発展支援事業/経営開始資金/就農準備資金/雇用就農資金があります。

経営発展支援事業

これは就農後の経営発展のため、必要な機械・施設の導入などに使う費用を国と都道府県が支援するものです。国は都道府県が支援する金額の2倍を支援し、上限は1,000万円と定められています。

ここで使えるのは、

  • 機械・施設等の取得、改良またはリース
  • 家畜
  • 果樹・茶の新植・改植
  • 農地等の造成、改良または復旧

に指定されており、生活費など他の用途には使えません。

経営開始資金/就農準備資金

では、経営が軌道に乗るまでの間、生活費に不安がある場合はどうすればいいのでしょう。

そうした問題に対応するのが経営開始資金です。これは新規就農者に対して、月12万5,000円、年150万円を最長3年間支給する制度です。

就農準備資金も同じですが、こちらは農業研修を受けている研修生が対象になります。

雇用就農資金

こちらは就農希望者を雇用して研修を行う農業法人や、先進的な取り組みや経営ノウハウを学ぶために他の法人へ職員などを派遣し、研修を行う法人や機関が補助対象になります。

補助金の上限は60万円/年で最長4年となっています。

技術面の支援事業

就農対策は、資金を給付しただけでうまくいくわけではありません。初めて農業を行う人にとっては、農業技術や経験のほか、収穫した作物の販路確保や経営計画など、何もかもわからないことだらけです。

農業を安定した事業として長く続けていくには、一定期間、外部からのサポートを受けることも必要になってきます。

制度面での支援事業は、サポート体制構築事業/農業教育高度化事業/農業人材確保推進事業に分けられ、それぞれに非常に多くの対策がとられています。

サポート体制構築事業

これは、自治体や協議会、法人が対象となり、以下のような事業に100万円を上限に補助金が交付されます。

  • 就農相談体制の整備:相談員の設置や相談への対応・カルテの作成、就農計画の作成・指導・助言、サポート会議の開催などを行います。他には農地や農機のあっせん、スキルアップのサポートなども含まれます。
  • 就農支援員による技術面の指導やサポート:先輩農業者や支援員によって、技術や販路などを指導したり、研修会や講習会を開きます。
  • 研修農場の整備:施設の整備や研修用の機械や設備を導入したり、研修修了生への貸付を行います。

農業教育高度化事業

この事業は全国事業と都道府県事業に分かれ、いずれも農業教育の高度化を図るための取り組みに対して支援を行うものです。

全国事業では、指導者の能力向上や学生・現役農業者の能力向上や交流、都道府県事業では、教育機関のカリキュラム強化や研修用設備・ICT環境の整備のほか、先進事例の研究・研修などを行なっています。

教育高度化のすべての取り組みにおいて、スマート農業や6次産業、高収益作物、有機農業やSDGsといった、新規就農者の関心が高い分野の技術から、経営戦略や労務管理などのビジネス面に至るまで、より充実した能力向上に重点が置かれます。

人材呼び込み促進

継続して新規就農者を確保し、定着させるためには、多くの人に農業の魅力を伝えていくことが大事です。

そのために、さまざまな情報発信や広報活動を支援するのが農業人材確保推進事業です。

農業人材確保推進事業

この事業の内容としては、主に次のような取り組みを支援しています。

新規就農相談・情報発信:就農希望者が知りたい支援情報を提供するため、情報収集や調査、発信を行います。例えば、新規就農者をどこで受け入れているか、農地の取得や研修に関すること、地元での生活情報など多岐に渡ります。

こういった受け入れ側の情報や、就農希望者とのやりとりなどから得られた情報は、一元化されてシステム上で管理・運用されます。

その一例が、就農に関するポータルサイトです。またSNSなども活用し、幅広く情報発信を行っています。

農業をはじめる.JP (全国新規就農相談センター)

就農相談会実施:ここでは、農業法人などの事業主体全国センターに相談員を配置し、就農希望者との面談など、相談や支援体制の充実を図ります。そのほか、セミナーや農業体験、インターンシップなどを通じ、就農希望者が円滑に就農し、定着できるような体制にもつなげます。

新規就農者育成総合対策を受ける条件

こうして新たに農業を志す人を支援するため、国がさまざまな支援を行っていることがわかりました。では、新規で就農を希望する人がこうした支援を受けるには、どのような条件が必要なのでしょうか。

この記事をお読みの方の中には、自分が条件に当てはまるのか、が気になる人もいると思います。ここでは細かいところまでは載せきれませんので、大まかに5つのポイントを挙げていきたいと思います。

原則50歳未満

この制度で補助の対象になるのは、原則50歳未満、つまり、49歳以下となります。というのは、この新規就農者育成総合対策は、農業従事者の高齢化を防ぎ、次世代の農業の担い手を増やすというのが目的のひとつだからです。

高校・大学を卒業して農業で起業しようという若者はもとより、社会的に不遇な状況におかれてきた就職氷河期世代にもチャンスと言えるでしょう。

農業の担い手となる強い意志がある

支援に必要な条件として、就農を希望する本人が今後を担う農業者になるという強い意志、意欲を求められます。そんなの当然だと思われるかもしれませんが、農業は不確定要素も多く軌道に乗るまで時間がかかるため、続けられずに挫折してしまう人も少なくありません。

しかし、国や自治体から少なくない額の補助を受ける以上、それなりの責任と覚悟が必要だということは心しておきましょう。

同様に、地域の農業やコミュニティの活動への、積極的な参加や協力も必要です。

前年度年収が600万円以下で、他の補助金を受けていない

就農後間もない収入の不安定な時期に、当座の生活費を補助してもらうのが経営開始資金および、就農準備資金です。この資金は、前年度の年収が600万円以上ある場合には援助を受けることができません。

前年度に相応の収入がある方はあらかじめ確認しておきましょう。

また、他の就農支援補助金を受けている/いた場合も、補助をうけることはできません。

要件を満たす独立・自営就農をする者

経営発展支援事業や経営開始資金などを受けるには、以下の要件を満たす独立・自営農業を行うことが条件です。ここでは、新しく自営もしくは起業で農業を始める者か、親などの仕事を継承して農家を続ける者のいずれかが対象であり、農業法人などに就職する者は含まれません。

  • 農地や機械・施設を持っているか借りている
  • 本人名義で取引や経営を行っている
  • 就農計画の認定を受けている 

実現可能な事業計画を立てている

出資者に納得して投資をしてもらうには、出資に見合うと判断されるプランを立てなければいけないのはどんなビジネスでも同じです。経営開始資金や経営発展支援事業の補助を受けるにも、就農者は要件に適合した計画を立てなければなりません。

具体的には

  • 5年以内に農業で生計が成り立つ実現可能な計画であること
  • 市町村が作成する人・農地プランの経営体に位置づけられている(確実に位置づけられる見込み)
  • 親などを継ぐ場合は、5年以内に所得や売上などを10%以上増やせるか、コストを10%以上削減できると認められる計画

などであることが必要とされます。

どんな課題がある?

新たな農業の担い手を増やすべく改定された今回の新規就農者育成総合対策ですが、課題となる点や、気を付けなければならないこともあります。

途中で挫折すると返金しなければならない

これらの就農支援事業は、国が融資して新規就農者を定着させる制度です。したがってこの補助金交付期間内に農業をやめてしまったら、補助を受けた分は返還を求められます。

タイミングが悪ければ多くの負債を抱えてしまうことになるため、就農を目指す若者が二の足を踏んでしまうのではという懸念があります。

個々の事情でやむを得ず離農してしまう場合もあるでしょうが、できる限り確固とした意思と着実な計画で続けてほしいところです。

地方自治体の負担が増すことも

新規就農者育成総合対策は、見直し前と比べて補助事業の上限額が増加しています。

従来は国が全額を負担していたのに対し、新制度では地方自治体も半分の負担が求められています。そのため、財政状況に余裕がない自治体では、各種の支援事業に十分な予算を回せない、財政力によって支援に差が出る、という声も上がっています。

こうした事情は、新規就農者が希望する地域での就農ができなかったり、その後の支援やサポートに影響を及ぼすようなことになります。

新規就農者育成総合対策を利用するには

最後に、この総合対策による就農支援を受けながら農業を始めたい、と思う方のために、どのような手続きを行えばよいかを解説していきましょう。

新規就農者は全くのゼロから農業を始める方がほとんどなため、最初は各都道府県の農業研修機関や先進農家などで、農業研修を受けるところから始めます。

研修準備〜研修:収納準備資金の補助を受ける

最初に、研修計画/研修実施計画/履歴書/身分証明書類などを作成・準備し、交付先の機関に申請して承認を受けます。承認後、交付申請書を作成して就農準備資金の交付を申請します。

研修期間は1年かつ1,200時間/年以上が必要で、半年ごとに研修状況報告をしなければなりません。

研修終了後は、独立・自営か、雇用就農か、親元就農かといった就農状況に応じて、就農届を提出します。研修後、就農を確約できない場合は就農準備資金の交付停止と返還が求められますので、注意しましょう。

就農開始:経営開始資金を受ける

独立・自営農業を行う場合、5年以内に農業経営改善計画や青年等就農計画の認定を受けなければなりません。

青年等就農計画等を作成し、交付先に承認申請をします。この段階で、経営計画が実現可能かどうかが判断されますので、作成に当たっては、各関係機関やサポート機関の関係者などから指導や助言を受けましょう。

承認が下りたら交付申請書を作成し、経営開始資金の交付を申請します。

経営を広げるために:経営発展支援事業の補助を受ける

経営拡大や改善の目的で機械や設備を導入する場合、経営発展支援の補助が受けられます。

申請に当たっては経営発展支援事業計画等を作成します。こちらも経営開始資金同様、各機関からの指導や助言のもと作成し、承認後に交付申請書の作成、提出の流れになります。

経営発展支援事業については、別途実績報告兼助成金支払請求書の作成と報告が必要になります。

上記の諸手続きや必要書類などの詳細は、各都道府県の農政担当部署にお問い合わせください。

また、いずれの手続きにおいても、定期的な就農状況報告が必須となります。報告漏れや書類の不備がないように気をつけましょう。

まとめ

2022年から一新された新規就農者育成総合対策について説明してきました。

一見すると、求められる条件が高い、提出する書類が多いと感じる方もいるかと思います。

しかしこの対策は、国の食料供給と農業の未来を支えるため、将来の農業人となる人を積極的に援助しようとするものです。そのための情報も積極的に発信されていますし、入口にあたってのサポート体制も整えられつつあります。

農業に生きる意義を見出し、その門を叩いてみたいと思ったら、積極的にこうした制度を活用していきましょう。

参考資料:新規就農の促進 - 農林水産省

就農支援の見直し 現場主義で使いやすく - 日本農業新聞

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