地球規模の環境問題や、人口増加に伴い、食糧危機に備える動きが世界中で見られています。その諸問題の解決手段の一つとして、昆虫食が脚光を浴びています。一方で、昆虫食と聞いて「本当に大丈夫なのか?」と心配されている方も少なくないでしょう。
本記事では、昆虫食が注目を浴びている理由や、そのメリット・デメリットについて解説します。昆虫食に対する理解を深めて頂き、将来の食糧危機への対策を考えるきっかけになれば幸いです。
なぜ昆虫食が注目を浴びているのか?
伝統的に昆虫食文化を持つ日本では、長野県や岐阜県を中心に、イナゴやハチノコが食べられています。ただ、一般的には食卓に並ぶことは少なく、最近の昆虫食への脚光に戸惑うかたも多いでしょう。
国連食糧農業機関(以後、FAO)が、2013年に『食品及び飼料における昆虫類の役割に注目する報告書』を発表したことをきっかけに、食糧危機や環境問題への意識が強い欧米諸国を中心に、注目を浴びています。
昆虫食の背景にある食糧危機や環境問題とはどのようなものなのか解説します。
食料危機
国際連合食糧農業機関(FAO)の『世界の食料安全保障と栄養の現状(2022年報告)』によると、世界位の約8億人が栄養不足でその割合は、世界人口の約9.8%だと報告されています。
世界の人口は増加傾向にあり、2050年には100億人を突破するとの予想です。現在のままの食料事情では、この人数はとうてい賄いきれないため、新たに昆虫食が注目を浴びています。
環境問題
人類にとって必要な栄養素の一つであるタンパク質は、豆や肉などから摂取しています。牛や豚などの家畜を飼育して、肉を生産しているのですが、この際に問題になるのがメタンガスです。
メタンガスは地球温暖化の原因の一つとして考えられており、特に牛のゲップやおなら、反芻行為によって大量に放出されています。また、家畜を育てる際の膨大な飼料も環境負荷の一つです。
昆虫食の種類とは?
ここまで、昆虫食が注目を浴びている理由について解説しました。ここからは、具体的にどのような昆虫が食料として考えられているのかをまとめます。
国際連合食糧農業機関(FAO)によると、世界で食べられている昆虫は1,990種以上と言われています。その中から特に食べられている昆虫食の種類を紹介します。
コオロギ
陸のエビと言われるほど、優れた美味しさをもっているコオロギは、栄養素をたくさん含んでいるのが特徴です。たんぱく質が豊富で、他にも、亜鉛、カルシウム、鉄分、ビタミン、マグネシウム、オメガ3が含まれています。
雑食である点も昆虫食としてメリットがあり、捨てるような食品を餌として利用可能です。
イナゴ
イナゴは日本でも昔から食べられている昆虫で、1919年に昆虫学者の三宅恒方氏がまとめた報告によると、国民の50%以上が食べていたとされています。平安時代にも食べられていたとの記録があり、日本人になじみの深い昆虫食です。
害虫としての側面があり、駆除して食べていたのが文化になったのではと言われています。高たんぱくな昆虫なので、古くから日本人のたんぱく源として活用されていました。
タガメ
日本では、絶滅危惧種指定されていますが、インドやミャンマー、インドネシアやベトナム、タイなどの東南アジアの地域では、食用のタガメがありよく食べられています。蒸してソースを付けて食べたり、茹でて潰して調味料のように使ったり利用されています。
乾燥したタガメは、表面はパリパリ、中はザクザクした食感を楽しめる食材です。低カロリーながら、必要な栄養素が摂取できます。
ハチノコ
ハチノコは、長野県や岐阜県を中心に郷土料理として知られています。主にクロスズメバチのサナギや幼虫が食べられています。幅広い料理に使われており、つくだ煮や甘露煮などの煮物や、炒めたり、焼いたり、揚げたり、炊いたりと万能な食材です。
たんぱく質や炭水化物が摂取できるだけでなく、必須アミノ酸が含まれているのが特徴です。
バッタ
バッタは古くから世界の各地で食べられてきた昆虫で、高たんぱく、食物繊維が豊富、低カロリーという特徴があります。高温で揚げると、歯触りがサクサクとなり、香りも豊かになって美味しくいただけます。
雑食のコオロギと異なり、草食であるため飼育の難易度はあがります。発育日数が約2週間と短いため、飼育できれば食料源として有効です。
カイコ
絹をつくるために養殖されているカイコですが、食料としてもとても有用です。韓国では、ポンデギという名で、カイコのサナギの料理が食べられています。
肉や魚が食べられない山間部で食されており、62種類の栄養素は人間にとって大切なもので、貴重な栄養源となっていました。風味はナッツのようで、見た目と違い食べやすい食材です。
昆虫食のメリットとは?
昆虫食が、人の生活からかけ離れたものではないと知って頂けたのではないでしょうか。ここからはさらに深掘りをして、昆虫食のメリットについて解説します。
これまで縁遠いからといって、目を背けることなく、世界が注目する昆虫食について理解を深めてみてください。
少ないエサで育つ
飼育変換率という指標があります。これは、1kgの収穫を得るために、飼料がどれくらい必要かを示したものです。この割合が高いほど、より少ない飼料で収穫が可能であると言えます。
コオロギの場合は、1kgの収穫を得るために必要な飼料が2kgであるため、飼育変換率は50%となります。これは、牛の12.5%と比べると大きな違いがあります。
また、必要な水に目を向けると、牛肉1kgのためには20,000リットル必要なのに対して、コオロギ1kgに対して8リットルとなり、かなり少ない水で育てられます。
成長が早い
牛の場合、食肉として出荷されるまで2年4ヵ月が必要です。可食部を加味すると、この期間で約288kg分の食肉が出荷可能です。コオロギの場合は、50対の成虫を飼育すると、30日ほどで約484kg分のコオロギが出荷可能となります。
出荷までのサイクルが早く、省スペースで育てられるので、効率の良い生産ができます。
豊富な栄養
昆虫の多くは、たんぱく質と不飽和脂肪酸を豊富に含み、食肉や魚と同様に栄養価の高い食材です。ミネラルも豊富で、鉄や亜鉛、カルシウムなども含まれています。代替肉として注目を浴びている大豆では摂取出来ない動物性たんぱく質を摂取でき、その中には、必須アミノ酸であるBCAAが含まれています。
大量の昆虫の摂取が必要となりますが、近年では粉末にするなどして食べやすくなってきています。
環境負荷が少ない
牛や羊などの反芻動物は、繊維質の高い飼料を食べて消化する際に、温室効果ガスであるメタンガスを排出します。メタンガスは、二酸化炭素を大きく上回る温室効果があると言われています。
昆虫の養殖時に発生するメタンガスは、反芻動物をはるかに下回っており、温室効果ガスの削減につながると期待されています。
人獣共通感染症のリスクがない
人獣共通感染症とは、狂犬病・エキノコックス症・トキソプラズマ症のように、人も他の脊椎動物もかかる感染症のことです。感染した脊椎動物と人が接触したり、排泄物などの吸引が原因で感染が広がります。
昆虫は無脊椎動物なので、この感染症を媒介することはなく、リスクがありません。
生産・加工がしやすい
昆虫は、採集が簡単で養殖飼育が可能です。狭いスペースで飼育が可能で、成長スピードも速く少ない費用で生産・加工が可能です。昆虫の種類によっては、雑食であるため廃棄された食材の活用できるため、日本でも問題になっている食品ロスの解決にもつながります。
可食分が多いため、加工時の廃棄物が少ないのもメリットです。
昆虫食のデメリットとは?
ここまで昆虫食のメリットについて解説しました。これだけみるといい事ばかりで、すぐにでも取り組んだ方がいいと思うでしょう。ただ、どのようなものにもデメリットがあるのが当然でしょう。
ここからは昆虫食のデメリットについて解説します。
見た目が…
昆虫食に慣れ親しんでいない方からすると、その見た目に対して嫌悪感を抱く方も少なくないでしょう。口にしたことのない食材を警戒することを、食物新奇性恐怖という習性と言われています。また昆虫は駆除の対象となることも多く、食材として見るには抵抗感が強いのも当然です。
見た目からくる拒否感を軽減するために、粉末状に加工するなどの工夫がなされています。
傷みやすい
食肉の場合、熟成させることで旨味をアップさせられますが、昆虫の場合は熟成には適していません。魚介類と同様で、酸化が進みやすく見た目も悪くなりやすいです。
昆虫を食用とする場合には、新鮮なうちに下ごしらえをして、足の速い魚を扱うように冷凍庫などでの保管をおすすめします。
アレルギーの危険性
昆虫には、甲殻類(エビ・カニ)にも含まれているトロポミオシンというアレルゲンが含まれています。食物アレルギーを持っている方は、口にしないように注意した方がいいでしょう。
またアレルギーの発症は、これまで問題なかった方でも突然起こることがあります。すぐに大量の昆虫食を摂取するのではなく、少量から始めていくことをおすすめします。
食中毒の危険性
野生の生物には、食中毒の原因となるような病原菌や、寄生虫を保有している場合があります。生きた虫をそのまま食べるのは、食中毒を起こす可能性があり危険です。
野生の昆虫を食べるのは避けて、安全性が確認できている製造元の製品を選ぶようにしましょう。
まとめ
ここまで、昆虫食についてまとめました。世界で昆虫食が注目を浴びている背景を知り、メリット・デメリットを知ったうえで、今後の食料危機に備えてください。
普段の生活を送っていると、食料はいつでも手に入ると考えがちですが、世界規模で考えるとさまざまな問題が起こっています。
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