農業を行う上では誰しもが知ることとなる「肥料の三要素」。
ところが、なんとなく知ってはいるものの実はあんまり理解していない…という農業従事者の方は意外に多いようです。
灯台下暗しともいうべきでしょうか、基礎中の基礎であるがためにおざなりにされがちなこの知識。実は、理解しているのと理解していないのでは収穫に大きく差が出てしまうのです。
この記事では、肥料の三要素について詳しく解説していきます。
そして、これを気に肥料の三要素を正しく理解し、後輩農家さんにドヤ顔で熱く語ってみてはいかがでしょうか?
なぜ肥料が必要なのか?
ここでは、肥料の三要素について説明していくのですが、基礎の基礎から正確に理解するためにも、「なぜ肥料は必要なのか?」という根本的な部分から切り込んでいきたいと思います。
農業を営む上では欠かせない肥料ですが、根本的な話として、なぜ肥料を使うのでしょうか?
ここで、農業の営業形態についてみて見ましょう。
農業の形態は、大きく分けて三つに分かれます。それぞれの特徴を、下の表にまとめてみました。
農薬 | 肥料 | 収穫量 | 有害性 | 土の汚染 | |
慣行栽培 | 〇 | 〇(化学肥料) | 標準 | 標準 | 標準 |
有機栽培 | × | 〇(有機肥料) | やや少ない | 少ない | 少ない |
自然栽培 | × | × | 少ない | 無し | 無し |
慣行栽培とは、最も一般的な農業形態。
有機栽培とは、農薬や化学肥料を使わずに、有毒性が少なく野菜そのものの味を追求していこうというもの。有機栽培によって収穫された農作物は、俗に「オーガニック野菜」などと呼ばれます。
さらに、自然栽培というものもあります。これは、農薬も肥料も一切使いません。自然の力のみに頼った農法です。
自然栽培が一番植物本来の姿に近いのですが、周囲の環境に大きく左右されやすく、栽培が非常に難しいとされています。
植物が育つというところだけに焦点を当てるならば、肥料は無くても十分に育ちます。このことは、自然栽培を見れば一目瞭然でしょう。
それでもなお人間が肥料を使う理由は、農作物を商品として扱う必要があるからに他ありません。
特に、人間が美味しく食べられるレベルにまで拘るとすると、人が手を加えてやらないといけません。さらに、効率的に収穫を行うためには農薬や肥料などが必要になってくるのです。
しかし、農薬や肥料は使えば使うだけいいかというとそうではありません。
農薬や化学肥料には化学物質が含まれているため、人体に悪影響を及ぼす可能性は否定できません。
※ 昔はDDT、BHC、アルドリン、ディルドリンなど有毒性の強い化学物質が使われていましたが、今は使用が禁止されており、農薬を体内に摂取してしまったからと言ってたちまち健康を害することはほぼありません。
さらに、化学肥料ばかり使っていると土壌の微生物が死滅し、保水力や保肥力が低下します。俗にいう「死んだ土」になってしまうのです。
そうなってしまえば、生産力は低下し継続性のある農業を営むことが出来なくなってしまいます。
農薬や化学肥料は、その特性・特徴をよく理解してから適量使用する。用法・用量を守って薬を使用する人間と同じですね。
肥料の三要素「N(窒素)」「P(リン)」「K(カリウム)」
それでは、肥料の三要素について説明していきましょう。
実は肥料の成分には、Ca(カルシウム)、Mg(マグネシウム)、S(硫黄)などその数は十数種類にも及ぶのですが、そんな数ある肥料成分の中でも特に重要なものとして認識されているのが今回紹介するN(窒素)、P(リン)、K(カリウム)の三つなのです。
そしてこの三つを「肥料の三要素」と呼びます。
N(窒素)
一つ目は、N(窒素)です。非常に有名な元素の一つですね。元素記号番号は7番目。
「水平リーベ僕の船」という日本で最も有名な語呂合わせのなかでは、”の(NO)”の一部を司っている窒素君です。
窒素は、常温(15~25℃)では気体で無味無臭かつ目に見えませんが、空気の約78%を窒素が占めているという多大な存在感を示しています。これはまさに、軽自動車の中に小錦が乗っているようなものですね笑
って、全然違うか…
酸素や二酸化炭素と違ってあまり日常の話題に上がらない窒素ですが、実はかなり重要な物質の一つ。
人間や植物はもちろんのこと、ほぼすべての生命体の中には窒素が含まれており、窒素が無ければこの世界は成り立ちません。
農業においてもしかり。
「光合成窒素利用効率」という言葉があるくらい、窒素は植物の成長において重要な役割を果たしています。
他にも窒素は、植物の葉や茎の成長を促す効果があり「葉肥え」とも言われています。
あたりまえのことですが、「窒素を与える」といっても窒素スプレーを農作物に吹きかけるわけではありません笑
窒素を化学結合させた個体の物質を与えるというやり方ですね。
窒素肥料として有名なものといえば、硫安、塩安、硝安などが該当しますが、いずれの物質も、化学式の中にNが含まれています。
軽く表にしてみましたので、参考にしてください。
物質名(正式名称) | 化学式 | 特徴 |
硫安(硫化アンモニウム) | (NH₄)₂SO₄ | 水に溶けやすく、即効性がある。 |
塩安(塩化アンモニウム) | NH4Cl | 収穫量増、倒伏抵抗性向上、光合成促進 |
硝安(硝酸アンモニウム) | NH₄NO₃ | 水に溶けやすく、即効性がある。 |
P(リン)
ふたつめは、P(リン)です。発火点が低いことで有名な物質で、主にマッチの先端に使用されています。元素記号番号は15。
実はリンというものは、黄リンと赤リンの二種類があり、17世紀に初めて発見された当初は黄リンが使用されていました。
発火点が約30℃と劇的に低かったため、黄リンを使用したマッチは「何処でも使えるマッチ」として大ブレイクしたそうです。
しかし、顎骨が壊死するなどの重大な有害性が見つかったため、現在では使用を禁止され、赤リンのみが出回っている状態です。
古い映画やアニメを見ると、その辺の壁や靴の裏などでマッチをこすって火をつけるシーンが見れますが、それは黄リンマッチを使っているということです。
肥料に使用されるリンはリン酸と呼ばれるものであり、当然人体には無害。安心して使ってください。
さて、そんなリンですが、植物に供与することで体内の糖分と結合することで花付きや実突きが良くなり、多くの実が収穫できるようになります。このため、リンは「花肥え」「実肥え」などと呼ばれています。
さらに、前項で紹介した窒素がタンパク質に代わりやすいように手助けをしてくれるのもリン酸の仕事なのです。
リン酸を使用した肥料で有名なのは、熔成燐肥(ようりん)、過燐酸石灰(過石)、重過燐酸石灰(重過石)などがあります。
物質名 | 化学式 | 特徴 |
熔成燐肥 | Ca3(PO4)2Ca2SiO4 | 実付き、花付きを良くする。効果が長続き。 |
過燐酸石灰 | Ca(H2PO4)2·H2OCaSO4 | 実付き、花付きを良くする。過剰供与による弊害が少ない。 |
重過燐酸石灰 | CaH4P2O8 | 根の発達の促進、作物の高品質化 |
K(カリウム)
最後に、K(カリウム)です。一応「金属」の部類に入るのですが、鉄のようにガチガチではなくナイフなどで軽く斬れるような柔らかいものです。元素記号番号は19。
カリウムは、人間が食べる果物、野菜、豆、魚、肉などにも多く含まれており、摂取することで余分な塩分を体外に放出し、筋肉の働きを正常化。
これにより、高血圧やむくみなどが改善されると言われております。
みなさん、健康診断の前にはカリウムを摂取しましょう!!
人間の身体に良い影響を及ぼすこのカリウムは、当然植物にも良好な肥料として働いてくれます。
カリウムを肥料として農作物に与えることで、根の成長が促進され、根の成長が促進されれば水の吸収力がより強力になります。このため、カリウムは「根肥え」と呼ばれています。
カリウム肥料の代表的なものとしては、硫酸カリウム、塩化カリウム、ケイ酸カリウムなどがあります。
物質名 | 化学式 | 特徴 |
硫酸カリウム | K2SO4 | 即効性がある、効果が長続き |
塩化カリウム | KCl | 安価、即効性がある |
ケイ酸カリウム | CaH4P2O8 | 土壌汚染が少ない、品質向上 |
三要素以外の肥料
N(窒素)、P(りん)、K(カリウム)以外の肥料も、三要素より劣るとはいえそれぞれが重要な役割を担っています。
これらは「微量要素」と呼ばれており、植物の生育に欠かせない成分のうち、その必要量がごく微量のものを言います。
ということで、微量要素を一覧表にしてみましたので参考にしてください!
要素 | 働き |
Ca(カルシウム) | 根を丈夫にする、害虫を予防する |
Mg(マグネシウム) | 枝や葉を丈夫にする、害虫を予防する |
S(硫黄) | 効果が長持ち、土壌汚染が少ない |
Fe(鉄) | 光合成を手助け |
Mn(マンガン) | 光合成を手助け |
B(ホウ酸) | 根や葉の成長促進 |
Zn(亜鉛) | 葉の成長を促進 |
Mo(モリブデン) | 窒素のたんぱく質化を手助け |
Cu(銅) | 呼吸作用を手助け |
Cl(塩素) | 病気の予防 |
肥料のやり過ぎに注意!
世の中は何事も、過ぎたることは及ばざるがごとし。
そう、焼肉食べ放題の元を取ろうとして食べ過ぎた結果、トイレに駆け込む羽目になった先月の私の様に…
そして肥料もまたしかり。
肥料を与えすぎるとどうなるか?実は、肥料の効果が無くなるどころか逆に悪影響を及ぼしてしまいます。
過剰供与による弊害が特に顕著なのが、肥料の三大要素の中のN(窒素)。
N(窒素)を与えすぎると、徒長という現象が起こります。これは、植物の茎や枝が必要以上に伸びてしまった状態のことを言います。
こうなってしまうと、農作物に元気がなくなってしまい、ヘタっとした感じに弱ってしまいます。
加えて、病気や環境変化にも弱くなり、収穫量も当然減少してしまいます。
さらに言えば、環境にもよくありません。肥料を与えすぎることにより土壌の汚染が進み、土が栄養不足化してしまう可能性もあります。
継続的に農業を営んでいくことを考えれば、土壌の汚染は避けたいところですね。
くれぐれも、肥料や焼肉は適量に…
まとめ
今回は、私の焼肉食べ放題の失敗談…ではなく、肥料の三大要素について詳しく説明してきました。
与えすぎてもダメ、与えなさ過ぎてもダメ…肥料マスターの道は長く険しいですね。
しかし、私としてはこの記事が、肥料マスターとなるためのきっかけとなってくれたらとても嬉しいです。
是非とも皆さん、ご自分の畑の特性や収穫量、予算、周囲の環境などを考慮したうえで、適切適量の肥料を使用してみてください。
「みんなの農家さん」では、農業に関する最新情報や気になるトピックスなどを逐次配信しています。
興味が湧きましたら、是非とも他の記事も読んでみてくださいね。
コメント