現在の日本はさまざまな問題を抱えていますが、そのひとつとして問題視されているのが「2025年問題」です。2022年半ばの時点で、すでに2年半しかありません。あらゆる産業や社会全体に関わってくる問題であり、農家や農業にとっても決して無縁ではありません。
ここでは、2025年問題が農業にどのような影響を及ぼし、どのような対策を取るべきなのかを解説していきます。
2025年問題とは
「2025年問題」を一言で説明すると「2025年を境に超高齢化社会が訪れることで、社会全体に起きるさまざまな影響」となります。
なぜ2025年なのかというと、この年にいわゆる「団塊の世代」と呼ばれる約800万人全員が、75歳以上を迎えて後期高齢者となるからです。
これは日本の総人口約1億2千万人のうち2,180万人、実に国民の5人に1人にも上ります。
またこの時点で、65歳以上は国民の3人に1人となり、まさに「超高齢化社会」です。
2025年問題の何が「問題」なのか?
では、2025年に後期高齢者が急増することの、何が問題なのでしょうか。
その本質は「若者が減り、老人が増える」ことであり「増えた老人を支えるお金や人的リソースが足りなくなること」です。超高齢化社会になると
- 現役で働く世代の人口が減り、就労が困難になる高齢者世代の人口が増える
- 高齢者世代の認知症が現在の1.5倍に増え、介護人材が不足する
- 不足する介護人材を現役世代でまかない、他の産業でも人手不足が深刻化する
- 多くの産業で人手不足になれば、生産性の低下や税収不足に陥る
といった問題が生じ、社会を支える基盤そのものが危機にさらされていきます。
影響は長い年月にわたり続く
こうした背景には「少子高齢化」が原因となっていることは言うまでもありません。
平均寿命は伸びていく一方、出生率が低下して若い世代が減っていくため、高齢者の割合が年々増加してきました。2025年問題は、この「高齢化率の高さ」が社会を維持できなくなる危険水域に入ることなのです。
この状態は2050年代まで30年ほど続くと予想され、その間も若い世代だけが減り続けます。そして「高齢化率」が頭打ちになった未来でも、若年世代人口が増加に転じる可能性は今のところありません。
2025年問題で起こる影響
2025年問題によって日本の社会全体に、深刻な影響が、しかもそれ以降長い間もたらされることがわかってきました。では2025年を迎えると、私たちの日常生活にどのような影響が出て来るのでしょうか。先ほどあげた問題について、もう少し具体的に見ていきましょう。
現役世代の減少と就労困難高齢者の増加
2025年には、15歳〜64歳の生産年齢人口が7000万人まで落ち込む一方で、65歳以上の人口は3500万人を突破します。その多くはすでに定年を迎えているものの、それでも何らかの形で働き続ける高齢者の数は増えています。
しかし、いくら健康寿命が伸び、元気な高齢者が増えたといっても、心身の老化は避けることができません。年齢を重ねるにつれ、次第に現役と同じような働きはできなくなります。
当然ほとんどの人が何かしらの疾病を抱え、認知症高齢者数も多くなります。
医療と介護をとりまく問題が深刻化
心身の不調や認知症によって動けなくなる高齢者が増えれば、医療と介護を支える財源と人材不足が現実のものとなって現れます。
特に認知症高齢者数の増加は深刻で、現在の約320万人から今後急速に増えていくと、2025年には700万人を超えるとも見込まれています。
出典:持続可能な社会保障制度の構築に向けた意見 – 厚生労働省
2025年に起きる医療と介護の問題
- 「介護難民」の急増:2025年には介護人材が34万人も不足
- 現在より12兆円以上増える見通しの医療保険給付
- 4倍になる後期高齢者の年間医療費(75歳未満=22万2000円→75歳以上=約94万円)
- 社会保障給付費(年金なども含む)は2018年の約121兆円→2025年度には約141兆円に
- 約7割が1人暮らしか高齢夫婦のみの世帯となり、不測の事態への対応が困難になる
人とお金の不足から社会の崩壊へ
こうした事態が進行すると、モノを作る、サービスを提供するといった社会を支える産業では目に見えて人が足りなくなっていきます。あらゆる産業で人手が不足して生産性が落ちていけば、個人の所得や税収も低下します。それでも社会保障で高齢者を支えなければならないため、それ以外の公的サービスや道路、水道などのインフラも質が低下します。
最悪の場合、社会全体の基盤が崩壊に向かっていくのです。
農業に及ぼす影響
2025年問題が社会にもたらす影響を述べてきましたが、農業や農家とはどう関わってくるのでしょうか。よく「農業には定年がない」「50、60はまだ若手」などと言われる農業の世界では、2025年問題といっても「サラリーマンの話」と思われるかもしれません。ですが、2025年問題は農業にとっても他人事ではない、深刻な影響をもたらすのです。
激減する農林水産業従事者
一番の問題は、農業を始めとする農林水産業の担い手人口が激減することです。
すでに2000年〜2010年までの10年間で、農家や漁師はそれまでの30%にまで減っています。このままの状態で農業就業者数の減少が進めば、2010年の219万人から、2025年には170万人になるという見通しになります。そのうち、49歳以下の人数は、わずか30万人に過ぎません。
後継者が減少すれば、労働力の不足だけではなく、これまで蓄積されてきたノウハウの継承も途切れてしまいます。
増加する耕作放棄地
農業を担う農家や農業従事者が減っていけば、農地を維持していくこともできなくなっていきます。すでに耕作放棄地や遊休農地の増加は問題化しており、これが悪化して荒廃農地となってしまうと、並大抵の労力では耕地に戻すことは困難です。
耕作放棄地の増加は
- 食料安全保障を支える国内自給率の低下
- 土壌の荒廃による水害被害の激甚化
- 里山の生物多様性の損壊
- 獣害や不法投棄など治安の悪化
といった弊害をもたらします。
増える農家の負担
担い手の平均年齢が60代である農業では「自分たちの世代がまだまだ頑張ればいい」「死ぬまで現役で働けばなんとかやっていける」という声もよく聞かれます。
しかし、働き手が減って耕作放棄地が増える現状は、農業者一人当たりにより広い耕地面積の運営を求め、近年の農産物価格の低下は小規模農家の経営を困難にしています。
年齢を重ねた農業者が、誰もが健康面に不安や問題を抱えながら、従来通りのやり方で今以上の作付面積や収穫高を求めるのは、あまりにも負担が大きいのです。
地域コミュニティの崩壊
認知症高齢者が増加し、介護や医療などに割けるリソースが増えていけば、人口の少なくなった過疎の集落は維持していくことができなくなります。
必然的に高齢者は集落を離れ、地域の中心都市や周辺の市街地へ移り住むことは避けられません。
地域コミュニティを失った集落は消滅に向かい、家屋も農地も荒れ果てていくことになります。
2025年問題に向けた国の対策
こうした状況に対して、国はどのような対策を行っているのでしょうか。
2025年問題の中でも最も大きな影響が出るのは医療や介護、雇用の面であるという側面から、厚生労働省を中心とした対策をいくつか打ち出しています。
①地域包括ケアシステム
地域包括ケアシステムとは、高齢者ができる限り住み慣れた地域で、自分らしく暮らせるためのしくみを構築することです。地域の特性に合わせて、住居や医療・介護、日常生活などで包括的な支援やサービスの提供体制を整えるのが施策の要点になります。
②公費負担の見直し
増え続ける社会保障費に対応するため、公費負担の見直しも検討されています。
具体的には、高齢者医療や介護負担の検討、医療費の保険給付率や患者負担率、診療報酬、ケアプランなど、医療や介護の公費負担を、世帯ごとの所得に合わせて見直し、公平化を図るといったものです。
③雇用対策
労働人口が不足する将来に備え、安定した雇用維持に取り組みます。
具体的には、高齢者の雇用機会確保や再就職支援、非正規雇用の正社員転換、同一労働同一賃金の導入・最低賃金の継続的な引き上げや氷河期世代の就労支援などの対策です。
④DX化による生産性の向上
社会的に求められている、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進によって、全産業の効率化と生産性の向上を図るものです。医療や介護の分野でも、オンライン診療や在宅医療の推進、見守りシステムなどへの活用が見込まれています。
農林水産省が打ち出す2025年問題対策
2025年問題はあらゆる産業に対して影響を及ぼし、農業も例外ではないことはご説明しました。
農林水産省でも、農林水産業と地域社会の未来を見据えたプランを策定しており、2025年問題への対策に関するものとして、以下のような施策が挙げられています。
①就業者減少対策
農林水産省では、2025年までに、全農地面積の8割が担い手によって利用される農業構造の確立を目指しています。なおここで言う「担い手」を簡単に説明すると「農業以外の仕事と同じくらいの労働時間で、同じ程度の生涯所得を得られるくらい安定した、効率的な経営をしている農家と、それを目指す農家の両方」ということです。
こうした効率的で安定した農業経営体を支援・強化するために
- 「認定農業者」「認定新規就農者」「集落営農」への所得安定対策や融資・出資
- 新規就農者への支援制度の整備など、就農促進政策
- 就農希望者を新たに雇用する農業法人等に対して資金を助成
などの対策を行っています。
②農産物の生産性向上と収益拡大
限られた就業人口でより生産性を高めることは、農業でも求められる今後の課題です。
農林水産省では、農業を日本の成長産業とすることを目指した対策を検討しています。
そのひとつが、農林水産物・食品の輸出促進策です。国内市場の縮小と世界全体の市場の需要増大を見据え、農林水産省では農産物の輸出額を2025年に2兆円を目標にしています。
もうひとつは2025年を見据えた農業構造の改革と生産コストの削減です。
ここでは、2025年までに農業の担い手のほぼすべてがデータを活用した農業を実践すること、農地中間管理機構の活用等による農地の集約化、などが挙げられています。
③人口減少社会における農山漁村の活性化
農林水産省が取り組む対策としては、農山漁村に人が住み続けるための条件整備もあります。
ここでは、農山漁村発イノベーションのモデル事例を2025年度までに300事例創出することを目標に、
- 関係省庁との連携により、2025年までに全国で交流人口を1,540万人まで増やす
- 持続的なビジネスとして実施できる農泊地区を500地区創設する
- 2025年度までにジビエの利用量を2019年の倍の4,000トンに増やす
- 2024年度までに農福(農業と福祉)連携に取り組む主体を、新たに3,000例創出する
などのプランを挙げています。
2025年問題に備え、農家は何をすべき?
最後に、来るべき2025年に備え、農家が行うべき対策について説明していきたいと思います。
もちろん、ここに挙げた対策は個人、またはいち農家単独で実行できるものではなく、複数の農家や、地域全体を巻き込んでの取り組みが必要になるでしょう。それでも、2025年までに時間がそこまで残されていないことを考えると、一人でも多くの農家が危機感を持って検討すべきことでもあります。
対策①スマート農業の導入で生産性を上げる
労働力減少対策の一丁目一番地として検討するべきはスマート農業の導入です。
ICT技術による農業生産物のデータ管理、衛星や地図データを使用した広範囲の農地管理、自動運転農機を活用した農作業の省力化など、使われる機器も技術も多岐に渡ります。
当然初期投資は大きいものの、少ない人数で膨大な作業をこなし、広い農地を経営するためには避けては通れない選択肢です。
スマート農業は効率的で安全な作物ができるため、高品質で付加価値の高い農業も可能にします。
対策②農地の集約化・大規模化
担い手の減少と耕作放棄地の問題に対処するには、所有者や地権者が分散している農地を集約化し、大規模化することが重要です。こうした事業には、農地中間管理機構や地域の農業委員会などとの協議や協力のもと、すべての利害関係者との調整や話し合いが不可欠になります。
集約化・大規模化した農地は、地域の農業者全体による集団営農形態や、農業法人によって、大規模かつ効率的な経営が行われます。
対策③高齢者や女性・就職氷河期世代の力を積極的に
担い手の高齢化が問題になるといっても、ある程度健康で就労可能な高齢者の活用は、これから先必要になってきます。また、農業の労働力人口を確保するためには、農業に興味のある女性や、就業機会や雇用の面で不遇をかこってきた就職氷河期世代を、新規就農者として積極的に呼び込む取り組みが欠かせません。
スマート農業を導入すれば、高齢者は体力的な負担がなく、新規就農者は経験が少なくとも効率的な作業が可能になります。
対策④農村全体で高齢者をケアできる地域づくりを
農村部の高齢者ケア対策には、地域包括ケアシステムとICT技術を組み合わせて高齢者をケアできるシステム作りが求められます。集団営農化や法人化が進んだ農村地域では、地元住民だけでなく、営農集団のメンバーや農業法人の社員がケアシステムの一員として、高齢者との交流やケアを行えるような制度や仕組みを整えても良いでしょう。
まとめ
2025年問題は、雇用、医療・介護、さらには産業やインフラ維持にも関わる重大な問題です。
人口減少と急速な高齢化はもはや避けられず、社会に及ぼす影響も多大なため、解決は非常に難しい問題です。しかし、このまま何も対策を講じなければ、私たちの生活が立ち行かなくなる事態に陥り、それはもう2年半後に迫っています。
農業や農家にとっても、これから起こること、自分たちができることを知らなくてはなりません。
もう2年半しかない、ではなく、まだ2年半あります。私たちが農業に関わる問題を解決することが、2025年問題を乗り越えるヒントになるかもしれないのです。
参考資料:
今後の社会保障改革について ー 2040年を見据えてー – 厚生労働省
警鐘乱打の2025年問題 2017年6月18日 – 農業協同組合新聞
3 高齢者の健康・福祉|平成28年版高齢社会白書(概要版) – 内閣府
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