農業には作物を屋外で栽培する露地栽培と、
屋内で栽培するビニールハウス栽培があります。
ビニールハウス栽培は
「収穫量が安定する」「高収益を得られる」などの
話題を耳にしますが、実際のところはどうなのでしょうか?
そこで今回はビニールハウス栽培の特徴や
メリット、デメリットなどについて解説していきます。
ビニールハウス栽培とは?
野菜の栽培では、
扱う野菜が育つ条件や特性を把握することが必要です。
そして、それらの条件に合った
気象、土壌、肥料をコントロールできれば、
栽培することが可能だといえます。
そのような発想から生まれたのが、
ビニールハウスやガラスハウスを利用した施設栽培です。
その中でもビニールハウスを利用した栽培方法は
最も広く浸透しており、多くの農家が行っています。
ビニールハウスを設置して日光や外気を調整し、
扱う野菜に最適な環境で栽培するビニールハウス栽培では、
さらにオプション装置を追加することで
気温や湿度など環境を全自動で制御し、
本来の生育に適した季節とずらして栽培することも可能です。
従来、ビニールハウスの目的はハウス内を保温することでしたが、
現在では人工的に理想の環境を作れるようになっています。
ビニールハウスの特徴
ビニールハウスには基本的に以下の特徴があります。
1.日光は通して雨は通さない
2.外気をほぼ遮断できる
3.オプション装置を追加できる
ビニールハウスのオプション装置は
日射量、水分量の調節や温度と湿度の管理など、
野菜の生育に欠かせない理想の環境に
より近づけるために大いに役立ちます。
ちなみに、ビニールハウスの原型は
畝(うね)に防寒用シートをトンネル状にかけるトンネル栽培です。
トンネル栽培で使う資材の種類には
「普通フィルム」「防虫ネット」「不織布」などがありましたが、
その後、耐久性に優れ透過性も高い農業用ビニールが急速に普及し、
費用対効果が高いことから常設型の温室ビニールハウスが作られ、
さらに現在の大型設備へと進化を遂げていきました。
ビニールハウス栽培の主な方法
ビニールハウスでの栽培には、主に土耕栽培と水耕栽培があります。
土耕栽培
土耕栽培はトンネル栽培の発展形とも言われ、
気温や地温を保ちながら野菜の育成促進をする栽培方法です。
露地栽培と同じく、土に肥料や土壌を改良する資材などを混ぜて
生育環境を最適に整えれば、
植物がしっかり根を張り巡らせて水と土壌の養分を吸収することができます。
気温や地温のコントロールにより収穫期を調整すれば、
露地物が出回らない時期に出荷が可能になり、
通常よりも高収益が期待できます。
また、露地でどのような野菜が育ちやすいのかが把握できていれば、
初心者であっても野菜の選定が容易で失敗のリスクも低いため、
ハウス栽培をスタートするのに最適な栽培方法と言えます。
水耕栽培
水耕栽培は栽培管理をより進めた形の栽培方法です。
作物を育てるのに土を使用せず、
栽培ベンチやユニットを用いて水と肥料で管理します。
土には植物の自立を支持することと
肥料を供給するという役割がありますが、
水耕栽培ではこの2つの役割を別の方法に置き換えます。
まず、根の固定には発泡パネルなどを使い、
肥料は水に混ぜることで直接供給します。
肥料の投入前と投入後の生育状況の変化を把握できれば、
必要な量を調節することで成長スピードをコントロールし、
以後の育成計画が容易になります。
ビニールハウス栽培のメリット・デメリット
<メリット>
1.気象の影響を受けにくい
栽培環境が外部気象環境にできるだけ左右されないことが
ビニールハウス栽培の一番の目的です。
風雨などの影響を極力排除し、気温変動を小さくすることで、
年間を通じて野菜を栽培することが可能になります。
そのため、ビニールハウス栽培は
栽培の難しい野菜でも歩留まり(※1)が良くなります。
露地栽培であれば日照りや長雨が続けば必要な水分量が大きく変動し、
日差しが必要以上に強くても、そのまま作物に降り注ぎ続けます。
一方、ビニールハウス栽培であれば、
日差しが強過ぎれば遮光カーテンを使ったり、
温度と湿度の管理には換気扇を用いるなど、
気温や水分量、日射量を人工的にある程度調整できます。
このように生育環境をある程度コントロールすることで、
栽培が難しい野菜でも歩留まりを安定させることができるのです。
また、ビニールハウス栽培は雨でも作業ができるので、
栽培計画が立てやすくなります。
天候によって突然作業が中止になり、
後日その分の対応に追われるということもありません。
余談ですが、台風が多い沖縄では
実はビニールハウス栽培が盛んに行われています。
台風でビニールハウスが倒壊するリスクはあるものの、
台風の被害から作物を守ってくれることに期待が持てるからです。
(※1)製造など生産全般において、
「原料(素材)の投入量から期待される生産量に対して、
実際に得られた製品生産数(量)比率」のこと
2.培地が選択できる
植物は根から水や肥料を吸収するため、
作物の根を支える培地選びはとても重要です。
作物に合った培地を選べるか否かで、
生育の促進や収穫量が大きく左右されるからです。
露地栽培で根の部分に快適な環境にしようと思ったら、
大掛かりな土壌改良が必要になる場合もあります。
しかし、ビニールハウス栽培でも
特に「隔離培地栽培」であれば、
もっと手軽に培地を選ぶことができます。
3.病害虫のリスクを軽減できる
ビニールハウスは栽培環境と外部環境を
切り離すことを目的としている構造のため、
結果として病害虫の侵入を防ぐことにも繋がります。
出入り口を二重構造にしたり、防虫ネットで隙間を埋めたり、
より病害虫の侵入を防ぐために
内と外を区別する技術や設備の開発も進んでいます。
病害虫の被害が減ると、結果的に農薬の量も減らすことができます。
これにより作物の安全性が高まり、薬剤のコスト削減にもなります。
4.収穫時期を調整して高値で出荷できる
露地栽培では周辺一帯は同じ環境なので、
当然ながら収穫時期も集中します。
豊作になればそれだけ市場も飽和になって買取価格は下落し、
いわゆる「豊作貧乏」という状況に陥ります。
しかし、ビニールハウスで栽培環境をしっかりコントロールできれば、
農作物の出荷時期を調整することが可能となります。
出荷時期を遅らせるのを抑制栽培、早めるのを促成栽培と言い、
市場価格が高い時期を狙って出荷すれば、収益が上がり経営が安定します。
5.雑草が少なく草刈りの手間を軽減できる
ビニールハウスは外気をある程度遮断するため、
雑草の種が入りにくくなり、雑草も生えにくくなります。
それにより、草刈りの手間を大幅に減らすことができます。
農家にとって草刈りに費やす時間は相当なものなので、
これを減らせることは大きなプラスを生んでいると言えます。
6.機械化による効率化を図りやすい
冬場の保温や夏場の換気のような温度制御から、
肥料、日照量、二酸化炭素濃度の制御など、
ビニールハウスの機能を高めると
内部の環境管理がしやすくなります。
営農方針や経営規模に合わせて農家はさまざまな制御設備を導入し、
日々の作業の効率化を図っています。
また、ビニールハウスのオプションを充実させれば、
栽培環境を全自動で制御したり、遠隔操作も可能になります。
<デメリット>
1.導入や維持にコストがかかる
ビニールハウス栽培を始めるには、多額の初期投資が必要になります。
ビニールハウスを複数年使用できるものにするため、
適度に強度のある資材(柱など)を組み合わせるなど基礎も重要です。
建設時だけでなくメンテナンス作業を定期的に業者に依頼すれば、
それなりのコストを覚悟する必要があります。
大量生産大量消費の生産方式であるビニールハウス栽培では、
生産効率を高めるために設備の大型化は避けられません。
機械の導入によって効率化を図ることもできますが、
それを維持するためエネルギー確保(電気・灯油など)も不可欠です。
2.自然災害による倒壊リスク
ビニールハウスが台風や積雪等で破損してしまうと、
程度にもよりますが復旧に時間を要します。
ビニールが破れただけであれば補修も簡単ですが、
仮に台風でビニールハウスが倒壊するような大きな被害に遭った場合に、
地域全体が同様の被害に遭っていることが考えられるため、
代替品がすぐに手に入らないなどの混乱も予想されます。
ビニールハウスが復旧するまで作業が再開できないとなると、
時期によってはそのシーズンが全て無駄になるかもしれません。
3.管理不足によるダメージ
ビニールハウス栽培は人工的に
作物にとって最適な環境を作り出すことができる反面、
管理を怠ると露地栽培よりダメージが大きくなります。
例えば猛暑の中で換気を忘れるとハウス内はサウナ状態になり、
作物が一気にダメになってしまう恐れもあります。
露地栽培でも天候によるダメージはありますが、
ビニールハウスで管理方法を間違えると
通常ではあり得ないような過酷な環境を作り出してしまいます。
4.連作障害が起こりやすい
ビニールハウス栽培は育てる作物を変更しにくく、
連作障害になりやすくなります。
連作障害とは、同じ場所で同じ作物を作り続けることで
作物が育ちにくくなることをいいます。
特定の作物を作り続けると同じ病原菌や病害虫が増え、
その作物が育ちにくい環境が出来上がってしまいます。
また、土壌内の養分のバランスや
生物の多様性が損なわれるのも連作障害の原因のひとつです。
ビニールハウス栽培に適した野菜とは?
基本的に露地栽培で可能な作物は、
ビニールハウスでも栽培することは可能です。
初期投資がかかることも考慮して、
やはりある程度収益性の高い作物が人気です。
そのため、自分が作りたい野菜ではなく、
収益性が高く、流通量も多いものを選ぶと良いでしょう。
なお、収益性ベスト5は以下の通りです。
1位:ミニトマト
2位:なす
3位:ししとう
4位:きゅうり
5位:大玉トマト
夏野菜が上位を占めているますが、
ビニールハウスのそもそもの目的が保温であるため、
冬の寒い時期でも暑さを好む野菜を栽培することができ、
収益性も見込めるということをまさに実証していますね。
引用:農林水産省「農業経営統計調査 品目別経営統計(平成19年)
まとめ
ビニールハウス栽培は、管理を徹底すれば
季節を問わず野菜を栽培しやすいことは間違いありません。
上手く栽培計画を立てて安定した収穫ができれば、
収益も上がり事業拡大も夢ではありません。
ただし、設備投資にコストがかかるなど
それなりにリスクもあるため、
しっかりとした事業計画の下に着手することをおすすめします。
コメント